表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部3章『婚約破棄と「ほしむすび」』カルデクス-耕愛の惑星
168/223

#5

>>Alyssa


 アルカンシェルからお泊まり用の荷物を持ち出した私が宿へ戻った際、部屋には誰もいませんでした。フロントに聞くと、トワとミリシャはビークルで出かけたとのこと。何ですか、それ。私を置いてデートですか?

 ……あ、そういえば私、もうトワ様……いえトワとデートできる立場ではないのでした。一抹の寂しさを感じますが、姉妹としてデートするならありですよね。いえ、ありにします。


 そんな事を考えながら部屋に戻り、荷物の確認と整理をしているうちに二人が部屋へと戻ってきました。

 トワによると、ミリシャが勤務する予定の農業プラントを見学に行ったのだとか。勤務先という言葉に少々違和感を感じましたが、先ほど考えていた馬の骨への要求の事もあるためミリシャの今後について意思確認はしておいた方が良いでしょう。


「ミリシャさんは、このままカルデクスで生活されるのですか?」

「……実はウチもまだ決めかねてるんです。ひとりでここにいる理由はないけど、ほしむすびで来てるから勝手に帰れへんし」

「自由にできないの、不便」


 トワはそう言いますが……まぁ、言葉の美しさとは裏腹に「ほしむすび」は政略結婚ですから、花嫁の自由意志で帰星は難しいでしょうね。なら……ここでミリシャが生活する拠点は必要になるでしょう。


「なら、明日の件ですが。私がもぎ取る報酬でミリシャさんがここで生活するための居場所、つまり『家』を要求しますね。賠償金として。豪邸がお好みでしたら豪邸でも……」

「えっ?ウチの……(うち)ですか?」

「もちろんです。私もトワも旅人ですからここに家は必要ないですし」


 私は故郷であるペレジスに孤児院を兼ねた自宅を保有していますし、今現在の私達には既にどこへでも行ける家(アルカンシェル)がありますから、惑星上の邸宅はこれ以上必要ありません。


「でも、そんな高いもんは……」

「何を言ってるんですか!乙女の純情を傷つけた罰です。これぐらいは当然……いや、全く不足ですね。他にもビークルとか、家政婦とか執事とかも付けさせましょう」

「いや、ウチそんな生活、よけいに困ります……」


 まぁ使用人を入れると維持コストが掛かるのも事実ですから、結党報酬としてもぎ取るのは住宅とビークルぐらいで勘弁してやりましょうか。馬の骨が払えないなら支部長に払わせますし、もし支部長がごねるのであれば管理官権限を行使して徴発するまでです。


 その後、3人で夕食を食べに行くことにしました。ドームに囲まれた都市では見るべきところもありませんし、せめて美味しいモノでも……と思ったのですが。この都市に一軒しかないという高級レストランの料理は私達の期待を裏切るものでした。


「アリサ、美味しいね」

「……ええ、まぁ……グリット(かちこち)よりは」

「うーん……ウチ、ルクルニアへ帰りたいかも」


 レストランで出されたメニューは高級を名乗っているにも関わらすお世辞にも美味しとは言えませんでした。全体的に旨みが薄いというか、パサついているというか。おそらく長期保存用に加工された食材を使っているのだと思いますが……。

 そういえばカルデクスの食糧供給はルクルニアに依存していると言っていましたっけ。保存はできても新鮮さやおいしさに欠ける食材しか手に入らないのだとしたら。

 私達でさえそうなのですから、ルクルニアで新鮮な作物を食べて育ったミリシャにとってはかなり過酷な環境になりそうです。


 それに、ここの人達が少し陰気に見えるのは食べ物のせいかも……そんな事を思いました。


 宿に帰り、ミリシャを交えて色々な話をしました。ミリシャは故郷の星を離れるのは今回が初めてだったそうで――いえ、それが普通なのですが――私達の旅のことにとても興味を持ったようでした。私達はミリシャの故郷の話、穏やかな毎日が流れていく農園での自然あふれる暮らし、大家族での生活の話に耳を傾けます。


「ウチの話、退屈とちゃう?トワみたいな波瀾万丈とちゃうよ?」

「ううん。とても面白い。私もそんな生活してみたい」

「あはは……でも、毎日が単調やで?」


 ミリシャはそう言って笑いますが、きっとその単調な生活を心から愛していたのでしょう。

 スローライフとでも言うのでしょうか。小さな事に喜びを感じられる生活は、激動の人生を歩んできた私にも心安まるものが感じられました。

 そして、そんな生活を捨てて臨んだ「ほしむすび」の結果が、あの馬の骨とか……報われなさ過ぎでしょうに。私は巻き込まれた立場ではありますが、彼女の幸せのために少しだけでも役に立ちたい。そう思いました。



 翌朝。決闘に向けてドームの外で少し汗を流した私が宿に帰ると、何やら宿の入り口で騒ぎが起きていました。

 見ると、2人の男性が騒いでいます。見覚えのあるほうの1人は……例の馬の骨ですね。もう1人は見知らぬ男性ですが、筋肉質の体に瓶底眼鏡というミスマッチな風体です。見たところ農業プラントで作業をしている人物のように思えますから、もしかするとミリシャの知り合いでしょうか。

 どちらにせよ、入り口で騒がれると部屋に戻れませんし、周囲への迷惑にもなります。私は呆れ半分で2人に声を掛けました。


「朝から騒々しいですね。近所迷惑を考えてはいかがですか?」

「何っ……おお、アリサではないか!さぁ婚姻の準備をするぞ!」

「あ゛あ゛ん?寝言は決闘してからにしてください。で、そちらの方は?」

「早朝から申し訳ない。ミリシャ嬢に話があり、失礼とは知りながら訪問させてもらったのだが……」


 私の見立て通り、やはりミリシャの関係者でしたか。馬の骨と比べると幾分かは礼儀正しい方のようですが、それでお早朝からレディを訪ねるのは非常識ですよね。私は思わず頭をふりながら、2人に向かって告げました。


「とにかく、ここで騒ぐのは迷惑ですからお引き取りを。特に馬の骨。首を洗って正午を待ちなさい」

「くっ……俺のモノになったら、許しを請うまで判らせてやるからな!」


 誰が何を判らせられることになるのやら。そんな事を思いながら、捨て台詞を吐く馬の骨をさっさと行けと手で追い払った私は、もう1人の男性に向き直りました。どうやらこちらはまだ立ち去るつもりは無いようです。

 ミリシャに会いたいということは、トワとも顔を合わせることになる訳ですから身元の確認は必要でしょう。そう考えた私は……自分でもジト目になっていることを感じながら、口を開きます。


「それで、あなたはどなた?」

「これは失礼した。私はイゼルド・ファリウス。この星で農業を研究している者です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ