#6
>>Iris
アリサといったん別れ、私とトワはジェミナポート内部へと移動した。入星ゲートの先は疑似重力が設定されているけど、アルカンシェルの完璧な重力制御を経験した後だと少し違和感がある。
便利すぎる技術は人をダメにするというのは本当なんだな……なんてことを思いながら、ジェミナポートを一瞥できるフロアへ移動した。
うん。私が行った事のあるペレジスやヴェリザンの軌道ステーションと比べても格段に広いね、ここ。α行きとβ行きの二機の軌道エレベータが接続されているということは、もしかしたら通常型のステーションを2機接続している可能性もあるし。
そしてその広大な空間を活かして、内部には華やかな……ショッピングモールという規模を超えて、一つの街とも呼べるようなものが形成されていた。
いや、本当にここは軌道ステーションの内部なんだろうか?
目に見えるすぐ近くにはレストランやカフェが建ち並ぶ飲食店街。奥に見えるのは軌道ステーション内だというのにブティックや服屋が軒を連ねている。雑貨や土産物を取り扱っているらしき店も複数見えるし、それに……あれは宇宙食専門のショップ?地上ですら見たことのない店まであるなんて!
そしてその店の大半が客で賑わっている所をみると、ここが単なる宇宙港というよりも、ミラジェミナαとβを結ぶ交通と観光の拠点なのだと言うことが自然と理解できた。
行き交う人も歩きながらフォトンタブで連絡を取っているビジネスマンらしき人から、仲睦まじい様子の若いカップル、浮遊型のホバーシートに乗ったお年寄りと付き添いの家族らしい人達、親子連れの観光客まで様々だ。コスモスーとを着用している人が殆どいないことを見れば、あの人達は航宙船に乗ってミラジュミナの外へ出て行くのではなく、連結された二重惑星の間を行き来する惑星感旅行者なのだろう。
一方で恒星間航行をしてきた人も少数であるけど、いるようだ。私達が来た側とは違う入星ゲートには人だかりが出来ているのが見える。旅客船で有名人かVIPでも来ているのだろうか?
そして旗を持った人に引率されて軌道エレベータに向かっている団体客らしき人達も何組か見える。おそらくあの人達は惑星感旅行者だろうけど……。遠目で見ていても雑踏の賑わいと熱気が伝わってくるようで、ミラジェミナβはα側の人にとって重要な観光インフラということがわかった。
「すごい……」
「いや、本当にこれはすごいね」
「うちのステーションと大違い」
トワの言葉に思わず苦笑してしまう。そりゃ辺境の行き止まり惑星であるCM41F3Cの簡易ステーションと比べるのは酷というものだ。
なにせ、あそこには旅客なんて訪れることもないから、常駐スタッフ用の小さな居住スペースを覗けば疑似重力どころか店の一つもなく、ただ自販機一つ置かれていただけなんだから。
「そういえばトワ、色々と旅してたんでしょ?他の星のステーションはどうだったの?」
「……覚えてない。ぼーっと旅してたから」
何気なく私が問うた言葉に、トワの瞳の色が陰り始めている。これは聞いちゃいけない話題だったか。それもそうだよね、だってトワが旅していた期間は、私が死んでいた期間なんだから。
「そっか。あっトワ、あそこに宇宙食の専門ショップがあるよ!?」
「アイリス、グラット売ってたら買ってもいい?」
「いいけど、今からリゾート行くんだよ?売り切れないだろうから、帰りに買った方が良くない?」
「うん。そうする」
なんとか話題をそらすことが出来た。しかし……何気ない話題一つで瞳の色が揺れ動くとは、思っていた以上にトワの心の傷は深いようだ。時間を掛けて少しずつ癒やしてあげられたら良いのだけど。
ともかく、トワが興味を持ちそうな店て……ってこの子、食べ物ぐらいしか興味なかったっけ。でも着替えも持ってきていないから無理にでも服を買わせないと。あと水着も。
想像以上に難易度が高いミッションになりそうだけど、トワと華やかなお店でショッピングなんて故郷では考えられなかったから、私も楽しみだ。
せっかくのリゾートだし楽しまないとね。そのためには……ここのギルド支部が何を隠しているのか、調べておく必要はありそうだけど。
いくつかの店を回った。私の作戦はこうだ。まずトワが興味を持ちそうな食べ物の店へ行く。満足そうな様子が確認できたら服を見に行く。飽きてきたらまた食べ物の店へ行き、やる気を補充。そして服屋へ。
ローテーションを3度繰り返し、当面の服と宿泊先で消費する飲食物の調達が済んだ。水着もちょっと見たけど、アリサがうるさそうなので結局買わなかった。
そろそろアリサに連絡して合流を……と思ったのだけど、トワが雑貨店の店先で立ち止まり、引き寄せられるようにショーウィンドウを見つめていた。
この子が雑貨やアクセサリーに興味を持つとは珍しい。何を見てるのかと思って横から覗き込むと……虹色に輝く、植物の葉を模した髪飾りだった。
「……綺麗」
「うん、綺麗だね。これ、たぶんこの星の特産、ルミナリーフじゃないかな」
「ルミナ……リーフ?」
「海の中で生物が時間を掛けて生成するものらしいよ。水中で光を浴びて七色に輝くって書いてあったけど、加工品になっても輝きはそのままなんだね」
「ほんと、綺麗」
「トワ、お姉ちゃんが大事な妹にプレゼントしたいものがあるんだけど」
「……何?」
「この髪飾り。トワの瞳の色にとってもよく似合うから。受け取ってくれる?」
「いいの?お高いよ?」
トワの言葉に値札を確認し、絶句した。なんだこの値段は。標準的なギルド職員なら半年分ぐらいの給料が飛んでいく素敵なお値段。
とは言え、プレゼントしたいと言った手前、無理でしたというのは姉としてあり得ない。再生された私は現状確認のために自分のデータを色々と調べて見たんだけど、死亡除籍になっているせいか管理官としての資格を喪失しているのは当然として、ギルドの口座も凍結されていたんだよね……。
だから今の私の手持ちは、トワが運んでくれていたトランクに入れっぱなしにしていたへそくりの現金だけで、高額なルミナリーフをギリギリ買えるかどうかなんだけど……。
ええい、仕方ない。大事な妹のためならへそくり全部投じても後悔はしない!
「もちろんだよ、トワ」
「ありがとう、お姉ちゃん。好き」
そんな事を言われるなら、全財産なげうっても十分元が取れる。いやそれにしても、なんて可愛いんだ、私の妹は。アリサが惚れるのも理解できる。
故郷にいたころは考えたこともなかったような、姉としてはいささか問題のある事を思いながら、私は全財産をはたいてトワのためのプレゼントを購入した。
「はい、大事にしてね」
「お姉ちゃん、付けて」
今日はお姉ちゃん大安売りだね、トワ……。もうなんでもしちゃうよ、お姉ちゃんは。
入れて貰ったばかりの飾り箱から髪飾りを取り出し、柔らかいトワの銀髪にそっと虹色の髪飾りを留める。
「似合ってる?」
「ええ、とてっても。まるでトワのために造られたみたいに似合ってるよ」
「うれしい」
ああ、本当によく似合っている。この子の瞳が常にこの髪飾りと同じ虹色でいられるように、私は持てる力の全てを尽くすんだ。
髪飾りを付け、いつもは無表情な顔に微笑みを浮かべるトワを見ながら、私はそう誓った。




