#6
>>Towa
起きたときにはアリサの姿は無かった。しっかりした彼女の事だから、心配はしてないけど……どこへ行ったんだろう。そう考えているとアリサが帰ってきた。イゼルドさんをつれて。えっと、これって……
「アリサ、連れ込み?」
「違います!そんな事はしませ……いえ、この前はヒナを連れ込みましたけども!」
「あれ、イゼルドさんやないですか。どうしはったんですか?」
ミリシャは寝起きなのか、しゃべり方が素のままだ。まぁ、こっちの方が断然可愛いと思うけどね。
薄着のミリシャを目にして、イゼルドさんが少し顔を赤らめてあらぬ方を向いた。
「昨日教えて頂いた肥料の調合を試していたのですが、シミュレーションでかなり収穫量が改善するというデータが出て、その、つい、ご報告をと……」
イゼルドさん、途中までは普通に話していたけど、最後の方は少ししどろもどろになっていた。うん、わかるよ。早朝に女性の部屋へ押しかけてまでする話じゃないもんね、それ。
「……申し訳ない。研究の事になると、つい見境が無くなってしまって。朝から押しかけてする話ではありませんでしたね」
「いえ、でもウチの話がお役に立ったんなら、うれしいです」
そう言って柔らかく微笑むミリシャ。花が咲いた様な微笑みってこういうことか。私には出来ない芸当だな……いや。そもそも微笑むところから無理だけど。
「確かにレディの部屋でするには無粋なお話ですね?」
「……申し訳ない」
「イゼルドさん、食事はもう済まされましたか?」
「いえ、独り身なので……このあとパンでも買って、プラントで食べようかと」
「はぁ……。宿で簡単な食事をとれたはずです。よければご一緒に」
イゼルドさんの答えはいかにも研究最優先、という感じでアリサがため息をつきたくなるのも良くわかった。でも、独身なんだね、イゼルドさん。ならますますミリシャにお似合いだと思うけどなぁ。
その後4人で食卓を囲んだけど、イゼルドさんはずっとミリシャと話していた。
もちろん別に何か他意があるわけじゃなくて、話題が農業の事ばかりなのでミリシャ以外はまともに会話が出来なかっただけだ。
アリサは私の方を見て軽く肩をすくめたけど、何も言わなかった。アリサも二人がお似合いだと思ってるのかな。でも、ミリシャには元婚約者候補の人がいるし……あ、そういえばラボの方はどうなってるんだろう。
「アリサ、アイリスから連絡は?」
「メッセージが入ってましたよ。データ採取は順調……って、ほぼ徹夜でやってたみたいですね、アイリスさん」
「お肌に悪い」
「セレスティエルだから肌荒れ無効、最高って書いてありました」
たぶん夜更かし用に与えられた能力じゃないと思うけど……まぁ、アイリスが喜んでるなら良かった。
「それにしても、やはりここの食事は……」
アリサがそう言いかけて途中で口をつぐんだ。ここの星の住民、それも農業に従事しているイゼルドさんの前で口にするのは失礼だからね。
「――不味いですか?」
「ごめんなさい。口が滑りました」
「いえ、事実ですから。私達にはこれが普通ですが、他の星から来た方には……きっとお口に合わないかと思います」
アリサは「そんな事はない」と否定せずに「口が滑った」と謝った。それはつまり、ここの食事が美味しくないことを認めたという訳だ。
私的には、普通に食べられるけどアリサもミリシャも昨夜はかなり不満を口にしてたっけ。
「カルデクスは……農業に向かない星です。日照時間は短く、気温も低い。雨も多すぎる。なので、ここで育つのは何種類かの作物だけで、それらも決して美味では無い」
「イゼルドさん……」
「なので、この星では農業は見捨てられた産業なのです。やるだけ無駄。食料はルクルニアに頼れば良いと。政府も、ギルドも、農業には見向きもしません。かつてギルドが管理していた独自の農業プラントは遠方で効率が悪いと閉鎖してしまったぐらいですから」
そういうイゼルドさんの表情には悔しさの様なものが浮かんでいた。自分が取り組んでいる事が誰にも評価されないのは辛いよね。
「ですが、昨日ミリシャさんに教えて頂いたことが切っ掛けで成果が出そうな事がわかって……少しだけ希望が見えました。あの改良肥料を使えば、これまで作付けできなかった品種も、もしかしたら作れるようになるかもしれない。そう思ったら……つい、足がこちらへ」
「ウチ、ほんまにお役に立てたんですね。うれしいです」
「でも、どうしてここが?トワ、イゼルドさんに宿泊している所を教えましたか?」
確か、昨日はそんな話はしてなかったはず。ミリシャも軽々しく宿泊先を話すような子じゃ無いはずだし。
「ううん」
「ああ、それは……トワさんがギルドの方だと聞いたので、ギルド支部へ聞けば何かわかるかと思いました。それで、支部へ行ったらグレイン支部長のご子息と鉢合わせになって……」
そういってイゼルドさんは今朝の顛末について話してくれた。なんでも朝からウィルフレッドとやらがギルドでアリサに会いに行くと大騒ぎをしていたらしい。
イゼルドさんがその騒ぎを見ていると、ウィルフレッドの言葉の中にミリシャという名前が出たのでもしかしてと思って後をつけるとこの宿にたどり着いたらしい。
え、じゃあウィルフレッドもいるの?私は慌てて周囲を見回したけど、ウィルフレッドの気配は無い。
「大丈夫です、トワ。馬の骨は私が追い払いました」
「アリサ、頼りになる。好き」
「……!もっと、もっと褒めてください!なんならけっ……いえ、なんでもありません」
あれ?なんだかアリサのテンションが一瞬上がった後に急激に下がったけど、なんだろう。いつもなら結婚してください!と騒ぐところなのに。
私がそんな事を考えている間にもイゼルドさんの話は続いていた。
「――で、お前もアリサに求婚するつもりなのか、この略奪者めと言いがかりを付けられました。ですが私にはそのアリサという人に心当たりが無く……」
「……失礼、そういえば自己紹介がまだでしたね。アリサ・シノノメ。ギルドの管理官です」
アリサ、自己紹介もせずに連れ込んでたのか。いつも手回しのいいアリサにしては珍しいね。ウィルフレッドが居たから頭に血が上ってたのかもしれないけど。
「なんと、あなたがアリサさんでしたか。確かにウィルフレッド・グレインが目を付けるのも納得できます」
「どうせウチは魅力ないもん……」
「……!いえ、ミリシャさん、そんな事はありません。アリサさんは確かに美しいですが彼女の美は恒星の光の様に眩い。ですが貴女の、その可憐な花の様な美しさは――」
イゼルドさんがアリサを褒めたことで、ミリシャが拗ねて、それを慰めるためにイゼルドさんはミリシャの可憐さを褒め称えてる。
主に草花に例える感じで。不機嫌そうだったミリシャの顔が、ちょっとにやけ顔になってるし。
「ウチ、ほんまにかわいいですか?」
「ええ、もちろんです!」
……やっぱりこれ、お似合いの二人だよね?
その後、私は農業プラントに設置されていたC3の事を聞いた。あの子がもっと頑張れば作物の生育が改善するのか、って。
「そうですね、気温が上がることは基本的に好ましいことですが、現在プラントで栽培しているのは寒冷地用の作物が中心です。急激に気温が上がると逆に生育に害が生じる……有り体に言うと、枯れてしまうと思います」
危なかった。勝手に気温をあげてたら、大惨事になるところだ。
「少し上げるだけなら?」
「そうですね……1、2℃なら好ましい影響が出ると思います。ただ、先ほどお話ししたように農業は見捨てられた産業なので、温度を上げるために貴重なフォトンエネルギーをこれ以上回して貰うことは難しいかと……。政府だけでなく、ギルドにも何度か要望書を出しているのですが今のところ良い返事は貰えていません」
……なるほど。じゃあキャメル067でやったように、出力と効率、制御のバランスを調整すれば今のエネルギーでも多少は温度が上がるのかな?
まぁ、勝手にはやらないけどね。




