#14
>>Alyssa
アイリスさんから話には聞いていましたが、トワの能力がこれ程とは思ってもみませんでした。
トワの再調律はかつて一度目の当たりにしたことがありますが、再調律も混合もギルドに記録されていない異質な……そして高度なものです。
つまり、これはトワに、おそらく『歌』のセレスティエルであるエトワールにのみ与えられた能力のはず。
本来であれば一度調律したC3は後から上書きはできませんし、色を混ぜ合わせて効果を重複させることも出来ません。そんな不可能を二つも、それも同時に成し遂げるとは。
まさに『歌』の申し子としか言いようがありません。私はトワ……いえ、トワ様への恋心が再び燃え上がるのを感じました。
ええ、私はもう恋心を押さえるのは止めました。だって、ミリシャとイゼルドさんのラブラブっぷりを見ていたら我慢するのが馬鹿らしくなったので。目の前でイチャつかれたら、いくら冷静で温厚な私でもイラっとすることはあるのです。
「アリサ、色々と表情に出てるよ?トワを褒めるのはいいけど、二人に嫉妬するのは大人としてどうかと思うよ?」
「……心の中を読まないでください」
トワ様曰く心を読む能力を持つセレスティエルらしい姉と、そんなことを言っていると、イゼルドさんが声を掛けてきました。
「あの、今のは一体……?」
「C3を調整した。たぶん、2℃ぐらい温度が上がる」
「えっ?でもプラントへ供給されるエネルギー総量は変わらないのですが……」
「なぁイゼルド、C3の色……変わっとらん?」
「確かに、トワさんの歌に合わせて微妙に色が変わったような……」
確かに先ほどまで薄い朱だったC3の色が、純色の薄朱から少し色が混じったような桜色に変化していました。しかしその色味の変化は濁りではなく、新しい力が付与されているように見えました。
「キャパシティに余裕あったから、朱を少し強くした。あと、燃費と制御しやすさも上げた」
「なるほど、キャメル067の推進機関と同じ方向性で再調律したのね?」
「うん。これで少ないエネルギーでも温度が上がる。ちょっとだけ」
トワ様とアイリスさんは平然と会話されてますが、その内容はギルドの常識を根幹から覆す話です。
えっと、それ……ギルドの人間に聞かれた間違いなく大騒ぎになるやつですよね?これは、ちゃんと口止めしておかないといけません。
「イゼルド・ファリウス、ならびにミリシャ・エリアンデル」
「「は、はい!?」」
私がいきなり改まって声を掛けたので、二人とも驚いた様子で返事をしました。ちゃんと声がハモってるあたりはさすがお似合いの二人だと思いましたが……今はそれどころではありません。
「先ほどトワが行った調律はギルド秘に属するものです。本件に関しては口外無用でお願いします。特に、ギルドには」
「ウチは問題あらへんけど……」
「私もですが……ギルドにも、ですか?」
ええ、私が二人に要請したことが矛盾していることは承知しています。ギルドの秘密をギルドには内緒にしろ、ということですからね。
でも、トワ様の力を一番隠さないといけない相手は、間違いなくギルド――つまり、身内です。
「もしこのことが他人に知られれば……世界が、滅びます」
「そんなことが……!」
「イゼルド、ウチこわい……」
「大丈夫だよ、ミリシャ。私がついている」
なにやら二人がいい感じになっていますが、そんな二人を巻き込んで間違い無く世界が滅びます。
なぜなら……シンガー能力は遺伝によってのみ獲得されるものですから、トワ様の能力を知ったギルド幹部なら、間違いなくその能力をギルドの血統に取り込もうとするでしょう。それが可能かどうかはともかくとして。
そしてその方法は、もちろんトワ様に子供を産ませることです。確実に遺伝させるために、相手として選ばれるのは間違いなくSランクのシンガーでしょう。
ですが!現存しているSランクの男性シンガーって、一番の若手でも肉体年齢が四十代半ばですよ!他の連中はおっさんを通り越してジジイですよ!?そんなおっさんやジジイが、トワ様を手込めにするなんて……!そんな未来、認めない!そんな世界、私が滅ぼしてやる!
「……アリサ、考えてること大体わかるけど、ちょっと殺気漏れすぎ」
「はっ……私としたことが……」
「アリサ、何考えてたの?」
私の懸念などどこ吹く風とばかり、トワ様が……私の腕に抱きついてくれました!
僥倖!至福!歓喜!悦楽!
私、世界を滅ぼすのは当分無しにしていいと思いました。
「トワの、幸せについてです」
「ありがとう、ちぃ姉ちゃん」
なななななんですか、その「ちぃ姉ちゃん」って!トワ様の言葉に心臓の鼓動がどんどん速くなって行きます。これは……一歩間違うと自制が聞かなくなるやつじゃないですか。ここが宿でなくて良かった……。
「ね、キくでしょ?トワの姉呼び」
「……はい。まさかこんなに手強いとは……」
にやりと悪い笑顔を浮かべたアイリスさんに、私は同意せざるを得ませんでした。
>Iris
トワの用事が終わったので私達は星都へ戻ることにした。ビークルの運転は珍しくトワが務めている。この子が自分から運転したがるなんてどういう風の吹き回しだろう。
助手席にはミリシャが座っている。彼女、イゼルドと一緒に農業プラントに残るのかと思ったけど、用事があるからといって私達に同行してる。けどなんだろうね、用事って。
もしかしたら新居でも探すんだろうかと思って、冗談交じりに聞いてみたところビンゴだった。
「ウチ、住むとこないんで……」
「ん?結婚したらイゼルドと一緒に住むんでしょ?」
「それはそうやけど、まだ結婚できへんから」
ん?確かアリサの話だと星結婚という制度上、結婚に必要となる釣書とか言うものは回収しているはずだけど、まだ何か問題があるんだろうか?隣に座っているアリサに視線を向けたけど、アリサも首をかしげている。
「ミリシャさん、まだ何か問題でも……?私達でお力になれることがあれば……」
「ううん、ちゃうねん。これは、どうもできんことやから」
バックミラーに映るミリシャの顔は少し物憂げだった。どうにも出来ない、結婚できない理由?
またギルドが絡んでいるとかだろうか。そう思っていると、深いため息と共にミリシャが言葉を吐き出した。
「ウチ、まだ成人してへんから……」
「えっ……?16歳ぐらいなのでは?
「え、ちゃうよ?ウチは14歳になったとこやで」
アリサが驚いたように言うけど、確かに私も驚いた。彼女の年齢は聞いてなかったけど、見た目的にてっきり私達と同じか少し上……16~17歳ぐらいにしか見えないんだけど。
年下?それも未成年?
「ウチ、下にきょうだいがようけおるから、歳よりしっかりしてるって、よう言われます」
同じ姉として頷ける部分はある。私も小さな頃には年の割にはしっかりしてると言われてたからね。
でも、私は年齢相応にしか見られなかった。何が違うんだろう。バスト……は私の方が勝ってたはずだけど……背丈か?背丈のせいなのか?
私がそんなことを考えていると、アリサが続けて質問をしていた。
「なら、どうしてカルデクスへ?ほしむすびで結婚されるために来られたのですよね?」
「……えっと……実は、釣書でみたイゼルドが素敵な人やなぁ思うて。でもお相手のデータがウィルフレッドに変わってしもうたから、間違いちゃうか思うて、確認しに来たんです。早う会いたかったのもあるし」
データの真偽を確認するために他の星まで出向くとか、なかなかアクティブな花嫁さんだね。
これが私の知らない恋心ってやつなんだろうか。だとしたら……厄介だね。
私のは厳密には恋じゃないけど、『絆』が……トワへの気持ちが高まったら、ここまで衝動的になる可能性があるってことだし。
「では結婚するまでは別居なのですか?一緒に住むものだとばかり……」
「それ同棲やん!そんなんあきません!」
「婚約しているからいいのでは?同棲していれば婚前交渉とかも――」
「破廉恥です!そんなん絶対あかん!」
身持ちの堅いミリシャと、割と緩いことを言うアリサの会話を聞き流しながら、私はフォトンタブの改造が上手くいくことを切に願った。そういえばそろそろ昼前だ。届いてるかな、私のフォトンタブ。そして……。
「アリサ、やっぱり痴女?」
「違います!」
「さっきの発言、ウチは痴女やと思います!」
「ミラジェミナに続いてこの星でも痴女扱い……!?私、これでも清純派なんですけど!?というかトワ様、変なこと言わないでください!」
「また、様ついてる」
賑やかなことだ。トワと二人というのも悪くないけど、でもこういう賑やかな感じも本当に心地よいね。
その後の話で、ミリシャは結婚できる15歳になるまで実家へ戻っているつもりはなく、カルデクスで一人暮らしするつもりだということがわかった。星結婚の建前になっている人材交流を理由にイゼルドの農業プラントを手助けするつもりらしい。
まぁ、それはあくまでもカルデクスへ滞在する言い訳で、実際はイゼルドの側を離れたくないんだろうな。私はこの二人と知り合って間もないけど、きっとこの二人なら1年なんてあっという間だろうと思った。
幸せになって欲しいものだ。




