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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部1章『絆のエレメント』アヴァローン-輪廻の浮島
113/211

#4

>>Alyssa


 そこで、この話が出ますか……。私はモルガンさんを軽く睨んでしまいました。トワ様にとってご自身がセレスティエルであるということがどれだけ負担になっているのか私には判りません。

 ですが出発前に人間ではないと告白されることを逡巡されたお姿を思えば、この事実はトワ様にとって決して愉快なことではないはず。それを他人に改めて指摘されるのは……。


「先ほどお話しした私達の輪廻に関するお話は、本来人間種族には明かしてはならない秘密なのです」

「どうして?」

「人は……永遠に近い寿命を持つ存在に対して恐れや憧れと同時に憎しみを抱くことがあるからです。人々から拒絶されるということは、人間と共に在ることを定められた私達にとっては容認できない状況なのです」


 モルガンさんの言葉に、私は自分の過去を思い出しました。

 100年前、トワ様と初めて出会ったとき。私は……不老の怪物として人々から疎まれ、妬まれていました。


 ああ、確かにそうです。人は自らと違う存在を排斥しようとします。それが、自分たちが願ってやまないモノを持つ相手ならば、余計に。

 実際、人類至上主義を掲げ憎悪と共に機族の排斥を叫ぶ手合いにも心当たりはありますし。


「……私はあなたが言いたい事を理解し、納得しました。ですが、一応あなたの言葉を最後まで聞いてみたいです」

「ご理解感謝します。続けるとすれば……テロマーであるアリサ様。そしてセレスティエルであるトワ様。人類種族を超越した、無限に近い寿命を持つお二人なら私達の輪廻を羨むことはないでしょう。それが、私達があなた方二人にこの件を依頼したい理由です」

「まだ、理由があるよね?」


 話し終わったモルガンさんに対して、トワ様が静かに声を掛けました。三つ目の、理由?モルガンさんは二つの理由だと言っていましたが……。私にはトワ様の言葉が何を意味しているのかわかりませんでした。


「秘密だけど、本当は知って欲しいと思ってる。違う?」

「……はい、確かにそうですね。私達は……私達のことを、知って頂きたいのです。同じ造られた存在である、あなたに。そして、私達を造った存在である、あなたに。」


 モルガンさんはそう言うと、トワ様と私に順に視線を向けました。トワ様が造られた……というのは判りますが、私が?彼女らを……?言葉の意味が理解できませんでした。


「私達を、機族とセレスティエルを造ったのは、テロマーなのです」



 その後、モルガンさんが語ったことは、私にとっては人ごとにしか思えませんでした。大空白以前にあった出来事については彼女たちの間でも失伝しているようですが、その「何か」のためにテロマーが人類を主導して造ったのが第二世代と呼ばれる現在の機族(マシナリィ)と、セレスティエルだというのです。

 ですが私はテロマーといっても先祖返り的な存在で両親は共に人間でした。ですからテロマーの知り合いも、テロマー文明についても何も知りません。……いえ、そんなテロマー文明のようなものがあるのかどうかも知りませんが。


 とはいえ私も自分が人間ではないらしいと知った時は自らの出自を知りたいと思いました。自分の本質を知りたい。そして他人に理解して貰いたいという願望は誰しもが持つ願い。

 自分が他者と大きく違う事を認識した私は、その願望が他の人よりも強かったのかもしれません。だから、彼女たち機族が同じような欲求を抱くことは不自然ではないと思えました。


 問題があるとすれば……こうも「造られた」と連呼されてしまったことによるトワ様への精神的な影響です。モルガンさん達の事情や心情は理解しましたが、それとこれは全く別問題。

 もしトワ様が傷ついておられるなら……キッチンや冷蔵庫、洗濯機の納品を待つこと無く、交渉の席を立って即座にこの地を離れることもやぶさかではありません。


「アリサ、ちょっと話がある」


 そんなことを考えながら、モルガンさんにやや厳しい目を向けていると、トワ様に手を引かれました。私を頼るようなこの仕草……やはりショックを受けておられる……!?おのれ機族、許すまじ。


「この話が『希望を再び』?」


 トワ様の言葉に暴走しかけていた頭が一瞬で冷静さを取り戻しました。

 そうでした、私達がここを訪れたのはシステムキッチンや冷蔵庫のためではありませんでした。トワ様に真なる笑顔を取り戻すために、私達ははるばる100パーセクの距離を旅してきたのです。

 ……2泊3日で。


 ですが、正直なところこの話がトワ様の希望に繋がるかどうか、私には判りませんでした。3年前に見たビジョンはあくまでもここ、ダンディライアンが約束の地であるということのみだったので。

 ここは……正直に話してトワ様にご判断頂くのが良いと思いました。


「申し訳ありません、私には確証が持てません。……ここで何かがあることは間違いないと思うのですが」

「そっか。ならアリサを信じる」

「トワ様……!」

「様はやめて」

「ごめんなさい、トワ」


 ……忘れていました、呼び方の件。

 トワ様が納得されたようなので、私達はモルガンさんの依頼を受けることにしました。彼女が告げた目的地は約束の地「アヴァローン」。


 ……あれ?私の予知だと、約束の地はダンディライアンだったのですが。もしかして予知……外れてますか?額に一筋の汗が流れたのは、幸い誰にも気付かれずに済みました。



 目的地であるアヴァローンへはジャンプ1回で到着しました。本当に便利ですよね、この子(アルカンシェル)。私もアルカンシェルの同型艦をどこかで拾えないでしょうか……。

 そんな事を思っているのは、きっと現実逃避なのでしょう。なにせ、目の前にある光景があまりにも有り得なさすぎるのです。


 どうして、宇宙空間に森があるのですか!どうして、軌道エレベータサイズの木が生えてるんですか!森からあふれ出ている水はどこへ消えてるんですか!


 アヴァローンという場所にはもう突っこみどころしかありませんでした。私、宇宙に出てからすっかり驚き屋になってるような気がして……少しアイデンティティを見失いそうです。


 そんな私の思いなど知るよしも無く、人工衛星……というか人工島「アヴァローン」は静かに宇宙空間に佇んでいました。神秘的な自然と先進技術が融合した孤高の要塞、とでも表現すれば良いのでしょうか?


 接近すると宇宙に静かに浮かぶ「島」の周囲を柔らかな光を放つエネルギーフィールドが覆っていることが判りました。

 中心にはクリスタルドームが輝き、巨大なリンゴの木……だと思ったのですが、近づいてみると木を模した構造物だと判ったものがそびえ立っています。


 ですが中央の巨木以外は本物の植物のようで、緑豊かな植生が金属的な構造と調和して……小さな滝が無重力の中でゆっくり流れています。

 確かリンゴの木は知識や生命の象徴であるという話を聞いたことがありますが……それにしても宇宙の真ん中にリンゴの木を生やそうだなんて。一体どこの誰がこんな奇天烈な代物ものを宇宙に浮かべようと思ったのでしょうか。


「あれが、テロマーの造った人工衛星、アヴァローンです」


 ええ、知っていましたとも。あの奇天烈な物体は私の同族が造りました。

 同行しているモルガンさんの言葉に、私は諦めの心境で納得しました。


「ここも、大空白以前の?」

「ええ、そう伝えられています。ですが、私達の知る情報は完全では無く……ここはただ『約束の地』『再生の湖』と呼ばれています」

「ここにスペアボディが貯蔵されているのですか?」

「貯蔵、というのは正確ではありません。ここは『再生』の場。つまり、破損して使えなくなったボディを弔い、それを糧に新たなるボディへと再生する聖域なのです」


 なるほど……ここはリサイクル工場ということなのでしょうね。いえ、そんな失礼な事は口が裂けても言えませんが、たぶんイメージとしては正しいはず。

 問題は、なぜそのリサイクル工場がこれほども自然を意識しているのか、ですが。モルガンさんに聞いてみましたが、答えは彼女にもわからないそうでした。


 非常に重要そうな施設だけに防衛機能が充実しているのではと警戒しましたが、何事も無くアルカンシェルはアヴァローンに接舷することができました。不思議そうにしている私に、モルガンさんが教えてくれました。


「私達機族が乗っている船は攻撃されません。機族を伴わない船は即座に撃沈されます。ほら、あそこに20連高エネルギー砲が。こちらを狙っています」


 即座に!?警告も威嚇も無く撃沈!?怖すぎでしょう、アヴァローン!間違って近づいた船、どうするんですか!というか、本当に撃たれないですよね、20連高エネルギー砲に!


「G15の星と似てる」


 G15の星というと、確かトワ様がアルカンシェルを拾ったという星だったでしょうか。トワ様、他にもこんな奇天烈な星があるんですか!?あ、もしかしたらここで私もアルカンシェル2号を拾えたりするのでしょうか!?

 ……内心で突っこみを入れているだけなのに、頭がクラクラしてきました。どうやら無限に広がる大宇宙には、私の想像が及ばない出来事が無数に存在しているようです。


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