#3
>>Towa
モルガンと名乗った機族の人が言うには、前回私が訪れた後にダンディライアンで航宙船の爆発事故があったらしい。事故そのものは航宙船の航行機関トラブルによるもので原因もはっきりしているらしいけど、問題はそこで出た「犠牲」についてだ。
ダンディライアンは機族が管理している衛星だけど、実際にここで働いている機族の数はあまり多くないらしい。
作業の殆どが自律稼働する機械、ドローンによって行われているらしくて、オズワルドさんみたいな人は監督として各ドッキングポートに2、3人ずつしか配置さていないそうだ。そして、その貴重か監督の人が3人とも事故に巻き込まれて活動を停止してしまった、と。
モルガンさんは「死」と言う言葉を使わなかったけとま、それは私にとって十分に「死」を意識させる言葉だった。手が震えてくるのが自分でも判る。怖い。嫌だ。どうして――。
「トワ」
震える手をアリサが握ってくれていた。コスモスーツ越しなのに、なぜかアリサの暖かさが伝わってくる気がして少し気分が落ち着いた。
「……ごめん。ありがとう」
「気にしないでください。私は、このためにいるのですから」
なんだかんだで私はアリサに頼りっぱなしだ。いつかこの子に恩返し出来るんだろうか。そんな事を考えながらモルガンさんに話の続きを促した。
「以上のようなことから、今私達は人員不足で非常に困っているのです。そこでお二人にお願いしたいのですが……」
「私達、監督業務できない」
「ええ、もちろんです。お願いしたいのは別のこと。つまり機能を停止した者のリブートに協力して頂きたいのです」
リブート。それはセレスティエルである私が持つ、復活の力。機族にもその力があるの?アリサも不思議そうな顔でモルガンさんを見ている。
「……そうですね、先に私達機族についてお話した方が良いでしょう」
そう言うとモルガンさんは機族の再生について話してくれた。
人によって造られた種族である機族に本来は生や死という概念は無い。製造され、壊れる……それが彼らのライフサイクルだ。
だけど、機族がただの機械と違うことがある。それは魂とも呼べるものを持っていることだ。
彼らが体内に内蔵しているC3には彼らの記憶と自我が込められていて、それこそが彼らをヒト種族たらしめる鍵である……という所までは私も聞いたことがあった。
今回知ったのはこの先の話だ。機族が今回の事故のようにボディを失った場合、人間であればこの状況は「死」そのものだけど、彼らにとっては必ずしもそうではないのだという。
魂の器であるC3さえ無事であれば、機族は新しい体を得て再生できる。そして彼らはその再生を「輪廻」と呼ぶのだとモルガンさんは言った。
「人間でも同じ事出来る?人の魂をC3に入れて、機族のボディに」
「いえ、これは機族だけの仕組みです。我々には人の魂をC3に宿す技術はありませんし、仮に可能だったとしても、機族と人間種族では本質的な在り方が違うので、魂とボディが適合しないと考えられます」
「そっか」
「人間であればクローンと言う方法もありますが……あれは厳密には人の再生と呼べません」
残念ながら、人には流用できないらしい。クローン技術は聞いたことがあるけど、確か移植医療用以外での使用は禁止されていたんじゃなかったかな?
どちらにせよ、そんな方法での延命、転生が可能ならどこか――具体的にはギルドの上層部とか――にごろごろと居るはずだろうしね、転生者。しかし、人には無理だとしても機族には輪廻が可能ということは……それって永遠の「命」を持ってるってことになるんだろうか?
「そうとも言えますし、そうではないとも言えます」
「ずいぶんと哲学的ですね?」
顎に手を当てて考え込んでいたアリサがそう言う。私も哲学的な話は良くわからないけど……。
「C3は不滅の存在ではありません。C3が傷つけば魂も傷つき、輪廻は叶わなくなります。そういう意味では今回の3人は幸運でした」
「でも、それならC3さえ無事なら永遠に生きられると言うことでは?」
セレスティエルである自分も似たようなものなんだろうか……。そんな事を考えていたので、一瞬名前を呼ばれたのかと思ってドキっとした。
「いいえ。私達の魂は……いずれ、尽きるのです。どのような仕組みなのかは判りませんが……あまりにも輪廻を繰り返すと、やがて再生できなくなるのです」
「それがあなた方機族の寿命だということですか?」
「ええ、私達はそう考えています。だからボディが代えられるからと言って無茶なことはしないのです」
二重に耳の痛い話だった。少し前までの私は自分から心を消耗させるような事をしていたから。
あれは確かに、体の寿命には影響しないけど、魂がすり減っているような感覚があった。自覚は無かったけど、今になって思うとあれは緩慢な自殺と言えるものだったかもしれない。
それに私、リブートが出来るなら何度死んでも平気だとか考えてたけど、もしかしたら私のリブートも機族と同じで回数制限があるのかもしれない。いわゆる残機ってやつだ。
アルカンシェルと出会ったときに1回使ってるから、あと何回なんだろう。迂闊に死なないようにしないといけないのかな……。いや、今は私の事じゃなくて、モルガンさんの頼みたい事だ。
「それで、私達は何をすればいい?」
「実は今回、3人のうち2人はダンディライアンで保管していたスペアボディで再生できたのですが……残った1名に適合するボディがストックされていませんでした。なので、スペアボディの回収を依頼したいのです」
「お話は判りました。ですが……どうしてそれを私達に?伺ったお話だと、この件は機族の方々にとって非常に重要な機密事項に類するものだと感じました。ギルドの人間とはいえ部外者である私達が関与して良いのでしょうか?」
アリサの言葉はもっともだ。スペアボディが保管されている場所なんて、彼らの生命線とも言える大事な場所なのに。それに、ここにはいくらでも航宙船がある。寿命を気にしないでいい彼らなら自分たちで取りに行けば済むんじゃないかと思うんだけど……?
「お二人にお願いしたい理由は二つあります。一つはあなた方にお願いするのが『早い』ということ。肉体と分かたれた魂は消耗が早いのです」
ああ、確かに。私の相棒はどんな航宙船より早いからね。それにしても体を持たない魂……そういうものなんだろうか。
体と魂が一体になっている人間……いや、人間的なモノである私にはいまいち理解できない感覚だった。そんなことを考えているとモルガンさんが続けて言った。
「もう一つは……お二人が人間ではないから、です」




