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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
152/214

#30

>>Towa


 レイラのリハーサルは無事に終わった。とても素敵な演奏だし、投影されたルミナリーフの映像も曲にすごく合っていた。

 だからこそ、レイラの音楽を使って環境破壊をごまかそうとしているネクスとかいう企業の事が許せないと思った。もしレイラが、メナが、ネクスの意図に気付かなければ。レイラの音楽は汚され、人々と自然を傷つける道具に利用されていたかもしれないから。


 なら、止めないといけない。そう思った私は……ふと気がついた。今の私に出来ることが、何もない。

 レイラはこれから演奏を通じて人々に真実を明かすという大事な役目がある。お姉ちゃんとアリサはコンサート会場を守るために戦いに出た。なら、私は?


 私がすることは、レイラの合図に従ってこのスイッチを押すことだけだ。私にはそんなことしか出来ないんだ。


 ネクスを許せないと思った義憤が萎んでいくのを感じた。そうだ、私が何かするまでもない。頼りになるお姉ちゃんと、アリサ。それにレイラがいればいいんだ。


 舞台袖でレイラの奏でる曲を聴きながら、そんな事をぼんやりと考えていた。曲が終わるたびに盛大な拍手と歓声が上がる。

 すごいな、レイラは。これだけ多くの人を前にして、全く臆することなく演奏を続けている。ただ演奏するだけでもすごいのに、この後は重大な告発までするんだ。


 ヴェリザンで私が出会ったレイラは幼い女の子だったけど、それでも未来と夢を信じて自力で歩める強い子だった。道を誤った自分の母を説得し、改心させるほどに。

 あの時もそうだ。私に出来たのは、ただC3を調律することだけ。確かに私の『歌』はクリスタルオルガンと恒星間通信装置を修復した。でも、それは単なる修理に過ぎない。やっぱり私は――。


 と、演奏中のレイラが私の方を見て一瞬、頷いた。今が映像を切り替えるタイミングだ。

 スイッチを押す。


 ――あれ?投影されている映像が切り替わらない……?


 何度かスイッチを押すけど、反応が無い。よく見ると、スイッチに付いたマーカーが緑から赤に変わっている。たしかこれは……圏外?どうして?


 訳がわからず、ともかくレイラに向かって腕で×のサインを出し、アイリスに無線で相談しようとした。

 ……出ない。いや、このホワイトノイズは……C3通信が妨害されている?じゃあ、スイッチが効かないのも通信妨害の影響?


 そう思い当たった私は、ポケットに入れたままの予備の事を思い出した。そうだ、これを使えば……!

 ステージ上のレイラに予備メディアを掲げ、機材室を指さす。小さく頷いてくれた所をみると、意図は理解して貰えたようだ。なら、今の私の役目は……!



 機材室へ続く通路に支配人だと言っていた男がいた。退屈そうな様子で壁にもたれ掛かり、神経質そうに足を踏みならしている。

 騒ぎを起こすと人を呼ばれるかもしれない。どうする?どうしたらいい?

 レイラの演奏はすでに中盤に差し掛かっている。時間が無い。アイリス……いや、違う。私だ。私がなんとかしないと!


 ポケットに入れた手がイグナイトに触れる。そうか、これなら!

 私は蒼のイグナイトを取り出し、スイッチを入れる。


 5…4…3…2…いまだ!


 放り投げたイグナイトは空中で蒼い光を放つ。その瞬間、支配人の足が――そして全身の動きが――止まる。

 停滞(ステイシス)の効果範囲に引っかからない様に気をつけて、私は一気に支配人の目の前を走りぬけ……機材室へ飛び込んだ。


 そろそろイグナイトの効果は切れるはず。そう思った瞬間、通路に再び支配人が足を踏みならす音が聞こえてきた。

 大丈夫、気付かれてない。私は安堵の息をつき、自分がすべきことを思い出した。投影装置に刺さっている記憶媒体を抜き、予備と差し替える。


 機材室の窓から、ステージ上を覗くと……映像が切り替わっている!


 ダーククロウという地元のチンピラが子供達を無理矢理働かせ、ルミナリーフを違法採取しているシーン。

 荒らされて無残な光景を晒している海岸。

 公的な輸出量を大きく超えるルミナリーフ流通量のデータ。

 ネクスと政府関係者の癒着を示す写真。


 この星を蝕む様々な悪事の証拠がステージに投影されていく。

 これまではゆったりとした曲調だったレイラのオルガンの調べがいつの間にか変わっていた。悲しみと憤り。そして怒り。

 レイラは音楽を使って、今この星に起きていることを聴衆に知らせているんだ。



 ステージ上の映像が切り替わったことに聴衆がどよめいているのが聞こえる。どよめきの中に、不満と怒りの声が混じり始めた。

 だけど、それはレイラに対する怒りじゃない。環境保護を謳っていたネクスが陰で行っている悪事に対する不満と怒りの声だ。

 レイラの計画していた暴露が成功したんだ!


 さすがレイラ、すごい!レイラの行った偉業に私が心の中で喝采を送っていると、不意に外の廊下から声が聞こえてきた。


「おい、何事だ!何が起こってる!……なに?それはまずいぞ……。おい、本社に連絡だ!……なに?連絡が取れない?……しかたない、コンサートは中止させろ!あの女も取り押さえろ!」


 支配人が異変に気付いたようだ。近くに居たスタッフに報告を受けたのか、指示を行いながら移動する足音が遠ざかっていく。

 これで私は脱出できるけど……「あの女」ってレイラの事だよね?このままだと、レイラが危ない!


 私は機材室から飛び出し、ステージ袖へと続く通路を走る。走りながら思った。やっぱりいつものブーツを履いていて正解だった、って。



>>Alyssa


 痴女呼ばわりに我慢できず、ついつっこみを入れてしまったせいで、戦端が開かれてしまいました。

 いえ、もともとガチンコ勝負するつもりなので、それ自体は問題無いのですが……せめて、人気の無いところへ移動してから撃ち始めなさいよ、ネクスのボンクラ共!

 貴方たち、なんのために欺瞞放送をしてたんですか。せっかく私が、それに合わせた誘導を演出したというのに。

 ……まぁ、私のせいで通信傍受がバレたという説もありますが。


 暢気に色々と考えていますが、実のところは命のやり取り中です。もっとも、向こうは実弾、こちらは非殺傷モードですが。

 30人ほどのネクス私兵の半数程度は既に私とアイリスさんの手で無力化しました。


 少し不安定な様子で心配だったアイリスさんですが、さすがに戦闘が始まると落ち着きを取り戻したのか、今もブラスターでネクスを着実に射止めています。

 いえ、もちろん低威力モードなので、ネクスも死んではいませんが。


 アイリスさんがブラスターで牽制し、私が斬り込む。私の死角を狙うネクスをアイリスさんが狙撃し、崩れた隊列にまた私が斬り込む。

 これまでにもペレジスでギルドの保安部スタッフや警官隊を引き連れてマフィアやらギャングやらの討伐は何度も行ったことがあります。

 うちの保安部スタッフは優秀で私もそれなりに戦いやすいとは思っていましたが……でも、アイリスさんとのコンビネーションは別格でした。保安部よりもずっと戦いやすいです。


 まるで私が次にどう動くのかを予測しているかの様なスムーズな支援。今のところ攻撃も回避も全力で動く必要がなくて、まるで踊るかの様に攻防をこなせています。なんですか、これ。戦いが気持ち良いじゃないですか!

 私は決して戦闘狂(バトルマニア)ではないと思うのですが、でも少しだけ戦闘狂の人達の気持ちがわかった気がします。

 癖になると危ないですね、これ。


「くそ、どうなってる!?こっちの攻撃がどうして擦りもしないんだ……!」

「馬鹿、顔を出すな!後ろから射げ……ぐわっ!」

「本部、本部、敵は2名なれど強力!支援を求む!応答を、援護を!」


 最初は痴女だ小娘だと散々に言われましたが、いつの間にか強力な敵扱いになっていました。

 まぁ小娘二人に部隊が壊滅状態ですからね。これでもなお小娘呼ばわりなら、軍人失格です。

 そんな事を考えながら、自分達で施したジャミングのせいで沈黙したままの無線に必死に呼びかけていたネクスを切り伏せます。これで周囲に動く敵影は無し。どうやら残存部隊は後退を始めたようです。


 ――ふぅ。私は軽く息を吐き、残心しました。


 周囲の様子を油断なく伺いながら、アイリスさんもこちらにやってきました。


「アリサ、そのブレードすごいね」

「でしょう?高価な玩具だけありますよね」

「いや、国家予算で作ったものを玩具って」

「え?違いますよ。これはギルドから退職金代わりに貰ったやつですよ」


 正確には、退職金+慰謝料ですね。ベルンハルトが私と父にした事に対する慰謝料。国家予算の17.6%というその額が妥当なのかどうかは判りませんが。

 アイリスさんはきょとんとした表情で私の方を見ています。そういえば私、金額を聞かれて惑星国家予算換算で答えたんでしたっけ。それだと国家予算を使って私物を作ったように思われても仕方ありませんね。


「……横領とか私的流用じゃなかったんだ?」

「もしかして私、そんなことすると思われてましたか?」

「……ごめん」


 酷い話です。それじゃ私がベルンハルトの同類みたいじゃないですか。そんなことを考えていた時でした。撤退したはずのネクスが再び侵攻して来るのが見えたのは。

 引き返してくるの、随分と早くないですか?そう思って目をこらすと……。


「避けて!」


 私は思わずアイリスさんを突き飛ばす様にして近くの岩陰に飛び込みました。一瞬後、私達が立っていた場所にこれまでのブラスターやアサルトとは密度の違うエネルギー弾の雨が降り注ぎます。


「何!?」

「連中、本気になったみたいです。分隊支援火器(SAW)を持ち出してますよ」

「……見境無しだね。警備訓練とか言ってたくせに」


 私の言葉にアイリスさんは呆れたように呟きます。ええ、それは私も同意です。リゾート地に銃弾の雨とか勘弁して欲しいです。

 なにせ私はお気に入りの傘を失った所なのですから。


 身を隠している岩をエネルギー弾が叩いている事が聞こえます。ブラスターは熱エネルギーを破壊力の源としていることもあり、天然の岩石にはあまり効果が無いのでしばらく遮蔽を取ることはできそうですが……。


「アリサ、分隊支援火器(SAW)はいくつあったか判る?」

「ごめんなさい、遠目だったので……2丁あるのは間違いないですが、それ以上の可能性も」

「そっか、1丁なら狙撃でなんとかなるんだけど」

「複数だと厳しいですね。でもまぁ、隙があれば」

「隙、ね。確かに」


 私の言いたいことはアイリスさんにもすぐに伝わったようです。私のお義姉さん、察しが良いのでとても助かります。

 これだとトワ様との婚姻生活も、きっと楽になることでしょう。


「アリサ?トワはあげないからね?」


 おや、考えていた事が顔に出てしまったようです。私に釘を刺しながら、アイリスさんはパレオをめくり、健康的な太ももを露わにされました。

 もちろん、私を誘惑している訳ではありません。サイホルスターから予備カートリッジを二つとも取り外し、一つはブラスターにセット。そしてもう一つを手に握りました。


「じゃあ、私が分隊支援火器(SAW)を持ってる奴を狙うから、全部仕留めたら突撃お願いできる?」

「了解しました、アリサにお任せ下さい、お義姉さん!」

「……やる気がなくなるから、それやめてよ……」


 アイリスさんはそう言いながらも予備カートリッジを、トワ様特製の閃光手榴弾(フラッシュバン)を投擲するタイミングを伺っています。

 一瞬、銃弾の雨が途切れます。調子に乗って撃ちまくったせいで弾切れになったのかもしれません。好機です、アイリスさん!


 私がそう声を掛けるまでもなく、彼女は既に閃光手榴弾(フラッシュバン)を投擲していました。そして……5秒後。岩陰の向こうから響く轟音と、まばゆい光。タイミングを合わせてアイリスさんが岩陰から飛び出します。


「……見えた、3丁だねっ!」


 アイリスさんの事です。視認すればあとは外すことはないでしょう。これでネクスも――。

 と思ったのですが。


「あれ?効いてない!?ブラスターの弾が……かき消されてる!」


 いつも冷静なアイリスさんが少しうろたえた表情をしています。私も岩陰から身を乗り出し、アイリスさんが撃ち込むエネルギー弾の行方を目で追いますが……あっ、確かに敵陣の手前でブラスターの弾がかき消されています。


 ――これは少々面倒なことになりました。


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