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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
139/216

#17

>>Towa


 夜空に浮かミラジェミナαは何度見ても不思議な光景だ。あんなに大きな星が空の上にあるのに、落ちてこないんだろうか。アリサに髪を梳いて貰いながら、そんな事を考えていた。


「トワ様、綺麗な御髪ですね」

「そうかな?」

「ええ、とっても。流れる様な銀髪は星の輝きのようです」

「アリサの髪も綺麗」

「……!ありがとうございます、ありがとうございます!それって告白ですよね!?」

「なんの?」

「……いえ、なんでもありません」


 アリサの言うことは時々意味が判らないけど、でも私なんかよりもアリサの方が何倍も綺麗なのは事実だ。

 今も珍しく眼鏡を外しているけど……惑星(ほし)明かりに照らされた彼女の顔は、まるで美の女神のように見える。


「アリサ、本当に綺麗」

「トワ様……もし、私が綺麗だとしたら、それはトワ様のため」

「よくわからないよ、アリサ」


 こんなに綺麗なのに、どうしてアリサはフリーなんだろうね。私、てっきりウォルターさんとアリサが結婚すると思ってたんだけど。二人が夫婦じゃなく、父娘になったって聞いて、ちょっと意外だった。

 まぁそこは人の心の機微が理解できない私には判らない、何かがあるんだろう。


「アリサ、明日一緒にお出かけしよ?」

「わ、私と!?いいんですか!?」

「私とじゃ、いや?」

「そんな訳があるはずもなく!アリサ・シノノメ、命を賭けてお供させて頂きます!」

「命賭けるのは、ダメ」

「……あっ……はい、ごめんなさい」


 再生(リブート)できる私と違って、アリサの命は長いとは言え一度限りのものだ。命を賭けて親友を守るのは、私の役目。まぁ、平和なリゾート地で命を賭けることなんて無いだろうけどね。

 そう考えながらも、心のどこかでは疑念が拭い去れない。ステーションでのこと。展望台でのこと。アイリスは……そして、アリサも、何かを私に見せない様にしているような、そんな気がする。

 それが何かは判らないけど。


 私のお姉ちゃんも、親友もとても頼りになることは間違いない。二人が私に頼らないというなら、任せておいても構わないのかもしれないけど……。

 髪を梳かれながら、そんな事を思っていると、少しずつ眠くなってきた。


「トワ様、夜風が冷たくなってきました。そろそろお部屋に戻りましょうか」

「うん」

「では、失礼して……」

「……!?」


 私、アリサに抱き抱えられてる。これ、お姫様だっこというやつ?


「アリサ、重くない?」

「私、テロマーですよ?トワ様ぐらいの体重なら数人分でも……いえ、トワ様は銀河で唯一の存在ですけど」

「ね、アリサ」

「はい」

「まだ、様付けは止められない?」

「……ごめんなさい、やっぱり無理みたいです」

「そっか」


 少し距離を取られてるみたいで嫌だったんだけど、アリサがそう呼びたいなら、仕方ないのかな……。


「……私のこと、嫌い?」

「天地神明に誓って、そんな事はありえません!」

「……そっか」


 そんなことを言いながら、私はアリサの腕の中で眠りに落ちた。



 どす黒く冷たい悲しみに引きずり込まれる感覚と共に目が覚め、いつものように頬を涙が伝っていることが判った。

 仄かな灯りに照らされた室内……寝起きのぼんやりとした意識の中、自分がどこにいるのかを思い出す。そうだ、ここはコテージの寝室だ。

 私……そうだ、アリサに抱き抱えられて……。


「あら、起きちゃった?寝てていいのに」


 声がする。私の大事なお姉ちゃん。アイリスの声が。

 横たわったまま視線を横に向けると、アンティーク風のC3ランプの明かりを頼りに作業をしていたアイリスの姿が目に入った。

 良かった、アイリスがそばに居てくれる。姉の姿を見ただけで心の中に安堵と幸せが満ちてゆく。


「なに、してるの?」

「ん、ちょっとね。アリサが調達してくれたブラスターの調整をね」

「ブラスター……」


 そうだ、私が無くしたアイリスのブラスター。その代わりをアリサが見つけてきてくれたんだった。ベッドから身を起こした私は、分解したブラスターを器用に組み立てるアイリスの手際に感心しながら作業を見守る。


「完全に目が覚めちゃった?」

「うん。今日は昼寝もした」

「そういえば買い物の後も寝てたよね、トワ」


 そう言ってアイリスは面白そうに笑う。笑っているアイリスを見ていると、私も笑いたくなる。どうして私の表情筋はこういうときに笑顔を作れないんだろう。


「ね、トワ。目が覚めたのなら教えて欲しいことがあるんだけど」

「なに?」

再調律(リチューン)混合(ブレンド)


 アイリスが口にした二つの言葉。それは、私だけが出来るC3の特別な調律方法だ。


 本来であれば一度定着した特性を変更できないはずのC3を上書きする再調律(リチューン)


 本来であれば単色でしか調律できないC3を複合色に出来る混合(ブレンド)


 今ならわかる。たぶんこれはSランクシンガーだから出来ることじゃなくて、私がセレスティエルだから出来ること。……そうか。


「わかった」


 アイリスもセレスティエルとして再生された。それなら、アイリスにも出来るはず。そういうことだよね、お姉ちゃん。

 と言っても何か具体的な方法がある訳ではない。私は、私の心のままに歌っているだけなんだから。


「えっとね、再調律(リチューン)は、ごめんね、言うこと聞いてねって言う感じ」

「……へぇ、そうなんだ」

混合(ブレンド)は……色の強さを意識して歌う感じ」

「……ごめん、まったく理解できない」

「私こそ、ごめん」


 そうだよね、感覚的すぎて伝わらないよね。実際にやって見せた方がいいのかな。アイリスは頭がいいから、やり方を見て覚えられるんじゃないかと思う。


「それ、貸して」

「実演してくれるの?それなら何とかなるかな……」


 そう言いながらアイリスはブラスターを手渡してくれた。ブラスターのC3は朱、アイリスが自分で調律したものだろう。なら、以前と同じ紅紫にするのがいいかもしれない。私は大きく息を吸い、短い歌を口ずさみ始めた。

 周囲の空間が淡い蒼の光に包まれ、室内を蒼く照らしてゆく。同時に手の中のブラスターが朱に燃え上がるかのように輝きを増していく。


 ――喧嘩しないで仲良くしてね


 そんな想いを込めて歌を織り上げていくと、やがて朱と蒼は互いに呼応するかのように揺れ、踊るように混じり合ってゆく。


 ――いい子だね、お姉ちゃんの力になってあげてね


 そう想いを込めると二つの光はゆっくりと溶け合い、深い紅紫の輝きへと変わり、ブラスターの中へ吸い込まれていった。


「……ふう。こんな感じ」

「いつ見てもすごいよね、トワ……でも」

「でも、アイリスにもできそう?」

「ううん、私は無理だってことが理解できたよ」


 アイリスに出来ないことなんてあるんだろうか?私が差し出したブラスターをじっと見下ろしながら何事か考えていたアイリスは、なにかに納得したのか、顔を上げた。


「そっか、エレメントの違いなんだ……」

「エレメント?」

「確かトワのエレメントは『歌』でしょ?で、私のエレメントは『人』と『絆』だったよね」

「うん、そう聞いてる」

「私は『歌』のエレメントを持たないから、トワみたいな歌い方ができない。そういうことだと思う。つまりセレスティエルなら出来るんじゃなくて、トワだから出来るってこと」

「そうなの?」

「そうだよ、きっと」


 それは、私がアイリスの力になれる事があるということなんだろうか。セレスティエルになったアイリスは万能の存在だと思っていたけど。私は、アイリスの役に立てるんだろうか。


「私、アイリスの役に立てる?」

「何言ってるのよ、元々役に立ってるじゃない。それに、私達は役に立つとか立たないとか、そう言う関係じゃないでしょ?」

「ありがとう、お姉ちゃん。好き」

「言われ慣れた気がしたけど、今のは効くね……」


 抱きついた私を優しく抱きとめてくれたアイリスがそんなことを言った。


「あ、トワごめん」

「……なに?」

「ブラスター、朱に戻しておいてくれる?紅紫は殺傷力高すぎて、ちょっと扱いづらいから」

「わかった」


 うん、これは私にしかできない事だ。……まぁ、紅紫にしたのも私だから、こういうのは自作自演っていうのかもしれないけどね。


 その後、立て続けの再調律で少しだけ疲れた私は、もう一度眠ることにした。黙ってアイリスを見つめていると、お姉ちゃんは笑いながら自分のベッドをぽんぽんと叩き、私を招き入れてくれた。

 アイリスの隣で眠りに就く。私にとって、それは宇宙で一番安心できる眠りだった。


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