#5
>>Towa
アヴァローンの内部はダンディライアン以上に自動化されていた。いや、自動化という以前に私達以外は誰も――機族も――いない。
やっぱりここはG15の星と似たものを感じる。元々は人が居たのに、今は無人。ただ、G15の星は放棄された場所だったけど、ここは現役で保守されているというところは違うけど。
あ、モルガンさんがアルカンシェルに積み込まれた大きなコンテナを搬出している。
「手伝う?」
「いえ、これはトワ様達には運べない重さなので。それに、私の仲間のボディだったものですから」
人間風に言えば、遺体を運んでる……って事だよね。そう思った瞬間、それまでただのコンテナに見えていたものが、急に棺のように見えてきた。
アイリスの棺が……宇宙に向かって飛び去った光景を思い出し、胸の奥がズキズキと痛んだ。息が苦しくなってくる。アイリス。お姉ちゃん……。
「トワ、あれは……違います。あれは……ただの破損した機械です。あれは棺ではありません」
私の様子がおかしくなった事に気付いたのか、そっと近寄ってきたアリサがモルガンさんに聞こえないような小声でそう言ってくれる。
どうしてこの子は私が考えていることが判るんだろう。そう思ってアリサの顔を見つめる。
「判りますよ、トワの事なら。なんでも……とは言えませんけど、ある程度なら。だって、ずっと見てますから」
「じゃあ、今何考えてるか当てて」
「……お腹が空いた、とかでしょうか?」
「はずれ」
今は、アリサに感謝してるんだよ。たぶん、アリサも判ってふざけてくれている。本当に良い子だ。アリサが一緒にいてくれることが心強い……でも、頼り過ぎちゃダメだ。私は、大丈夫なんだから。
「もう、大丈夫。行こう、アリサ」
「はい、トワ様!」
アヴァローンの中はアルカンシェル同様完全な重力制御が行われていた。大空白後に建造されたというダンディライアンとはやはり技術力に大きな差があるみたいだ。
コンテナを運ぶモルガンさんの後に続いて通路を歩く。全面ガラス張りになった通路の下には、豊かな自然と高度な技術で造られた自動機械が融和した……とても不思議な光景が広がっていた。
ここを造ったのはテロマーらしいけど、テロマーは技術だけでなく自然も大事にしていたのかな?……わざわざ人工衛星を作ってそこに自然を持ち込むのは少し理解に苦しむけど。
いくつかの中継点を経由して通路を進み、やがてモルガンさんが立ち止まったのは少し開けたホールのような所だった。このエリア一帯は自然よりも機械が多く、工場のような印象になっている。
「ここでパーツを『再生の湖』へ戻します。少しお待ちください」
モルガンさんは壁際に設けられたハッチを開き、コンテナをそのまま内部へ押し込んだ。その姿に少しだけほっとした。
だってもしコンテナを開けて中身を見せられたら……ちょっと耐えられなかったかもしれないから。実態としてはリサイクル用素材の回収なのかもしれないけど、それでも私にはこれが……死を悼む行為に見えた。
だから、私はギルドの弔いの言葉を無意識に口にしていた。
「魂の輝きが、永遠に水晶に宿りますように」
その言葉にモルガンさんは一瞬だけ動きを止めた。それは不思議に思ったのか、それとも私の弔意を感じ取ってくれたのかはわからない。だけど、表情を変えることができないはずのモルガンさんが、微笑んでくれたように思えた。
「そのボディが再生されるのを待つのですか?」
「いえ、再生処理には時間が掛かります。フロルデのボディは既に再生された別のものを使います」
アリサはモルガンさんにそう聞いていた。フロルデというのが今回スペアボディが用意できなかった機族の名前らしい。そういえば名前も聞いてなかったな……ちょっと失礼だったかも。そんなことを考えていると、アリサがさらに疑問を投げかけていた。
「その再生プロセスは……私達が見ても良いものなのですか?」
「はい。あなた方には私達の輪廻を見て頂きたいのです。では奥へ。そちらでフロルデの再生を行います」
アリサの問いにモルガンさんが答える。輪廻。それは車輪が回るように、生と死を繰り返す様をしめす言葉だったはず。機族の再生にこれほど相応しい言葉は無いよね……。そんな事を考えながら、モルガンさんに示されるまま、私達は施設の奥へと進んでいく。
無数に並んだ円筒型のポッド。そこに収納された多数の機族。これは……冷凍睡眠?いや、冷却している様子はないけど……。隣にいるアリサも目を丸くして立ち並ぶポッドを見つめている。
「ここは再生されたボディを保管するストレージです。フロルデのボディ型式はF-03B14型なので……二つ先のブロックに保管されているものが使えます」
よく見るとポッドの中に収納されているボディには少しずつ違いがあることに気が付いた。
男性型と女性型。
背の高いものと低いもの。
細身のものとのぽっちゃりしたもの。
……どうして機族に体型のバリュエーションがあるのかは判らないけど、きっと何か意味があるんだろう。
私はフロルデと言う人と面識がないので、どれがその人に適合するかなんて判らないけど、モルガンさんが言うなら間違いないだろう。
ポッドの合間を縫って進み、やがて目的の場所にたどり着いた。ここに保管されているのは……私達とあまり背丈の変わらない、小型の女性ボディ。そうか、フロルデというヒトは……。
「女の子?」
「私達には性別という概念はありませんが、私やフロルデの精神モデルは人間の女性を模しています。そういう意味では、フロルデは少女、と言えるかもしれません」
「そっか……ちゃんと再生できるといいね」
「はい。トワ様に連れてきて頂いたので、フロルデの魂もさほど消耗していないと思います。感謝します、トワ様」
当初はダンディライアンからアヴァローンへボディ回収のための輸送船を送る予定……というか、輸送船は既にアヴァローンに向かって航行中らしいけど、それだと輪廻には何年も時間が掛かる。
けど今回はフロルデのC3をここへ持ってきたので予定より格段に早く輪廻できるらしい。
モルガンさんはそう言うと、自分の胸に手を当てた。何をするかと思ってみていると……胸が開いた。えっ、そこ……開くの?それに中から出てきたのは……!
「それが……フロルデさんの魂ですか?」
「ええ、そうです」
「そこ、開くの?」
「ええ、これは……私達が命に代えても守りたい大事なものを保管するためのスロットなのです。他人のボディ内ではありますが、外界に晒しておくよりはC3の消耗も多少押さえられますので」
そう言ってモルガンさんが取り出したC3は……まるで生きているかのように揺らめきながら色を変え続ける虹色のC3だった。
「虹色のC3、ですか?……とても綺麗ですね……。それが、機族の魂……?」
「ええ、そうです。通常のC3とは異なり、魂を宿したC3は特定の色には縛られません」
「あれ?でも私……虹色のC3を他でも見たような気がするのですが……」
「アルカンシェルのコアも虹色でしたね。あれにも何らかの魂が宿っているのでしょう」
「そうですか、確かにアルカンシェルは良い子ですから、魂が宿っていてもおかしくないですね」
アリサとモルガンさんの会話を聞きながら、私は別のC3の事を考えていた。私が今、首から下げているパパの形見のC3――虹水晶の事を。そう、この虹水晶はフロルデさんの魂であるC3と同じ大きさで、同じ輝きを持っている。
私は衝動的に首からペンダントを取り出し、モルガンさんに見せた。
「これは……?どうしてトワ様が機族の魂を?」
「わからない。でも、長く冷凍睡眠していた私が赤子の時に握ってたと聞いてる」
「そうですか……それほど長くボディと切り離されていたとすれば、おそらく中に封じられていた魂は既に消滅しているでしょう。ですが、フロルデの再生を開始した後で中を確認してみましょうか?」
「うん」
もしこれが……機族の魂なら、還してあげないと。そこに込められたら魂が輪廻の輪から外れないように。
モルガンさんはポッドに備え付けられたコンソールを操作し、現れたスロットにフロルデの魂をセットする。一瞬、アルカンシェルに航法データを入力した時のことを思い出した。どうして古代文明のスロットって最初から開放されてないんだろう……。
[C3-Data Integrity...99.78%]
[Attribute Matching....MATCHED]
[S.O.U.L. Installation START]
「魂は殆ど消耗していません。これならフロルデもほぼ完全な形で再生できるでしょう」
そう呟いたモルガンさんは、表情の変わらない機械の顔で微笑んでいるように思えた。C3を認識したポッドはかすかな音を立て、動作し始める。
装置の動作を確認したモルガンさんが言うには、ボディに魂をインストールするには結構な時間が掛かるらしい。フロルデは少女型のボディだけど、ダンディライアンにいる他の機族と同じように活動開始から1000年以上が経過しているため記録されているデータ、つまり記憶が多いのだそうだ。
モルガンさんの見立てだと同じ事故に遭った同僚と同じぐらいで、おおよそ20時間ぐらいかかるとのことだったので、その間にパパの形見の虹水晶の確認することにした。
方法は簡単。どこか適当なボディに虹水晶を「インストール」すればいいらしい。
「えっ!?そんな事をして大丈夫なのですか?不適合になったりはしないのですか?」
アリサの疑問ももっともだ。私だって、急にぽっちゃりした男性ボディに魂がインストールされたら困る。いや、元に戻れるなら一度体験してみるぐらいなら良いけど。
「大丈夫です。属性の合致率が低い場合は作業が自動的に中断されますし、魂の損耗が激しい場合はそもそもマッチングまで進めませんから」
モルガンさんの言葉に安心しつつ……虹水晶の中に魂が入っているといけないので念のため近くにあるボディのなかで一番可愛いくて可憐なタイプを選ぶ。……もし中の人がおじさんだったら……そのときは諦めて貰おう。
「じゃあ、セットする」
ペンダントから虹水晶を外し、スロットへ入れる。うん、確かに合致するサイズだ。やっぱりこれは機族の魂……でも、ならどうして私はこれを握っていたんだろう。
[C3-Data Integrity...100.00%]
[Attribute Matching....FAILED]
[S.O.U.L. Size Exceeds.]
「……これは?」
「なんですか、これ……?」
「わかりません。ですが……この魂は完全な状態で保存されています。これは最近のものではないのですか?」
「ううん。16年以上前に発見された。その前にも何千年か冷凍されてた」
「魂はボディから分離した瞬間に消耗がはじまります。分離直後ならまだしも、何千年も経過しているのに損耗の無い完璧な状態なんで、過去のデータにも存在しません。それに……」
「まだ、何か?」
「最後の表示です。魂のサイズ超過と表示されています。つまり、その魂は機族のボディでは受け入れられないほど大きなデータ量を持っていると言うことです」
――パパは私に、一体なにを遺してくれたんだろうか。




