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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部1章『絆のエレメント』アヴァローン-輪廻の浮島
116/211

#7

>>Towa


 アリサが扉を開いてくれたラク・ダヴァローンという名前の施設の中は……研究所のような不思議な場所だった。

 中央には機族のボディが収納されていたポッドよりも二回りほど大きな円筒。いや、良くわからない液体が満たされたあれは水槽と言った方がいいかな?その手前に大きな制御パネル。

 それと奥側の二面の壁は全て大きな物理モニタになっているけど、今は何も映されていない。


 私とアリサは室内に入り、周囲を見回していたけどモルガンさんは室内に入ってこない。入室が禁じられているのかと思って、声を掛けようとしたけど……どうも様子が変だ。

 歩き出そうとした姿勢のままで……固まってる?それに目の部分が不規則に明滅してる。

 私の視線に気付いたのか、アリサもモルガンさんの方を怪訝な顔で見ている。


「生体認証でしたし、機族の入室が禁止されてるということなのでしょうか……?」

「私も、そう思った」


 扉の外へ押し出せば再び動き出してくれるだろうか。そんな事を考えていると。モルガンさんが姿勢を正し、これまでの彼女とは違う無個性で機械的な声でしゃべり出した。


「――配信データ受信。ダウンロード完了。ラク・ダヴァローンに関する知識を獲得。ようこそ、同胞。我々はあなたを歓迎する」

「モルガン、さん?」

「当ユニットは一時的に『ラク・ダヴァローン』の管制下にある。ラク・ダヴァローン退室後、ユニットの個性は復元される」


 よく見ると動き方までぎこちない。目の明滅は止まっているけど、センサーの奥で赤い光が灯っていて見るからに異常な状態に見える。

 もしかしてこの「部屋」に乗っ取られてる?でも、退室すれば元に戻るということは……悪意でやってるんじゃないよね?


「ちゃんと、戻る?」

「認証……確認。エトワール型セレスティエル。警告:セレスティエルは施設を利用不可」

「……けち」

「トワ様に使わせないとか、ありえません!何なんですか、ここは!」

「回答:当施設はセレスティエル製造拠点。エレメントを用いたセレスティエル製造が可能」


 モルガンさんの言葉に、寒気が走った。

 セレスティエルを……製造、する……?この部屋が、私が産まれた場所ってこと……?こんな、機械だらけのところが、私の本当の故郷なの……?


「モルガンっ!あなた、それ以上言うと許しませんよっ!!」


 呆然としている私の横でアリサが激怒している。いや、激怒してくれている。私のために。でも……。


「……アリサ」

「トワ様っ、すぐここを出ましょう。機族連中の事はもういいです。私の予知が間違っていました。ここにいてはいけません!」

「でも」

「大丈夫です、私はあなたを愛しています。だから、トワ様、もうここはいいですから!」

「ありがとう。でも、大丈夫。ちょっと、驚いただけ」

「でも……」

「心配してくれて、ありがとう。怒ってくれて、ありがとう。でも、本当に大丈夫」


 言葉が思うように出ないことがもどかしい。どうして私の口は心に浮かぶ感謝の気持ちをそのまま伝えられないんだろう。こんなにアリサに感謝しているのに。その千分の一も言葉に出来ない。でも。


 ――ああ、そうか。これこそが、私が「造られた」存在だということの証なのか。そう考えると、ちょっとだけ、腑に落ちた。


「モルガン、教えて欲しい事がある」

「警告:セレスティエルは施設を利用不可」

「モルガンっ!私が命じます!トワ様の要求には全て応えなさいっ!一切の口答えと拒否を禁止します!」

「命令、受諾。質問を、セレスティエル」

「あと、セレスティエルと呼ぶなっ!この人の名は……トワ、トワ・エンライトだ!」

「命令、受諾:質問を、トワ」

「トワ様、質問を。こいつがふざけたことを言い出したら、私がとっちめてやりますから」


 アリサ、嬉しいけど……ちょっと怖いよ。威圧オーラを通り越してキリング・オーラになってるし……でも、後でちゃんとお礼を言わないと。私に何が出来るかは判らないけど。

 気を取り直してモルガン……の形をした、ラク・ダヴァローンに質問をする。


「私が持ってるこの虹水晶は、ここで使うもの?」

「照合中………………不明。エレメントと類似する特徴あり。ただし既存のエレメントに該当なし」

「エレメントって何?私もエレメントなの?」

「あなたはエトワール。存在を構成するエレメントの種類はは『歌』」


 ……私は「歌」。そういえばG15も言ってたっけ。


『エトワールとは歌。エトワールが存在する限り、歌は不滅』


 つまり私自身が歌で出来てるって事……?良くわからないよ……。


「モルガンっ!トワ様が困っておられます!エレメントが何なのか、簡潔に説明しなさい!50文字以内で!」

「エレメントとは銀河の記憶を凝縮した水晶型装置。自然や歴史などの概念を情報として具現化したエネルギー体」


 アリサの無茶ぶりに、けなげに応えるラク・ダヴァローン。ちょっと可哀相になってきた。でも概念を情報化……?

 私は歌の概念で出来てるってことなのかな?じゃあもしかして……。


「私が上手く喋れないのはエレメントのせい?」

「肯定。エトワールは『歌』に特化。エトワールの想いは『歌』に集約される」


 そっか、確かにこれまでも歌なら気持ちをちゃんと伝えられてたっけ。そういうことなのか。

 なんだ、コミュ障なのは私のせいじゃなかったのか。いや、私がエトワールだからということは、私のせい?

 まぁ、どっちでもいいか。私は私。今まで通りだし、理由がわかってむしろすっきりした。だって、どうしても気持ちを伝えたければ歌えば良いんだからね。


「私が歌えなくなったら、ちゃんと言葉が出る?」

「不明。ただし、推論として、肯定。推論の確度76.4%」


 歌か言葉かの二択か……。願いを叶えるために声を失った人魚の物語を思い出しちゃった。まぁ私は人魚姫みたいに誰かに恋して身を投げるなんてことはないだろうけどね。それよりも虹水晶だ。


「ならこれは……あなたの知らないエレメント?」

「推論として、肯定。推論の確度89.2%」

「なら、ここで使っていい?」

「施設の使用にはテロマーの許可――」

「即時許可っ!!」

「命令、受諾」


 激おこアリサ、怖いけど役に立つなぁ……。でも、普段のアリサに戻って欲しい。あと、キリング・オーラは引っ込めて欲しい。

 そんな事を思っていると水槽の前にあった操作パネルがスライドしてスロットが露出した。本当に好きだよね、スロット隠すの。


「ここへ入れるの?」

「肯定」


 念のため確認したけど、間違いないらしい。私が虹水晶をスロットに格納すると、パネルがスライドして虹水晶が機械の内部に収納された。


[C3-Data Integrity...100.00%]

[Element Matching....MATCHED]

[Element-based Construction INITIATED.]


「えっ?」

「トワ様?どうされました?こいつがまた何かやらかしましたか!?」


 仁王立ちしてモルガンさんのボディを睨み付けていたアリサが私の所へ駆けつけてきたけど、私の目はモニタの表示に釘付けになっていた。


「製造開始になってる」

「モルガンっ!何勝手なことしてやがりますかっ!」

「テロマーによる即時許可を先行受諾し、処理を開始」

「私のせいですかっ!……トワ様、ごめんなさい。私、やらかしました……」

「あはは、いいよ、アリサ。ありがとう」


 しょんぼりしているアリサを見ていると、自然と笑い声が出た。まぁ、何かは判らないけど、もともとはここで使えるものだったらしいなら……これで虹水晶も輪廻できたって事だよね。

 ふと見ると壁面のモニタが点灯している。表示されているのは……二重螺旋と人体図。そして所要時間らしき数字が36時間から少しずつ減っていく。セレスティエルを「製造」してるんだろうか。でも、何のエレメントで?


「トワ様、あそこを見てください」


 アリサが指さすのは私が見ていた方とは別のモニタ。そこに書かれていたのは


[Element: Human]

[Element: Ties]


 ……人間……と、もう一つは……?


「ネクタイ?」


 脳裏に全裸でネクタイだけを締めた変態さんの姿が浮かんだ。えっ、私変質者のエレメントを首からさげてたの?


「違います、あれは……たぶん……『絆』です」


 よかった、ちょっとドキドキした。でも絆?どういう意味?良くわからないけど……36時間後には判るなら、待つしかないかな。

 そう納得した私は、アリサと共にラク・ダヴァローンを出ることにした。外に出ても扉は開放されたままになっているけど、私達以外は誰も居ないから問題ないのかな?


 ――そして、部屋を出た途端モルガンさんは元に戻った。自分が「管制下」にあった事は認識しているみたいだったけど、何があったのかまでは判らないらしい。

 なのでアリサの当たりが急にきつくなった事に困惑していたよ……ごめんね。モルガンさんに事情を説明したけど、若干腑に落ちない様子だった。

 ねぇアリサ、モルガンさんは悪くないから許してあげてよ。


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