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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
127/223

#5

>>Alyssa


 張り切って操縦桿を握ったのですが、射出された初速であっという間に軌道ステーションへ到着してしまったので、私の華麗なる操船スキルをトワ様に披露する機会はありませんでした。

 おのれアルカンシェル、どうして私に見せ場を用意しないのですか。帰ったら激詰めしないといけませんね。


 入港の連絡はアイリスさんが事前にしてくれていたそうです。ブリーズの件もそうですが、一体どれだけ有能なんですか、お義姉さんは。そしてその有能なお義姉さんは、隣席のトワ様から抱きつかれてちょっと嬉しそうな……いえ、あれはげんなりした顔ですね。なんと恨めしい……いや羨ましい。

 そんな事を考えながら、管制官の指示に従い小型艇用の露天ポートへブリーズを寄せて行きます。ええ、この程度の操船なら考え事をしながらでも平気です。でも、ぶつけると格好悪いので少しだけ集中しておきましょうか。


『ジュミナポートコントロールよりブリーズへ、着艦確認。エアロック接続完了』

「こちらブリーズ、確認感謝します」


 古代船であるブリーズのエアロックとステーション側のエアロックが適合するか心配だったのですが、問題無くドッキングが出来ました。そういえばアルカンシェル本体も普通にドッキングしていましたし、航宙船関連の基本的な規格は古代から変わっていないのかもしれませんね。


『そちらはギルドの人だと聞いてる。入星手続きは3番ゲートへ回って貰うと優先続きができる』

「あら、ご親切にどうも。3番ゲートですね、了解しました」


 振り返るとトワ様とアイリスさんは既に席を立っていました。発進直前のアイリスさんのやらかしでぐずっていたトワ様ですが、今はミラジェミナと軌道ステーションの光景に目を見張っておられます。

 確かに軌道エレベータは私も日常的にみていましたが、ステーションの上下に伸びるエレベータというのは初めて見ましたし、上にも下にも惑星があるという光景は若干の圧迫感を感じる程に奇異な光景で、畏怖の念すら感じますが……。

 それを楽しげに無垢な表情で見ておられるトワ様は可愛らしくて素敵ですよね。はぁ、嫁に欲しいです。


「アリサ、頼みがある」

「なんなりと。あ、婚姻届ならギルド標準書式のものが荷物の中に入っていますよ」

「あのね、駐機料がいくらか聞いて」


 トワ様を嫁に貰えるかと思って一瞬喜んだのですが、ぬか喜びでした。

 さらっとスルーされた事に少し悲しみを感じながら、交信中のコントロールに確認した金額をGCに換算してトワ様に伝えます。


「嘘……」


 トワ様はそう呟くと目を見開いて硬直してしまいました。えっ、そんなにお高いんですか?観光地価格って。


「アルカンシェルの、1/30」


 ああ、激安価格で驚かれたのですか。確かにアルカンシェルだと通常の旅客ターミナルを一隻分占有しますから高額になるのでしょう。

 それに比べて今ブリーズが停泊しているのは軌道ステーションの外れ、作業艇が停泊しているような露天ドックです。安いのも当たり前といえば当たり前なのかもしれません。


 あれ?でもそれならもっとお安くても良いはずですよね。結局、観光地価格でぼったくられているのかもしれません。あとで軌道ステーステーションを管理しているであろうギルド支部へ寄った時にでも、適正価格についてじっくりと「協議」させて頂くことにしましょう。

 いえ、これはGCの節約というケチくさい話ではなく。トワ様を笑顔にするために必要な事なのです。


「アリサ、行こう」

「はい、行きましょう、私達のハネムーンへ」

「だから違うって言ってるよね?アリサだけ留守番させるよ?」

「そんなご無体な!」


 そんなことを言いながらブリーズを下船しました。もちろんセキュリティロックはしっかりと掛けましたよ。そこは抜かりなしです。


 エアロックの先は無重力でした。そうでした、完全に忘れていました。宇宙には重力が存在していない事を。

 アルカンシェルに乗っていると色々と常識が壊れていくような気がします。ちらりと横を見るとアイリスさんも渋い顔をしていました。たぶん、私と同じ事を考えているのではないかと思います。トワ様は……いつも通りですね。さすがトワ様です。


 管制官が言っていた3番ゲートは関係者専用のゲートのようでした。確かにそれなら手続きが早いのも納得です。

 本来であれば一人ずつ手続きを行うのが筋なのでしょうが、アイリスさんは今身元を証明できるものが何もないので、ここは私が代表して手続きを行うことにします。


「モーリオンギルド所属、管理官のアリサ・シノノメ。他、同行者のシンガー2名です」

「シノノメ管理官殿、確認できました。あの……どういったご用件でしょうか?」

「何か管理官に訪問されるとまずいことでも?」

「いえ、そういう訳ではないのですが……ステーション内にギルド支部がありますので、一応決まりとしてお伺いできれば」


 係官の言動はこの軌道ステーション……そしてギルド支部に問題があることを雄弁に語っていますが、正直今の私にはこの星の問題などどうでも良いことです。なにせトワ様とのハネムーンなのですから。

 もちろんここの連中が私達……いえ、トワ様に手出しをするつもりならそのときは容赦なく叩き潰しますが、あえてこちらから問題に首をつっこむ必要もないでしょう。


「観光です。それ以外に何か?」

「いえ、失礼いたしました。ではお通りください!」

「……ありがとう」


 ほっとした様子の係官を残し、私達は「ジェミナポート」と名付けられているらしい軌道ステーションへと足を踏み入れました。


「アリサ」

「ええ」

「どうする?」

「どうもしません」

「だよね」

「何の話?」


 私と同じようにアイリスさんも係官の言動に引っかかるものを感じたようです。ですが、判断は私と同じ、専守防衛、原則放置。なぜなら私達はトワ様のメンタルケアの為にここへ来ているのですから。

 そしてそのトワ様はアイリスさんの腕にしがみついたまま無重力で漂っておられます。宙を飛ぶとか、天使ですか。女神ですか。妖精ですか。可愛らしすぎでしょう。


「係官がペレジスよりも無愛想だな、と思いまして」

「ペレジスの係官、すごく良くなってた。アリサのおかげ?」

「ええ、接客態度を改めないと観光にもビジネスにも不利益ですので、徹底的な教育と意識改革を施しました。トワ様に失礼な事とか無かったですか?例えば駐機料の料金を追加で請求されたり」

「追加はアリサがなんとかしてくれた」

「お役に立てて何よりです」

「ちょっと待って!?なにげに権力乱用してない!?」

「いえ、私は孤児院を経営しているただの民間人でしたから」

「それ、絶対嘘だよね!?」

「アイリス、それ私も言った。あとアリサ、また様付けになってる」


 トワ様が楽しそうにそうおっしゃいます。様付け禁止はもう勘弁してください。だって100年もずっと私の中では「トワ様」だったのですから、急には変えられません……。


 ともあれ、この星に潜む問題からトワ様の注意をそらす事は出来たようです。

 あとはなるべくギルドの人間とは接触せずにミラジェミナβへ移動するべきなのですが、私には少し立ち寄るところがありました。状況を思えば正直気は進みませんが。


「アイリスさん、私は少し寄るところがありますので、先にお買い物へ行かれてはどうですか?」

「それはいいけど、どこへ行くの?」

「徴発……いえ、調達に」

「ああ。……ごめんね、手間掛けさせて」

「いえいえ、未来のお義姉さんの為ですから」

「アリサはそれが無ければホント良い子なのに」

「そうだ、アイリスさん!服は譲りますが水着、水着だけは一緒に買いに行きますからね!?トワ様の水着を選ぶ権利だけは譲れませんからね!」

「いや、そこはトワに自分で選ばせてあげて?」


 どうしてそんな残念なものを見る目で見られているのでしょうか、私。

 ともあれ、用事が済んだら互いのフォトンタブで連絡を取ることにして、私達は別行動をとることにしました。トワ様とアイリスさんはショッピングへ。私は、ギルド支部へ。


 ……トワ様とショッピングの機会を逃すのは血の涙が流れそうなぐらい悔しいことですが、でも約束したことは守らないといけませんからね。

 それに、この星の状況を察するに……アイリスさんが武装することは最優先事項のようですから。


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