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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部4章『現理の円舞曲』タカマガハラ-憎愛の惑星
187/214

#5

>>Towa


 ブリーズに向かう帰り道。行きと違ってアイリスもアリサも無言だった。二人とも何かを考え込んでいる。

 たぶん、さっきの超おばあちゃんの事だろう。アリサと同じテロマーなのかと思ったけど、人間。そして以前の私と同じように冷凍睡眠を常用していた。

 私には悪い人のようには見えなかったけど、でも何か大きな隠し事をしている気がする。それも、たぶん私に関係のある事を。そんな事を考えているうちにドッキングポートへ到着した。

 あれ?ブリーズの搭乗デッキに小さめのコンテナと、その上に小箱が置いてある。なんだろう?


「これは?」

「はい、こちらはブースタリア管理官のギルド章になります。そしてこたらはシノノメ管理官から要望のありました食事です。すぐに出立されるとの事でしたので、ギルド幹部用の宇宙食をご用意させて頂きました。お口に合うと良いのですが」

「幹部用……スラリー(どろどろ)?」

「いえ、こちらは基本食(ベイシック)ではなく、一般でグラット(満足)と呼ばれる種類のもので、厳選素材をギルドのシェフが丹念に調理したものになります」


 アイリスのギルド章!新しいものを作ったにしてはタイミングが早いし、私がジョッシュに返したものがオラクルに戻ってきてたのかな?

 それに一流シェフが調理した厳選素材のグラット(満足)?何それ、スラリー(どろどろ)より美味しいのかな?


「あきれた……宇宙食にまで専用仕様があるのですか?それは、メラニー・スゥの指示で?」

「いえ、スゥ局長はあまりお食事には拘られない方ですし、オラクルを離れられる事もありませんので。他の幹部の方からのご要望です」

「そうですか……では次の幹部会議でこの特別食の廃止を議題に挙げるようにします。清貧に徹しろとは言いませんが、これは特権意識が強すぎです」

「アリサ?これ、置いていくの?」

「いえ、食事に罪はありません。それに……味見はしてみたいじゃないですか」


 そう言ってアリサは私にウィンクしてきた。何故か横に立っていた係官の人が顔を真っ赤にしていたけど。相変わらずアリサはウィンクが上手いな。

 なんとなくアイリスやアリサにウィンクしたら喜んでくれそうな気がしたので、私も後で練習してみようと思った。


 係官の人に手伝って貰って厳選素材のグラット(満足)をブリーズに積み込み、私達はアルカンシェルへと戻った。


 アイリスはアルカンシェルに目的となるUEX0D153A恒星系の座標情報を設定し、アルカンシェルは発進した。

 出航してしまえばあとは私達のすることはない。アイリスとアリサは礼装は肩が凝ると言って私室へ着替えに行った。私はいつも通りなのでそのまま。二人も面倒ならいつもラフな格好にすれば良いのにね。


 しばらくして戻ってきたアイリスはラフなパンツルックだったけど、アリサは白いドレスを着ていた。


「アリサ、それ肩こらない?」

「いえ、以前はこれが普段着でしたので……」

「ドレスが普段着とか、どこのお嬢様よ……」

「えっと、シノノメ家ですが」


 そんなことを言いながらみんなでキャビンに集まり軽く食事を取ることにした。厳選素材のやつは日持ちするので、今日は冷蔵庫に入れてあった食材を使ってアリサが軽食を作ってくれるらしい。

 白いドレスで料理して大丈夫なんだろうか?アイリスと二人でそんな話をしていると、一瞬言葉を切ったアイリスが真面目な表情でこんな事を聞いてきた。


「ところでトワ。G15の事だけど……グリーフっていう名前、アリサに話した?」

「ううん。さっきまで忘れてた」

「そっか……」


 そう言うとアイリスはまた何かを考え始めた。G15か……そういえば超おばあちゃん、G15の事知ってるみたいな事言ってたっけ。

 G15が今どこに居るのか聞いたら教えてくれたのかな?G15にはお礼と文句を言わないといけないから、会えるなら会いたいからね。


「お待たせしました!あり合わせですが、愛妻料理です!」

「アリサ、誰の妻?」

「トワ様、酷いです!トワ様の妻に決まってるじゃないですか!」

「ちぃ姉ちゃんじゃなかったっけ」

「そちらもウェルカムです!」


 そんな事を言いながら、アリサはテーブルにいくつかの料理を置いてくれた。ミラジェミナで仕入れた魚介類が中心だけど、カルデクスでイゼルドさんが育てた野菜も使われている。

 食材と共に旅の思い出も思い起こしながら、食事を楽しんだ。ちなみにアリサのドレスには汚れ一つ付いてなかった。さすがテロマーだね。

 そして食事が一段落した頃、それまで口数の少なかったアイリスが口を開いた。


「アリサ、この前のことだけど」

「……はい」

「完全では無いけど、判断材料が増えたよね?」

「監視の件ですよね?先ほどの対話で何か判りましたか?」


 監視?なんの事だろう。私が不思議に思って二人を見ていると、アイリスが少し困った表情で説明してくれた。


「さっきスゥ局長とも話したけど、私はギルド籍を死亡除籍されてるにも関わらず、ギルドネットアクセス権は解除されてなかったんだよ。だからね、私達の動向が監視されてるんじゃないかって思って」

「誰に……あ、超おばあちゃん?」

「超……ああ、スゥ局長ね。うん、そう。レゾナンスシールドの開発に使ったデータが開示されてた事も含めて、やけに手回しがいいから私達の会話を盗聴してるのかと思ってたんだ」

「そんな事、できるの?」

「通話や通信を介して暗示を飛ばしてくるぐらいだからね、技術的には出来ると思う。でも、たぶんちょっと違うんじゃないかって思って」


 超おばあちゃんは超盗聴魔かと思ったけど、実は違う?じゃあ他の人が盗聴してるのかな?


「さっきG15の話が出たときに、スゥ局長は『グリーフ』って言ってたでしょ?あの言葉、私には聞き覚えなかった。アリサも聞いたこと無いんじゃない?」

「はい。ニュアンス的にG15の正式名称かと思いましたが……あっ」

「私が話してないこと、おばあちゃんが知ってた?」

「そういうこと。つまりスゥ局長には盗聴以外の情報源がある。それも、かなり確度が高く広範囲で……おまけにロストテクノロジーに繋がるような情報源が、ね」


 アイリスが言うように、G15の正式名称が「グリーフ15型」だという事は誰にも話したことがない。

 そもそもG15のことすら、アイリスとアリサにしか話してないし。なのに、あの超おばあちゃんは正式名称の事を知ってた。でもG15とは面識が無いって言ってたけど。


「メラニー・スゥにしては珍しい失言ですね。そんな情報を漏らしてしまうとは」

「いや、たぶんわざとじゃないかな。あそこでグリーフの名を出す必要性は無かったから。きっと私達が彼女の情報網に気付くと踏んで意図的に口にしてると思う」

「あのクソババア……」

「アリサ、お下品」

「……あの、糞上品な老婦人……」

「アリサ?それ全然言い直せてないからね?」


 でも、情報源って何だろう?アルカンシェルの事も知ってたみたいだし。私がそう言うとアリサが少し鼻白んだ様に言った。


「アルカンシェルの秘密やアイリスさんの再生はおそらくモルガンが漏らしたのだと思います。一応口止めしましたけど、お得意様であるギルドに隠し事するとは思えませんから」

「モルガンって言うと、ダンディライアンの管理をしてる機族(マシナリィ)だよね?あのヒト、そんなに信用できない感じなの?」

「対外的にはどうか判りませんが、私個人はあの女の事は一切信用してません」


 アリサは相変わらずモルガンに対する当たりが強い。私の事で怒ってくれてるんだろうけど、あれはモルガンのせいじゃなかったんだけどな……。

 なので、一応アイリスには私からそう弁明しておいた。


「ともあれ、盗聴に頼らなくても十分な情報源があるのなら、私達の信用を失ってまで盗聴するとは思えない。そういうことですね?」

「うん。私はそう思った。アリサは違う?」

「私、あのクソ……いえメラニーの事もモルガンと同じぐらい信用できなくなりましたので。平気でやらかしそうな気がします。聞いてますか、メラニー?私、あなたが嫌いです」


 アリサは顔から外した眼鏡にそう言ったが、もちろん返事は無い。そして眼鏡(フォトンタブ)のスイッチを切りながら、アイリスに目で合図をした。アイリスもアリサの意図を察したのか、腕輪を操作してフォトンタブをオフにする。


「……これで、次に会ったとき盗聴の有無が判ります。メラニーが私に嫌味の一つでも言ってくれば、盗聴確定です。まぁ狸ババアが相手なので、確実に成功するかどうかは判りませんが……」

「タヌキって。それよりアリサ、いつの間にそんな策士になったのよ……」

「何十年も政治家やってれば、否応なく身につきますよ」

「アリサ、汚れちゃったの?」

「トワ様っ!?酷いです!アリサは清廉潔白です!」


 深刻な話はそれで終わりになり、私達は目的地となる恒星系へと旅だった。


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