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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部3章『婚約破棄と「ほしむすび」』カルデクス-耕愛の惑星
166/217

#3

>>Towa


 とりあえず宿を取った。

 もともとアイリスの用事が終わるまでアルカンシェルで待機している予定だったこともあって、カルデクスに宿泊するつもりがなかった私達は着替えも何も持ってきてない。もちろん着替えといっても私はTシャツを1枚どこかで買ってくれば済むからあまり困らないけど、アリサはそういう訳にもいかないし決闘の準備もあるからと言ってブリーズでアルカンシェルまで荷物を取りに行った。すぐに帰ると言って停泊してきたアルカンシェルが拗ねてないか、ちょっと心配だ。


 宿には私とアリサの他にミリシャも泊まることになったけど、身軽な私達とちがってミリシャは惑星間移住だから結構な大荷物らしい。さすがに宿の部屋に家具なんかは持ち込めないから、大きいモノはギルドで預かって貰って、身の回りのものや着替えだけを宿に移してある。

 アリサが言うには官舎を使い続けられるようにギルドに頼み込む方法もあったらしいけど、ウィルフレッドとか言うのがいる所じゃミリシャも落ち着かないだろうからね。


 私も手伝ってミリシャの着替えなんかを宿へ運び込み、一息ついたところでミリシャが声を掛けてきた。


「トワさん、ウチ、ちょっとお仕事があるんです」

「トワでいい。仕事って何?」

「農業プラントの環境を改善するお手伝いです。まだ来たばっかりやから、見学なんやけど……」


 そういえばミリシャは嫁入りに来ただけじゃなくて、専門家として人材交流プログラムにも参加しているって言ってたっけ。農業惑星から人材交流に来てると言うことは、ミリシャは農業のプロ。つまり美味しい食べ物を作ってくれる達人で、ミリシャは私に取って尊敬に値する人だ。


「感謝」

「えっ、急に手を合わせて、どうしはったんですか?」


 そういえば荷物運びをしていたあたりからミリシャの言葉遣いがちょっと変わってきている気がする。でもきっとこっちが素なんだろうな。彼女の言葉使いはなじみの無いものだけど、不快じゃない。

 ううん、むしろ心地よい感じがする。柔らかい雰囲気があるからか、それともミリシャが良い子だからかな。

 

 それはともかくとして、ミリシャが仕事で出かけると私一人で宿に残ることになるけど、カルデクスの街は見るところも無くてもの凄く退屈だ。なら、ミリシャの職場へ一緒に行って、見学させて貰おうかな。


「私も一緒に行っていい?」

「大丈夫やと思います」

「感謝」

「なんで拝むんですかー!」



 このカルデクスという星は恒星から遠いこともあって、元々の環境は人の生存がギリギリな程度の状態らしくて、屋外で生きていくことはできるけど正直長居したくないレベルの気温なんだそうだ。だからカルデクスの人達は快適な住環境を保つために街をドームで覆い、その中で暮らしている。


 ミリシャの職場である農業プラントも同じようにドームに覆われているそうだけど、農業のために温度を上げる必要があるらしく、地熱を活用する農業プラントはここから少し離れた所にあるらしい。

 さすがに歩いて行くのは遠い距離だということなので、私達はビークルを借りて移動する事になった。ちなみに運転は私。故郷ではエアロバイク派だったけど、一応ビークルの運転も習ったことはあるから、たぶん大丈夫だろう。農業プラントまでは一本道らしいので、初めての星でも迷うことはないだろうし。


 ミリシャはプラントで土を触るかもしれないと言ってよそ行きのドレスから、パンツルックの動きやすそうな服に着替えている。彼女が言うにはこちらが普段の格好らしい。

 ドレスも可愛いけど、パンツルックも似合うね、ミリシャ。



 ドームの外は灰色の世界だった。ドーム内から空を見上げた時も灰色だったけど、その時はそういう色のドームだと思ってた。けどこれ……外が本当に灰色だったんだ。

 どんよりと曇って、寒々しい光景。植物も生えているけど、みな元気が無くうなだれているように見える。そして……雨が降っている。ビークルのフロントガラスがたちまち雨で濡れる。昔の事を思い出して、少し憂鬱になった。


「トワは雨、きらい?」

「うん。濡れると、寒い。ミリシャは?」

「ウチは……雨は天の恵みやって思うとるから嫌いやないかな。でも、長雨はちょっと困るかな」

「はほう」

「作物が育つには雨は必要やけど、降りすぎると根腐れしちゃうんよ」


 私の故郷では雨は珍しいものだった。いつも乾燥してたから水が不足して食料生産担当の人達が困ってたけど、雨が多すぎてもダメなのか。

 難しいね、農業。そんな農業を通じて食べ物を作ってくれる人は偉大だ。やっぱり感謝しないといけないよね。


「感謝」

「トワ!?ハンドル!手離しとるで!」


 いけない、運転中だった。慌ててハンドルに手を戻してミリシャの方に目をやると、「次、手を離したらウチが運転します」とでも言いたげな表情でこちらを見ていた。


「次、手を離したらウチが運転します」


 あ、言葉でも言われた。ごめん。善処する。

 でも、代わり映えのしない灰色の光景の中を走り続けるのは退屈だ。何か話題はないだろうか。しばらく思案して思いついた話題があった。

 恋バナ。うん、それしかない。もちろん私には話すことはないから、ミリシャの話を聞くのが目的だ。


「ミリシャ、結婚予定だったのはどんな人?」

「ウィルフレッドのことですか?」

「違う。奪われた相手」


 他にどう表現したらいいのか判らなかったので、変な言い方になったけど、ミリシャには伝わったようだ。私のおかしな言葉使いにちょっと苦笑しながらも、ミリシャは元婚約者候補の事を教えてくれた。


「たしか、ファリウス家の跡取りさん……やったと思います。なんでも、カルデクスで研究者してはるんやって」

「イケメン?」

「それがね、釣書に写真(ホロ)がついてなかったんです。データが壊れてたみたいで、すぐに釣書も見れんようになってしもうて……」

「釣書?」

「ほしむすびのお相手と交換する、履歴書みたいなもんよ」


 それ、顔に自信が無いから写真(ホロ)付けてないだけじゃないだろうか。

 ウィルフレッドじゃない方も不誠実だったとしたら、ミリシャが可哀相だな。それに研究者ってことは……アイリスが行ったラボにいるんだろうか?

 あとで「ファリウス家の跡取り」って人がいるかアイリスに聞いてみようかな。可能なら写真(ホロ)を撮って送って貰ったらミリシャも喜ぶかもしれないし。


「変な人だった?」

「えっと、釣書ではね、普通というか……まあ、素敵な感じやったかなぁ。あの人がお相手やったら、ウチ……」


 あ、この反応知ってる。ホロムービーで見たことがある恋する乙女ってやつだ。私にはまったく判らない感覚だけど、でもレイラも何故かこんな感じの顔してたし。

 でも、ほしむすびで他の星へ嫁入りしようと思うぐらいなんだから、相手に好感を抱いているのは当然かな。嫌いな人のところへわざわざ嫁ぐこともないだろうしね。

 

 その後もミリシャと話をしながら単調な道をビークルは進む。車内が随分と冷えてきた気がして、私はエアコンの温度を高めに設定した。雨の様子も少し変わってきた気がする。


「あ、雪や!」

「……雪?」


 雪というと、ホロムービーで見たことがある、あの白いふわふわしたものが降ってくるやつだろうか。確かに、空から降ってきているものは雨ではなくなっている気がした。


「車止めて、外出ていい?」

「やめとき、外ものごっつい寒いから風邪引くで?」

「残念」


 そうか、ドーム内の気温に合わせた服装にしてるから、外へでるとかなり寒いんだ。雪を触ってみたかった気もしたけど、仕方ない。

 まぁ私はセレスティエルだから風邪は引かないと思うけど。


 そんな事を考えながら30分ぐらい走っただろうか。しばらく降っていた雪が雨に戻った頃、前方に街よりは小さなドームが見えてきた。



「トワ、あそこにビークル駐めれるよ」

「了解。ミリシャ、ここは詳しい?」

「ううん。おとつい一回来ただけやねん。ウチ、この星へ来てまだ4日目やから」

「そっか。中はどうなってる?」

「そのときは留守みたいやったから、中はしらんねん。ごめんね」


 見知らぬ星へ来て4日目で婚約発表と婚約破棄か……それは、色々と大変だったろうなぁ。でも前向きに仕事に取り組もうとしてる。ミリシャは偉い子だね。


 ミリシャの指定した場所にビークルを止め、ドームの入り口に向かって雨の中を走る。遠い昔、真夜中に雨の中を走ったことを、そこから連想してパパのことを思い出して……ちょっとだけブルーな気分になった。

 アリサにジュラナイ刀を、傘を借りれば良かった。いや、あれは壊れたって言ってたかな。

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