表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部1章『絆のエレメント』アヴァローン-輪廻の浮島
110/228

#1

>>Towa


 宇宙には朝も夜もない。なので、一人で旅をしていた時は気が向いたときに起き、気が向いたときに食べ、眠くなったら眠っていた。

 だけど今はアリサが一緒だ。一人の時と違って、生活を合わせる必要がある。当たり前の事だけど、ここしばらくずっと一人だったから新鮮に感じられるし、なによりも嬉しい。

 なのでいったんブリッジに寄って航行状況を確認した後、私はウキウキした気分でアリサを起こしに行った。


 アリサは、寝室の床に座り込んでうんうん唸っていた。どうした、アリサ……。心配になって声を掛けてみた。


「アリサ、おはよう」

「……お……おはよう……ござい……ます……トワ……様」


 また様付けに戻ってるし。まぁ、その件は後回しだ。気にせず会話を続けよう。


「眠れた?」

「……ええ……全く」


 肯定なのか、否定なのか、どっちだろうか。見るからに眠れなかった様子だけど、理由は何だろう。私が使ってるベッドだと気持ち悪いとかかな……。一応、綺麗にしたつもりだったんだけど。


「船酔い?空腹?それとも、枕が変わると駄目?」

「……全部……違います……。いえ、自業自得なので……お気になさらず」


 どんよりとした表情でそう呟くアリサ。本当に一体何があったんだろう。

 洗濯機は装備されていないアルカンシェルだけど、シャワールームは最初から用意されていた。なので先にアリサにシャワーを使わせ、私は食事の準備をすることにした。

 といっても倉庫からグリット(かちこち)を出してくるだけだなんけど。私の分として一食分。アリサの分として三食分。皿の上に四角く、食欲を全くそそられない物体を積み重ねる。

 しばらく待つとほんの少しだけ表情がマシになったアリサがのろのろとラウンジに入ってきた。


「お先にシャワー頂きました……」


 珍しく眼鏡を掛けていないし、髪もまとめていない。元から化粧っ気はまったくないアリサだけど、すっぴんなのにもの凄い破壊力だ。さすが長命種族、テロマー。私が男なら、間違いなくこの場で押し倒しているだろう。まぁ私は女なので、そんな気にはならないけど。


「じゃあ私もシャワー。アリサ、先に食べておいて」


 そう言ってテーブルを指さすと、アリサが固まった。うん、だから昨日も謝ったよね……。


「うう……これも、自業自得……罰なのですね……」


 なにか良くわからない事を言ってるアリサをその場に残し、私もシャワールームへ向かった。

 手早く入浴を済ませた私は、タオルを首からかけたままラウンジへと戻った。服の入ったトランクをラウンジに置いたままだったからね。アリサはソファーに座ってグリット(かちこち)の山をぼんやり見つめている。


「出たよ」

「……早かったで……でっで!!」

「どうしたの?」

「な、なんですかその素敵……いや破廉恥な格好は!誘ってるんでうか、そうですか!ありがとうございます!」


 さっきまでしょんぼりしてたのが嘘のようにテンションが上がっていくアリサ。本当に大丈夫かな、この子。宇宙酔いってやつじゃないだろうか。いや、あれは頭痛で気分が悪くなるんだっけ。


「服、着るからちょっと待って」

「……あ……はい、着ますよね、普通」


 今度はテンションが一気に下がった。まるでジェットコースターみたいだね。いや、ジェットコースターってホロムービーで見ただけで乗ったことないけど。

 ともあれ、ラウンジに置きっぱなしになっていたトランクから適当に服を選び、身につける。アリサがこちらをガン見していたけど、そんなにこの服が気になるんだろうか……?

 着替えも済んだので食事にする。アリサは涙を浮かべてグリット(かちこち)を口に入れている。まぁ美味しくないもんね、グリット(かちこち)。食事が一段落したところで私はアリサに話を切り出すことにした。


「アリサ、大事な話がある」

「……!はっ、はいっ!」

「昨日話しかけてたこと。私が人間じゃ無いって」

「……はい」

「話した方が、いい?」

「えっと……その……ごめんなさい」

「うん。でも一応私の口から話しておく。私はセレスティエル。人に造られた存在。詳しいことは自分でもわからない」

「はい」

「寿命はアリサより長いかもしれない。病気にもならない」

「はい」

「アリサ、こんな私……気持ち悪くない?」

「悪くないです!」


 これまでのぼんやりとした返事が嘘のように、アリサは大きな声で叫んだ。


「私はっ!トワ様が……どんな存在であっても!トワ様の事を愛していますっ!」

「……ありがとう」


 愛が重い、という言葉はどこかで聞いたことがあるけど、今のアリサの言葉も「重い愛」の一種なんだろう。

 でも、自分の心や存在を時々見失いそうになる今の私には……そういう「重し」が必要なのかもしれない。そんな事を思った。


「トワ様……私の方からもお話ししたい事が」

「うん」

「既にお気づきだとは思いますが……その、昨夜眠れなくて……ブリッジで、トワ様の記録を拝見してしまいました。不躾ではしたない、最低なことをしたと反省しております」

「うん」

「どのような罰でも甘んじて受けますから……ですから……その……」

「じゃあ、罰をあたえる」

「……はい」

「予定していた寄港は取りやめ。このままダンディライアンへ行く」

「……はい?」

「キッチンも、ご飯も、お預け。それが罰」

「それだけ……ですか?」

「うん。それとね」

「はい」

「アイリスの事。ありがとう」


 私が手を止めてそれ以上書き進められなかったアイリスの項目。16で止まっていた記述が17になっていた。

 アリサ以外に書き換えられる人はいないから、すぐに判った。記録を勝手に見られたのは少し気になったけど、でも、アリサの気持ちが嬉しかったから。だから、本当は罰じゃなくて感謝の言葉を伝えたいと思っていたんだ。

 ちなみにもう一カ所書き換えられていたところは、覗き見に対する抗議の意を込めて「友人」と書いておいた。まぁ、そのうち「親友」に戻すけど。


 黙って頭を下げるアリサにそれ以上気にする必要は無いと告げて、私はブリッジに向かった。アルカンシェルに、直接ダンディライアンへ向かうように指示するために。



>>Alyssa


 私の覗き見行為に対して無寄港という「罰」こそありましたが、トワ様があまり気にされていなかったようなので少し安心しました。

でも、許可を得て見せてもらった私の項目が「恋人」から「友人」へ、二段階も格下げにされていたのは無寄港以上の罰でした。データ上とはいえ「親友」ポジションからも転落してしまいましたよ、私。

 まぁ船から追い出されないだけ感謝しないといけないのですが。ともあれ食事のことを除けば考えられないほどの温情を頂き、私達は旅を続けることになりました。


 そして二度のジャンプ航法で私達は目的地、「ダンディライアン」の隣接宙域へ到着しました。

 所要時間はアルカンシェルが最初に提示した72時間ぴったり。疑っていた訳ではないですが、それでも本当にそんな短時間で到着できるとは思ってもみませんでした。

 だって亜光速だと船内時間で15年も掛かるんですよ?それが2泊3日とか、常識外れにも程があります。

 しかもその72時間って、船内時間じゃなくて船外時間での計算らしくて。もう驚くより呆れる他ありませんでした。


 トワ様はダンディライアンの管制センターに連絡を取り、入港の許可を得ています。やりとりを聞いていると、どうやら本当にアルカンシェルはダンディライアンに寄ったことがあるらしく、管制官が「もう戻ってきたのか」と感情の無い声で驚いていました。驚いていましたよね?えらくフラットな印象の声だった、今の人。


「やっぱり来たことあるみたい」

「ぼーっと旅したせいで覚えてないんですよね?」

「うん。なんか、ごめん?」


 私に謝られても困りますが、今回はもう慣れたので特にイラっとはしませんでした。

 その後も管制官とやりとりするトワ様の話を聞いていたのですが、このダンディライアンはギルド……私達の所属するモーリオンギルドではなく、船鍛冶ギルドが管理する機動衛星だと言うことがわかりました。

 あまりにも遠方の施設なので、事前の調査だと名前とおおよその位置しか判らなかったのですが……ともあれ、私が見たビジョンが正しければ、ここにトワ様が再び希望を取り戻すための鍵があるはずです。


 ダンディライアンとはタンポポという植物を指す古語だそうですが、宇宙空間に浮かぶダンディライアンはタンポポというか……良くわからない形状でした。

 比較するものが無い宇宙空間に浮かんでいるのでサイズ感は判りづらいですが……周囲に見える航宙船が通常サイズのものであれば、ダンディライアンの直径は10Km以上はあるでしょうか。惑星上の都市がすっぽり入るほどの巨大なサイズに圧倒されてしまいます。


 中央の比較的小さな球形ブロックを核に、四方八方に規則正しく配置された無数の開放型ドッキングポートは言われてみれば確かに花弁のように見えなくも無いですが……これを称してタンポポと名付けた人はよほど詩的な感覚を持っていたか、それとも目が悪かったのかどちらかではないでしょうか。個人的には後者の説を推したいところです。


「これがダンディライアン?」

「そのようです。あまりタンポポには見えませんね」

「ライオンのキバ、じゃないの?」


 首をかしげながらトワ様はそう言いました。確かアルカンシェルが表示していた名前は「Dent-De-Lion」になっていましたね。古語だとライオンのキバ、という意味にも取れます。

 ですが……タンポポ以上にライオンのキバには見えません。あ、でもライオンのキバだと思ってみていると、少しタンポポっぽく見えてきました。……ほんの少しだけ、ですが。


 遠目では良くわかりませんでしたが、近づくとドッキングポートの周辺にも多数の船が停泊していることがわかりました。

 完成した船が殆どですが、建造中や修理中とおぼしき船も多く見られます。船鍛冶、という言葉は初めて聞きましたが、納得できる光景です。というより航宙船ってどこで造っているんだろうという長年の疑問が解消されました。

 うち(ペレジス)の近くにはこういう施設はなかったので、ここまで遠路はるばる100パーセクの旅をして見に来た価値がありました。

 ……2泊3日の小旅行でしたけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ