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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
144/212

#22

 その後、和やかな雰囲気のまま夕食と、その後の女子会で夜が更けてゆきました。レイラは禁酒したらしく、今日は大人しくソフトドリンクを飲んでいるようです。これなら「酔った勢い」で押し倒されることもなさそうですね。


「アリサ、それだけ飲んでるのに酔わないの?」

「私、お酒に酔うことって無いんですよ。美味しくは頂けますけど」

「なにそれ、ずるい!」

「いえ、ずるいと言われても体質ですから……」


 たぶん、体質というよりもテロマーだからだと思いますが。昨日アルコールを口にしていたアイリスさんも全く酔わなかったと言っていましたので、きっと私達がもつ状態異常耐性の一種なのだと思います。

 ともあれ、大量のスイーツとおつまみを消費し、今日のパーティはお開きになりました。さぁ、次はお風呂です!今日こそトワ様と入浴を……!

 そう思ったのですが、トワ様の姿がありません。


「出た」

「トワ、一人だとホントに早いよね……」

「いつものこと」

「えっ……ちょっと待ってください、トワ様、その格好……まさか」


 アイリスさんと言葉を交わすトワ様は裸体にバスタオルを巻いておられます。それって、つまり……。


「お風呂入った」

「どうして?どうして一人で入るのですか!?私がどれだけ入浴を楽しみにしていたか!」

「じゃあアリサ、私と入ろ?」

「何を言ってるのですかレイラ!そんな、破廉恥な!」

「ねぇアリサ、直前に言ったことと矛盾してる気がするけど」


 アイリスさんが何か言っていますが、私の信念はぶれません。トワ様と入浴することは必然にして神聖な行い。それ以外の相手との入浴は破廉恥な行為です!


「あー、大体考えてることは判ったけど。レイラ、泣いてないで先に入っておいで」

「アリサの馬鹿!」


 ……あら、泣かせてしまいました。そんな気は無かったのですが……あとでちゃんと謝っておかないと。


「ね、アリサ。本当は判ってるんでしょ?」

「……なんの、ことですか?」

「……そう?じゃあ、別に私から言うことはないけど。でも、あんまりレイラを泣かせないでね?あの子も私とトワの大事な友達なんだから」

「わかってます。でも……どう転んでも最後には泣かせてしまうので……。ままなりません」

「ごめん、そっち方面は私にもよくわからないよ」

「アリサ?レイラに優しくしてあげて」


 トワ様に真っ直ぐ見つめられましたが、私は肯定の返事を返すことができませんでした。


 しばらくして風呂から上がったレイラに謝ろうとしましたが、軽くスルーされてしまいました。ちょっと思っていた反応とは違いますね……。

 こんな時、恋愛経験値の高い人に相談できれば良いのですが、いかんせんこの場に居るのは恋愛初心者ばかり。このあとメナと通信するのですが……さすがに娘が同席している場所で、母親に娘との恋愛相談をする訳にもいきません。

 親子参観のような恋愛相談の様子を脳内で想像し、あまりのシュールさに頭痛を感じながら、私も手早く入浴を済ませました。


 そして寝室。レイラの端末を使ってメナさんと連絡を取ります。レイラは……先ほどの涙が嘘の様に普段通りです。


『こんばんは、アリサさん。何か判ったことは?』

「映像資料を送ります。データ送信中に少し報告を」

『受信開始を確認。それで、報告とは?』

「すみません、私の不手際でこちらの存在を相手方に察知されました」

『ああ、それで……。こちらでも動きがありました』


 予想外の言葉が返ってきました。既にαにも報告が行き、そして対応が始まっている?思ったよりも相手は大がかりで手際が良いのかもしれません。


「では先にこちらの報告を。違法採取現場での強制労働を確認。子供も働かされています。あとは、おそらくα側の人間とおぼしき武装した人員が数名。企業の私兵かマフィアだと思います。詳しくは映像で」

『了解しました。ではこちらの調査結果ですが……真っ黒だったわ。ルミナリーフというキーワードを得られたおかげで調査が一気に進展しました。まず――』


 そう言ってメナがあげた情報は頭が痛くなる様な不正のオンパレードでした。まず昨日名前が挙がっていたネクスという複合企業を中心とした政財界を巻き込んだルミナリーフ密輸に関わる取引の情報。

 α内でのルミナリーフ販売量や星外への輸出量が明らかに規制量を超えているそうです。


 さらにはβへの環境保護予算が横領されている形跡も見受けられるとの事。それだけでなく乱獲や強制労働に関するβ側からの申し立てが企業によって握りつぶされた形跡まであるそうです。


 そしてα側の動きは……どうやら私のヘマのせいで、明日のチャリティコンサートにタイミングを合わせてネクスの私兵が派遣される動きがあるようです。

 向こうの認識では現地住民による開発反対のデモや抗議活動が発生することを想定しているらしく、その鎮圧を行う部隊が編成されているとのこと。相手が企業私兵、それも部隊規模となると、少々やっかいかもしれません。


『――今の時点で判ったのはそれぐらい。大半は証拠も手に入っています』

「こんな短時間で良くそこまで調査できましたね?メナ・クロウリーの名は伊達では無いということですか?」

『そうです、と言いたいところですが……こちらも何名か協力者を得られました』

「協力者、ですか?」

『ええ、幸いな事にこの星は腐りきっては居なかった、と言えば判るかしら』

「内部告発者、ですか」

『ええ。もっとも、告発者達がコンタクトを決意してくれたのは、私の名声とやらのおかげだそうですけど』

「なら、誇ってもいいんじゃないですか?」

『私は英雄にはなれないから』


 私の言葉に、映像の中でメナは肩をすくめて見せました。英雄……つまり、アイリスさんの事ですね。私はメナにアイリスさんの生存を伝えたくなりましたが、まぁここは我慢です。仕事を終えた後のご褒美として取っておきましょう。


『映像データの受信を確認。あら、これ……。間違いない、この連中はネクスの軍事部門の装備そのままだわ。お仕着せの制服に、標準支給の武装……資料にあったとおり。隠す気皆無じゃない、これじゃ』

「敵対組織の偽旗作戦という可能性は?」


 私の言葉に映像のメナが一瞬、目を細めました。ええ、言いたいことはわかります。でも、私もこういう場数は踏んでいるんです。


『シノノメ評議員……』

「アリサ、と呼んでください」

『アリサさん、貴女は何者?いえ、確か永遠の(エターナル)――』

「それは止めてください」


 まさかメナの口からその忌まわしい二つ名が出るなんて。止めてください。いや本当に。


「ただの、趣味で犯罪組織を潰して回ってる普通の女の子、ですよ。私は」

『そんな女の子、私は一人しか知りませんけど』

「一人いるのであれば、二人いてもおかしくはないでしょう?」

『ふふふ……貴女みたいな人が沢山いたら、銀河はもっと住みやすい所になっているでしょうね』

「そこまでは面倒見られませんよ」


 まぁ、趣味と言うよりも子供達を守るための責務としてやっていたのですが、そんな事を口にするほど私は思い上がった人間ではありません。

 ともあれ、必要な情報は交換できたのであとは明日の手はずです。レイラの方を振り返ると彼女はうつむいたまま何かを呟いていました。


「……今はダメ。全て終わってから……」

『レイラ?』

「あ、はい。ママ、大丈夫よ」

『そう?明日の手はずだけど――』


 メナの声に我に返ったのか、通信を始めたレイラに席を譲ります。……無理してますよね、やっぱり。罪悪感を感じますが、今の私にはどうすることも出来ません。永遠(エターナル)であるがゆえに。


 その後、メナが明朝までに暴露映像をとりまとめてくれる事になり、私達はいったん休むことになりました。


 ベットに入った後、レイラがすすり泣く声が聞こえてきます。慰めてあげたいのですが、涙の原因が私だとわかっているだけに、声を掛けることも出来ません。

 私、何をやっているんでしょうか。敬愛している音楽家を――いえ、一人の女の子を泣かせるなんて。忸怩たる思いのまま、夜は更けてゆきます。


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