#4
>>Alyssa
存外に面倒なミッションを押しつけてきたものです。ロストプラネットにC3強奪犯……正直、普通に依頼されたら間違い無くパスする案件ですが、今のアイリスさんはこの依頼を受けざるを得ません。
それを判って案件を振ってきているのでしょうから、また嫌らしいことです。
「ところでアリサ、あなたも何かお話があったのではないですか?」
「では煩わしい駆け引きはなしで率直に伺います。アルカンシェルの事はどこまでご存じですか?」
「あら、随分と直球なのね?あなたらしくもない。そうね、あなたが知っている事と同じぐらい。いいえ、それ以上に知っているわ」
笑顔を浮かべたメラニー・スゥの表情からはそれが、ブラフなのか真実なのかは判りません。駆け引きなしだと言っているのに、このババ………いえ老婦人は!
「そうですか。では何故放置しているのですか?」
「放置はしていませんよ。これでも色々と手を回しています。トワ様のために」
また、トワ様のため……ですか。一体何を知り、何を隠しているのですか、この人は。
「答える気は無いと?」
「アルカンシェルはセレスティエルの船。失われた、古代の。これで満足かしら?」
この返答、アルカンシェルが超光速船である事は既に知られているようです。
かなり先行している追跡部隊を後追いさせるというこのミッションの設定自体、明らかにアルカンシェルの能力が前提のように思いますしね。
よく考えれば私達は――特にぼーっと旅時代のトワ様は-ーあり得ない日程で様々な場所を訪れていますから、今さらのような気はしますが。ただ、どうしても確認しておかなければならない事がありました。
「わかりました。では、もう一つだけ。メラニー・スゥ、あなたは……トワ様の敵ですか?それとも味方ですか?」
「私はトワ様の下僕ですよ、アリサ。あなたと同じようにね」
「一緒にしないで頂きたいです」
「あら、つれないのね?」
本当に食えない人です。ですが、少なくとも敵ではないと判断して良いのでしょうか?これまでの経験で、彼女が隠し事やだまし討ちはしても嘘はつかない事は知っていましたが……。
「ですがアリサ。私は本当にトワ様には安寧に暮らして頂きたいのです。この宇宙で」
「そうですか。ではその言葉、違えられないことを期待しています」
彼女からこれ以上情報を引き出せない事を理解し、私とアイリスさんはその場を去ろうとしました。
ですが、じっとスゥ局長を見つめていたトワ様が口を開きました。
「ねぇ、おばあちゃん」
「なんですか、トワ様?」
「どうしておばあちゃんは、生きてるの?」
トワ様?何を……?いえ、どうして生きている……?
トワ様の言葉に私は混乱しました。
そういえばメラニー・スゥは初めて接触した100年前からすでに老人でした。100年後の今も、彼女の外見は変わった様子はありません。
まるで、私の様に。
そして何よりも不可解なのは、私は……メラニー・スゥが100年後も生存していることを不思議に思わなかった……?スゥ局長は常にオラクルに居ると思い込んでいました。彼女は私と違って、人間なのに。
「そういえばトワ様はギルドネットにアクセスされず、通信で私ともお話した事がありませんでしたね」
「うん」
ちょっと待ってください。いまメラニー・スゥはさらっと凄い事を言った気がするんですが。
アイリスさんの方を見ると、彼女も気付いたのか唖然とした表情を浮かべています。これはさすがに看過できません。
「メラニー・スゥ!あなた、ギルドネットや通信に細工を……!?」
「あら、気付いてなかったのですか?テロマーやセレスティエルは騙せないと思っていたのですが。……そういえば、あなたとの初対面は……衰弱していた時でしたね」
抵抗力が落ちていたあの時に、通信経由で何かを刷り込まれたと言うことですか?
サブリミナルだか催眠波だかは判りませんが……まったく、なんてことをしてるのですか、このバアアは!
自分が生存している事を自然に見せるために、ギルドの通信網を用いて利用者に自身の生存を当然だと思い込ませる様な暗示をすり込むその手法、使い方を間違えばとんでもない事になりかねません。
例えば私が女帝……いえ女王だと刷り込みを行えば?明日から私は銀河の支配者になれるかもしれないのです。そんな技術を使ってまで……彼女は一体何をしようとしているのでしょうか?
「それで、どうして?」
「私はアリサと違って人間です。今日の様な重要な要件があるとき以外は眠っているのです。今日はトワ様が来られると聞いて起きて参りました」
「冷凍睡眠?依存症なの?なにか、悲しいことがあった?」
「いいえ、私は……まだ死ねないのです。おそらくこれからも、もうしばらくは。なので、皆さんが出立されたらまた眠りに就きます。次に起きるのは、アイリスの報告を聞く時かしら」
眠るというのはトワ様が言うように冷凍睡眠を使っての事でしょうか?
しかし長い期間を冷凍睡眠を使って生きる、ですって?それ、明らかに異常じゃないですか。
メラニーの年齢で冷凍睡眠を行えばそれなりに高い確率で事故に遭います。なのに、それを常用しているとは……。暗示の件も含めて、何が彼女をそこまで生に固執させているのでしょう。
ですがメラニーの事ですから、問い詰めても決して真実を語ろうとはしないでしょう。さりげなく手を取って感情を読んでみようかと思いましたが、メラニーなら自分の感情ですら欺瞞しそうな気がして、逆に惑わされそうに思えました。
もしかしたら、私達はいつか彼女と……そして彼女が代表するギルドと立場を異にすることがあるのかもしれない。
私はそんな予感を抱きました。
その後会談が終わり退出した私たちを七番会議室の外で待っていたのは先ほどの機族ではなく、人間の係員でした。周囲を見回し、機族の姿を探しましたがどうやらここにはいないようです。
あれは何だったのでしょうか?私は案内の係官にデッキまで先導されながら、ギルド内に機族がいる意味を考えましたが……残念ながら思い当たることはありませんでした。




