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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
151/214

#29

>>Alyssa


「本部、奇襲を受けた!敵は……半裸の痴女が一人!」

「誰が痴女ですか!!」


 無線で本部に連絡しているネクスの私兵に全力でつっこみをいれながら、ジュラナイ刀で男を叩き伏せます。

 他の二人よりも打撃が多少強くなった気がしますが……まぁ、これは天誅というもの。いや、そんな事はどうでもいいのです。今の通信で、私達の存在が敵方に完全に知れてしまいました。


『どうした!アルバトロス3!応答しろ!痴女とはなんだ!』


 フォトンタブから本部の通信が聞こえます。まだ状況までは把握できていない模様。というかいちいち痴女って言わないで頂きたいです!傷つくんですからね、これでも。

 イラっとしたので、速攻で他のチームも無力化することにします。


 ――なるべく、アイリスさんには負担を掛けないようにしないといけませんしね。そう思いながら、私は次の獲物が潜む地点へ急ぎます。


 先ほどのアイリスさんは明らかに様子がおかしかったです。かつてベルンハルトを粛正した彼女にとって、殺人は初めての行いではありません。

 ですが……冷静に、管理官としての責務としてベルンハルトを粛正したあの時と違い、今回のアイリスさんは激情に駆られ感情のままザックを――。


「ぐわっ!」

「小娘が……!」

「本部、本部、敵襲だ!発砲許可を!」


 視界に入ったネクス達を叩きのめしながら、私の意識はアイリスさんの事を考えていました。

 その行動とは裏腹に、アイリスさんの顔には何の表情も浮かんでいませんでしたが、それが余計に彼女が異常であることを私に告げています。

 思い当たる可能性は、今朝の彼女のらしくない言動でしょうか?トワ様との約束を守らなかった事が過剰反応を引き起こしている?いえ――。


 視界の端にブラスターを構えるネクスの姿。考え事は一時おあずけです。距離がある……発砲される前に叩き伏せるのは……無理ですね。なら!


「ば、馬鹿な……ブラスターの弾を……打ち落とした……?」


 発砲にタイミングを合わせ、振り抜いたジュラナイ刀は見事にエネルギー弾を切り払いました。ですが……。


「ああっ!私の、私の日傘が……!!」


 なんということでしょう。エネルギー弾のせいでジュラナイ刀が溶けています。そして、カバーが融解する温度ということは、その内側にある日傘も……!


「はは……ははは……バケモノめ!だが、武器が無くなればこっちのものだ!」


バケモノと呼ばれるのはずいぶんと久しぶりですね。まぁ、今回は褒め言葉と受け取っておきましょうか。

 ですが、私が武器を無くした?何を言っているのでしょうか、この人は。いえ、その前に。


「これ、裏通りの工房でジュゼットさんが造ってくれた手作りの日傘なんですよ!?もう手に入らないのに……どうしてくれるんですか!」

「何を言ってるんだ……いや、どうでもいい、ここで仕留めないと!」


 私は苦情を口にしますが、日傘を壊した罪深きネクスは譫言でも言うように呟きながら再びブラスターを構えます。

 仕方ありません。傘のことは諦めましょう。

 私は名残惜しく思いながら焼け落ちた日傘部分をそっと取り外し、グリップだけになったジュラナイ刀を構えると大きく息を吸い込みました。そして――


「Blade of the storm, to my voice give heed,」

(青嵐の刃よ、我が声に応えよ)

 「――Resonance blade, my path thou shalt lead!」

 (――共鳴の刃よ、我が道を開け!)


 私が高らかに唱えたのは起動歌。私の声紋とシンガー能力に反応し、眠れる刃を目覚めさせるための起動トリガーです。


 歌声に蒼のC3が応え、辺りに青白い光の粒子が漂います。共鳴波を伴いながら、その粒子は私の握るグリップに集い……そして青白い光の刃が形成されました。

 穏やかな蒼の光と裏腹に、荒れ狂う力を秘めた共鳴の刃。これが私のレゾナンスブレードの真の姿です!


「何だよ……何だよ、それ……!くそぉぉ!!!」


 私の握る光の刃を目にしたネクスは泣き笑いの様な表情を浮かべ……立て続けに発砲しました。


 ですが、そのエネルギー弾は全て……蒼の刃に切り払われ、霧散します。


 立て続けにブラスターの攻撃が無効化されたことで目を見開いたまま硬直するネクスに駆け寄った私の一閃が彼を斬り捨て……るとまずいので、ショックモードに切り替えてそのまま薙ぎ払いました。

 共鳴波を叩き込まれ、一瞬体を跳ねさせたネクスはそのまま仰向けに倒れました。日傘の恨みがあるのでとどめを刺したいところですが……まぁ今回は見逃してあげましょう。

 ただ、意趣返しも兼ねて手に持ったブラスターだけは破壊しておきますが。


 さぁ、急がないと。アイリスさんの負担を少しでも軽くするために、残りのチームは私が引き受けなければ。次の獲物を目指し、私は駆け出しました。

 焼け落ちた日傘の残骸も、忘れずに回収して。



>>Iris


 徒手空拳で戦う私と違い、武器を持ったアリサはさすがに強い。私が2チーム目のネクスを無力化し終える前に、アリサが駆けつけてくれた。これがテロマー(天然物)セレスティエル(模造品)の実力差というやつか。


 ……いや、違う。私は……自分の力に怯えているせいで、全力で戦えていなかった。自分の意思に反して相手を殺してしまう事を恐れ、無意識のうちに力をセーブしていた。繰り出す攻撃は自分でも精彩を欠いている事がわかっていた。


 結果として負傷こそしなかったけど、発砲許可の出たネクスがブラスターを抜いたときには、一瞬ひやりとした。

 横合いから飛び込んできたアリサが振るう光の刃が少し遅ければ、撃たれていたかもしれない。もちろん私だって、ブラスターは持っているし、抜き打ちの速度で並の兵士に負ける気はしない。

 だけど、自分の中の理性がブラスターを抜くことを拒否していた。


「大丈夫ですか?少し休まれては?」

「ごめん、助かったよ。でも、まだ大丈夫」


 アリサの言葉に笑顔で返す。セレスティエルになったせいで持久力も上がっている。少々の格闘では息も上がっていないけど……でも、精神的なものはどうしようもない。


『どうした、応答しろアルバトロス1、どうなっている!くそ……バッカス1より本部へ。想定外の事態が発生。現地協力者の動きがない。先遣隊からも応答が無くなった。指示を求む』

『……こちら本部、バッカツス1。プランCへ作戦変更。突入の準備を始めろ』


 どうやらゆっくりと内省している時間はもらえないようだ。既に敵は発砲許可を出している。

 次は……初手からブラスターの弾が飛んでくるだろう。迷いは自分の、アリサの……そしてトワの危険に繋がる。


 そうだ。私が恐れているのは私が得た力そのものじゃない。この力はトワを守るために活かすことが出来るギフトだ。私が恐れているのは……その(ギフト)がもたらす結果だ。なら力を私が制御すれば……制御することができれば。

 そのためにも、私は覚悟を決めるしかない。


「アリサ、次は私も本気を出すよ。どちらが多く倒せるか勝負しよ?」

「無理、しなくていいですよ?」

「……ちょっとだけ、無理させてよ。いつまでもこのままじゃ……トワを守れないから」

「私がフォワード。アイリスさんはバックス。それでいいなら」

「わかった。ありがとうね、アリサ。愛してるよ」

「それは、トワ様に言われたい台詞なので、遠慮させて頂きます」


 そう言って私達は軽く笑い合い、ネクスの本隊がいるであろうビーチ沿いへと急いだ。



 私達が軌道エレベータ地上駅からリゾート施設へ向かう観光通りへたどり着いた時にはすでにネクスの行軍は始まっていた。

 ブラスターやアサルトを手にした物々しい一団の姿に、通り沿いの店へ避難した観光客や店員達が何事かと様子をうかがっている。

 意外にも観光客達の目に不安げな様子はない。むしろ興味津々と言った様子で……ネクスの行軍に携帯端末を向けて撮影している姿も見受けられる。

 これは、どういう状況だろうか?


『ミラジェミナβをご訪問中の皆さん、ご安心下さい。我々はネクサス・ダイナミクス社の保安部門です。ただ今周辺警備の訓練行動を行っております。ご迷惑をおかけしますが、安全確保のためしばらくの間、屋内で待機願います』


 まるで私の疑問に答える様に、観光通りの街頭ホロビジョンからネクスが流しているとおぼしきアナウンスが聞こえてきた。

 なるほど、表だって行軍するのはまずいと考えて欺瞞工作を行っているのか。それも、ミラジェミナβの公共インフラを使って。


 既に観光客が屋内に留まっているところを見ると、何度もアナウンスは行われていて、公共インフラを通じた告知であるが故に一定の信用もされているのだろう。

 ずいぶんと手回しのいいことだ。


 私達としてはネクスが軍事行動を行う所を衆目に晒した方が目的は達成しやすい。しかし、その為に無関係な人達を危険にさらす訳にもいかない。

 となると、ここで戦うのはまずい。どうするか……。そう思っていると、アリサが観光通りの中央に飛び出して声を上げた。


「ネクスの雇われ兵隊の皆さん、お探しの敵はここにいますわよ!ほら、掛かってらっしゃい!」


 アリサの声に、先頭を進んでいたネクスが反射的に銃を構えた。周辺の建物から様子をうかがっていた観光客や住民達の支線も自然とアリサに集中する。

 あの子、今自分がどういう格好をしてるかわかってるのかな……。

 そんな事を考えていると、ネクスの通信がフォトンタブに飛び込んできた。声の主は見えないということは、後列に通信兵がいるのだろうか?


『本部、敵を名乗る女と遭遇……まて、あれは先ほど報告にあった半裸の痴女だ!』

「だから誰が痴女ですか!!」

『!! 本部、通信を傍受されている!無線封鎖とジャミングを!――』

「……しくじりました」


 アリサが無線の内容につっこみを入れたせいで、私達がネクスの通信を傍受していることがバレてしまった!?そして、私達が本当に「敵」であると認識された。

 フォトンタブから聞こえていた通信音声は途絶え、代わりにホワイトノイズが流れ出す。既にネクス本隊と会敵した状況を考えれば通信を傍受できないこと自体はさして問題はないが、ジャミングはまずい。トワとも連絡が付かなくなる。

 そう考えた瞬間、焦りと共に朱色のもやが視界を覆い始める。ダメだ、飲まれるな!


「アイリスさん、ごめんなさい」

「いいよ、別に。ほら、来るよアリサ!」


 人目をはばからずに射撃を始めたネクス。これが訓練ではない事を察知して急に慌て始める観光客達。店員も慌てて店の戸締まりを始めている。


『――ただ今周辺警備の訓練行動を行っております。ご迷惑をおかけしますが――』


 欺瞞アナウンスが流れ続ける中、観光通りからネクスを海岸線へ誘導するべく、私とアリサは走る。

 風を切って走れば、視界を覆う朱いもやが振り払えるんじゃないかと思いながら。


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