表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
126/217

#4

>>Iris


 アルカンシェルの船窓から「ミラジェミナ」が見える。映像資料では確認済みだったけど、さすがに実際にみると壮観だね。ふとみるとアリサもトワも目を丸くしている。うんうん、サプライズ成功だ。


「なん……ですか、あれ」

「あれがミラジェミナ。大きい方がα、小さい方がβ。私達が行くのはβの方だよ」


 そう、眼前に見えるのは二重惑星、ミラジェミナαとミラジェミナβ。アリサが言っていた、ありえないはずの「リゾート惑星」が存在する理由が、これだ。


「少し大きいミラジェミナαの方が主星……正確には主天体っていうそうだけど、まぁメインの方の星だね。こちらは重工業と商業が盛んでこの恒星系での製造と消費を担ってる星。で、もう一つのβの方は伴星で、こちらは環境保全が行われていてリゾート専用の惑星になってるんだって」

「なるほど……これなら『リゾート惑星』が成り立つ訳ですね。ですが二重惑星で両方に入植可能なケースは初めて見ました」


 アリサの言うとおり、二重惑星自体は銀河にいくつも存在するけど、両方が人の入植に適した重力と大気を持つケースは極めて希だと思う。そういう意味ではあの青く輝く綺麗な星は宇宙の宝と呼んでいいんじゃないかな。


「あの星、繋がってる?」


 目を細めてミラジェミナをみていたトワが自信なさげな声でそういった。やっぱり目がいいよね、トワは。私じゃとても見えない……と思いながら私もミラジェミナに目をやると……あれ?見える!?え、この距離で見えるの?

 そうか、これがセレスティエルの能力……ちょっと唖然としてしまったけど、トワが小首をかしげているので説明してあげないと。


「うん、αとβは軌道エレベータで繋がってるんだよ。中間地点に軌道ステーションがあって、そこが観光の拠点になってるんだって。大きなショッピングモールも入ってるらしいから、服も水着も新調できるよ」

「水着……そういうものもあるの」

「まさか全裸で泳ぐ気だったの?」

「うん」

「いいですね、賛成です!!」

「ダメよ、絶対。アリサみたいなのに襲われるよ?」

「アイリスさん!アリサみたいなのって何ですか!みたいなのって!まるで私が変質者みたいじゃないですか!」

「……胸に手を当てて、自分の言ったことを反芻してみて?」

「……ごめんなさい、私が変質者でした」


 そんなやりとりをしているうちにアルカンシェルはミラジェミナの重力圏内に到着した。そのまま入港するとお財布に優しくないらしいので、惑星近郊宙域でアルカンシェルに停泊に適した位置を計算して貰うことにした。二重惑星だとラグランジュポイントの計算が大変そうだけど。


「アルカンシェル、停泊位置を決定したいんだけど、ミラジェミナのラグランジュポイントは判る?」


[Affirmative.]


 さすが優秀なアルカンシェル、即答で肯定の返事が返ってきた。場所が判るならラグランジュポイントへの移動を……と思ったんだけど、よく見るとアルカンシェルが続きのメッセージを表示していた。


[Proposal: Use Gravity Anchor.]

[Can Be Anchored at Any Location.]

[Recommended: 0.0025AU from Planets.]


 重力……アンカーって、それもしかしてフォトンアンカーの遺失技術版?私はフォトンタブの画面を開いて重力アンカーに関する情報をアルカンシェルのデータバンクから検索した。

 うん、確かにそうだ。これを使えばラグランジュポイントでなくても任意の位置に安定して停泊できるし、定番の停泊位置を外せば他の船と遭遇する確率も減らすことが出来る。


「アリサ、アイリス何してるの?」

「たぶん停泊位置を決めてるんだと思いますけど……アルカンシェルがさらっとまたすごいこと言い出したみたようですから、その内容を調べておられるのではないかと」

「私、また何かやっちゃった?」

「そうみたいですね。でもやっちゃったのはトワさ……トワではなくて、アルカンシェルですけど」


 二人が小声で言ってることがはっきりと聞こえる。そうか、視力だけじゃなくて聴力も強化されてるのか、セレスティエル。便利だけど、騒音の酷いところだと頭痛そうだなぁ。そんな事を考えた私はふとあることに思い当たった。

 初めて乗った航宙船キャメル067のレゾナンスドライブ事故。あの時トワが異常共鳴で昏倒したのって、セレスティエル由来の聴力が原因だったのかも……。


 ということは、次に同じような事があれば私も昏倒するのか。それは避けたい。だって、一緒に昏倒してたらトワを守れないからね……。

 いや、今はそれよりも停泊位置だ。アルカンシェルが推奨位置を示してくれているから、それに同意すれば問題無いだろう。


「アルカンシェル、あなたの提案を採用するよ。停泊位置まで移動してくれる?」


「Yes, Lady.」


「じゃあ停泊位置に到着したらブリーズの発進準備もお願いね。私達が全員ブリーズに乗船していたら、確認だけとって発進シークエンスへ。あと、停泊中に他の船が近づいてきたらトラブルを回避するために退避行動を。私達が帰還するまで、他の船に接近されないようにしてね」


[Directive Receipt: Prioritize Hull Safety.]

[Initiate Automatic Evasion Upon Detection of Approaching Vessel.]


 アルカンシェルが文字で私の指示を復唱している。うん、この子の言語認識能力に問題はないね。


「うん、ありがとう、アルカンシェル。私達の帰るところを守ってね」


[Yes, Of Course.]


 いや、ホント良い子だよねアルカンシェル。賢いし応答も可愛いし。私には大事な妹が一人いるけど、アルカンシェルも妹か弟みたいに感じるよ。

 ああ、そういえば出発準備とブリーズのことでバタバタしたから大事な話をするのを忘れていた。


 私は二人の方を振り返ると、真面目な表情で話を切り出す。


「トワ、アリサ。大事な話があるんだけど」

「……うん」

「なんでしょうか?どのようなお話でも、覚悟は出来ています」


 うん、二人とも神妙な表情だ。そういう空気感で話してるからね、私。


「心して聞いてね?私達の将来に関わる話だから」

「……うん」

「はい」


 前のめりになって真剣そのものの二人に、思わず吹き出しそうになるけど、まだ早い。笑うのは次の一言の後だ。


「……着いたら、何して遊ぶ?」

「「はい?」」


 私の言葉に目が点になっている二人をみて、思わず大笑いしてしまった。うんうん、こういう反応が見たかったんだよ。


「だって、ノープランでリゾートは勿体ないでしょ?」

「いや、そうではなくて!どうしてそんな深刻な顔して言うんですか!私、また何か重大な事があるのかと思って心配したじゃないですか!

「アイリス……体の不調とかじゃないの?」


 ……しまった、私自身は今まで通りだと思ってたけど、二人にとって私は再生したばかりで、体の使い勝手も判ってない身だった。思ってたのと違う方向で心配掛けちゃったみたいだ。これはまずい。


「ごめんっ!体調不良とかは全然無くて、ちょっとリゾートで浮かれてはしゃいだだけ!本当に心配掛けてごめん!」

「いえ……何もないならいいんですけど」

「アイリス……嫌い。好きだけど」


 トワが涙目で抱きついてくる。あちゃ……これは失敗した。リゾートでリフレッシュさせるつもりが泣かせちゃうとは。トワを抱きしめながら、私は自分が姉失格だと反省した。


[Anchorage Reached.]

[Deploying Gravity Anchor...Done.]

["BRISE" Ready for Launch.]


 トワとアイリスに謝っているうちに停泊とブリーズの発進準備が完了したらしい。何の音も振動もないスムーズな投錨……フォトンアンカーなら多少の揺れがあるし、そもそもラグランジュポイントを離れたこんな所へ安定的な投錨なんて出来ないだろうし。ほんと驚くことばかりだよ。

 まだぐずっているトワをシートに座らせ、シートベルトを締める。アリサはパイロットシートに座ってるけど……古代船の操縦、大丈夫かな。


「アリサ、行けそう?」

「もちろんです。ちゃんと操縦方法は確認しました」


 人差し指で眼鏡を軽く叩きながらにっこり微笑むアリサ。そっか、眼鏡型フォトンタブとアルカンシェルのリンクを早速使ってるのか。ちょっと変な子だけど、でもやっぱり優秀だね。

 まぁ優秀でないと、ギルド支部長やら星の評議員やらギルド管理官やらは務まらないけどね。


「じゃ、行こうか」

「はい」

「……うん」

「トワ、アルカンシェルに発進指示を出してあげて」

「……わかった。アルカンシェル、ブリーズ発進」


[Yes, Mam.]

[Have a Nice Vacation!]


 アルカンシェルの見送りの言葉がホロディスプレイに表示され、同時にブリッジ上部とつながる階段部分から船殻になる部位がスライドし、コクピットブロックを覆っていく。

 そして船殻の展開が終了すると同時に、私達の乗ったコクピットブロック――ブリーズはアルカンシェルから射出された。フロントウィンドウに見えているミラジェミナがあっというまに眼前に広がってくる。


 ……いや、まさか艦載艇の射出まで重力加速度を感じさせずに行うなんて。ほんとすごいね、アルカンシェル。

 というか、射出しただけでステーションに着きそうな勢いだよね、これ。もしかしたらフィクションで読んだことがある重力カタパルトってやつかもしれない……いや、そもそも重力制御を完璧にこなしてるアルカンシェルの事だ。重力カタパルト以外の方法で射出する方が不自然だろうと自分を納得させた。


 しかし、これだけの初速があると追加の加速は必要なさそうだね。行きはアリサの出番、減速と接舷だけになるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ