#13
>>Alyssa
食後の軽い運動をしそびれた私ですが、なんとかコテージへ戻ったころにはお腹の膨らみも解消されていました。もう2・3人チンピラが暴れてくれていれば、私もすっきり出来たのですが……まぁ、チンピラとはいえ乱獲は良くありませんからね。
「トワ様、アリサがただいま帰りました!お帰りのチューをお願いします!」
コテージの鍵が開いていたのでトワ様は帰ってきているはずなのですが、返事がありません。見るとリビングのテーブルに結構な量の瓶や缶……トワ様達が買ってきてくれた飲み物が置かれていました。
冷やさなくて良いのかと思って冷蔵庫を開けてみた所、中にもぎっしりと飲み物が詰まっていました。一体どれだけ買ってきたのですが……。
ああ、きっと夜のパーティが楽しみにで仕方なかったのでしょうね。本当に可愛い方です、トワ様は。……そういえば、そのトワ様はどうしたのでしょうか?
「トワさ」
「アリサ」
トワ様の名前を呼ぼうとしたところ、アイリスさんに止められました。アイリスさんが指さしている先は……寝室。もしかして?そう思って扉の隙間から中を覗き込むとベッドの上に天使が降臨していました。私が眼福に身もだえしながら至福の一時を過ごしていると、後ろから声を掛けてくる不届き者がいました。
「あ、おかえりー」
テラスの方からレイラが入ってきました。そう言えばレイラがトワ様と買い出しに行ってくれていたのでした。そして、レイラの手にはビールの缶。ソファへ移動した私の隣に腰掛けながらレイラは続けました。
「ごめんね、暑かったから先にはじめちゃった!」
「こちらこそ無理言ってごめんね」
「いいよ。私達に、と言うかトワに見聞きさせたくない事があったんでしょ?」
アイリスさんの謝罪にレイラがさらっと返した言葉は……どうやらレイラにはバレていたようです。割とぽわぽわした雰囲気のレイラがそこまで鋭い子だとは思っていなかったので、少々驚いてしまいました。
隣 に座ったレイラの、少し朱の差した顔をみながらそんな事を考えましたが……あれ、もしかしてこの子、酔ってますか?
「それで?ルミナリーフの乱獲現場でも見つけてきた?」
「レイラ!?どうして、それを!?」
いつも冷静なアイリスさんが驚愕しています。なんと、レイラは私達が見てきた事を知っている。これは少々驚くというレベルではありません。
この子、何者……?いえ、銀河的オルガニストですけど。どうやら酔っているように見えたのは気のせいだったようです。
「やっぱりそうかー。実はね、私も今回のチャリティコンサートがちょっと怪しいなって思ったんだ」
「コンサートが?」
「ほら、私いろんな星に呼ばれてるでしょ?純粋に音楽を求めてる所もあれば、いろんな陰謀やら欲望やらのために私を利用しようとする連中もそれなりにいるんだよ。それで、色々見てると怪しいのがわかるようになっちゃって」
「あー、確かにそういうこともありそうだよね」
「でしょ?それでね、今回招待状を送ってきた主催者のコルドーって人を調べてみたんだけど、あの人ここのリゾート開発してる本人なんだよね。その開発で環境破壊してる本人が、環境保護を謳ってるんだよ?本当に保護する気があるなら自分たちが開発止めれば良いだけなのに」
確かに、レイラの言うとおりです。コルドーという人物の行為はマッチポンプでしかありません。なら、何故そのような事をするのでしょうか?
「でね?それなのにチャリティコンサートで寄付を集めるっていうんだよ?開発の当事者で大企業なんだから、自分たちで保護の為の予算出せば良いのに、なぜかそうしないの。そんなの、絶対裏があるか、何か後ろ暗い事やってるにちがいないよ」
「レイラ、あなたそんなに頭が回る子だったんだね」
「あ、アイリスさん酷い!私が頭弱い子だって思ってたの?」
「いや、そんな事無いよ。一度聴いた曲をすぐ弾けるレイラの記憶力はすごいと思ってた」
「ありがと!でもね今の話、ホントは半分ぐらいママの受け売りなんだよ」
そう言うとレイラは幼女のように屈託のない表情でコロコロと笑いました。ママ、というとジャーナリストのメナ・クロウリー。確かに彼女は切れ者として知られていますし、その名前がここで出てくることは納得が出来ました。
「じゃあ、もしかするとこの星へ来たのって」
「うん。私は胡散臭いから断ろうと思ってたんだけど、ママはきっと何かあるから調査したいって。だからαで講演しながら色々と調べてるところ」
なんと、そんな事情があったのですか。ペレジスでの演奏会ではレイラは常に母親と同席していたので、今回独りで行動しているのは少し気になっていたのですが。
「なら、もしかしてギルド支部で私に声を掛けてきたのは……」
「何か企んでそうな相手が用意した宿なんて泊まりたくないなって思ってたときにアリサを見かけたから。それにアリサ……ううん――」
なぜか上気した表情でレイラが口を開き掛けた瞬間、私の直感がこの先の言葉を口にさせてはいけないと警戒を発しました。止めないと!
「永遠の女帝が居てくれたら心強いじゃない!」
止める前に言われてしまった!?
「えたーなる……えんぷれす?」
「そう!アリサの二つ名だよ!」
表情が抜け落ちた顔と声で呟くアイリスさんに、レイラが笑顔で説明しました。人の黒歴史を何勝手にばらしてくれてやがりますか、この女は。
「アリサ。少しいい?」
「良くありません。私、これからお料理しないと」
「アリサ?」
「ダメです、言わないで!」
「私、親友を0号処分するのは嫌だよ?」
「誤解です!ペレジスの連中が勝手にそう呼んでるだけです!それまでバケモノだなんだって呼んでたくせに、私がテロマーだって公開した途端に手のひら返して『永遠の女帝』とか言いだして!どれだけ否定して拒否しても止めないし、挙げ句の果ては『閣下』とか言い出すし!」
……思わずエキサイトしてしまいました。「閣下」はトワ様に聞かれてしまいましたが、「永遠の女帝」については知られずに済むと思ったのに。レイラ、一生恨みますからね。
その後、レイラから私達に協力依頼がありました。コルドーが何を企んでいるのか、そしてその企みが人々を害するものであるなら阻止したい。レイラはそう言いました。
「でもね、二人がトワの為に動いてることは知ってるよ。だからね、無理に手伝ってとは言えない。私もトワのこと好きだからね」
なんですか、そのライバル宣言。人の黒歴史をバラした上に恋敵宣言とかしてくれやがりますか、レイラ・クロウリー!
「正直なところ、私は今回この星のことに首を突っ込みたくはないかな。なにせ、根が深そうだし」
「うん、そうだよね。ごめんね、無理言って。じゃあ、ここへ泊めてくれるだけでいいから」
アイリスさんの言葉にレイラは少し寂しそうに微笑みながら、でも納得した様子でそう言います。ああ、良い子なのですね、レイラは。いや彼女は25歳なので良い子と呼ぶのは少々問題があるのかもしれませんが……まぁ私から見れば小娘だということで。
「でもね、友達が戦いに向かおうとしてるのに、それを黙って見過ごす程、薄情じゃ無いつもりだよ?」
「私もそうです。これでもレイラ・クロウリーのファンですし、お友達にもなれましたからね。あ、でもトワ様は渡しませんよ?」
「えっ、じゃあ……」
「ええ、手伝うよ」
「私もです」
「ありがと!『英雄』と『永遠の女帝』が付いてくれたら怖い物なしだよ!」
「……『永遠の女帝』って、何?」
レイラの言葉に顔を引きつらせた私は、突然聞こえた声に硬直しました。その涼やかで、やや平坦な声は……。
「あ、トワ。おはよう」
「おはよう、お姉ちゃん。私、寝てた」
「疲れたんだよね、もう少し横になってていいよ」
「もう、大丈夫。それで『永遠の女帝』は?」
アイリスさんが私の方をじっと見ています。これはあれですね?潔く自ら腹を切るか、それとも処刑を望むかという二択を突きつけているということですね?ここはどちらがダメージが小さいかを慎重に熟考して――
「あ、それ?アリサの二つ名だよ!」
どうして速攻でバラしやがりますか、レイラ・クロウリー!
「だから『閣下』で『マダム』で『影の支配者』なの?」
「トワ様、お願いですから今のレイラの言葉は忘れて下さい。私はただのトワ様の下僕です」
「アリサは下僕じゃない。私の親友」
「トワさまぁぁぁ!」
これからは「永遠の下僕」とでも名乗ろうかしら。そんな事を思いながら、私はトワ様に抱きつきました。




