#11
>>Alyssa
アイリスさんは本当にすごい人です。一瞬でトワ様を立ち直らせてしまいました。
いえ、元々トワ様の心を苦しめていたのはアイリスさんの死なのですから、それが解消されれば問題が解決するのは自明の理。
でも、それでもです。トワ様が造られた存在であること。ご自身が死んで復活したこと。そして人ではなくなったこと。全てを平然と受け入れられている、あの器の大きさ……完敗です。
いえ、大丈夫よアリサ。アイリスさんはライバルじゃないから。トワ様の姉妹だから。
ですよね?本当に姉妹ですよね?恋愛感情とかないですよね?もしあったら、私、絶対に太刀打ちできないじゃないですか!
「ねぇアリサ?」
「……は、はいっ!」
「変なこと考えてたでしょ?」
「ナンノコトデスカー」
「まぁいいけど。とりあえず、服貸してくれてありがと。危うくトワみたいに全裸で辺りをうろつくことになるところだったよ……」
「トワ様、そんな素敵なことをされてたんですか!?」
「いや、全然素敵じゃないからね?あの子に服着せるのに私が毎朝どれだけ悪戦苦闘してたか――」
「お姉ちゃん。私も、仲間に入れて。寂しい」
私とアイリスさんが100年ぶり――彼女にとっては半月ぶり――の旧交を温めていると、トワ様がアイリスさんの腕にしがみついてきました。なんですか、この可愛い仕草は。そしてどうして私ではなくアイリスさんにしがみつくのですか!
……いえ、それは疑問に思う事ではなかったですね。
「ねーモルガン、あれって三角関係ってやつー?」
「私に聞かないでください。あとフロルデ、人を指さすのはやめなさい」
「はーい、わかったよー、おねーちゃん」
なんですか、あっちも姉妹なのですか?それじゃあ、この場で私だけがボッチじゃないですか!どうして私には姉も妹もいないんですか!?トワ様じゃなくて、私の方が寂しい子になってるじゃないですか……!
>>Towa
アイリスだ!アイリスが帰ってきた!
心配していた、知らないアイリスじゃない。私の大事なお姉ちゃんが帰ってきた!
嬉しい。嬉しい!嬉しい!!
アイリスが動いて、しゃべっている。私の名前を呼んで、私に微笑んでくれている。それだけで、ただ嬉しい。他のことが何も考えられない。
アイリスがアリサと仲よさそうに話している。前ならなんとも思わなかったのに、今はちょっとヤキモキする。
アイリス、私を一人にしないで。私はアイリスと一緒に居たい。
「お姉ちゃん。私も、仲間に入れて。寂しい」
勝手に口がそんな事を口走っていた。勝手に体がアイリスの腕に抱きついていた。自分が抑えられない。
でも、それでもいいと思った。絶望の闇は完全に私の中から消えた。だって、アイリスがここにいるんだから。私はもう悲しくない。何も怖くない。
だからアイリス。
どこにも行かないで。
もう、私を一人にしないで。
>>Iris
腕にしがみついたトワが離れてくれない。
この子が受けた心の傷を思えば仕方のないことだけど……これまでこんなにベタベタ甘えてきたことなんて一度も無かったのに。
トワの養父であったアルフレッドおじさんが亡くなったときですら、こんな反応じゃなかった。これは、結構まずい状態なのかもしれない。表面上トワは平穏を取り戻しているように見えるけど、私の死がつけた心の傷はきっと塞がっていない。そう思った。
安心させるだけなら、ただ甘やかすのも一つの手だろう。だけど……このまま甘やかし続けるとトワは私に依存し続け、だめになってしまうかもしれない。
どこかの星に腰を落ち着けて2人で……いや、アリサも含めて3人で暮らすならそれでも良いだろう。でも、私は。そして以前のトワもそんな生活を望んでいない。
なら、ちゃんと自分の足で立って前へ進めるようにトワを支えることが姉としての私の役目だ。ほどほどに甘やかし、ほどほどに自立を促す。
難しいさじ加減だけど、私なら大丈夫だ。だって私はトワのお姉ちゃんなんだからね。
「ところでトワ?ここってどこなの?クレリス?」
「違う。ここはアヴァローン」
「……アヴァローン?聞いたことがない惑星だね……?」
「アイリスさん、ここ……惑星じゃないんです。200連高エネルギー砲とか言う物騒なもので守られた武装衛星なんです」
え、何その物騒な兵器。なんでそんな怪しい軍事施設みたいな所にいるのよ、私。
「アリサ様、20連です」
「おだまり、モルガン!」
「おねーちゃん、おこられたー」
良くわからないけど、この機族はアリサの下僕かなにかなんだろうか。そういえばトワから私に関する事情は聞いたけど、他のことはまだ何も聞いていなかった。
この場にいる機族のことも含めて情報を収集しないと。私は腕にしがみついたままのトワの頭をなでながら、3人……1人と2機……に話を聞いた。
「つまり、ここは機族を再生させるプラントのようなもので、再生を手助けする依頼を受けたってこと?」
「はい。私が予知でここ……とちょっと違う機動要塞を見たので、そこへトワ様を案内して」
「えっ?アリサ、予知が戻ったの?」
「はい、おかげさまで」
「大丈夫?辛い目に遭ってない?ペレジスでちゃんと幸せに生活できてた?」
「アイリス、アリサは閣下でマダムで影の支配者をやってた」
「何、それ……。」
「あと、映画にも主演してた」
「……アリサ?」
「ごめんなさい、全て事実です」
余計に訳がわからなくなった。特にアリサ、あなた私達と別れてからなにをやってたのよ……。状況は不明なままだけど、とりあえず立ち話でどうにかなるレベルではない事は把握できたので、ひとまず良しとしよう。
「それで、この200連エネルギー衛星とやらにはどうやって来たの?チャーター船でも出して貰ったの?」
「20連です、アイリス様」
「こまかい機族ね……」
「ここへはトワ様の航宙船、アルカンシェルで来ました」
「え?トワ、いつの間に航宙船なんか手に入れたの?めちゃくちゃ高いでしょ、あれ」
「拾った。褒めて、アイリス」
髪をなでられ、まるで子犬のように私の腕にじゃれついていたトワが得意げな声でそういう。我が妹ながら可愛いんだけど……その言葉の内容はちょっとおかしかった。
「待って。拾ったって……何を?」
「アルカンシェル」
「子猫か子犬の名前?」
「ううん。船」
「落ちてるものなの?船って」
「落ちてたよ。私も墜ちたけど」
もう訳がわからなすぎる。アリサに視線で助けを求めると、黙って首を左右に振られた、どうやらこの件に関してはアリサも理解不能な目にあってるらしい。ああ、理解者がいるって素晴らしい。
「トワ様、アイリスさん、ここで話をしているのもなんですし、アルカンシェルへ戻りましょう。モルガン、もうここに用はないですね?」
「はい、アリサ様」
「ワタシも早く帰って仕事したーい!」
そういうことで、トワが拾ったと主張するアルカンシェルという航宙船に戻ることになった。いや、でもどこに落ちてるのよ、航宙船。
拾った、と聞いたので中古で型落ちしたジャンク貨物船でも見つけたのだろうと思っていたんだけど。
何、これ。どこからどうみても新品だし。そもそも航宙船に必要の無い空力を意識したデザインは……どちらかというとエアロプレーンに近いし。というかレゾナンスドライブ付いてないよね、この船。
「トワ?」
「アルカンシェルだよ」
どうやらトワに聞いてもダメなようだ。なら……一番大人に見える機族、確かモルガンと呼ばれていた彼女に聞いてみよう。
「モルガンさん」
「はい。なんでしょうか、アイリス様」
「この船は一体?」
「いえ、私達は同乗させて頂いただけなので……トワ様にお聞きください」
あれ?何か知ってそうだと思ったのに、完全に空振り!?
「アイリス、乗って。案内する」
「わかったから引っ張らないで……こらアリサ、羨ましそうな顔してないで止めてよ!」
トワに腕を引っ張られながら、アルカンシェルという航宙船の中に足を踏み入れる。
――アルカンシェルは見た目以上にアレな船だった。個室に置かれた普通のベッド。ラウンジには応接セットとソファ。極めつけに、階段。
「トワ」
「なに?」
「この船……ロストテクノロジーの船なの?」
「どうしてわかったの?」
「いや、これどう見ても完璧な重力制御が前提な構造と装備じゃない……」
「お姉ちゃん、すごい」
拾った、というのは誇張ではなかったんだろう。おそらく、古代遺跡とかで本当に拾ったのだ思った。
だってこんな船、逆に拾う以外の入手方法思いつかないからね……。それにしても私がいなかった間にいったいどんな冒険をしてたんだ、この子は。
あと、どさくさにまぎれてさらっと姉呼びしてるけど、わざと?それとも無意識?いや、姉と呼ばれるのは嬉しいからあえて指摘はしないけど。
ブリッジに上がり、航路設定が音声指示で行える……つまりトワ一人でも動かせる事に驚きつつも納得し、動き始めた船が超光速航行を行った事に驚愕し。
なんだか目覚めてから、驚きの連続だった怒濤の一日はようやく終わりを告げようとしていた。
睡眠や休憩をとる必要がない機族達はブリッジで待機し、今日は遠慮すると殊勝な態度で言ったアリサはラウンジのソファで休んでいる。
そして……私とトワは寝室で2人、到着までの時間を過ごす事になった。いや、私はさっき「起きた」ところだから休む必要は無いんだけど……抱きついたまま離れないんだよ、この子。
でもそれも仕方ないことだった。トワが断片的に話す内容を総合すると、どうも私がいない間に主観時間で一年近く、記憶も意識も曖昧なまま一人で宇宙を彷徨ってたらしいんだよ、トワは。
そんな話を聞いたら、とてもじゃないけど自立させるとか言えなくなってしまった。どれだけこの子の心を傷つけてたのよ、私。
自分が死んだ事も、再生された事もまだ実感は無いけど、もし死んだままだったら……?
私は別にいいんだ。死んだ本人には意識も感情もないから。でも、トワは?
少しずつ壊れていって、取り返しが付かなくなって……その先は考えることすら恐ろしい状況になってたんじゃないだろうか。
いや、今のトワが取り返しがつく状況なのかどうかすら判らない。私の腕の中で安心しきった様子で眠るトワの顔を見ながら、そんな事を考えた。
確認したいこと、知りたいことは山ほどある。でも、そんなのは全部後回しだ。今はただ……トワを守らないと。




