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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部3章『婚約破棄と「ほしむすび」』カルデクス-耕愛の惑星
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インターミッション 『信天翁は羽撃く』カルデクス-栄巣の惑星 #1

 その日、カルデクスに一人の少女が降り立った。褐色の肌にヘーゼルの瞳。男性ならつい振り返りたくなるようなエキゾチックな魅力を放つ彼女は、大きな鳥のイラストが書かれたトランクを引いて入星ゲートへ歩み寄り、彼女の顔を見つめていた係官に朗らかに告げた。


「ヒナ・カイラニ。観光しに来ました!」


 有り体に言うとカルデクスと言う惑星はおよそ観光に向いているとは言いがたい。第四惑星であるここは恒星からも遠く、寒冷気候でおまけに雨も多い。

 人類の生存こそ可能だが、地熱利用が可能なドーム都市を建造してなんとか快適さを保てるほどの環境だ。


 そんな星へ人類が入植を敢行したのは豊富な地下資源が存在しているからで、この星は決して快適な住環境や観光ニーズを満たす星ではない。


「観光、ですか?ルクルニアとお間違え……ではなさそうですが」


 ヒナの美貌に見とれていた係官だったが、我に返ると怪訝げな表情でそう問いかける。彼女の健康的な褐色の肌は日照時間の短いカルデクスでは珍しい。

 だが、係官が口にしたルクルニアは日照時間が長く、農業従事者が多いこともあって日焼けした人間は珍しくもない。なので、係員はヒナがルクルニアから来たのだと思い込んだ。


 手元の端末で確認した、ヒナが搭乗していた船のデータが惑星間航行がやっとの連絡艇サイズであったことも係員の考えを裏付けていた。恒星間航行が可能な航宙船はここしばらく寄港していないし、その予定も無い。

 ならこの少女はルクルニアから来たのだろうと、係員は結論づけた。


 係員の言うルクルニアはカルデクスへ入植が強行された最大の理由だった。第三惑星であるルクルニアは温暖な気候をもち人類にとって快適であるだけでなく、農作物をはじめとした食料の生産にも適している。

 本来であればルクルニアにのみ入植が行われ、カルデクスへの入植は見送られるはずだった。


 だが、ルクルニアには一つ大きな問題があった。

 ルクルニアの地殻は非常に安定しており地殻変動や地震と言ったリスクとは無縁だったが、その反面地下資源というものに全く恵まれていなかったのだ。


 つまり二つの星はどちらも単独では人類の入植に適さないが、二つが共にあることで人類の生存が可能になる。そういった共依存関係にある星々なのだ。


「はい、ワタシ雪っていうものを見てみたかったんです!」


 そういって笑顔を浮かべるヒナに、カルデクス生まれで雪など嫌ほど見慣れていた係官はおかしな客が来たものだと思った。

 なぜなら今、ルクルニアは恒星を挟んでほぼ反対側に位置しており、常に変動し続ける二つの惑星の距離が最も遠い時期にあたる。


 つまり惑星間を旅するには最も適さない……言うならば観光業としてのオフシーズンにあたる時期だったからだ。

 確かにこの時期でも緊急の要件で惑星を行き来する旅客は存在する。だが、もう2月も待てばもっと手軽に移動ができるのに。

 係員にはただ雪を見るために十数時間を掛けてやって来たのであろう変わり者の少女の考えが理解できなかったが、それでもヒナを観光客として受け入れるべく入星処理を行った。



 星に降りたヒナは様々なところへ顔を出した。

 この星の特産だという苔モモのジャムを使ったタルトに舌鼓を打ち、一般家庭で愛飲されている藻を使ったお茶に顔をしかめた。

 野次馬根性を出したのか、少し前に火災が発生した現場へ顔を出したこともある。それ以外にも街中を歩き周り、高級住宅地や倉庫街に紛れ込んで迷子になったこともあった。

 様々な商店を訪れたが、年頃の少女らしく高級な商店に心惹かれた様子を見せたりもした。最初は降雨に興味を持った様子で外を見つめていた表情が、続く長雨に次第に表情を曇らせたりもした。


 気まぐれなのか、一度は地表からわざわざ軌道ステーションへ戻り、ステーションで多くの職員と雪解けについて話をしていたりもした。

 ヒナの入星手続きを担当した係官がステーションで見かけたヒナに、観光ではなかったのかと問うと、ヒナは少しアンニュイな表情を浮かべて顔で答えた。


「雪解けの事を知りたくて。帰ったらレポート提出しないといけないんです」


 その答えとヒナの外見から、係官は金持ち学生の長期休暇なのだろうと勝手に納得し、業務に戻った。


 地上においてもヒナの行動は多少風変わりで、観光客が訪れないような場所にも足を運んだりもした。だが元々ルクルニアから時折訪れる観光客自体が物好きな者ばかりだったこともあり、ヒナの行動にカルデクスの住民達は特に注意を払わなかった。

 ……彼女の容姿に惹かれた、若い独身男性達を除けば。



 しかしドーム都市は見るべきものも少ない。ヒナが宿泊した宿の主人も2、3日もすれば彼女が「観光」に飽きてこの星を去るだろうと考えていた。

 だが滞在3日目に、ヒナが宿の食堂で所望した観光客向け特別メニューの紅茶を飲みながら農業プラントを見学したいと言い出したことには困惑と侮蔑を隠せない表情を浮かべた。


 あんなところを見て何が面白いのかと、批判的な口調で主人はヒナに問うた。

 既に高齢な宿の主人はこの星の人間としては保守的な価値観の持ち主だ。農業を軽んじるが故にルクルニアを自分の星よりも下に見る意識を無自覚のうちに持ち、それ故に褐色の肌を持つヒナのこともルクルニアの田舎から来た小娘と侮っていたのだろう。


 最近では農作物の収穫量が劇的に向上し、カルデクスの食糧事情や農業へ向けられる視線も全体的に見れば改善しているのだが……やはり長年の価値観はそう簡単には変わらないものなのだ。



 ヒナは主人の言葉を黙って聞いていたが「観光ですから!」と元気よく答え、レンタルしたビークルに乗って農場プラントへと出かけていった。


 農場プラントの見学が2日続き、次にヒナは技術開発を行っているラボを見学したいと言い出した。そんな所に何があるのかと問う主人に、ヒナは「雪が見たい」と答えた。

 確かに技術ラボは街から離れた雪深い地域に存在している。主人は風変わりな田舎者観光客の言動に肩をすくめ、エアロプレーンの運賃は高いからあんたには無理だと忠告する。


 ヒナは主人の忠告に感謝すると、金融機関へ赴き――預金の引き出しに手間取ったのか、かなりの時間が経った後に宿へ戻り、結局ラボ行きは諦めたのか市内観光に切り替え街を散策した。


 散策から帰った日の夜、ヒナは宿の主人に翌朝出立すると告げた。さすがにもう観光するところも無いだろうし金も尽きたのだろうと思った主人は、深く考えずにヒナの申し出を受け入れた。

 だが翌朝、チェックアウトに現れたヒナが身に纏った黒い制服を見て、主人は驚いたように問うた。


「あんた……ギルドの人だったのか?」


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