#10
>>Towa
もうすぐ日没だ。私達4人は再びギルド支部へ向かった。場所の指定はしていなかったけど、昼の続きだからとりあえず中庭へ向かうことにした。やけに人が多いけど……なんの人だかりだろう?
「トワ、これアリサさん見に来はった人やん」
「そっか。アリサ、人気者」
「いえ、あまり注目を浴びたくはないのですが……」
昼間あれだけ派手に決闘しておいて、今さらなような気もするけど。
周りを見回すと見届け人――ギルドの受付に居た人――はいるけど、ウィルフレッドはまだ来ていなかった。まだ気絶してるんだろうか?
そう思っていると、中庭の奥、官舎の方からウィルフレッドは現れた。ん?あれだけ叩きのめされたのに、なんだか自信満々な顔をしてる。頭でも打っておかしくなった?
「アリサ?」
「はぁ……。アレはお仕置きが足りなかったみたいですね」
「そうなの?」
「まぁ、重ねてお仕置きしましょう、心が折れるまで」
アリサはそう言うと一歩前に出てウィルフレッドを睨み付けた。その視線に一瞬たじろいだ様子を見せながらも、踏みとどまるウィルフレッド。
ん?よく見たらアリサと似たデザインの衣装だ……あれ、派手な飾りが付いてるけど、ギルドの制服かな?
「お目覚めですか、ウィルフレッド。では早速勝利者の権利を――」
「待て!その前に俺の方から話がある!」
「……はぁ」
「アリサ!お前もギルドの一員なら知っているな?ギルド職員は上位者に従う義務があると!」
「……どこかで聞いたことのある台詞ですね。それで?」
アリサは心底呆れたような表情でそう言う。うん、確かにそういうの聞いたことあるよ、ペレジスで。あの時はベルンハルトがアイリスに言ってたんだけど。
「俺はカルデクス支部支部長の息子!そして、支部長補佐……すなわち、管理官補だ!平のギルド職員であるお前は上位者である俺の前にひざまずき、昼間の無礼を詫びる義務がある!そして、悔い改めて俺の妻になると誓え!」
会心の一撃を放った!って言う顔してるよね、ウィルフレッド。でも、アリサはジト目で見てるけど。
周りの野次馬達が無言でウィルフレッドを見る視線も冷たい。アリサは軽くため息をつくと、ウィルフレッドの方ではなく立会人の方へ話しかけた。
「昨日ギルド支部を訪れた時に、私、名乗りましたよね?氏名と職位を」
「……はい、確かに伺いました」
「私がなんと名乗ったか、あの馬の骨に教えてくださいますか?」
「はい……この方は『アリサ・シノノメ管理官』と名乗られました。ギルド章も確認いたしました」
「……な……に?管理……官だと?」
「ええ。ほら、ギルド章」
そう言ってアリサはギルド章をウィルフレッドに掲げて見せた。管理官補だと持ってないはずだよね、ギルド章。
ホロムービーならここで効果音がババーンと鳴ってみんなが跪くところだけど、アリサは昨日普通に名乗ってるからね。たぶんウィルフレッド以外のギルド関係者はみんな知ってと思う。
さっきの白けた視線は、その事を知ってたからだろう。
「馬鹿なっ!そんな歳で管理官など、あり得ない!……いや、大昔に奇跡の少女とやらがいたらしいが……」
「それ、私の姉の事では?アイリス・ブースタリア二等管理官でしょう?」
「……!だ、だが、その管理官は死んだと聞いた!」
アイリスは生きてるというか、今まさにこの星にいるけど……まぁ、それは秘密にしておこう。復籍手続きがまだだし、話がややこしくなるからね。
「それで。私の方が上位者な訳ですが……跪いて許しを請うのはどちらですか?」
「くっ……」
もの凄く悔しそうな顔してるけど、跪きそうな気配はない。どうしてああ言う手合いって他人を跪かせさたがるくせに、自分は跪かないんだろうね。
跪くと死んじゃう病気とかなんだろうか。
「では茶番も済んだようですし、決闘の勝利者として権限を行使させて頂きます。私があなたに望むのは……ミリシャ・エリアンデルの釣書をしかるべき相手に返却することです」
釣書を返却?どういうことだろうか。これまで静まりかえっていた野次馬もざわつき始めた。当の本人であるミリシャは……訳がわからない、と言う顔で目を丸くしている。
まぁそうか、いきなり自分の名前が出てきたら驚くよね。その隣でイゼルドさんが何故か涙を流して頷いている。うーん、本当に訳がわからない。
「釣書……だと?ああ、そういうことか」
「ええ、そういうことです」
ウィルフレッドは合点がいったという顔で頷いている。だけどその顔は敗北を認めて素直にアリサの言うことを聞きそうな表情じゃないよね、あれ。
アリサは平然としてるけど……大丈夫なのかな?まだ何か企んでそうに見えるけど。
「そうか、なら……その申し出は断る!俺は、ミリシャと結婚するからな!」
「……はぁ」
「え?ウチ、いやや!」
「ミリシャ、釣書が俺の手元にある以上お前は俺と結婚せざるを得ない。お前を俺の妻にして……そして、慰み者にしてやる!どうだ、アリサ!」
「どう、と言われても」
「お前はミリシャを助けたいのだろう?ミリシャの身代わりにお前が妻になればミリシャが不幸にならずに済むぞ?ふははははは!これで逆転だな!」
えっと、アリサと結婚したいからミリシャと結婚すると言い出して、ミリシャとの結婚を止めたいならアリサが結婚しろ……って事?
正直、何を言ってるのか判らない。と言うかウィルフレッド、そこまでしてアリサと結婚したいの?
いや、確かにアリサは絶世の美女だし、優秀だし、むちゃくちゃ強いし……超優良物件だね。プライド高そうなウィルフレッドなら、無理筋でも結婚したがるのも当然か。
でもウィルフレッドが言ってることはミリシャが嫌がってるから最初から成立しないんじゃない?
そう思って隣に居るミリシャを見ると、ミリシャもイゼルドさんも真っ青な顔をしていた。野次馬達のざわめきも心なしか動揺しているように思える。あれ……?もしかして何かまずことがあるんだろうか?
「ミリシャ、どういうこと?」
「ウチの釣書、ウィルフレッドが持っとるんです。ほしむすびの決まりで、ウチはアレをもっとる人としか結婚できへんねん……」
「えっ?」
「それにウチ、ほしむすびでこの星へ来たやん?やから、勝手に帰られへんねん」
ということは、ウィルフレッドが釣書を返さない限り、ミリシャはウィルフレッド以外の相手と結婚できないの?それに、誰とも結婚せずに故郷へ帰ることも出来ないってこと?
何、それ。ほしむすびって、素敵な制度だと思ったのに……全然ダメじゃない。
「さぁ、どうするアリサ?お前が俺の妻になるか、それともミリシャを見捨てるか。どちらでも好きな方を選ぶがいい!」
「決闘の勝利者権限はどうなったのですか?」
「決闘?そんなものは知らん!俺は決闘契約書を書いた覚えもないしな!」
「そうですか、判りました」
負けたからって決闘を反故にするなんて、卑怯だね……。野次馬達もブーイングしてるけど、ウィルフレッドは気にした様子も無い。
本人的には決闘を無効にすれば負けたという事実も無くなるから、最初からこうする気だったんだろう。最低な男だな……。
でもアリサは全く動じていないし、決闘が無効だと言われて怒ってもいない。もう一度正式に決闘するんだろうか?いや、でもボロ負けしたウィルフレッドが改めて決闘を受けるとも思えないし……。
「では、仕方ありませんね。ウィルフレッド・グレイン。あなたに内政干渉の疑いありと見なし、監察権を発動します」
「監察権?何を言っている。お前は管理官かもしれないが、監察官ではないだろう。下らぬ冗談を言っている暇があれば――」
ウィルフレッドの言葉を無視し、アリサは手に持っていたギルド章を高く掲げた。そして、軽く息を吸うと……言葉を発した。
「ギルドの標たる黒水晶よ」




