「授かったもの、遺したもの」
「君と僕だけの世界」「弱い私は恋をする」のその後のストーリーです。
『シリウス』
二十代半ばになった葵は、中学、高校を主に担当するフリーのカウンセラーとして働いている。
読心の能力を「人との関係を築き、正解を見つける力」として使っていた私は、悩みの多い中高校生に対して、話がよくハマり、フリーながら生徒からも絶大な人気を持っている。
相談者の本音に怯えるのではなく、それを相手の孤独に寄り添うための道標として受け入れている。
「先生、私のこと嫌い?」 ある日、一人の少女が葵の服の裾を引いた。耳につけた青い花のイヤリングを通り、少女の心から溢れる『どう生きればいいの』という深い絶望のような声が響く。いつしかの彼も、こんな感じ・・・いや、もっと酷かったっけな。
もし、会っていなければ、その負の感情に当てられ、冷たく突き放していただろう。 けれど今は椅子から立ち上がり、隣にしゃがみ込み、かつて自分を救った最愛の人のように、力強くその手を握った。
「もし、今の貴方が望んだ力を持ったらどうする?」「えっ?・・・生き方を、見つける・・・かな。」「貴方が望んだ力じゃないものを持ったとしたら?」「・・・それはわかんない。」少女の顔はまだ俯いたまま変わらない。
「生き方なんて生きてきた日の数だけあるのよ。それに生き方は変化するもの。昔の自分ならどうしてたか、もし、誰かが生きる理由を見つけてくれたらどうなるか。明日の自分はわからない。そんなものよ。」「私の・・・生きる理由?葵さんが見つけてくれるの?」「いいえ。私はあくまでサポート。見つけるのは貴方か___」「ありがとうございました。これからも何度かお世話になるでしょうけど、よろしくお願いします!」「堅苦しい敬語は使わなくていいわよ。また来てね。」と部屋に入ってきた時より数倍元気になった少女を手を振って見送る。
今も、由紀との恋を終えていない。 部屋の窓辺には、常にスノードロップの鉢植えが置かれている。一年に一度、命日が近づく頃に咲くその白い花は、私にとって「絶望から立ち上がる」象徴。
夜、仕事から帰り、駅前のベンチに座ると、ふと隣に由紀が座っているような感覚に陥ることがある。
「ねえ、由紀。私は今、誰かの心を救おうとしているよ。貴方が私に教えてくれたみたいに、世界を愛そうとしているよ」 風が吹き抜け、長くなった髪を揺らす。
彼女はもう、一人になることを恐れていない。
自分の中に、彼という「一番輝く星」が手を握ってくれるから。
『風は南向き、永遠に酔ひし者』
「ヒーローって存在するのかな?」無邪気な子供はそう聞く。「・・・いたらよかったな」いつの日か、そんな返事しかできない人間になっていた。「いないの?」「いたらいいんだよ。」そう、「いたらいい」である。
「僕にとってね!ヒーローは永遠さん!だって車に轢かれそうになった時に助けてくれたんだもん!」「僕も黒い服の変な人から守ってもらえた!」「私は猫のラズベリーが死んじゃった時に励ましてもらった」わらわらと子供達が群がる。気づけば俺は「白い死神」から「純白のヒーロー」と呼ばれるようになった。
ヒーロー・・・・・・俺が一生なれないと言われた存在。そして、今後俺が目指すべき存在。
今の一大人としての俺はヒーローだろうか。
名の知れた企業に入って適当に金を稼いで、休日は迷い人を助ける。
「人って自分のために生きるんじゃないの?」と去年仲良くなった少年に諭された言葉が今になって心を抉る。
「今まで散々自分のために自由に生きてきたからな〜誰のために生きてるんだろ」
何かに悩んだ時、俺はとある場所へ行く。
「なぁ、由紀。そっちでは雫君との仲は相変わらず良好かい?幸せに生きれているかい?」返ってくるはずのない返事を待つ。
風が南に向かって吹いている。
「次会うときは酒でも持ってきてやるよ。目一杯酔ってくれ。過去の自分を見失わないように、新しい自分になれるように」そんな誰に向けたか分からない言葉を、今はいない親友の下で語る。
「俺のエンディングはいつだろうかね!一向に死ぬ気配がねぇぜ。」徐々に、徐々に蝕まれるはずの体は最後まで衰えないだろう。
だが、例え衰えようと、蝕まれようと一生由紀を忘れない。
どんなに時間が経とうと、どんなに変わろうと。
『天を穿つ二筋の光』
「月が、綺麗ですねぇ」「おいそんなこと僕に言ってもただの友情にしかならんわ」「そんなことないだろ〜愛情かもしれないぜ?」「僕は雫のこと好きだけど、あくまでLikeだわ。Loveにはならん。」そういう冗談を交わすと雫の白い顔は赤く染まる。
「おいおい、冗談だって。マジにすんだよ。ちょっと!」呼び止めるが一向に止まらない雫を追いかける。
背の高い草むら、陽の当たらない花園、薄暗い森、太陽に近い山、輝く何かが散りばめられた川、あの長い橋の下。こんなところに何もないとわかっているような場所を、懸命に走り続けた。
長い間走った後、ふと我に返ったように立ち止まり
「ーーって言うんだとよ、遠く離れた異世界、日本神話とかで出てくる神秘的な時間が流れる場所。」まるで別人のように雫は話し始める。
辺りには無数の暗い色をした灯籠が並んでいる。それが霞む程、広く眩しい世界が広がっていた。
「今となっちゃいい思い出だよな、この灯籠も。」続く沈黙が怖い、なんとかしてこの沈黙を破るべく「僕はその思い出をただのいい思い出にしたくないな。こう、特別な・・・・・・何かにしたい」と定まってもいない、絵空事を言ってしまった。
「わかるよ、それ。俺は、その思い出の中に戻りたい。やりたいこと、やり残したことが山のようにあるんだ。一つずつ、丁寧に・・・・・・やってたら時間が足らねぇな。全部やりきれなくたっていい。一番重要なこと以外、全部やり切ってもう一度ここへ来る。きっと違う世界が待ってるんだろうな〜」雫のその言葉で僕はようやく絵空事が定まった。
「僕は、なんの努力もしないで、被害者ぶって、弱いくせに命を粗末にする奴の体を乗っ取りたい。」醜い努力はしてきたのかもしれない。必死に争う努力。そんな悪あがきもやめて、いつしか守る努力を他人に押し付けてばかりだったな。
あぁ、どうしてだろう。何度来ても、何度やっても思考がネガティブになる。
「やっぱり俺と居るってのは悪影響だな、由紀の考えてることが手に取るようにわかるけど、今、お前ネガティブだろ。」そんな訳がない。僕は一緒に居ることが完全ではないが幸せだ。「なんでそう感じるのさ。」「何年一緒にいると思ってるんだよ。由紀の気持ちくらい分かるわ。」と笑い飛ばした、気にしないような返事をくれる。
「なぁ由紀、俺は一番になれたか?」とさっきとはうってかわったことを言い出す。
「そんなこと、僕の気持ちがわかるんなら分かるんじゃないか?」「わかんないことだってあるんだよ。教えてくれ。」
言わなくたってわかるだろ。言わせないでくれ恥ずかしい。
「一番の、親友だよ。」
「そうかい・・・・・・」と短い会話が繰り出させる。その後少し悩んだ後、雫は
「余計なお世話かもしれない。由紀からしたら、迷惑かもしれない。けど、言いたいことがあるんだ。」と何かを吐露するような前振りをつけた後、
「俺、ーーーー、ーーーーー。」
と俺が由紀に一番言いたかったあの台詞を言ったのであった。
『夏色花火』
燃え盛るような火の花が星で明るい天に咲いている。
「毎年のようにここでみてるよな。よく飽きねぇもんだ」「毎年忘れてるから飽きるも何もねぇんだろ」雫と永遠が美しい夜空に見惚れているのにやいやいと口を挟んでくる。
「うるさいなぁ。夜空に一人で見惚れてて何が悪い。」と反論をすると、「お?厨二病か?まだ拗らせてる感じか?」「いいんだ。この男の娘は厨二病でも発症しないと男に見えない」毎年、僕達はここで夏祭りの花火を観ている。今年で・・・何年目だっけな?
「わーたーしーいーがーいーにー見惚れるなぁ!」葵が僕の肩を叩く。「ごめんごめん。けど、人じゃないから浮気ではないよ?」「見惚れてる時点で浮気です〜!それに!心の中で思ってもいない『ごめん』は失礼よ!」彼女の読心の能力はいつになっても消えない。
「なぁなぁ、なんであいつら結婚しないの?」「堂々とイチャつかれてもなぁ。」「・・・本当にお前ら仲良いな!お前らBLか?僕はキモいとは・・・・・・思わない!人を好きになるのはいいと思うよ、うん。」最近、雫と永遠はずっと一緒にいる。
勿論、僕や葵が混ざることも大半だが、それにしても長い。親友としては複雑な感情である。
僕は端の方へ立ち、その花火を見下ろす。隣に葵がついてくれた。
「花火見ましょ?私たちだけじゃなくて、先輩たちも」「由紀〜?」と雫が近寄り、僕の耳元僕にしか聞こえないように囁く「できる訳ないだろ。それにやる程雫も永遠もクズってないでしょ。」「それはどうかな!」「ふむふむ、『早く幸せになれ』ですか。素直になることを覚えなさい。」「だってよ、雫。由紀みたいに子供の体型してないんだからさっさとガキ卒業しろ」「「うるせー!!」」
赤、白、黄色、ピンク、紫などの様々な色の炎の菊の花が夏の夜空を彩る。
ここは誰も彼もが自分の生き方をしている。
そこに、いじめも、殺しも、罪も、正解もない。
そんな自由な世界で、僕は今を生きれている。
fin




