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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
153/229

#31

>>Iris


 こちらの銃撃が効かない事を確認したのか、ネクス達は勢いづいて分隊支援火器(SAW)やブラスターを乱射し始めた。

 さすがにこの弾幕を全て回避するのは難しい。アリサと二人、再び岩陰へと待避した。そして私達が身を隠したことでこちらの攻撃が届かないことを確認したのか、敵陣から拡声器を通じた声が聞こえてきた。


『はっはっは、我らに刃向かう愚か者め!ネクサス・ダイナミクス社の威光にひれ伏すがいい!我らの正義の前に、貴様らの攻撃など無意味と知れ!』


 いや、いままで散々ボコボコにされてたじゃない。心の中でそんなつっこみを入れつつも、現状は確かにあの声の言うとおりだと思案する。

 私が撃ったブラスターの弾は十分射程内の筈だったのに敵に届かなかった。


 社の威光を掲げるということはあれは連中の切り札なんだろう。敵陣を覆う様な薄もやと着弾時に一瞬見えた揺らぎ、あれはたぶん何かのフィールドだ。

 レゾナンスフィールド?いや、そんなはずはない。私が思案している間にもエネルギー弾が岩を削る音が聞こえる。この遮蔽物も長くは持たないだろう。


 ふと横を見るとアリサは割と平然とした表情をしていた、もしかして、敵の装備について知ってるんだろうか?


「アリサ、もしかしてアレ、防御フィールド的なやつ?」

「そうです。威光がどうとか言ってますが、どこにでも転がってる汎用品の軍用装備です」


 もしやと思ってアリサに確認すると、つまらないものを見たとでも言いたげな表情でそう答えてきた。

 いや、アリサはさらっと答えてるけど、人間が運べるサイズの防御フィールド技術なんて聞いたことないんだけど。


「いつの間にそんなモノが実用化されてたのよ……」

「100年経てば技術も進歩しますよ?」

「私的には数日しか経ってないんだけど」

「私的にはしっかり100年経ってますからね?」


 ファッションセンス的に時代遅れになったことは感じてたけど、まさか技術トレンドでも時代遅れになっていたとは。これは勉強し直さないといけないね。なんか納得いかないけど。

 思わずそんな場違いな事を考えている間にも、反撃がないことで士気を取り戻したネクスの攻撃は激しくなるばかりで、身を隠している岩がどんどん削り取られていく。

 状況は正直あまり好ましくないし、このまま遮蔽物を削りきられると少々不味い。


 なにせ不殺を心がけている私達と違って、連中は制限なしの殺傷モードだからね。Xthのフルチャージで撃てばフィールドを貫通して攻撃できるかもしれないけど、そんな事をしたら間違い無く相手を殺してしまう。それはまずい。

 いわば追い詰められた状況だけど……アリサは黙って私の方を見つめ、考えをまとめるのを待ってくれていた。トワを心配させる事になるけど、ここは多少の負傷には目をつぶって覚悟を決めるしかないか。


「ね、あのフィールドの中に飛び込めば、なんとかなるかな?」

「ええ、なんとかなります」


 あっさりとしたアリサの回答。そうか、ならすべきことは決まった。


「じゃあここは私が……」

「いえ、ここは私が頂きます」


 そう言うとアリサは眼鏡を外し、私に差し出してきた。つい受け取ってしまったけど……戦闘中に眼鏡外して大丈夫なんだろうか?

 そう訝しんでいるとアリサは可憐な――私が男だったら、間違い無く一瞬で恋に落ちるような――笑顔を残して、岩陰から飛び出した。


 そして、アリサが踏み込んだ左足が砂地を蹴ると、爆発的な砂煙が上がり……彼女の姿が一瞬で消えた。


「ちょっと、アリサっ!」


 思わず私も遮蔽物から飛び出し、アリサの後ろ姿を目で追う。銃弾の雨が降る中、砂地という悪条件を全く感じさせない足取り。

 速いっ!これがテロマーの全力なのか……!


 アリサが駆ける姿を見て、私は驚きと同時に不思議と安堵も感じていた。意図的かどうかは判らないけど、これまでアリサはあまり走り回るような動きはしていなかった。

 アリサから足の怪我が治っていると聞いてはいたけど、私は無意識にアリサがまだ走れないのだと思い込んでいた。でも……今のアリサは風よりも早く走っている。

 そっか、あの子の左足――完全に治ったんだね。


「馬鹿な……どうして当たらない!?」

「速すぎて狙いが……!」

「分隊支援火器、弾幕を張れ!横に薙ぎ払え!」


 出会った頃、視線を落とし足を引きずりながら暗い表情で街を歩いていたアリサの姿が脳裏に浮かぶ。

 だけど今、目の前にいるアリサは……敵陣をまっすぐ見つめ、銃撃の雨を軽やかに躱し、時にはブレードで弾きながら神速と呼ぶのが相応しい速度で駆けてゆく。

 自信に満ちた表情と共に。


「ブラスターの弾をを剣で弾くとか、バケモノか!?」


 そう、あの頃のアリサもバケモノと呼ばれていた。嫌悪や侮蔑の感情と共に。

 だけど今の言葉はどうだ?驚愕と畏怖――むしろアリサに対する称賛の言葉じゃないか。

 舞うように身を躱し、切り払ったブラスターの光弾がアリサの姿をスポットライトのように彩り照らし出す。


 あれは……バケモノじゃない。そう、女神ってやつだ。ただし敵方には殺戮の女神に見えるだろうけどね。


「チェックメイトですっ!」


 私がそんな事を考えているうちに、一瞬で防御フィールド内に飛び込んだアリサはレゾナンスブレードの一振りで台車に乗せられていた防御フィールドのジェネレータらしき機材を切り裂いた。

 こちらの銃撃を無効化していた薄もやが風に溶けるように消えていく。これで敵の防御は無効された。

 しかし、あの子がまさかここまでの使い手になっていたとは思わなかった。けど、私も負けてられない!



>>Alyssa


 敵の注意は全て陣中へ斬り込んだ私に向いています。残敵は21……いや、今20になりました。普通なら多勢に無勢、絶望的な状況かもしれませんが、私にとってはこの程度は苦にもなりません。

 なにせ敵中の真っ只中です。よほどの馬鹿か恐慌状態にでも陥らない限り、誤射を恐れて攻撃の手が緩むからです。それに……ほら、私の死角から狙おうとする連中なら。


「女の子相手に後ろからこっそりとか、失礼にも程があるよ!」


 アイリスさんの的確な援護射撃。彼女の支援があれば怖い物なしです。防御フィールドさえなければ、アイリスさんにとって企業の私兵ごとき単なる射的の的でしかないでしょうからね。


 そんな事を考えながら私は敵の「処理」を進めます。

 一人また一人。

 装甲を切り裂き、武器を破壊し、構えた盾を両断する。

 レゾナンスブレードの剣閃は私の思い通りの結果を引き出してくれます。正直、高いだけの玩具かと思いましたが、使えますね、これ。蒼い光で形作られたブレードも私好みですし。

 残りは6人。もう一息です。そう思った時でした。


「ええい、こうなれば手段は選んでおれん!もう一人の小娘を探せ!多少痛めつけてもかまわん、人質にし――」


 指揮官らしき男が、言ってはならない言葉を口にしました。私の頭の中で、何かが切れる音がした瞬間、敵陣の空気が一瞬で凍りつきました。


 もう一人の小娘というとトワ様の事ですよね?

 トワ様を痛めつけて人質に?

 それ、自分の死刑執行命令書に署名している事と同じなのですが。全身から殺気が湧き上がるのが自分でも判ります。

 ブレードを振るう手は止まっていましたが、既に周囲のネクスは完全に硬直していて攻撃はありません。


 目の前でショックバトンを構えていた大柄なネクス兵――有り体に言うと、次の処理対象が口から泡を吹いて崩れ落ちました。

 殺気に当てられた程度で、情けない。崩れ落ちた雑兵など興味はありません。今の私が興味を持つのは……先ほどの言葉を発した愚か者だけです。


 私は命令を発した指揮官を探すように視線を彷徨わせます。目が合ったネクスが皆小さく悲鳴を上げ、次々と戦意を失っていきます。

 意気地なし共め。その程度の覚悟で私に刃向かっていたのですか?そんな事を思いながら、辺りをねぶる様に見つめた私の視線が最後に捉えたのは、カイゼル髭のいかにも高級軍人らしい風貌の指揮官でした。

 既に残存兵力の全員が戦意を失っていますから、残りはこの愚か者のみ。


「……」


 無言の視線に込められた意思はこの愚か者にも伝わるでしょうか。

 大事な、私の命よりも大事なトワ様を傷つけると口にした事。それがたとえ言葉だけであっても許すことはできません。

 「トワ様を傷つけるつもりなら殺す」アイリスさんも言っていましたが、この点に関しては私も完全に同意です。


「……あ……いや……ちが……」

[MAXIMUM CHARGE]


 私の放つ殺気に耐えきれず、小刻みに震える指揮官が滝のような汗を流しながら譫言のように弁明しようとした時でした。

 背後から、軽い調子の電子音が聞こえてきたのは。同時に吹き付ける圧倒的な殺気。これは――!

 

 振り向いた私の目に入ったのは視界を覆うほどの朱い巨大なエネルギー弾。

 反射的にレゾナンスブレードを叩き付けましたが……手応えが重い……!?

 並のエネルギー弾なら簡単に霧散させられる筈のブレードが、エネルギー弾と拮抗しています……!


 数瞬の拮抗が永遠にも思えた後、振り抜いたブレードはエネルギー弾を爆散させました。爆風が私の髪を激しく乱し、過負荷で刀身の形成が不安定になったブレードか明滅しています。

 なんて馬鹿威力ですか!いや、それ以前に……。


「アイリス。この男は『一度目』ですよ?」


 そう、圧倒的な殺気と共に、私ごと指揮官を殺そうとしたのは、アイリス・ブースタリアその人だったのです。


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