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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
188/213

#6

>>Iris


 アルカンシェルは一度の跳躍でUEX0D153Aと言う管理番号で管理される恒星系へ到着した。

 オラクルからここまでの、私達が一瞬で跳躍した宇宙空間のどこかに居る追跡部隊のことを思うと少し申し訳なく思ったけど……まぁ、その事はいいだろう。


 UEXで始まる管理番号はその恒星系がUnEXplored、つまり未探査である事を示している。遠方からの観測で人類が居住可能な惑星の存在こそ確認されているけど、実際に入植できるかどうかは未確定。

 そんな博打のような移住をなぜ決断したのか、私には理解できなかったけど……彼らが特定の宗教に傾倒していた事と関係があるのだろうか。


 ジャンプ前にアルカンシェルに能動的な通信やセンサー稼働を行わないように指示しておいたので、恒星系への接近は探知されていないはず。

 ロストプラネットに住民がいたとして、彼らが友好的である可能性はそう高くないだろうし、いきなり攻撃されることも視野に入れておくべきだからね。

 しかし……。


「船も、通信も、何も飛んでませんね。軌道ステーションの定期情報発信すらありません」


 アルカンシェルのセンサーを見ていたアリサが言うように、この恒星系は異様なほど静まりかえっていた。

 私達には探知できない技術を持っている?いや、その割にはここへ逃げ込んだであろう航宙船は旧式のものだった。

 なら、むしろまともな航宙船も、C3通信技術も持っていないのだろうか?考えていても何も始まらないので、パッシブセンサーを注視しながら恒星系への侵入を試みる。


「アイリスさん、周辺宙域の観測結果出ました。ここで入植が行われている可能性があるのは、第1惑星だけですね。……観測結果から算出した総合的な入植適合率は……22.6%?え、これって」


 ここの恒星は人類の入植に適した環境を持ちやすいG型主系列星というよりは、赤色矮星のような暗く冷たい雰囲気を漂わせていた。

 その輝きを見ただけでも、その第1惑星への入植が容易でないことがたやすく想像できる。


 それにしても適合率22.6%?私の故郷(CM41F3C)や先頃訪れたカルデクスの入植適合率は60%台で、その数値ですら有り得ないレベルで入植に適さないと評価されていたのに。


「アイリス、あれがタカマガハラ?」

「状況的には、たぶんそうだと思う。でも、本当に人がいるのかどうかは微妙だよね」

「接近しても通信は全く傍受できないですね。C3通信以外が使われていてもこの子(アルカンシェル)なら受信できそうですのに」

「ヴェリザンを思い出すね……あの時も星外への通信は途絶していたけど」


 恒星間通信設備が破壊されて外部との通信が出来なくなっていたヴェリザンの事を思い出し、私がそう口にするとアリサが一瞬ばつの悪そうな表情を浮かべた。

 そういえばあの時、最初に開通した通信でアリサとレイラが話をしていたっけ。


「レイラの事、思い出した?」

「……もう、言わないでください。悪いことしたと思ってるんですから」

「レイラ、元気かな」

「まだ別れて一週間も経ってないからね?あ、そういえばギルドネットでレイラの事がニュースになってたよ」

「!!まさかあの子に何かあったのですか!?」


 アリサの反応は予想外に大きかった。レイラの事が気になるならネットで調べればいいのに。あの子、銀河的な有名人だからギルドネットにある程度動静が流れてるみたいだしね。

 でもアリサのことだ、無意識にレイラの事を避けてるんだろうね、きっと。


「メナと一緒にミラジェミナで大活躍だって。私達がやり残した宿題、ちゃんと片付けてくれたみたい」

「そうですか……良かった。いずれ彼女のコンサートに花束でも……いえ、今さらですね」

「アリサ、微妙な乙女心?……アイリス、あれ」


 私とアリサがレイラの事を懐かしんでいると、トワが前方を映し出していたホロディスプレイを指さした。

 映っているのは第1惑星、おそらく「タカマガハラ」。これ以上通信せずに接近すると、仮に友好的な住民達であった場合に反感を買う可能性がある。

 だが一方であそこにC3強奪犯がいるなら……その人物が通信を傍受できる可能性は高い。……リスクとベネフィットを秤に掛け、私は通信しない事を選択した。

 非礼を咎められたなら謝ればいい。だけど、強奪犯にギルドから追撃が来たことがバレるのは不利益が大きすぎるからね。



 その後、光学センサーで第1惑星が観測が出来る位置で一旦投錨し、センサー類による精密探査を行う事にした。

 その結果、判ったことが二つ。

 まずはここが「タカマガハラ」であると言うこと。第1惑星の衛星軌道上に軌道ステーションが浮かんでいたんだ。

 そしてその軌道ステーションに……航宙船が停泊していた。


「アルカンシェル、ギルドで貰ったミッションデータの映像とあの航宙船を照合してみて。二つは同型の船?」


[Affirmative. Matching Rate 89.6%]


 遠距離からの映像照合で90%近い照合率ということは、同型……いや同一の船である可能性は高いだろう。

 つまりC3強奪犯は軌道ステーションか、その下のタカマガハラにいる可能性が高まった。私がそう考えていると、アルカンシェルがホロディスプレイに追加の情報を表示していた。


[Warning: Possible Hull Damage.]

[Presumption: Unseaworthy Probability...43.0%]


 船体にダメージがあって、自航出来ない可能性……?

 ということはあの船は逃走した船とは別ということだろうか?私はアルカンシェルの破損箇所が損傷した時期を推測するように指示を行った。


[Unanalysable.]

[Sorry, Lady.]


「いいよ。無理言ってごめんね、アルカンシェル」


 だけど、さすがに遠目の映像だけでそんな詳細分析を行うのは無理だったようだ。いや、むしろこの距離で自航不能だと推測できる方が凄いんだけど。

 どちらにせよここから見ていてもらちがあかない。危険は承知で接近するしかないだろう。


「アイリス、あの星……自転してない」

「え?……アリサ?」

「……確かにセンサーで第1惑星を捉えてから2時間ぐらい経ってますけど、トワ様が言うように自転していませんね」

「トワ、よく気付いたね?」

「だってほら。軌道ステーションずっと半分だけ日が当たってたし」


 トワの指摘に改めて軌道ステーションを観察する。あれは……大昔に良く使われていた、移民船の基礎モジュールを再利用するタイプのものだろう。

 居住モジュールや貨物モジュールは地表に降下させて居留地の基礎とし、管制機能と簡易的なドックを衛星軌道上に残す。それはいわば再び宇宙へ飛び立つための「水場」だ。

 そしてトワが指摘したように、確かに小規模な軌道ステーションは半分だけが日に当たっている……というか、日に当たっている側の構造体が崩壊しているように見える。

 もしかして、この惑星は……?


「潮汐ロックが掛かっているみたいですね。あれ、地表で本当に生活できるんですか……?」

「潮汐ロック?」

「恒星に近いことで惑星の自転が止まる現象です。昼と夜がずっと固定されるので、昼の面は暑く、夜の面は寒いままになりますから……とても人が住めるようには思えま――」


 アリサが言うとおりだ。だけど、惑星入植のセオリーを考えれば最初の拠点は軌道ステーションの直下に建造される。

 ということは、タカマガハラの都市は昼と夜の境目、明暗境界線上に建造されているのだろう。


 入植適合率22.6%という低い数値の原因の一つは潮汐ロックであることは間違いない。そんな過酷な環境にある惑星の住人が恒星間通信用のC3を欲する理由を想い、私はこのミッションの難しさを改めて認識した

 しかし、今アリサはトワの問いに答える言葉を途中で切ったけど、どうかしたのだろうか?

 何か他に気になったことでもあるのだろうか。そう思ってアリサの方を見ると、彼女は中空に視線を彷徨わせていた。普通では無い様子だが、これは……?


「アリサ?」

「今、ビジョンが視えました」


 静かにそう言ったアリサの口調には、悲痛な想いが浮かんでいるように思えた。


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