#19
>>Alyssa
全くもって腑に落ちません。どうして悩みに悩んでチョイスした水着を全員揃って痴女認定されるのでしょうか?
もちろん私だって羞恥心というものはあります。実際、今だってかなり恥ずかしい思いをしているんです。それでも、トワ様のために……そう思っていたのに。
「アリサ、少し離れて」
私の視線を受けたトワ様はいつも通り感情の籠もらない声でそう言われました。トワ様、酷すぎませんか?少し肩を落としながら歩いていると、ビーチ周辺の観光客の視線がこちらに集中していることに気付きました。
ああ、きっと皆さんトワ様の愛らしさに釘付けになっているのですね。不躾な目でトワ様の姿を見ることは本来であれば許し難い行為ですが、こちらに向けれている視線の多くは羨望の眼差しであるように思えました。それなら……まぁ、トワ様のお姿を見ることを許可することもやぶさかではありません。
私がそんな事を考えていると、周囲の会話が耳に入ってきました。
「な、あの子やばくね?」
「ああ、マジやばい。声かけたい……」
「やめとけ、お前じゃ相手にもされねぇって」
「いや、でも拒否されるだけでもご褒美じゃん」
ええ、そうでしょうとも。トワ様への声かけが許されるのはごく一部のセレブリティだけです。そのあたりの男が声を掛けるなど、許される筈もありませんからね。
私が事前に書類審査して、面接を経て合格を出した人間以外は会話することすら許しません。そもそも合格など出すつもりは皆無ですけどね。
「スタイルもルックスも最高だね……」
「正直へこむわ……あんな子がいるビーチじゃ、誰にも注目してもらえなさそう」
「モデルさん?いや、そんなレベルじゃないな……」
ええ、皆でトワ様を褒め称えると良いでしょう。空気抵抗の少ないトワ様のスリムな体型は女性の目から見ても美しいと思えるのでしょうね。モデルはあらゆる衣服を着こなすために、スリムボディであることを求められると聞いた事もありますし。
それにしてもここのビーチにいる観光客は皆さんお目が高いですね。トワ様の魅力に気付かれるとは。
「美の女神……とはまさにああいう女性なのでしょうね」
「陽光に輝く金髪は神々しいばかりですね」
ええ、そうでしょうとも。トワ様は美の女神、いえ天使です。そしてトワ様の金髪は……って。
……金髪?トワ様は銀髪ですよ?
「アリサ、多分勘違いしてると思うけど」
「はい?」
「周囲の視線、全部アリサに集中してるからね?」
「……はい?」
天使で女神なトワ様ではなく?改めて周囲を見回すと、私と目が合った男性は皆顔を赤らめ、女性は横を向くか下を向いてしまわれます。あれ、この反応は。
「さすがアリサ、永遠の女帝 の面目躍如だね!」
「その二つ名は止めてください、レイラ!」
「永遠の女帝 ……まさに女帝の佇まいだ……」
「ああ、あの美しさは永遠のものなのか……」
レイラが大きな声で余計なことを言ったせいで、周囲の人々が私を見る目に奇妙な熱が籠もってきたような気がします。いけません、これは収拾が付かなくなってきました。どうするんですか、この状況。どう考えてもビーチで水遊びどころじゃないですよ!?
「アリサ、走って逃げるよ!私はトワの手を引くから、アリサはレイラを抱き抱えて!」
そう言うとトワ様の手を握って走り出したアイリスさんは、何故か振り向きざまにレイラに向かってウィンクを飛ばしました。
「はいっ!って抱き抱えるんですか!?」
「よろしくお願いしますっ」
「……わかりました!」
周囲のざわめきがこれ以上大きくなる前にと、私達はその場を走って離れました。たぶん、皆が驚く様なスピードで。
それにしても、どうして腕の中で嬉しそうにしていますか、レイラ!あなたのせいで逃げ出す羽目になったというのに……!いえ、ちょっと……いえ、もしかしたら半分ぐらいは私のせいかもしれませんが。
周囲の人々を振り切り、人気のないビーチへ逃走することに成功しました。
幸いな事に観光客はホテルやコテージの周辺にしかいないようで、少し離れた所は手つかずのビーチが広がっています。
「いや、走ったねぇ……」
「アイリス、手痛い」
「あ、ごめんごめん、つい引っ張っちゃった」
「レイラ、降りてください」
「……嫌っ」
どうして首にしがみついたまま降りようとしませんか、この子は。
いえ、理由はまぁ想像が付くのですが。そしてどうして私はトワ様の手を引く係では無いのですか。ジト目でアイリスさんを見つめてしまいます。
「アリサ、ここなら『傘』は外しておいても大丈夫じゃない?」
「そうですね……。でも、一応すぐ手に取れる所にはおいておきます」
「私もそうするよ。ただ、交代で周囲を警戒しておこう」
「判りました。では最初は私が警戒しておきます」
「ありがと」
アイリスさんとの会話を聞いていたレイラは、私の首に回していた手をほどき、砂浜に腰を下ろした私の隣に座りました。
波打ち際ではトワ様がアイリスさんと戯れています。まさに天使、いえ水の精霊ですね。
「レイラは一緒に遊んでこないのですか?」
「アリサ、一人だと退屈でしょ?私もいるよ」
「ありがとうございます」
そうは言いましたが、少々気恥ずかしいのも事実です。なにせ昨夜押し倒された身ですから。ええ、私は身持ちが堅く慎み深い女なのです。先ほどは全員から痴女呼ばわりされましたけど。
日差しが強いので、ジュラナイ刀のカバー部分をとり、日傘を開きます。レイラが何故か不思議そうな顔でこちらを見ていますが……もしやこの子、日傘を知らない?
「それ、傘だったんだ」
「ええ、どうみても日傘でしょう?」
「え?どうみても剣にしか見えなかったよ?」
もしかして、偽装に失敗していますか?誰ですか、これなら武器だとバレないとか言ったのは。
……ああ、私だった気がします。そういえば開発スタッフに止められたような記憶もありますが……まぁ、いいでしょう。
その後、日傘に二人で入りしばらく黙って海を眺めていました。潮風に吹かれながらこうやってゆっくりとくつろいでいるのも悪くないものです。
ただ、時折隣から、日差しよりも熱を帯びた視線を感じるのですが……。まぁ、そういうこともあるでしょう。
「くしゅん!」
レイラは年齢的にはもう立派な大人のはずですが、時折見せる言動や表情には幼げな部分が見え隠れします。芸術家肌で感性的な部分が強いのかもしれませんが……こういう女性って、男性が放っておかないと思うのですけど。
そんな事を思いながら、私は羽織っていたパーカーを脱ぎ、レイラに羽織らせました。
「アリサ?」
「風邪をひいたらいけませんから。明日、大事なコンサートなのでしょう?」
「うん……ありがと」
にっこりと微笑むと、レイラはパーカーの裾を握りしめています。本当に可愛い子なんですけどね、レイラ。
またしばらく二人で黙って海を見つめます。風の音と、海鳥の声が遠くから聞こえてきました。
「アリサ、そろそろ代わろうか?」
「はい!レイラ、一緒にいきましょう」
「……うん!」
私はアイリスさんに答えるとレイラを促し、波打ち際で待っているトワ様のところへ駆け出しました。




