#15
星都へ着いた私達はギルド支部へと向かった。私の荷物はギルドへ届けて貰うことになっていたからね。受付で名乗ると、既に荷物は届いていたらしくすぐに渡して貰えた。
「アイリス、それは?」
「ラボからのお届け物。改造を頼んでたフォトンタブとかだよ」
「小さいの……ヒナがくれた通信機?」
「うん。ギルドネット経由じゃなくて、アルカンシェルをハブにして使えるように改造して貰ったんだ。これならギルドネットに繋がらない所でも連絡取れるからね」
「そっちはフォトンタブ?でも、二つある」
そう、実はフォトンタブはもう一つ同型のものを用意したんだ。旧式だから端末自体は格安だったけど、組み込み機能は結構高く付いた。そうだ、アリサに謝っておかないと。
「アリサ、ごめん」
「え?何がですか?」
「この新しいフォトンタブ、アリサの名前でツケにしてもらったんだ。ほら、私今お金持ってないから。ミラジェミナで随分と儲けてたみたいだし、立て替えておいてくれる?」
「えっと、空売りのやつですよね?あれ、持ち出す暇が無かったので全部ヒナに任せてきたんですが……まぁ、旧式のフォトンタブぐらいなら」
「ごめん、実はかなり改造したから……アリサの使ってる最新型を1ダースぐらい買える値段になっちゃったんだけど……」
ちょっと不味いかな、と思いながらアリサに請求書を見せる。私の言葉に胡乱げな表情をしたアリサだったけど、金額を見て目が点になっている。
「アイリス……さん?これ、一体何に……?」
「えっと……説明するより、見て貰った方が早いかな」
私はそう言うと受付の人に広い場所があるか聞き、教えて貰った中庭へ移動した。どうやら昨日の決闘とやらが行われた場所らしい。
決闘した本人であるアリサが、見知らぬ人間――私のことだ――と共に中庭へ移動するのを見て、ギルドの受付にいた人間がぞろぞろと後をついてきた。いや、見世物じゃないんだけど。
中庭に出た私は、広い空間の中央にトワと二人で立ち、まず自分のフォトンタブを左手に装着。そしてもう一つをトワに手渡した。
「……私?」
「うん。それはね、トワのために用意したものだから」
トワのシンガー資格ではギルドネットへの直接アクセスはできないけど、近距離のC3通信とかライトやカメラ等の基本的な機能は使うことが出来る。そして……ラボで開発して貰った、新しい機能も。
「トワ、タブに向かって軽く歌ってみてくれる?」
「歌?いいけど。どんな歌?」
「そうね……じゃあ、誰かを守りたいっていう歌とかどう?」
「わかった」
軽く息を吸い込んだトワから少し距離を取る。そして……トワの歌に合わせ、フォトンタブの周囲に碧の煌めきが集まり始めた。
「アイリスさんっ、これ……!」
さすがアリサ、起動プロセスが始まった時点でこれが何か気付いたらしい。
まぁ、それも当然か。だってこれは……彼女のレゾナンスブレードの技術をベースにしたものだから。
トワの歌に呼応するように碧の煌めきがフォトンタブの周囲に集まり、やがて光の壁を形成した。うん、起動は成功だ。なら、次は――
「トワっ!」
「何?」
私の声に、トワがこちらを振り向く。碧の壁はラボで性能確認した時よりも圧倒的に強く輝いていることを視認し、私はトワに向けて……ブラスターを抜き打ちする!
一瞬、トリガーに掛けた指がトワを撃つことを拒絶した。同時にフォトンタブを装着した左手に鋭い痛みが走る。
けど、今は必要なんだと『絆』に言い聞かせて、トリガーを引ききる。赤い光弾がブラスターの銃口から放たれ――
――そして、碧に輝く壁に阻まれ、消滅した。
「アイリスさん、何を!って……あれ?」
「ふぅ。結果は判ってても内心ひやっとしたよ……トワ、怪我は無い?」
「うん。今の、何?」
今のは、防御用のレゾナンスフィールドの一種で、アリサのレゾナンスブレードと、ネクスが使っていた防御フィールドを参考にラボで特別に開発して貰った装備だ。
アリサが持っているレゾナンスブレードはC3の力を一点に収束して共鳴の刃を形成するけど、これはフォトンタブに内蔵した複数の超小型C3を媒介に共鳴の盾を産み出すことが出来る。
C3が極小なので並のシンガーでは強固な盾を形成することは出来ないけど、トワなら話は別だ。実際、ラボで私が起動したときと盾の大きさも輝きもまったく違ったからね……。
つまり、これはトワのための、トワ専用の武器。心優しい私の妹には人を傷つける武器は似合わない。だけど、身を守る術は持っていて欲しい。だから、私が考えた最適解が、これだ。
「これはレゾナンスシールドとでも言うべきものだよ。アリサのレゾナンスブレードをヒントに作ってみたんだ」
「ヒントにって、そんな簡単に?レゾナンスブレードの開発って6、7年掛かったんですけど!?」
「その開発データがギルドネットにあったからね。後はフォトンシールドの技術と合わせてみたんだけど、思ったより上手くいったよ」
「えっ……?あのデータ、確かギルド秘になってた筈ですけど……」
アリサの言うことは事実だ。実際、レゾナンスブレードの開発データはギルド秘、それも最上級の閲覧制限が掛けられていた。
ただ、その話をここでするのは不味い。私はアリサに目配せして、レゾナンスシールドの話題に戻った。
「でね、トワ専用の武器にしてみたんだけど、どうかな?」
「うん、格好いい。これ、武器なの?敵倒せる?」
「武器といっても盾だからね……あ、でも原理的にはレゾナンスブレードと同じようなものだし、相手に押しつけたらショック効果で倒せるかも」
「ほほう。じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行くって、どこへ?」
「決闘。ウィルフレッドに戦いを挑む」
一瞬トワが何を言ってるのかわからなかったけど、決闘と聞いて、レゾナンスシールドを構えたトワが攻撃を無効化しながら相手に向かってずんずんと歩いて行き、最期には盾を相手に押しつけて圧勝――圧迫して勝つ的な意味で――してるイメージが脳裏に浮かんだ。
「いや、やめてあげてね?これ、盾だから相手の攻撃無効化するからね?決闘にならないからね?」
「なら、アリサを倒す」
「トワ様!?どうして私が倒されるんですか!?というか、押し倒されるならいつでもウェルカムですけど!」
「ああ、もう訳がわからないよ……」
周りの野次馬達も呆然としてるけど、開発データの件はごまかせたようだ。アリサのお芝居に感謝……って、この子、たぶん本気で言ってたよね。
その後トワにシールドの使い方と防御できる攻撃の種類について説明をした。
性能評価の結果だと物理攻撃とエネルギー兵器は防げたんだけど、何故か光線兵器は防げなかったんだよ、これ。
まぁレゾナンスフィールドは空間を歪ませるけど、光は通すから、たぶんその関係だと思うけど。
「――という感じ。まぁ詳しい事はまたアルカンシェルに戻ってからでも説明するよ」
「わかった。ありがとう、お姉ちゃん」
「可愛い妹のためだからね。トワ、大好きだよ!それに碧のシールドがとっても似合ってた。もう碧の妖精かと思ったよ!」
……さっきトワにブラスターを向けたことで『絆』が反応した影響が今頃出てきた。どうして私の「排熱」は人目のあるところで起こるんだろう……。
いや、トワが可愛いから別にいいけど。そして、さっきからフォトンタブを装着している左手がずっと痛い。
モニタリング機能が正常に働いていることの証だけど、『絆』の影響を受けてるのはもう判ってるから、痛覚を刺激し続けるのはちょっとやめてほしい。この機能、失敗したかも。
ともあれ、これで私がカルデクスですべき用は済んだけど……トワ達はどうなんだろうか。
「私は、特にない」
「ミリシャの住居がまだ決まってませんが……」
「まぁ家探しぐらいは自分でしてもらってもいい気はするけど?彼女は未成年だけど保証人になってくれる人、いるでしょ?」
「それもそうですね。ただ、この星の住宅事情がわかりませんので……念のため、ギルドの官舎を利用できるよう手配だけはしておきます」
「官舎にはウィルフレッドがいる」
「ああ、彼なら数日後には追放です。それまで今の宿に泊まれるようにしておけば問題無いかと」
「うん、それでいいと思うよ。どうするかはミリシャが決めることだしね」
そういうことで、私達のカルデクスにおける用事は全て解決した。……と思っていたのだけど。
「アイリス、二つ忘れてた」
「二つも?何と何?」
「ここのお茶になる藻の採取。あと、苔モモのジャムを買う」
「藻に苔……?アリサ?」
「えっと……苔モモのタルトはとても美味しかったですね」
「藻は?」
「ノーコメントです」
「藻茶はスラリーみたいな感じ」
「……ごめん、その藻茶っていうのは無しにしてもらっていい?」
「えー、美味しいのに」
私の妹は可愛いんだけど、宇宙を旅するようになってから味覚がちょっとおかしくなってる気がする。ジャンクフード好き……いや、これは宇宙食好きって奴だろうか。
「アイリス、好き嫌いしてると立派な航宙船乗りになれない」
「いや、前も言ったけど私、航宙船乗りになる気ないからね?」
「じゃあアリサ、私と航宙船乗りになろう」
「はい、喜んで!」
いやいや、アリサをどこへ向かわせる気なのよ、トワ……。
その後、苔モモのジャムを買いに行ったトワが店頭で藻茶を見つけてしまい、結局アルカンシェルでのティータイムに藻茶が持ち込まれることになった。




