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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部3章『婚約破棄と「ほしむすび」』カルデクス-耕愛の惑星
176/211

#13

>>Towa


 少し二人で話をしたいというミリシャとイゼルドさんを食堂に残し、私とアリサは部屋へ戻った。ともあれ二人のことは上手くまとまったようだ。いや、それにしても二人が元々婚約者だったなんて……そんな偶然、あるんだね。アリサにそう言うと笑顔で首を横に振られた。


「違いますよ。二人は最初から農業によって結ばれていました。これは偶然では無く、必然です」

「そういうもの?」

「ええ、そういうものです。そして、私達も、きっと――」


 アリサは何か言いかけたけど、そのまま口を閉ざしてしまった。この間から……そう、私達が姉妹になってから、アリサは少し変だ。

 もしかして、嫌だったんだろうか?でも、私はアリサのことを大事にしたい。だから躊躇いながら、アリサにそっと抱きついた。


「アリサ……どうかした?」

「ト、トワ様……!?」

姉妹(きょうだい)になったこと、後悔してる?」

「いえ……その……ほんの少しだけ」


 やっぱり。私が頼りないからだろうか。私、アリサにもアイリスにも頼りっぱなしだし。アリサに嫌われちゃったかな……。


「あの、ですね……私、好きな気持ちが……トワ様のことを愛している気持ちが抑えきれなくて。でも、私は姉になったので……その……」

「私の事、嫌いじゃない?」

「当たり前です!むしろ好きすぎて困ってるんです!こんなに愛してるのに、好きとも愛してるとも言えないのが、辛いんです!」


 ……あれ?嫌われてた訳じゃないの?

 この間から好きとか結婚してとか言い出さなくなったから、私に興味が無くなったんだと思ってたのに。別に好きだって言ってくれていいのに。

 ううん、好きって言って欲しいのに。


「言わないの?私、アリサのこと、好き」

「……!!ああ、もう……!もう、我慢しません!姉妹(きょうだい)でもかまいません!トワ様、愛してます!星結婚があるなら義姉妹婚があってもかまいませんよね!?私と、結婚してください!今すぐに!」

「……アリサ?なんで妹を口説いてるの?」


 アリサに思いっきり抱きしめられて言葉の嵐を浴びせられていると、いつの間にか帰ってきていたアイリスが横合いから声を掛けてきた。用事、終わったのかな。


「アイリス、おかえり」

「ただいま。それで、これ……どういう状況?アリサが決闘して、トワと結婚するってこと?」

「いえ、その、これには深い訳が……いえ、星に結ばれた定めというか、農業が結ぶ恋、土が育みし愛というか!」


 アリサが支離滅裂なことを言っている。でも、アリサがちょっとよそよそしいよりも、こんな感じの方が私としては嬉しいかな。



 その後、アイリスの事情聴取にアリサがしょんぼりしながら答え、時々アイリスのお説教が挟まりながら事情の説明が続いてる。


「まったく、何やってるのよ……それで、その馬の骨さんは?」

「閉鎖された農業プラントへ送ることにしました」

「閉鎖プラント……って確か、私が行ってたラボの近くだよね?この星、人里から離れると怪しい原生生物とか出そうな雰囲気あるけど」

「まぁ、懲罰なので。あと、馬の骨は下手くそですけど剣は少し使えますから大丈夫ですよ、きっと」


 アリサのウィルフレッドへの当たりは相変わらずきつい。まぁ、第一印象最悪だったし、決闘を無効にしようとしたし、何よりもミリシャとイゼルドさんの仲を裂こうとしたからね。当然と言えば当然か。

 それよりも私は気になっていることがあった。アイリスが帰ってきたということは……


「アイリス、お仕事終わった?」

「仕事じゃないけど、終わったよ。データの採取と分析、あと野暮用もね。今フォトンタブの調整してもらってる。明日の昼頃には調整終わるらしいから、それを持ってきて貰ったらこの星での用事はおしまい、かな」

「そっか。じゃあ明日、朝から農業プラント行っていい?」

「うん?別に構わないけど……何か用事でもあるの?」

「ちょっと、試したいことがある」


 ミリシャとイゼルドさんへの、婚約祝いを用意しないといけないからね。



 翌朝、私達姉妹とミリシャはイゼルドさんの勤め先である農業プラントへ向かった。あ、イゼルドさんは昨夜ミリシャと話した後一人で帰宅したよ。アイリスが初対面の男性を宿に泊める訳がないからね。

 私とミリシャは二回目の訪問だけど、アイリス達は初めてだから興味深げにプラントの中を見てる。私が案内しようと思ったけど、作物のことは判らないから説明はミリシャに任せた。


「――と言う訳で、カルデクス(ここ)で農業するんは大変なんです」

「なるほど。エネルギー効率を考えると、重工業にシフトするのも一理あるね。でも……例えば室温を1、2℃でも上げれば、生産効率は改善するんじゃないかな?」

「たしかにアイリスさんの言うとおりですね。人口抑制政策が採られるほど食糧自給率が低い状態ですから、少しの改善でも大きな変化を生む可能性があります。そのためには――」


 ミリシャの話は昨日も聞いたけど、正直農業のことは良くわからなかった。故郷でも農業ってあんまり縁が無かったし。

 でも……アリサは政治家やってたらしいからこういう話にも詳しいというのは理解できるんだけど、どうしてアイリスは普通に農業の話をしてるの?しかもなんか詳しいし。

 3人で仲良く話しているのをみているとちょっと寂しくなったので、アイリスの腕に抱きついてみた。


「アイリス、寂しい。構って」

「もう、トワは甘えん坊だね」

「ト、トワ!?私、私には抱きついてくれないんですか!?」

「アリサには、次に抱きつく」

「はいっ!お待ちしております!!」

「アリサ、なんで敬礼してるのよ……」

「ほんま、仲良しさんですね。ウチのきょうだいを思い出します」


 そう言って微笑むミリシャ。私はアイリスの腕に抱きついたまま、ミリシャに向き直る。


「ミリシャ、寂しい?」

「ちょっとだけ。でも、イゼルドが定期的に里帰りしよって言ってくれたんで大丈夫やねん。あの人、ウチの星の農場見たいんやって」

「人材交流という意味では、農業惑星を視察するのは確かにありだね」

「いえ、アイリスさん。そこは『リア充爆発しろ』って突っ込むところですよ」


 そんなことを言っていると、プラントの奥からイゼルドが出てきた。

 昨日は出勤前――結局出勤しなかったけど――だったから私服っぽかったけど、今日は知的肉体労働者スタイルだ。アイリスとアリサは初めて見るイゼルドの格好にきょとんとしている。


「あの、私の格好が何か……?」

「えっと、何というかその――」

「似合っとる!イゼルドにごっつ似合っとる!」

「……あーソウデスヨネ」


 アイリスが何かをコメントしかけたけど、目をキラキラさせたミリシャの言葉に、コメントは諦めたみたいだ。

 うん、まぁ良いんじゃないかな。本人は気にしてないし、ミリシャが気に入ってるなら問題なしだ


「ところでトワ?ここへ何をしに……?美味しい作物でもあるのでしょうか?」

「ない。たぶん」

「そんなことあらへん!イゼルドが作ったもんは美味しいんや!」

「えっと、なんか……ごめん」

「ミリシャ、トワさんが言ってることは事実ですよ。ここのプラントはまだ改良の余地が多すぎる」

「……なら、ウチも手伝うから。一緒においしいもん、作ろ?」

「ええ、もちろんです」


 あ、二人の世界に入っちゃったよ。まぁ、微笑ましいからいいけどね。でもイゼルドさんに許可だけ取っておこう。


「イゼルド、ここのC3調整していい?」

「調整、ですか?かまいませんが……調整?交換ではなく?」

「うん」

「イゼルドさん、私の愛する妹は特別なんです。それはもう、銀河で一番ぐらい」

「アリサ、褒め方の方向性がおかしいよ?でも、トワが可愛いのは事実だけど。トワ可愛い、大好き」


 ……私の姉は二人とも愛情がすごい。嬉しいけど、でも人前だとちょっと抑えて欲しいかな。ともあれ、許可は貰ったので農業プラントのドームを温めているC3の元へ向かう。


「なるほど、朱のC3でドーム内の温度を上げているのですね」

「ということは……トワ、やり過ぎはダメよ?1℃か2℃ぐらいにしておいてね?」

「判ってる。上げすぎたら枯れる」

「あの、何の話なん?エネルギー供給不足で気温は上げられへんってイゼルドが……」

「大丈夫、見てて」


 私はミリシャにそう言うと、C3に手を触れて歌い始める。


 ――この大地が作物を、そして――二人の愛を育みますように。そんな願いを込めて。

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