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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
133/211

#11

>>Alyssa


 まったく、アイリスさんもトワ様も酷いですよね。私だけペアルックののけ者にするなんて。急いで似た雰囲気のワンピースに着替えましたが、危うく一人だけハブられるところでした。いや、レイラは毛色の違う服なので、ボッチではないのですが。


 ともあれ、お散歩です。ただギルド支部が良からぬことを企んでいる可能性もあるので念のため武器は手放せません。

 アイリスさんは私のレゾナンスブレード内蔵日傘ことジュラナイ刀を見て一瞬肩をすくめましたが何も言いませんでした。たぶん、彼女もブラスターを隠し持っていると思います。用意周到な人ですからね、アイリスさんは。


「どこ行くの?」

「そうだね……ガイドマップによると、ちょっと先に辺りを見渡せる展望台があるみたいだけど、そこへ行ってみる?」

「あ、それいいですね!賛成です!」

「私はトワ様とであれば、どこでもかまいません」

「私はアイリスと一緒ならどこでもいい」

「トワ様ぁぁぁぁ」


 うう、やはりアイリスさんには太刀打ちできないのでしょうか。早く水着姿になってトワ様を悩殺しなければ。ということは、早くぽっこりお腹を解消しなければ。


「アイリスさん、展望台までダッシュです!競争です!勝った方がトワ様に告白する権利を得る感じで!」

「いや、しないからね?というかアリサ、告白して失敗済みじゃない」

「ぐふっ……!」


 痛いところを突かれました。クリティカルヒットです。ですが、あれはもう100年も前の事。再チャレンジが許されてもいいはずです。


「え、アリサってトワに告白したの!?……どんな感じだったの?ロマンチックな感じ?聞かせて欲しいかも!」


 どうして食いついてきますか、レイラ・クロウリー!人の告白失敗を聞きたがるとか、武士の情けというモノはないのですか!


「そう、あれは月が綺麗な夜の事だったね。お城のような建物のテラスでね、星空の元でアリサがトワの手を握って――」

「ちょっと待ってください!どうしてアイリスさんが私の告白について語ってるんですか!」

「いや、見てたし」

「気付いてましたけども!その後たっぷり説教しましたけども!そういうことじゃなくて!」

「アリサ?」

「はっ、はい!」

「告白したの?」

「えっと……はい」

「ごめんね?」


 フられた!?100年越しにフられましたか、私!?しかも告白したことが気付かれてなかったんですか!?勇気を振り絞って、がっつり「愛してます」って言ったんですけど!


「私、アリサの事好き。お友達でいてくれる?」

「……はい」


 ああ、トワ様。それ、思いっきり告白を拒否するときのやつです。たぶん、本人的には全く自覚されていないでしょうし、純粋に親愛の情を込めて言われている事だとは思うのですが。


「なんていうか……強く生きてね、アリサ」

「ありがとう、レイラ。私、ちょっと泣いていいですか?」

「うん、後で部屋でゆっくりと話聞くよ?」

「レイラ……好きです」

「あっ、えっと。うん。でも、私も……ごめんね?っていうとこかな?」


 またフられました。いえ、元々トワ様以外の相手に興味はありませんが。でもどうして断りながらも頬を染めているんですが、レイラ?


「アリサ……」

「なんですか、アイリスさん」

「先に言っとくけど、私もごめんね?」

「告白する前にフられた!?いじめですよね、これって集団いじめですよね?もはやリンチですよね!?」


 そんな具合で集団リンチを受けながら私達は高台にある展望台へとたどり着きました。

 ちょっと鬱憤晴らししたいのですが、どこかに殲滅してかまわない手頃なナンパ男とかチンピラとかマフィアとか、私設軍隊とかはいないでしょうか。


 そう思って展望台から辺りを見回しましたが……残念ながら周囲には家族連れとカップルしかいません。今の私が幸せそうなカップルなら殲滅しても許されるでしょうか。


「アリサ、目つきが怖いよ?通り魔にならないでね?」

「アイリスさん、心を読むのは止めてください」

「別に読んでないよ?」


 きっと嘘です。セレスティエルには心を読む能力があるに違いありません。……トワ様には無さそうですが。そう思いながら、獲物を探して展望台から辺りを見回していた私は、ある事に気付きました。


 リゾートビーチから死角になっている入り江に複数の人影が見えます。たぶん、人間の裸眼では見えない距離ですが、テロマーである私にははっきりと見えます。

 ビーチには不似合いな重機のようなものを持ち込んで何か作業をしています。最初は単なるリゾート拡張工事かと思いましたが……あからさまに武器を持った男が数人、見張りに立っているのでその線は無さそうです。


 楽しげにビーチの方を見ているトワ様とレイラには気付かれないように、そっとアイリスさんの側によって小声で注意を促します。


「アイリスさん、あれ」

「……あー、見るからに後ろ暗いことやってる感じだね」

「フォトンタブで録画しておきます」

「そっか、眼鏡型だと気付かれずに撮影できるんだ?」

「ええ。望遠撮影しながら少し様子を見ておきます」

「任せた。トワ達はコテージに戻らせておこうか」

「距離はありますが、念のため」

「わかった」


 さすがアイリスさん、こういうときの話が早いのは助かります。さて、専守防衛ではありますが、どうしたものでしょうか。


「トワ、レイラ、ちょっと相談があるんだけど」

「何?」

「この後夜にパーティするでしょ?つまみとスイーツだけだと味気ないから、アリサが手料理作ってくれるらしいんだけど、よく考えたら飲み物用意してなかったんだよ」

「あ、そういえば食べ物しか買ってませんでしたね」

「ちょっと遠いんだけど、軌道ステーション駅の近くに売ってるお店あったから、買ってきておいてくれない?」

「アイリスはどうするの?」

「展望台の先に地元の商店があるみたいだから、そこへ食材探しに行ってみようってアリサと話してたんだ。ちょっと遠いからレイラにはきついかと思って」

「あはは……確かに上ってくるだけでちょっと疲れちゃいました。みんな健脚で羨ましいです!」

「そういうことで、手分けして用意したいんだけど、頼んでいい?」

「わかった。レイラもいい?」

「もちろん!また一緒にお買い物だね!あ、でもトワ?買いすぎ注意だよ?」

「自重する」

「それ、しないやつでしょ?」


 どうやら知らない間に私は手料理を披露する事になったようです。いえ、トワ様に愛妻料理を食べて頂くのは望むところなので、むしろアイリスさんグッジョブではありますが。

 レイラに続いてトワ様が展望台を降りようとして……あれ、立ち止まられました。


「アイリス」

「どうしたの?」

「どこにも行かないで」

「……!」

「絶対、一緒だよ」

「ええ、当たり前でしょ。買い物に行くだけなのに、大げさなんだから」


 そう言って優しくトワ様の頭をなでるアイリスさんですが、心なしかその表情は硬いような気がします。ええ、理由はわかります。トワ様を守るためとは言え、嘘をつくのは心苦しいですよね。


「アイリスさん、そろそろ行きませんか?良い食材が売り切れてしまうかもしれません」

「……そうだね。じゃトワ、行ってくるよ」

「うん。待ってるね、お姉ちゃん」


 トワ様は、もしかしたら……気付いておられるのかもしれませんね。もしそうなら、私達はトワ様をのけ者にして、裏切っていることになるのかもしれない。そんな事をふと思いました。



>>Iris


 コテージがある方向とは反対側へ降りる小道を下ると、そこは現地の人達が暮らす小さな町になっていた。

 軌道エレベータ駅前の通りと違って静かな――いや閑散とした雰囲気。リゾート地へ来るのは初めてだけど、訪問客用のエリアと違って裏通りはこういう落ち着いた感じなのだろうか。


 トワに買い物をすると言った手前、店の有無は確認しておくべきだろう。質素な平屋の建物が建ち並ぶ通りを見ると、ちらほらと露店のようなものが見える。

 アリサを目で促し、周囲の様子をさりげなく警戒しながら通りを進んでいく。露店で売られているものはフルーツや海産物のようだ。

 野菜や肉の類いは少なく、主食とおぼしきパンも種類は少ない。値段こそ安価だけど、駅前通りの華やかな商店とは明らかに品揃えが違う。


「アイリスさん、後で魚を買って帰りましょう。コテージに調味料がありましたから、料理できると思います」

「そう?じゃあ料理は任せるよ」

「ええ。それよりも……」

「うん、品揃えが駅前通りと違いすぎるね。そんなに距離も離れてないのに」

「お嬢さん方、観光客じゃろ?わしら地元民の店じゃ面白くなかろう」


 小声で話していたつもりだったけど、ちょうど前を通りかかったフルーツを扱う露天で店番をしていた老店主の注意を惹いてしまったようだ。老店主が私達の方を見ながら声を掛けてきた。


「すみません、そういうつもりではなかったのですが」

「いや、構わんよ。実際、観光通りの方とは品揃えが違いすぎるからの」


 観光通りというのは軌道エレベータ駅前の目抜き通りの事だろうか。どこか自嘲するような表情で老店主は言葉を続ける。


「儂らの稼ぎじゃ、あそこで売っとるような高級品は買えんからな。地元で採れるもので生活しとるんじゃよ」

「この星の観光産業は盛況のように見えましたけど」


 アリサの言うとおりだ。ジェミナポートを始め、駅前……いや観光通りの店は繁盛しているように見えたし、昼食を食べたヤムヤムデビルフィッシュという店も派手な内装やパフォーマンスを見る限りではかなりの利益が出ているようだった。


「あれはな、全部コルドー様の店じゃよ。儂ら地元民は観光通りに店を出すことが許されんのでな」

「コルドー……ですか?それはどういう方なのですか?」

「ここのリゾート開発を行った、上の企業のオーナーじゃよ」


 そう言って老店主が指さした先、空の上にはミラジェミナαが浮かんでいる。なるほど、そういうことか。


「つまり、ミラジェミナαの企業がこちらの観光産業を押さえてる、と」

「大企業による搾取の構造といったところでしょうね」

「……お嬢さん方、本当に観光客かい?」

「ええ、もちろん。まあ、ちょっと普通じゃないかもしれないけど」


 私はそう言って老店主にウィンクを飛ばす。ちょっと、というのはずいぶんと控えめな表現だけどね。なにせテロマーとセレスティエル、それもギルドの幹部なんだから。


「店主さん、ひとつ教えて頂きたいことがあるのですが」

「無学な老人で判ることならええぞ?」

「ご謙遜を……あの展望台から遠くに入り江が見えたのですが、あそこはどういう場所なのですか?」

「……入り江か。……悪いことは言わん、お嬢さん方は近づかんほうがええ」

「やっぱり、何かあるんだね?」


 私の言葉に老人は黙って頭を振る。話す気は無いという事だろう。単なる拒否というよりも、私達の事を案じてくれているのだと判った。


「ありがとう、そして余計なことを聞いてごめんなさい」

「……なに、こちらこそすまんの。お嬢さん方、ビーチの方へ戻りなさい。何もこんなところで貴重な時間を無駄にする必要もあるまい」

「あら、こう見えて時間ならいくらでも余っていますよ」


 アリサがにっこり微笑んでそう言うけど、老店主にはおそらくその言葉の意味は理解できないだろう。まさか彼女が老店主よりも遙かに長い年月を生きている存在だとは、想像も付くまい。


「店主さん、おすすめのフルーツを教えてください。甘すぎない、すっきりした味のものがあればいいんですけど」

「おお、それならこのルミナップルがおすすめじゃよ。甘みと酸味のバランスが取れておってな――」


 アリサが老店主からフルーツを買おうと交渉を始めたときだった。通りの先から何かが派手に壊れる物音と、男の怒声が閑静な通りに響いたのは。


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