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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
146/212

#24

>>Alyssa


 トワ様への状況説明と、隠し事をしていた謝罪を手短に済ませ、今日の行動についてはレイラに説明を託した私は足早にアイリスさんを追いました。

 行き先は判りませんが……トワ様がアイリスさんはルミナリーフの群生地へ行ったはずだとと言われたのでそれを信じることにしました。


 アイリスさんは何でもない様子を装って出て行かれましたが……あれ、どうみてもダメなやつじゃないですか。あのアイリスさんがあんな絶望した表情を浮かべるの、初めて見ましたよ。

 私には判りませんが、きっとお二人の間で「約束」というのはとても重い意味を持つものだったのでしょう。

 そして、それを自分が見失っていた。真面目なアイリスさんの事です。たぶん、忘れていたとか、気にしていなかったとかではなく。「意識を向けることが出来なかった」のではないかと思いました。


 思い当たる理由は……たぶん、彼女が造られた存在であるということ。

 セレスティエルという存在については判らないことばかりです。ですから、本人が意識できない変化がアイリスさんに生じていたとしてもおかしくはありません。そして聡い彼女が……自らの変化に気付いたとしたら、どう思うか。


「お義姉さんですのに、世話の焼ける妹みたいですね……」


 思わず口に出してしまいました。私は普段トワ様に寄り添う目線なので、アイリスさんの事は姉として認識していますが、年齢的には私の方が姉……いえ、曾祖母……いえいえ、やっぱり姉ぐらいの年齢ですからね。


 そんな事を考えつつ、周囲の目から見て怪しまれない程度の速度でルミナリーフの群生地を目指していると、引き返してきアイリスさんの姿を見つけました。

 あ……ダメですね、あれは。死相とまでは言いませんが、苦悩を隠し切れていない表情です。どうしたものでしょうか。対応に悩みつつも、声を掛けます。


「アイリスさん!」

「……アリサ?どうしてここが……」

「トワ様に聞きました。たぶんこちらだと。さすが姉妹ですね、正解でした」


 軽めのファーストコンタクトにしてみました。トワ様の名前を聞いてアイリスさんは一瞬辛そうな顔をされましたが、すぐにいつもの笑みを浮かべました。

 これは……無理してますね、相当。でも、彼女がそう取り繕いたいのなら、無理に仮面を剥がすこともないでしょう。私の知るアイリス・ブースタリアという少女は、とても強い人間です。

 苦難も困難も、自力で乗り越えられるぐらいに。そう信じていますから。


「ごめんね、心配掛けた」

「ホントですよ。迷子になってコンサートに間に合わなかったら、レイラが泣きますよ?」

「いや、私がいなくても気にしないでしょ、あの子」


 そんな軽口を叩きながら、コテージへの帰路を急ぎます。このまま平穏無事に……と思いましたが、そうはいかなかったようです。前方でなにやらもめ事の気配が……。



「なぁ、付き合えよヒナ。どうせ上の連中ともよろしくやってるんだろ?」

「地元を裏切って出て行ったんだ、少しぐらい貢献しろよ、地元によ!」

「やめてよ!ワタシ、行かないと」

「いいからオレたちと来いよ、昼の仕事まで暇なんだよ」

「そうだぜ、イイコトして遊ぼうぜ?お前、好きだろ?そういうの」


 はぁ、リゾート名物のナンパ野郎……というより、あれは地元のチンピラですね。大の男が二人がかりで……後ろ姿なので良くわかりませんが、健康そうな褐色の肌と衣装を見る限りでは現地の娘さんらしき少女の腕を掴んで押し問答、いえ拉致未遂をしています。

 私はこんな事もあろうかと思って持ってきていたジュラナイ刀を手に、アイリスさんに視線を送ります。


「今、あんまり派手に動かない方がいい気もするけど?」

「でも、可愛い女の子を野獣の手に渡すのはよろしくないことでは?トワ様が知ったら悲しまれますよ?」

「それ、卑怯だよ、アリサ。手助けせざるを得なくなるじゃない」


 ええ、もちろん共犯になって頂くためにトワ様の名前を出しました。悩み事がある時は体を動かして発散するのも一つの手ですからね。

 チンピラ君達には悪いですが、ストレス発散の相手になってもらいましょう。


「はい、そこまでです!」

「あん?……おっ、いい女じゃねえか……」

「おい、ヒナよりもこっちの方がそそるよな?」

「ああ、そうだな。姉ちゃん達、俺らと遊んでくれるのか?」


 私の言葉に振り返った男達は下卑た顔でそうのたまいます。どうしてこういう男共の反応はいつもこうなのでしょうね。虫唾が走ります。

 でもまぁ、遊んでくれというなら遊んであげましょうか。


「ええ、いいですよ。遊んで差し上げます。お代はあなた方の命で結構です」

「アリサ、殺しちゃだめだよ?」

「なるべく自重します」


 そう言うと、私達はヒナと呼ばれていた女の子を挟んで、私は右、アイリスさんは左。それぞれの獲物に襲いかかります。

 ジュラナイ刀を手に狙う初撃は肩。まずその汚い手を離してもらう必要がありますからね。


「ぐあっ!?」


 振り下ろした太刀筋を返して次は首を落と……すのは禁じ手でした。つい首筋を狙って振り抜きそうになったジュラナイ刀を軽く回して脇腹へ打ち込みます。

 一応、峰打ちにしておきましたが、あばらの何本かは折れたかもしれませんね。私との「お遊び」は高く付くのです。


「はい、おしまいです。楽しかったですか、お遊びは?」

「うぐっ……!」


 返事代わりのうめき声は、きっと楽しかったということなのでしょう。

 ヒナさんを挟んだ反対側ではアイリスさんがチンピラの腕を掴んで捻りあげています。あ、そこから流れるような動きで投げ飛ばしましたね。少しはストレス発散になっていればいいのですが。

 見ていて惚れ惚れする動きでしたが、でもアイリスさん、ワンピース姿で投げ技をきめると裾がめくれ上がって少々はしたないですよ?


「じゃ、アリサ。いこうか」

「そうですね、ではヒナさんでしたっけ。お達者で」

「あの、有り難うございま……あれ?も、もしかして」

「はい?」


 軽く挨拶して立ち去ろうとした私達に礼を言いかけたヒナさんは、私の顔を見て何か言いたそうにしています。

 あれ?そういえば私も彼女の顔に見覚えがあるような、無いような……。


「あの、管理官様……ですよね?」

「……ええ、はい。支部長の職責は放棄しましたけど」


 何を言ってるんでしょうか、私は。いや、それより彼女の事です。私を管理官と呼ぶということは……彼女もギルドの人間?そう考えた瞬間、どこで彼女を見かけたのか思い出しました。


「ああ、そういえばステーションの支部でお会いしましたか?」

「はい!覚えて頂いていて光栄です、シノノメ管理官様!」


 やはりそうでしたか。あの腐った支部で申し訳無さそうな顔をしていた職員の女の子。

 ぱっと見で判らなかったのは、今の彼女がこの星の民族衣装とおぼしき軽やかな服装だからなのかもしれません。ギルドの制服とはずいぶん印象が違いますからね。

 ですが支部で管理官だと名乗らなかった私の名前と立場を知っていると言うことは……。


「アリサ、知り合い?」

「知り合いというか、顔見知り……ですかね」

「あの、管理官様、そちらの方は……」

「彼女はアイリスさん。私の友人で、彼女も管理官です。それも史上最年少の二等管理官ですよ」

「アリサ、余計なこと言わないでよ……それに私、今除籍中の身なんだから」


 ヒナさんが身内だと思うと、なんとなくアイリスさんの事を自慢したくなったのです。私のお義姉さんはすごいんだぞ、と。


「えっ……最年少の二等管理官……アイリス?……まさか『英雄アイリス』様……?」


 彼女の言葉に私とアイリスさんは目を見合わせました。確かに最年少管理官の記録はまだ破られていないので、ヒナさんがギルドネット経由でアイリスさんの事を知っていても不思議ではありません。

 ですが、ヒナさんは「英雄アイリス」と言いました。これはギルドネットには記されていない「ある個人による崇拝」の言葉です。先ほどの私の名を知っていたことと併せて考えれば、これが意味することは……。


「もしかしてですが、ヒナさん。あなたはメナ・クロウリーの協力者ですか?」

「えっ……どうして、それを……?」


 やはりそうでしたか。隣でアイリスさんが頭を抱えていますが、まぁ面倒な悩み事よりこういう気楽な悩みの方がましですからね。

 私だって、永遠の(エターナル)なんちゃらでは弄られましたし、おかえしです。


 それにしても、少し気になるのはヒナさんの反応です。おそらく彼女はギルドの一般職員でしょうから、ギルドの上役……特に高位幹部である二等管理官に対して少々距離感があるのは理解できます。

 なにせ、一般職員から見た二等管理官って、天上人のノリですからね。


 でも、それを差し引いてもなお……彼女の態度には恐怖というか、怯えのようなものが見え隠れしているように見えます。

 「協力者」と言えば聞こえはいいですが、実体としては「内通者」に近いであろうことと関係しているのでしょうか。私はヒナさんの手を取って確認を試みます。


「ヒナさん、今回は協力頂いてありがとうございます」

「いえ、そんな、恐れ多いです……」


 ……不安、恐怖。そして……微かな怒り。これは私達に対する感情と言うより、私とアイリスさんが代表しているギルドに対する感情でしょうか?

 この感情を理解しない限り、私は彼女を完全に信用することが出来ないと感じました。


「ゴミが散らばっているここでお話しするのもなんですし、私達のコテージにこられませんか?」

「ゴミ……ああ、ダーククロウの……」

「何、この連中もダーククロウなの?」


 アイリスさんが胡乱な目で倒れているチンピラを見つめています。あら、やぱり始末しておいた方が良かったのでは?


「あの、ワタシ……管理官様とレイラ様にお話があって、βへ降りてきました。レイラ様もおられるなら、お邪魔してよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです」


 怒りはそのまま、不安が和らいで希望の色が浮かびます。つまりヒナはレイラとメナに何かを期待している。そういうことでしょうか。私は怪しまれないようにヒナの手を離しました。

 そして彼女を伴って3人でコテージへもどった私達を出迎えたトワ様は――。



「アリサ、美人を連れ込み?」

「ちがいます!いえ、連れ込んでますけど!」


 そんな事を言われました。あれ、でもこの感じはどこかで……。

 ああ、そうです。私もトワ様に救って頂き、部屋へ「連れ込んで」頂いたことがありました。それは私の人生の転機でしたから、もしかしたらこれがヒナさんの転機になるのかもしれませんね。


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