#12
>>Alyssa
アルカンシェルはダンディライアンに無事到着しました。モルガンとフロルデは礼を言って下船してゆきましたが……あれ、私達依頼を受けたのに、報酬の話とかしていませんでしたっけ。
いえ、トワ様にとってはアイリスさんの再生は何物にも代えがたい価値がある報酬なのでしょうけど。長くギルドの仕事をしていたせいか報酬なしの仕事というのは少し違和感がありました。
しかしまぁ、今回は仕方ないでしょう。そして、モルガン達と入れ替わりになるタイミングでオズワルドさんがやってきました。
「シンガー殿、改修作業を始めていいか?」
そういえば船内設備を更新する話をしていたんでしたっけ。私にはもう関係の無いお話になっていまいましたが……。アイリスさんにくっついたままのトワ様がオズワルドさんと話しています。
「追加して欲しいものがある」
「なんなりと、シンガー殿」
「ベッド。2つ追加で」
「承知した」
ああ、アイリスさんとトワ様の分ですね。少しだけ……ほんの少しだけ心が痛みますが、これは望みうる最良の結果です。私が文句を言ったり、口を挟むことではありません。
私が願うのは自分の幸せではなく、トワ様の幸せ。そのお手伝いが出来ただけでも十二分に僥倖なのですから。
「支払い、いくら?」
「フロルデを助けて頂いた礼として、モルガンから無償で可能な限りの協力を行うよう指示されている」
「いいの?」
「あなた方はそれに見合う事をしてくださった。私も異存は無い」
あら、モルガンったらちゃんとお礼する気があったのですね。少しだけ見直しました。そんな事を思っているとトワ様が発注した家具や機材が次々とアルカンシェルに運び込まれていきます。
最新型のシステムキッチン……使ってみたかったです。
作業に自動機械が大量に投入された事もあり、船内リフォームはあっという間に終わりました。これでアルカンシェルの生活環境は劇的に改善したはずです。
いいなぁ、私も旅をしたかったです。でも、野暮なことは言いません。あ、でもここへ置いて行かれるのはさすがに困りますので、トワ様に少しだけわがままを言わせて頂こうかと思います。
「トワ様?」
「アリサ、また様になってる」
「……その、どこか適当な星まで乗せて頂けませんか?あとは一人で帰れますので」
「え?」
「もちろん、お邪魔なのは理解していますが……」
「そうじゃなくて。アリサ」
「はい」
「一緒に、来てくれないの?」
「え?」
トワ様が何を言っているのかわかりませんでした。私は……あくまでもトワ様が希望を取り戻すために、約束の地までの案内をさせて頂いただけです。約束が果たされた後は、私の役目はもうありません。
それにアイリスさんが戻られた以上、私の居場所もありませんから。だから私は一人でペレジスへ帰るつもりだったのですが……トワ様は、今なんと……?
「アリサ、一緒に旅してくれるって言ってた」
「それは、その……よろしいのですか?」
「当たり前」
「アリサ、水くさいよ?旅は道連れって言うでしょ?あなたが帰りたいなら止めはしないけど……そうじゃないなら、一緒に行こ?100年も経ってるならペレジスの混乱も収まったんでしょ?なら、私もあなたと一緒に旅したいし」
アイリスさんまで、そう言ってくださいます。いいのでしょうか?本当に?姉妹水入らずの旅に私が同行しても……?
「お邪魔では、ないのですか?」
「全然。ベッドも3つになった」
「あっ」
そういえばトワ様はベッドを2つ発注されていました。私、それはトワ様とアイリスさんのベッドだと思っていたのですが……アルカンシェルには元々1つありましたよね、ベッド。ということは最初からトワ様は……。
「嬉しいです、トワ様!一生お供させて頂きます!」
「ア、アリサ!私ごとトワを抱きしめないで……って言うか苦しい、なんでそんなに力強いのよ!ギブ、ギブ!トワも離れて!」
もみくちゃになっている私達を、オズワルドさんが興味なさげな様子で見つめていました。船のこと以外は本当に興味ないんですね、この人。
その後、私達はダンディライアンを離れました。出港時に私がモルガンに謝ったり、フロルデが同行したいと騒いだり、オズワルドさんがアルカンシェルを物欲しげに見つめていたりと色々とあったのですが、私にとってそれはもはやどうでも良いことでした。
だって、私……これからもトワ様と、アイリスさんと3人で旅が出来るのですから!
アイリスさんの再生と私達の旅立ちを祝うために、私はシャンパンを開けました。つまみ?そんなささいな事は気にしません。今開けずして、いつ開けるというのですか!
極上のシャンパンをたしなみながら、まず話し合ったのは部屋割り。旅を続けるということはアルカンシェルが私達の家になるのですから、生活のルールや役割分担を決めておいた方が良いだろうということになったのです。
私はトワ様と同室が良いと強く強く主張したのですが、2対1の多数決で却下されてしまいました。民主主義とか、宇宙から根絶されればいいのに。
でも、最低限トワ様の隣室は譲れません。一方でトワ様はアイリスさんの隣室がいいと……。過去の女である私の事なんて、どうでも良いのですね。よよよ。
「ねぇアリサ?あなたそんなキャラだっけ?」
アイリスさんが呆れたようにそう言います。トワ様にも言われたような気がしますが、私は元々こんな感じだったと自分では思っているのですが。
お二人と出会ったときはちょっとアレな感じだったかもしれませんが。
結局部屋割りは、ラウンジに近い方からアイリスさん、トワ様、私の部屋になりました。まぁ私室と言っても寝るときに使うぐらいで、普段は今こうしているようにラウンジでいる事が多くなると思いますけどね。
ちなみに料理担当は私です。愛妻料理をふるまうために、これだけは譲りませんでした。
>>Iris
「アイリスに、謝らないといけないことがある」
アリサが持ち込んでいた高級シャンパンを3人で楽しみながら、これまでの事を教えて貰っていると、話の最中に急にトワがそんな事を言い出した。
もの凄くどんよりとした瞳だ。まだなにか告白することがあるの?私が思わず身構えていると、トワは見覚えのあるトランクを引っ張り出してきた。
そしてトランクの中から取り出したのは…ボロボロで赤黒い染みが全体に付着したワンピース。
「アイリスの服、駄目にした。ごめん」
「ごめんというか、どうしたの?それ……血痕だよね?」
「これ着て、私は死んだ」
「!!!」
死んだ!?トワが!?じゃあ、この子も私と同じで、再生されたの!?
「トワ……!?」
「大丈夫。私はセレスティエルだから、復活した」
なんかとんでもない事をさっらっと言ったよ、この子。隣のアリサを見ると目を丸くして絶句している。
あっ、この話はアリサも知らなかったんだな。ごめんね、アリサ。でもトワってこういう子だから。
「復活って、どういうこと?」
「死んでもしばらくしたらリブートする。だから大丈夫」
元々規格外な妹だと思ってたけど、もはや規格がどうとか言うレベルじゃなかった。私の理解を超えていた。
それにリブート?なにそれ。セレスティエルだから……ということは、私もそんな力があるの?
「そんな事よりワンピースのこと」
「いや、逆だよね?普通ワンピースが『そんな事』で、復活したっていう方が大事だよね!?」
隣でアリサがうんうんと頷いている。よかった、私の方が正常で多数派だった。普通に考えたら服より生き返りの方が重要でしょうに。
「でも、なんで私の服を……」
そこまで口にして、トワが私の服を着ていた理由に気がついた。私が死んで寂しかったんだろう。
この子は感情を顔にも口にもあまり出さないけど、それは感情が無いということではない。ただ表に出せないだけで、本当は人一倍感受性の強い、感情豊かな子なんだから。
まぁ、それに気付いてるのは、故郷でも私と父さんぐらいだったけどね。
「……ごめんね、トワ。服のことは気にしてない。それより、体は大丈夫なの?」
「傷一つ無い。見る?」
そう言って服を脱ごうとするトワを慌てて止めた。アリサがもの凄く残念そうな顔をしていたことに気づき、私はげんなりした。
これからはトワに服を着せるだけでなく、アリサからトワの貞操を守る必要もあるのか……朝の日課が大変な事になりそうだ。
それにしてもセレスティエルという存在……一体何なんだろうか。私もセレスティエルになった、らしいけど。
さっきの口ぶりだとトワも詳しい事は知らなさそうだった。その割には死ぬ事に無頓着というか、死んでも平気という楽天的な考えになっているようにも思えた。
それって危険だよね?リブートとやらが常に、そして何度も発現する便利な力だとは到底思えないから。
もし力を過信して本当に命を落とすような事になったら……?それは駄目だ。未知の力を過信するのは危険すぎる。自分の事を知るために……いや、それ以上にトワを守るために。セレスティエルに関する正確な情報を集めないと。
そんな事を考えていると、トワがボロボロのワンピースを抱きしめたままじっと私の方を見ている事に気がついた。ワンピースが私の「死」の記憶を呼び起こしているのかもしれない。私はトワの手からワンピースをそっと抜き取ると、告げた。
「トワ。次の寄港地で服を買いに行こうか。私の服って100年以上前のデザインになってるだろうから、新しいのが欲しいし。おそろいで新しいのを揃えようよ」
「……私のはいらないけど……でも、判った」
「私はっ!私はお揃いじゃないんですか!?」
「いや、3人で同じ服着てたら何かの制服みたいじゃない。せいぜいペアルックまでじゃない?」
「アイリスさん、ひどいです、いじめです、人権侵害です!ギルド憲章違反では!?」
「あなた、本当にアリサ?そんなキャラじゃなかった気がするんだけど……」
そう口にはしたが、薄々は判っていた。アリサはトワに再会するまで100年待ったというし、押さえていた衝動や感情がダダ漏れになっているんだろうって。それに……たぶん「100年前のアリサ」が元々のアリサだったとも限らないしね。
本来のアリサはこういう明るい子で、絶望の中で彷徨っていたアリサの方が異常だったとすれば、辻褄もあう。まぁ、本当かどうかはアリサに確認しないと判らないけど、無理に明らかにするような話でもない。これが今のアリサだと思って、受け入れたらいいんだから。
「じゃあアリサ、私とペアルックにする?」
「えっ……あっ、その……。はい、それも良いかもです」
「アリサ、ずるい。私がアイリスとペアルックする」
暴走しがちだけど、可愛いところはあるんだよね、アリサ。そしてトワはちゃっかり乗っかってくるし。結局、3人で揃いの服を着ることになりそうだけど……まぁ、それはそれでいいかと思った。もちろん、差し色とアレンジだけはちゃんと変えるつもりけどね。
「それで、次の行き先なんだけど」
私がそう切り出すと、トワもアリサもこちらをじっと見つめてくる。
「さしあたって急ぎで行くところもないし……2人が良ければ、骨休めにリゾート惑星とかどう?マリンリゾートとか楽しそうじゃない?」
「「賛成!」」
満場一致で行き先が決まった。ここは故郷から遠く離れた星域で私達には土地勘が無かったけど、アルカンシェルに条件を指示すると良さそうな星海洋惑星を選んでくれた。
まだ見ぬ星へ向けて。私達は――3人で、旅立つ。
第2部1章はこれにて終了です。
3人とアルカンシェルが揃ったここから、本当の物語が始まります
今後の展開にもご期待下さい!
なお次回の幕間は本編終了後の夜、ラウンジで独り物思いにふけるアイリスのお話です
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