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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部2章『白夜の誓い』ミラジェミナβ-虚楽の双星
124/214

#2

>>Alyssa


 アイリスさんの話を聞いて、私は少し思案をしていました。基本的にお二人に対して隠し事をするつもりは無いので、話してしまっても良いとは思うのですが。

 ただこのタイミングで話すとなると、自慢話のようになるので慎み深さに欠けるというかなんというか……トワ様に引かれてしまうと困るのです。私は意を決してトワ様に声を掛けます。


「あの、トワ様?」

「アリサ、また様が付いてる」

「えっと……でも、そのアイリスさんの前で呼び捨てにするのは、烏滸がましいというかなんというか……」

「ん?トワのこと呼び捨てにするの?いいじゃない、様付けだと距離感あるし。それにアリサ、私の事は様付けしてくれないし」

「えっと……じゃあ、この話が終わったら、でいいですか?」


 これから自慢話をするのに、呼び捨てとか印象最悪じゃないですか。そんな性悪女、私だって願い下げですよ。いえ、私のことなんですけど。


「それでお話なんですが……実はですね、ラク・ダヴァローンでも話があったと思うのですが……その……」


 ああ、どう切り出したら良いのか迷っているせいか、どうしても回りくどくなってしまいます。

 トワ様は不思議そうな顔をして――いえ、表情はいつも通りですけど――アイリスさんの腕にしがみついています。アイリスさんは私が何を言おうとしているのか察したような顔をされています。

 ああ、アイリスさんに説明をお任せしたいです。私の事でなければ。


「つまりですね、セレスティエルはテロマーを参考にしているので……その、多分ですが……オリジナルであるテロマーの方が……身体能力は、高い、と思います」


 ええ、どこからみても完全に自慢話ですよね。でも今の流れでないとお話しする機会が無さそうですし、打ち明けずに身体能力が高いということがバレたらそれはそれで嫌みっぽくなるじゃないですか。


「アリサ、走るときにコケてなかった?」

「アレは左足の機能がほぼほぼ死んでいたので!」


 そうなんです。トワ様と初めて出会った頃の私はテロマーの身体能力?何ソレ?状態でした。

 日常的に受けていた拷問と極度の栄養失調、片足の機能喪失。テロマーの生命力と治癒力がなければ確実に死んでいたでしょうし、テロマーであっても半死半生の状態でしたから。

 当然歩行もままならず、大事な場面で転倒してお二人とお義父様に迷惑を掛けたりもしましたっけ。


「テロマーって普通の人と比べるとどれぐらいのポテンシャルなの?」

「計測結果だと、概ね同じ体格の女性トップアスリートの2倍の数値でした」

「トップアスリートの2倍って、もはや人外よね?」

「アイリスさん、酷いです!」

「そもそもアリサ、人間じゃないじゃない。いや、私達もだけど」

「……それもそうでしたね」


 そういえば私達全員、人間っぽいけど人間ではないので今さらでしたね。

 ともあれ、どうにか自慢話をかます嫌みな女路線は回避できたようです。私が内心安堵していると、少し考え事をしていたアイリスさんが口を開きました。


「アリサ、確かよく食べるよね。私、あれは長寿と再生能力に起因するものだと思ってたんだけど、もしかしたら身体能力の維持にも必要なのかもしれないね」

「そういえばトワ様は小食……いえ、普通ですよね」

「うん。あんまり食べられない」

「たぶん、テロマーは天然だから制御とか調整ができないんだと思う。それを参考に造られたセレスティエルはエネルギー効率を意識して能力設定してるんじゃないかな」


 アイリスさんは冷静にそう言いますが……セレスティエルってアイリスさんの事でもあるんですよね?造られたとか能力設定とか平然と口にされるのは冷静すぎてちょっと怖いです。


「でもアリサ、参考になる話をありがとう。これでちょっとセレスティエルの事が判ってきた気がするよ」

「お役に立てて良かったです」


 カミングアウトが嫌味な自慢話にならなくて一安心です。そう思っているとアイリスさんが別の話題を振ってきました。


「そういえばアリサ、昨日管理官の資格取ったみたいなこと、言ってたっけ?」

「はい、支部長に就任するのに必要でしたから」

「実技は何にした?やっぱり銃?」

「いえ、お恥ずかしながら私、銃の腕はからっきしでして……。ですので、近接武器を」

「何の話?」


 トワ様が怪訝そうな顔――ええ、もちろん普段通りの表情ですが――でそうおっしゃいました。そういえば管理官試験の話ってあまり他の人にする機会ありませんよね。


「管理官って結構身の危険にさらされる事があるらしくてね、ある程度自分で身を守れるように戦闘術の心得も必要なんだよ」

「だからアイリス、ブラスター上手いの?」

「うん。私、銃を専攻して結構練習したんだよ。10才で初めてブラスター貰った日から保安部の訓練に参加させてもらって」

「そういえばアイリス、ずっとがんばってた。偉い。素敵。好き」


 アイリスさんの腕にしがみついたままのトワ様。そのトワ様に笑顔で説明するアイリスさんの姿はまさに慈愛に満ちあふれた姉という佇まいです。

 トワ様はああいう感じがお好みなのでしょうか。というかなにげに愛の告白してませんか、トワ様!?

 私が焦っていると、目をキラキラさせてアイリスさんを褒め称えていたトワ様の表情が不意に曇りました。主に瞳の色が。


「……アイリス。もう一つ謝らないといけない事があった」

「んー、この流れだと私のブラスターについて、かな?」

「うん。ごめん……無くした」


 トワ様は心底申し訳無さそうな顔……というか目でアイリスさんに謝っておられます。


「結構改造してたから残念だけど、理由があるんでしょ?」

「うん……アルカンシェルを出港させるときにね――」


 そう言ってトワ様はアルカンシェルとの出会いを話してくださいました。ロストテクノロジーが眠る古代の小惑星で、崩落する施設からの脱出。行く手を塞ぐ瓦礫を砕くために活躍したアイリスさんのブラスターとの離別。

 その頃のトワ様にとって、アイリスさんの愛用品を手放すことがどれぐらい辛い決断だったことか。


「そっか、あの銃はちゃんとトワを守ったんだね。なら役目を果たしたんだから、何も気にしなくていいよ」

「でも、アイリスの……」

「ブラスターならまた手に入れればいいだけ。それよりトワが無事だった事のほうが大事。はい、この話はこれで終わり!」

「……うん」


 あれ?私の能力に付いての話をしていた筈なのに、いつの間にか私が蚊帳の外に置かれてる気がします……!

 なんだか釈然としませんが、アイリスさんにくっついたまま離れそうな気配すらないトワ様をみていると、今はそっとしておくのが良いかと思えました。

 そんな事を考えているとトワ様が私の方を不思議そうにみていました。


「アリサ。シノノメ管理官補じゃなかったの?」

「いえ、時間だけはありましたので試験を受けて昇進いたしました。今は管理官です。あっ、シノノメなのは今も同じですけれど」

「ほほう」

「でも、トワ様さえよろしければ……私、アリサ・エンライトになるのはやぶさかではないというか、是非そうなりたいと言うか」


 絶好の機会なので直球勝負でプロポーズしてみました。アイリスさんもいるので、このまま上手くいけば「お義姉さん、妹さんを私にください」的な展開も期待できそうです!


「ちょっと待って!?なんでどさくさに紛れて嫁入りする話になってるの!?」

「……アイリスさん、そこはスルーするのが武士の情けというものでは?」

「いやいや、アリサは武士じゃ無いでしょ?それにトワは嫁取りじゃなくて婿取りでしょ!?それならトワ・シノノメの方が……ってなんで結婚前提で話してるのよ、私!?」


 流れで押し切れると思ったのですが、混乱しながらもアイリスさんに流れを断ち切られてしまいました。さすが手強いですね……。

 まぁ、時間はいくらでもあります。なにせ私はテロマーで、お二人はセレスティエル。無限に近い寿命を持つ私たちなのですから。

 ああ、同じ刻を生きられる人がいることがこんなに幸せで心安まることだったなんて。お義父様……いえ、ウォルターの事を想いながら、そんな事を考えました。


 そういえば私達、これからその幸せを満喫しに行くんでしたっけ。アイリスさんにお任せしているので行き先も確認できていませんでしたが……さすがにそれはよろしくないので、確認しておかないと。


「ところで今回のハネムーン先なのですが……」

「ハネムーンじゃないからね?」

「いえいえ、もちろんハネムーンですよ?それで、どのような惑星なのでしょうか?白いチャペルとかもあるのでしょうか?ウェディングドレスの予約は着いてからで間に合いますか?私はAラインドレスが好みですが、トワ様はマーメイドラインが似合うと思うのですが」

「お願いだから話を聞いて!?」


 ええ、もちろん話は聞きますとも。大事なハネムーン先ですからね。

 何故かジト目で私の事を見つめるアイリスさんが行き先について話してくれました。なんでも「ミラジェミナβ」と言う名前の惑星で……リゾートに特化した星なのだとか。

 いえ、もちろんアイリスさんの言うことですから間違いは無いと思いますよ?それでも、何なんですかその「リゾート惑星」って。


「そんな星、本当にあるのですか?産業がリゾートに依存しているということですよね?」

「データを見る限り、そうだね。主要産業は観光業、宿泊業、あと飲食や小売り等。製造業は土産物や工芸品ぐらいだね」

「有り得ません」

「だよね、私もそう思う」

「アイリス、説明して」

「まぁこれは百聞は一見にしかずってやつだよ、トワ」


 トワ様が訴えかけるような目でアイリスさんを見上げて……いえ、見下ろしています。トワ様、アイリスさんより背が高いですからね……。

 それにしても、「リゾート惑星」とは本当に不思議ですね。

 私の故郷ペレジスにもリゾート地はありましたけど、惑星全体がリゾートというのは想像しづらいですし。


 普通、リゾート地とは同じ惑星内で完結するから気軽に行けるものです。でも、リゾート惑星となると星系内の移動が最低条件、場合によっては恒星間の移動が必要になるじゃないですか。

 いえ、アルカンシェルなら恒星間移動も小旅行みたいなものですけど……これはアルカンシェルが特別だからであって、普通の亜光速航行では恒星間のレジャーなんて金銭的にも時間的にも現実的だとは思えません。


 それに、惑星全体が観光特化型だというのも引っかかります。隣接地に他の産業があるリゾート地なら地域住民もリゾート利用するでしょうけど、惑星全体が観光産業だけで成り立っているとすると、全員が観光業の関係者。つまり「地元の観光客」すらいないとになります。


 外から来る観光客だけでそんな大規模な経済が回るなんて、どう考えても不自然です。恒星間移動が前提なら余計に。


 ミラジェミナβという惑星……いったいどうやってそんな経済モデルで成立しているのでしょうか?私がそんな事を考えている間に、トワ様もまた別のことを考えておられたようです。


「アイリス」

「うん、どうしたの?」

「リゾート惑星って、駐機場お高い?」

「ああ、そういうのあるよね。観光地価格とかぼったくりとか」

「観光地怖い……」


 そういえばトワ様はペレジスでも駐機場のお値段を気にされていました。

 でもそれは当然のこと。なにせ航宙船はその巨大さや複雑さから運用コストも莫大な金額になります。軌道ステーションに駐めておくだけでも一財産が必要な程度に。

 要するに、よほどの資産家でもないかぎり個人で持つようなモノではないのです、航宙船は。


 トワ様はSランクシンガーという類い希な才能をフル活用されてなんとかアルカンシェルを維持されていたようですが、普通はそんなことはできません。さすがトワ様、生活力まで優れているなんて惚れ直してしまいます。


 でも、リゾート地に滞在している間、ずっと駐機料が掛かるのは精神衛生上よろしくありませんよね。さすがにペレジスの時のように、私の権力でうやむやにするという訳にもいきませんし。


「ん?それならアルカンシェルは停泊エリア外でアンカー打って停泊させて、私達はブリーズで行けばいいじゃない。軌道ステーションも小型艇料金だと安く済むよ?」

「ブリーズ?何それ?」

「アルカンシェルの艦載艇」


 えっと、私も初耳です。そんなの積んでたんですか?というかどうして船の持ち主であるトワ様が不思議そうな顔をしているのですか?

 そしてどうして昨日アルカンシェルに乗ったばかりのアイリスさんが、持ち主の知らない事を知ってるんですか!?


「アルカンシェルに聞いたら判るよ。トワ、ブリッジ行ってみる?」

「うん」

「あっ、私も行きます!」


 下手するとそのまま二人でブリーズとやらに乗ってリゾート惑星へ出発される……なんて事は無いと思いますが、念のために私もついて行くことにします。ブリーズとやらも気になりますしね。


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