#21
>>Alyssa
一人コテージを出た私は昨日の展望台を目指しました。もちろん風景を眺めるためです。といっても綺麗な海ではなく、薄汚い連中がうごめく入り江の方ですけどね。
遠目なのであまり細かいところまでは見えませんが、昨日同様何かの作業が行われています。毎日ご苦労なことですが、でも私、怠惰な悪党より勤勉な悪党の方が好きです。
だって、怠惰な連中だと証拠を掴むのに時間が掛かりますからね。その点、ここの連中は毎日勤勉に悪事に精を出してくれているので、証拠集めが楽で助かります。
そんな事を考えながら、昨日と同じ地元の露店通りへ。顔なじみになったトーマスさんが今日も店を出しておられたので、挨拶した上でルミナップルの取り置きをお願いしておきました。
連日の訪問にトーマスさんは驚いた様子でしたが、私のお願いに快く応じてくださいました。
通りの先、エマさんのお店は……今日は閉店のようです。まぁ、結構商品を壊されてましたからね。
なんとかというあのチンピラの手持ちでは大した補償にはならなかったと思うのですが、あまり派手な手助けをする訳にもいきませんし。悪党を成敗することで納得して頂くしかありません。
そして、今日の本命……入り江の近くまでやってきました。展望台から見た限りでは周囲一帯に見張りが配置されているようすでしたので、少し離れた高台から様子をうかがいます。
でも、ここからだと下の様子が見にくいですね。辺りを見回すと、木の陰に少し張り出した部分があるようなのでそちらに移動してみました。
後ろが細い一本道のようになっているので退路が限定されるのはやや気がかりですが、下の様子は良く窺えます。
「おら、さっさと働け!サボってるんじゃねぇぞ!」
ああ、粗野な声まで聞こえてきます。どうしてああいう連中は知性の欠片も無いようなテンプレートな台詞ばかり口にするのでしょうか。ペレジスで討伐した悪党にも、同じ台詞を吐いていた連中が3組ぐらいいた気がします。
もしかしたら私の知らない界隈で「良くわかる悪党名台詞集」とかが販売されているのでしょうか。そんなくだらないことを考えながら、私はフォトンタブを起動し、違法採取の証拠となる動画の撮影を開始しました。
しばらく録画しながら様子を見ているうちに判ったことがあります。まず、昨日のダークなんとかという連中以外にも別の組織らしき人間が複数。明らかに見た目が違います。
ダークなんとかは見るからに地元のチンピラ風で持っている武器も農具や漁具の類いですが、もうひとつのグループはきっちりとした服装に銃火器を持っています。
あの見た目、統制のとれたあの空気感。覚えがあります。あの連中は企業の私兵かマフィアの類いか。いずれにせよここ、ミラジェミナβに根付いた人間ではありませんね。
私はふと、天上を見上げました。そこに浮かぶのはミラジェミナα。経済の発達した、二重惑星の主星。そう、この連中はおそらく……あそこから来ているのでしょう。
そしてもう一つのグループ。先ほど怒声を浴びせられていたのは、おそらく地域の普通の人達。
脅されて強制労働でもさせられているのでしょうか。実際にルミナリーフを採取しているのはその人達です。とても辛そうな表情を浮かべているのが、ここからでも判ります。
あの人達にとってルミナリーフがどういう存在なのかは判りませんが、環境を破壊する行いが彼らを悲しませていることは間違いないでしょう。
「おら、そこ!サボるなって言ってるだろうが!」
また怒声です。いい加減イラっとする気持ちが抑えられません。ただ、ここで暴れても根本的な解決にはなりません。
特にαの連中がいることが判った以上は、現場でいくら小物を押さえても意味はありませんから。根本的な解決には……やはりレイラの提案した手段を使うのが最適です。
そんな事を思いながら録画を続けていた私は、ある事に気がつきました。物陰に隠れていてこれまで見えなかったのですが、働かされている現地民のグループの中に、小柄な人影が複数混じっています。
――あれは、子供達?
それも、自主的に働いている様にはとても見えません。あの連中、子供達にまで強制労働させているのですか!?
故郷で私の事をママと呼んでくれていた孤児達の顔が脳裏に浮かびます。あの子達も、一歩間違えればこんな目に遭っていた可能性がありました。
そんな許されざる未来を防ぐため、私は故郷でいかがわしい組織を潰して回っていたのですが……。
今、目の前で理不尽な目にあっている子供達を、私は助けたいと強く思いました。
どうする、アリサ?リスクは承知で斬り込む?
確かにあの程度の人数なら容易に斬り捨てることは出来るでしょう。でも、そんな事をしたら本命の方が全て台無しになってしまいます。逡巡と焦り、そして苛立ち。傘に偽装したブレードを握る手に力が入ります。
「おい、そこに誰かいるのか?」
――しまった!下の光景に気を取られていて、高台の方に見張りがやってきた事に気付くのが遅れてしまいました。
残念ですが、今回はここまでのようです。幸い、見張りはまだ私の存在を疑っている段階のようです。ならば、姿を認識される前に――片付けます。
「おい、なんと……がっ」
一瞬で間合いを詰め、すれ違いざまに傘カバー……と言うことになっている刀の鞘で見張りの後頭部に狙い澄ました一撃を打ち据えます。
むろん峰打ちで、命までは奪いません。少なくとも今はまだ。ですが、子供達にしていることの報いは……必ず受けさせます。
私の一撃は狙い過たず敵の意識を刈り取りました。虚ろな目で横倒しに倒れた見張りの男が息をしている事を確認し、私は急いでその場を離れます。
……むろん、帰り際にトーマスさんからルミナップルを買うのは忘れませんよ?あと、トワ様のための食材もしっかりと購入しました。
ええ、たとえ逃走中でもこういうときは平然としている方が怪しまれないものなのですから。
などと平静を装っていますが、心の中では先ほどの子供達の姿に腸が煮えくりかえっていました。ここが故郷の星で私が権力を握ってるのなら、あんな連中は……。
いえ、そんな事を考えても仕方ありませんね。せっかくのルミナップルを一つ、怒りのあまり握りつぶしてしまった私は、反省しながらコテージへと戻りました。
コテージには既にトワ様達が戻っておられました。見たところ、トワ様の機嫌がすこぶる良いようでしたので、きっとリハーサルは楽しいものだったのでしょう。ですが、私は忸怩たる思いでアイリスさんに小声で報告を行いました。
「申し訳ありません。下手をうちました」
「……どうしたの?」
「ここではちょっと」
トワ様はレイラと歓談中ですが、セレスティエルの聴覚だと聞き取られる可能性もあります。どうしたものかと考えていたのですが……。
「アリサ、あなた服が汚れてるじゃない」
「あ……実は果実を潰してしまいまして」
「早く着替えないと、シミが取れなくなるよ?ほら、服を選ぶの手伝ってあげるから」
「ありがとうございます、アイリスさん」
ちょっと苦しい言い訳ですか?いえ、私、確かに水着を選ぶのには手間取りましたけど、一人で服を選べない程子供でもないのですが。……ともあれ、この口実でアイリスさんと2人、寝室へと入りました。
「ちょっと苦しかったかな」
「まぁ、仕方在りません。では着替えながらで失礼しますが、報告したいことが――」
私は違法採取の現場で、地元の人間ではない、おそらくαから来たであろう連中を見かけたことを報告しました。また強制労働させられているらしい地元民がいること、そしてその中には子供が交じっていた事も。
そして……
「すみません、子供に気を取られていて、見張りに察知されました。姿は見られていないはずですが、探っている人間がいる事は気取られてしまったと思います」
「そっか、でもアリサが無事で良かったよ。明日、たぶん妨害が入るだろうね」
「可能性は高いですね……本当に申し訳ないです。こんなへま、ここ何十年かした事なかったのですが」
「いや、そんなに頻繁にこういうことしてたの?」
「はい、割と趣味みたいな感じで犯罪組織を潰していましたから」
「さすが永遠の女帝だね」
「いや、それ関係ありませんから!」
そんな事を話していると、寝室のドアがノックされました。返事をすると、扉を開けてトワ様が顔を覗かせました。ちょこんと覗いたお顔がプリティです。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。アリサが私の選ぶ服が嫌だって駄々こねてただけ」
「アリサ、アイリスを困らせないで?」
「あ……はい……ごめん……なさい」
なんですか、この濡れ衣。私、泣いてもいいですか?
いや、でもここで報告する必要が生じたのは私の油断が招いた事ですから、これは正当な罰なのかもしれません。甘んじて受けましょう、この云われなき批判。




