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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部序章『巡る大宇宙で、あなたと』ペレジス-再巡の惑星
105/213

#2

>>Alyssa


 目の前のトワ様は絶望の表情を浮かべておられます。いえ、表情自体は思い出の中の彼女と変わりありません。服装も表情も、記憶の中にある姿となにも変わらないのに……それでもトワ様が変わってしまった事が私にはわかります。心の中で絶望し、泣いておられます。能力を使わなくても、わかります。だって、あれだけ夢見た方のことなのですから。


 私がトワ様と再会を誓って別れたのは、ちょうど100年前のこと。あれからずっと、彼女のことを待ち続けました。楽しいことも、苦しいことも、辛い別れもありました。そして3年前、ようやく私の未来視に再会のビジョンが映ったとき、報われたのだと思いました。でも、同時に分かってしまったのです。

 ――この再会が、決して楽しいものにはならないことも。


 ギルドネットで配信された訃報を通じトワ様の姉であり、私の恩人でもあるアイリスさんの逝去を知ったとき、私はどれだけトワ様の元へ駆けつけたいと思ったことでしょう。でも、私はここで彼女を待つと約束したのです。だから、何があっても私はペレジス離れず、この地で再会の日を待つことに決めました。


 再会したトワ様は、表向き平静を保っているように見えました。彼女の時間でアイリスさん離別してからどれだけの歳月が流れているのか、私にはわかりません。けれど、どれほど時間が経とうとも、アイリスさんを喪ったことがトワ様の心から消え去ることはないでしょう。


 私はそっと手を握り、トワ様の心に触れようとしました。


 ――瞬間、どす暗い絶望と深い悲しみが私の心に流れ込みます。

 ああ……こんなにも泣いているのに、こんなにも傷ついているのに。それでもトワ様は前へ進もうとされている。


 そんなトワ様の姿に、私は不謹慎と知りながらも100年間抱き続けた思慕の念が深まることを感じました。そして私は彼女を支えたいという思いを新たにしました。この身と命を捧げてでも。



 3年前のあの日、私がトワ様について視た幻視は3つ。


 1つは今日の再会。

 彼女が心の底で泣き、悲しみに沈みながらもこの星に帰ってくるという、悲痛なビジョンでした。


 そしてもう1つは、トワ様の瞳が再び真なる虹色の輝きに満たされるというビジョン。喜ばしいはずのビジョンですが、その瞳に映っているのは……亡くなったはずのアイリスさんの姿でした。

 これが何を意味しているのか私には分かりませんでした。でも、そのアイリスさんの姿がただの幻ではないと私は信じました。おそらくアイリスさんは……死してなお、何らかの形でトワ様が希望を取り戻すために大きな役割を果たしてくれるのでしょう。


 最後のビジョンは、見知らぬ場所。

 それは不確かで、私には見覚えの無い場所でした。ですが、まるで手がかりを探せと言わんばかりに私の心にその光景は深く残ったのです。私はそれ以来、持てる限りの伝手をたどり、その場所が何を意味するのかを探し求めました。

 そして――。



「トワ様は、まだ旅を続けられるのですよね?」

「うん。私は旅を続けないといけない」

「どこか目指しておられる場所はあるのですか?」

「……ない。でも、旅は続ける」

「そうなのですね。……では、その旅に私が同行してもよろしいですか?」


 それまで表面上は穏やかに答えていたトワ様の態度が一変しました。


「ダメ!絶対に、絶対に!ダメ!!」


 手を触れずともわかります。

 激高しているように見えるトワ様を支配している感情は……怒りではなく、恐怖。一瞬の激情がまるで嘘のように肩を落として小さく呟くトワ様。


「アリサまで……死んじゃったら……私、もう……大丈夫じゃいられなくなる」

「トワ様、私がそう望むのです。あなたと共にありたいと」

「……アイリスも」


 私の言葉に対するトワ様の声は、風の音にかき消されてしまいそうな程小さなつぶやきでした。


「アイリスも、そう言ってくれた。私の隣が自分の居場所なんだって。私はそれが嬉しかった。私もアイリスとずっと一緒にいたかった。でも、私は……私が、アイリスを故郷から連れ出して……死なせた……!」


 ここまで傷つき、後悔してもなお、旅を続けないといけないというトワ様の言葉。おそらく……アイリスさんとの約束を果たすためなのだろうと思いました。そしてその約束は、今やトワ様を縛る枷……いえ、呪いとなっている。私にはそんな風に思えました。


 アイリスさん。

 私、少しだけ……あなたに嫉妬します。私の愛するトワ様の心を、ここまで縛り付けることが出来る……あなたに。



 私は意を決して言葉を続けます。この言葉が招く未来がどのようなものになるかはわかりません。予知は万能ではないのですから。でも、私は……絶望に沈むトワ様の姿に、告げずにはいられませんでした。


「トワ様。私の話を聞いていただけませんか?」

「……」


 なるべく穏やかに声をかけると、トワ様は無言で頷いてくれました。


「トワ様は、私の予知の力を信じてくださいますか?」

「……アリサの予知はすごい。今日、アリサがここにいる事が予知の正しさを証明してる」

「ありがとうございます。……私にはあと2つ、見えた未来のビジョンがあります。それを聞いていただけませんか?」

「……聞かせて」


 一瞬間を置いて、少しぶっきらぼうな返事が返ってきました。思えば元々トワ様はこういう物言いでした。ふと懐かしく思いながら、私は自分が見た未来についてトワ様に語ります。


「1つ目は……トワ様が再び瞳に虹色の輝きを取り戻される姿です」

「……私は、私の瞳は、今でも虹色のはず」

「ええ、そうですね。でも……」

「……言わないで」


 軽い拒絶の言葉。トワ様の心の奥まで土足で踏み込むつもりはないのですが、今だけはご容赦いただくしかありません。


「もう1つは……ある遠い場所の光景でした」

「ある場所?」

「はい。そこで……トワ様が再び希望を取り戻されている……そういうビジョンでした」

「希望……そんな言葉、もう忘れちゃったよ」


 トワ様が小さく呟きます。私は自分のビジョンが絶対ではない事を知っています。ですから、不確実な内容を口にしてトワ様をぬか喜びさせる羽目にだけはならないように……アイリスさんの名前を伏せて説明するしかありませんた。


「でも、希望を……再び……?」

「はい。再び、です」

「……新たな希望、じゃなくて……?」

「その通りです」


 私の言葉が意味するところにトワ様も気付かれたのかもしれません。その瞳に仄かな灯火が灯ったように私には思えました。


「その場所への案内を、私にさせて頂けませんか?」


 私の再度の申し出に、今度は拒絶の言葉は返ってきませんでした。トワ様が心の奥底で葛藤していることがわかります。仄かな希望と、私を失う恐れ。その二つが心の天秤の上で揺れている。

 ……私としては、トワ様のために命を投げ出せるなら本望なのですが……今それを口にするときっとすべてが台無しになるので、ここは口を慎みます。


「……ずるいよ、アリサ。そんな事言われたら……断れないよ」


 トワ様は瞳に涙を浮かべて、そう答えてくれました。私は愛しい人に受け入れて貰えたことに胸が熱くなり……万感の――そう、100年分の――思いを込めて、トワ様を抱きしめてしまいました。



>>Towa


 予期していなかったアリサとの再会に心は揺れたけど、100年ぶりだという彼女の言葉と抱擁は、すさんだ私の心に幾ばくかの灯りを灯してくれた。

 アルカンシェルで旅する孤独な宇宙(そら)に、気心の知れた友が居てくれるのはどれだけ嬉しいことだろう。久しぶりに親しい誰かとこうやって話すことが、楽しい。楽しくてたまらない。ああ、旅は……こんなに楽しいものだったんだ。


 私はアリサと旅に出ることを決めたけど、同時に体を……命を張ってでもアリサを守ることを心に誓った。たとえ命を捨ててアリサを守っても、私ならリブートできるという都合の良い考えがあったのは否定しないけど。


 改めて再会の挨拶を済ませた私はアリサを伴い、ペレジスのギルド支部へC3の納品を行うことにした。この星へ来た本来の目的は仕事だからね。シンガーは信用第一だし、それにお金も必要だから。

 アリサが待たせていたビークルに乗せて貰ってギルド支部へ向かう。確か記憶の中ではギルド支部は街中にあったはずだけど、向かったのは郊外だ。あれ?記憶違いだったかな……?そう思っていると、ビークルはどこか見覚えのある豪華な建物の前で止まった。


「アリサ、この建物」

「はい、元ギルド伯の私邸です」


 にっこりと微笑んでそう告げるアリサ。確かに見覚えがあるはずだ。でも、私達この私邸の地下で銃撃戦したんだよね?脱出の際に防壁を爆破したりしたよね?


「私達が破壊した防壁跡は観光名所になっていますよ」

「解せぬ」


 これまで、一度訪れた事のある星にゆっくりと降りたことは無かったけど……そんな状態になっている事もあるんだ。いや、ペレジスでは派手にやりすぎただけかもしれないけど。


「ちなみに――」


 アリサが何か言おうとする。不吉な予感を感じ、止めようかと迷っているうちに彼女の口から衝撃的な事実が告げられた。


「100年前のギルド伯討伐は何度もドラマ化されたり映画化されたりしていますよ。この星では人気のコンテンツです」


 とんでもないことを言い出した。ドラマ化?映画化?そういえばあの時もリアルタイムで映像配信されてたけど……。


「お恥ずかしながら……私も本人役で映画に出演させて頂いたことが……」


 頬に手を当てて少し照れた様子を見せるアリサ。この子、こんなキャラだっけ。頭は混乱するけど、同時に安心もした。良かった、アリサはこの星で幸せに過ごせていたんだ。私達がした事は無駄じゃなかったよ、アイリス。


「アリサ、私の役は?活躍する?」

「……えっと……たしかリメイク3作目のドラマ版で少し出番が……。あの、トワ様には申し訳ないのですが、アイリスさんと私が主役のストーリーが多くて……」

「解せぬ」

「……そうですよね、トワ様を無視するなんて許せません!どうして私、気付かなかったんでしょう……。元ギルド支部長として、元評議員として、持てる権力の全てを使って全作品の作り直しを命じます!ええ、予算は度外視で!」

「それはやめて」


 100年という歳月は思ったより人を変えるものなんだなぁ……。そんな事を思った。いや、普通なら100年経ったら寿命で死んでるだろうけど。そんなことを言い合いながら、私達はギルドのカウンターで納品を済ませた。受注から3日での納品というあり得ない速度に、窓口に座っていたギルドの職員が目をむいている。まぁ、いつもの事だ。


「あの、これはどういう……」

「トワ様のなさることに、何か異論でも?」


 私の隣でアリサが職員に冷たい視線を向けて全力で威圧オーラを放っている。アリサは美人だから、こういうオーラを出すと迫力がすごい。


「い、いえ……失礼しました、閣下!」

「判って頂けたら良いのです。あと、閣下ではないといつも……ね?」


 にっこりと微笑んで威圧オーラを引っ込めるけど、怖いよアリサ。冷や汗を流すギルド職員をその場に残し、窓口を離れギルド支部から退出する。外に出た私はアリサに疑問をぶつけた。


「……アリサ、いつから閣下?」

「さぁ?私、今はもう民間人で一介の孤児院経営者……いえ、今朝からは元経営者なんですけど」

「絶対に、嘘」

「ホントですよー」


 とぼけた事を言っているけど、意外としたたかなところもあるアリサのことだ。きっと表向きの権力は手放しながら裏で実権を握ってたりするんだろう。あれ?そんな影の権力者を星から連れ出していいんだろうか……?


「ところでトワ様」

「なに?」

「旅立ちの前に寄りたいところが。少し付き合って頂けませんか?」

「いいよ」


 アリサが手近なギルド職員に目で合図をすると、すぐにビークルが私達の前に横付けされた。うん、影の権力者説は確定だね。


「……職員墓地へ」

「かしこまりました、閣下」

「閣下はやめてくださいね」

「はっ……申し訳ありませんかっ……いえ、マダム」

「……マドモワゼル」

「失礼しました、マドモワゼル!」


 行き先も気になったけど、威圧オーラを放つアリサの方が気になった。ギルドへ出向くたびにこれをやってるんだろうか、アリサは。これじゃギルド伯とあんまり変わらないように見えるんだけど。


第2章からは新たにアリサ視点での物語が加わります

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