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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
125/217

#3

>>Towa


[Sorry, Mam.]

[Limited to answering only What's asked.]


 アルカンシェルのホロディスプレイに映し出された文字には若干の申し訳なさが浮かんでいるように思えた。でも、酷いよアルカンシェル。大事な事を私に教えてくれないなんて。


「トワ?アルカンシェルだって聞かれない事をペラペラしゃべる訳にもいかないでしょ?そもそもアルカンシェルとそんなに話してなかったみたいだし、この子寂しがってたよ?」


 アイリスに言われた通り、改めて考えると独りの時は殆ど移動の指示しかしてなかった。うん、それは反省しないといけないところだね。


「アルカンシェル、ごめん」


[Don't apologize Mam, Please.]

[Want to help Mam.]


「ありがと、アルカンシェル。これからもよろしくね」


 私の言葉にホロディスプレイが柔らかく明滅する。そっか、この子も私の事を想ってくれてたのか。もっと早くに気付いてあげられれば……いや、今からでも遅くないか。


「そうだアリサ、フォトンタブは持ってる?」

「ええ、実はこの眼鏡は新型のフォトンタブ内蔵なんですよ。ほらここを押しながら発話すると音声操作できます」

「便利そうだけど、潜入ミッション中だと使えないよね、それ。……いや、それはいいんだけど、アルカンシェルとリンクさせるとブリッジ以外でもアクセスできるよ。ちょっと貸してみて」


 アイリスはそう言うとアリサの眼鏡……フォトンタブを操作している。いいなぁ、私もフォトンタブを持ってれば、アルカンシェルとどこでも話しができるのに。

 でも、アイリスが対話してくれるなら任せておこうかな。アイリスならなんとかしてくれそうだし。うん、そうだ。アイリスが、お姉ちゃんがいれば大丈夫だよね。


「それでブリーズ(そよ風)のことなんだけど」

「どこにあるの?船倉、空だよ」

「船外に懸架されてる様子もなかったですよね。アルカンシェル、とてもスリムですし」

[Thanks Lady.]


 あっ、アリサの眼鏡にアルカンシェルのメッセージが映り込んでる。こっちからみると逆向きだから読みにくいけど……あはは、スリムって言われてアリサにお礼言ってるよ、この子。

 そっか、こういうやりとりをしたかったんだよね。ごめんねアルカンシェル。


 それで、そのスリムなアルカンシェルのどこにブリーズがあるんだろう。アイリスは脱出艇も兼ねてるって言ってたけど、船内から他の船へ移動できるようなドアもハッチもなかったよ?


「ここだよ」


 アイリスはそういうと、ブリッジを……正確には二階建てになっているブリッジの下段、パイロットシートなんか配置された少し手狭な操船フロアを指さしていた。

 アルカンシェルは音声操作できるから、パイロットシートは使ったことなかったけど……。


「この下段フロアが分離してブリーズになるんだって。アルカンシェルのコアはこっちの指令フロアにあるでしょ?だから切り離し後のブリーズは手動操縦らしいけど」

「アルカンシェル、操縦してくれないの?」


「Sorry, Mam.」


「物理的なリンクが切れるからね……問題は誰が操船するか、だけど」


 どうしよう、アルカンシェルは私の船だけど……私、航宙船どころかエアロプレーンだって操縦できないよ?

 確かアイリスもエアロプレーンは操縦した事ないはずだし。せっかく艦載艇があっても宝の持ち腐れ、そして駐機料は観光地価格なの?


「ふっふっふ、そこでこの私、アリサ・シノノメの出番ですね?」


 胸を張ったアリサが得意げにそう言った。……アリサ、バスト大きいから胸を張ると迫力あるよね……。いや、そんなことよりも。


「アリサ、操船できるの?」

「ええ、さすがにアルカンシェルクラスは想定外でしたが、艦載艇やエアロプレーンならちゃんとライセンスを取ってあります!」

「伊達に年喰ってないよね、アリサって」

「アイリスさんっ!?それ酷くないですか!?私、こう見えても外見年齢16歳なんですよ!?」

「実年齢は?」

「そ……それは、乙女の秘密ですっ!」


 そっか、アリサは100年の間にいろんな事をしてたんだ。支部長やったり、評議員やったり、映画デビューしたり、影の支配者やったり。そんな合間にライセンスも取ってたんだな。その間ぼーっと旅してた私とは大違いだ。


「ともあれ、私が操船しますので、ご安心を!」


 そう宣言した後、アリサは小声で「それなら置いて行かれませんしね」と呟いていた気がするけど、どうして私達がアリサを置いていく話になるんだろう。でも良かった、操船はアリサに任せておけそうだ。


「それにしてもアイリスさん、どうやってブリーズの事に気付いたのですか?アルカンシェルは自発的には教えてくれないのでしょう?」

「緊急脱出手段について聞いたんだよ。何かあったときのためにね。そしたら脱出艇を兼ねた艦載艇があるって言うから」


 緊急時の脱出手段なんて考えた事もなかった。さすがアイリス、頼りになる。

 頼りになるお姉ちゃんと、頼りになる親友。二人が居てくれれば大船に乗った気分で居られる。まぁアルカンシェルは航宙船としては小船だけど……。

 それにしてもこんなに安心できるのはいつぶりだっけ。嬉しいな。幸せだな。アイリス。お姉ちゃん。うん、幸せだ。



「じゃあ手荷物の積み込みはOK?」

「うん」

「あ、ちょっと待ってください!もう一つ持っていくものが……」


 前にアイリスが買ってくれた服はリゾート向けじゃないらしいので、私は特に手荷物は無し。アイリスも服を新調するからと言って日用品を入れた小さな鞄だけだ。

 アリサの荷物は……結構大きなトランクだね。まぁ大きなコンテナを持ち込んでたから色々とあるんだろうな、アリサには。


「お待たせしました!」


 そう言って帰ってきたアリサは白くて上品な日傘……のようなものを持っていた。えっと、日傘だよね?

 丁寧な造りでアンティークぽい雰囲気の日傘のはずなのに、なぜか握り手の所に蒼のC3が付いてるんだけど。アイリスも当然C3に気付いたようで、胡乱な表情で日傘のようなものを見つめてる。


「ねぇアリサ?それ、ただの日傘じゃないよね?」

「はい、これはギルドの技術支援を受けてペレジス(うち)で開発した新型のフォトンブレードなんです」


 えらく物騒な名前が出てきた。フォトンブレードというといわゆるエネルギー剣の事だよね。決して日傘の一種じゃないよね?アイリスもジト目で日傘、あらため日傘型武器を見ている。


「レゾナンスブレードって言う名前なんですけど、そのままだと持ち歩きにくいので、日傘に偽装してあります。あっ、ちゃんと開いて日傘にもなるんですよ?」

「仕込み武器なのは判るけど、どういう発想なのよ……」

「原理的にはソニックカッターと同じで、扱えるのはシンガ-だけです。万一奪われたり、カフェに置き忘れても安心です!」

「いや、そういう発想の話じゃなくて。それに、いくら起動できないといっても、お願いだから傘のノリでカフェに武器を置き忘れてくるのはやめてね?」

「大丈夫ですよ、アイリスさん。レゾナンスブレードはもの凄く開発費が掛かったので、使った金額を考えれば忘れるなんてできませんとも」

「聞きたくないけど、一応聞いておくね。……いくら使ったの?」

「えっと……ペレジスの年間国家予算の13.4%ぐらいです。あっ、でも傘部分はちゃんと、私が個人資産で用意したんですよ!」


 なんかすごいこと言ってる気がするけど。国家予算で自前の武器作るのって、職権乱用じゃ無いのかな……?呆れた様子のアイリスはアリサが左手で持っていたもう一つのアイテムを指さした。


「じゃあついでに聞くけと、そっちのは?」

「これですか?これはジュラナイト製の傘カバーです」

「ジュラナイトって航宙船の装甲板に使う金属だよね?そんな硬度のカバー付けてる日傘がどこにあるのよ!」

「えっ?ここに……」

「というかそれ、どうみても傘カバーじゃなくて『鞘』でしょうが!」

「そのまま振り回して日傘が壊れると嫌なので……ほら、私物ですから。なので、峰打ち用に使えるかと思って。あ、こちらは年間国家予算の4.2%ぐらいです」

「傘本体よりはお安いね……って、それでもその金額、ダメなやつでしょ!」


 アリサがなんか色々とすごいことを言ったせいで、アイリスは絶叫したあと疲れた様子で無言でこめかみを揉みほぐしてる。やっぱりアリサ、ギルド伯と同じぐらい好き放題やってたんじゃないかなぁ……。


「木刀?」

「はい、そんな感じで使おうかと。まぁ、ジュラナイト製ですけど」

「じゃ、ジュラナイ刀?」

「ああ、さすがです、トワ様!これからこの武器はジュラナイ刀と呼ぶことにします!」


 ボケてみたつもりだったんだけど、アリサはジュラナイ刀という名前を気に入ってくれたようだ。

 私のネーミングセンス、実は優れてるのかな。いや、そんな事よりもアリサに聞いておくことがあった。


「アリサ」

「はい、トワ様……いえトワ」


 あ、ちゃんと約束は覚えてたらしい。こういう所は可愛いし律儀だよね、アリサ。でも前もすぐに様付けに戻ったけど。


「リゾートに武器、必要?私も持って行った方がいい?」

「ええ、リゾート地には有象無象のナンパ男共が大量湧きしますからね。いざというときには退治できる準備をしておかないと」

「わかった。ブラスター取ってくる」

「待って!?ちょっと待って!?ナンパ男相手にブレードやらブラスターやらで対処したらこっちが犯罪者だからね!?ちょっとトワ!?どうして部屋へ戻ろうとするの!?」


 アイリスがなんか言ってるけど、大事なお姉ちゃんを守るためなら私は鬼になる。もし、万が一にでもアイリスが傷つけられることになれば……私はもう耐えられないだろうから。アイリスを守るためなら私は何だってするんだ。

 相手がアイリスを傷つけようとするなら、躊躇無く人だって殺してみせる。そう心に決めて、ブラスターを取りに私室へ戻った。


 ブラスターと……ついでに調整中のまま放置してあったフォトン・イグナイトをいくつか、いつものジャケットのポケットに突っ込み、ブリッジに戻るとアイリスが頭を抱えていた。


「アリサ……お願いだから私の大事な妹に変なこと吹き込まないで?トワがナンパ男を見境成しに撃ち出したら、私どうすればいいか……」

「大丈夫です、アイリスさん。トワ様は常に正義なので、撃たれる男が一方的に悪です!」

「だ・か・ら!そういうことを吹き込むなって言ってるの!」

「まぁそれは冗談ですが、リゾート地には若い女性を狙う犯罪者が多いのも事実です。私達の身体能力がいくら優れていても、多勢に無勢で太刀打ちできないこともありえますから。後で武器があれば……と後悔するぐらいなら、最初から持っておいて使わないですむ事を私は選びます」


 これまでのテンションが嘘のように真顔になったアリサが冷静にそう言った。目尻を上げてアリサに怒っていたアイリスだけど、その言葉にトーンダウンしたようだ。


「……そんな事言われたら、これ以上怒れないじゃない。でもアリサ、トワ。武器があるからって無茶をしちゃダメよ?」

「もちろんです」

「善処する」

「……トワ、全然自重する気ないでしょ」

「善処は、する」


 アイリスを守るためなら、自重なんてできないからね。でも、お姉ちゃんに嘘はつけないから、私はそう答えるしかなかった。


「ところでアイリスさんはどうされますか?ミラジェミナβとやらにもギルド支部があるなら、武器を徴発しますよ」

「徴発って何よ……普通に申告して提供を受ければいいじゃない。私が自分で……って、そうか私、今ギルド籍無いんだっけ」

「ですから、私が。ご希望のものがあればおっしゃって下さいな」

「ん……じゃあ、前と同じ型のブラスターがあれば。Xthキャリバーmodel7なんだけど」

「テンスキャリバーですか?確かギルドが辺境のスクールで子供達の自衛用に配ってるものですよね?」


 Xthキャリバーとはまた懐かしい名前だなぁ。私もスクールで配布された事を覚えてる。

 辺境では子供でも自衛のための武器が必要だから10歳になったら全員に子供用ブラスターが配布されるんだ。

 10歳用のキャリバータイプだから10th……そこから転じてXth。アリサは「テンス」って言ってるけどあれは正式名称で、スクールではみんなアイリスと同じのように「エクスキャリバー」って呼んでたっけ。


 内蔵C3を調律して特性を変えたり、部品交換したりして好き好きにカスタマイズするんだよね。特に男の子達が嬉々として改造してたし、アイリスもせっせと手を入れてた。そして、私がそれを無くしちゃったんだ。ごめんね、アイリス。


 そういえば私のXthキャリバーはどうしたっけ。……そうか、配布された頃にもうパパの形見のブラスター「ガーディアン」を持ってたから、Xthキャリバーは二丁拳銃したいっていうエイミーにあげたんだっけ。


「そう。あれ、小さくて扱い易いんだよ。構造が単純だからカスタマイズもしやすいしね」

「わかりました。ギルドの標準品なら手に入り易いと思います。でもmodel7ってずいぶん前に生産終了しているはずなので……」

「そういえば私の学年がmodel7の最後で、トワの学年からmodel8になってたっけ?」

「たしか私がギルドで見た資料だと現行モデルは10か11だった気がしますけど」

「それ、もう完全に別物だよね……まぁ、銃を選ぶのは二流のすることだから、あるものでいいよ」

「承知しました。ではギルド支部に圧力を……いえ、誠実な交渉を行って徴発……いえ調達しますね」


 ペレジスを離れたせいか、微妙にアリサの化けの皮が剥がれてきている気がする。やっぱり閣下でマダムで影の支配者だよね、アリサ。国家予算がどうとか言ってたし。


「アリサ、全然隠せてない」

「なんのことですか、トワ」


 そしらぬ顔をしてアリサはごまかそうとするけど、全然ごまかせてないし、額に汗が流れてるし。まぁ、どうであれアリサはアリサだ。私の恩人で親友。それ以上でもそれ以下でもない。

 そんなやりとりをしていると、アイリスが前方を指さした。


「あ、見えてきたよ、ミラジェミナ!」


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