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HERO  作者: 常月楓
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「君と僕だけの世界」


『君と僕だけの世界』


今日、階段から突き落とされた。

腕から脚、顔に至るまで絆創膏が貼られている。

まだ十月だと言うのに外は季節を先駆けるように雪が降っていて、寒さが傷に染みる。傷の療養にと退屈している時、突然インターホンが鳴った。玄関を開けるとそこには・・・・・・


エピローグ Side由紀

「俺、人殺しなんだ」インターホンがなったので玄関を開けに行くと、僕の唯一の親友である雫が怯えた顔をして、そう言ってきた。今は夜、何より外は季節を先駆けるように雪が降っていてとても寒い、なのに雫は頭から水入りバケツを被ったかのように全身濡れていて寒いだろうに、震えることはなくただひたすらに怯えていた。

「殺したのは同じクラスの俺達をいじめてくるあいつだ、やられっぱなしで我慢するのが嫌になって・・・一発殴っちまったんだ」いつもの強気な雫の姿はどこにもなく、随分と弱々しく訴えかけている。

「そしたら・・・あいつ、倒れてそのまま動かねぇんだよ、いつもいつもいつも、散々殴ってきたくせによぉ」「・・・もうここに長く居座るのも悪いよな、誰にも見つからないとこで静かに死んでくるよ」笑顔と泣き顔が混ざったような顔でそんなことを言ってきた。

「待てよ、僕だっていじめられてたんだよ・・・」僕は止める、「何で止めるんだ、いじめられてたからってなんだ」「っ・・・」何も言い返せない。

「お前も嫌ってたよなぁ、あいつのこと」「・・・」そうだ僕だってあいつを殺したい程嫌ってた。だから「死んだ」と聞けだけならばどれほど喜べたことだろう、だが、「『親友ヒーローが自分の嫌いだった奴を殺して罪を被っている』と聞いて喜べるやつはいないだろ。」「ふっ・・・そう・・・か」一瞬雫の表情が正気に戻った、この調子で説得していけばきっと落ち着いてくれるだろう。

けどその台詞は全て綺麗事、止めた後のことなんて何も考えていない。もし雫が捕まったとしたら?

雫に守られていた僕は更に学校中からいじめれれることになるだろう。もういじめられるのは嫌だ。人を失くすなんて経験はもう二度としたくない。「由紀、俺はこのまま死ににいく。最期に会えてよかったぜ。ありがとよ。」僕の阻止は中途半端に終わったこともあって無意味となった。その時、僕の心で何かが崩れるような感覚を全身で感じられた。

「雫、待て」「・・・」「おい、待てよ」僕の呼びかけを無視する雫の肩を僕は掴んで止める。「残されたこっち側の気持ちを考えたことはあるか」「・・・ねぇよ、俺は自分勝手に死ぬんだ。」僕は残される側には絶対になりたくない、止めたとしても別れることには変わりがない。だから僕は「僕がお前と一緒に死ぬ。僕は残される側にはなりたくないんだ。」そう、人殺しの親友と同じ道を歩くのであった。

「何故、来るんだ親友とはいえお前は関係ないだろう?」「どうせ、『僕を守る為』、僕のヒーローになるためにやってくれたんだろ?その重い枷をつけちまったのは僕だ。それに、僕と雫が逆の立場ならどうする?」僕のその問いに雫は一瞬考える表情をし、

「ついていかない。だが俺は全力で止めるがな」その答えに「嘘吐き。」「今逡巡しただろ、迷っただろ。僕を連れていかせないために嘘をついただろ。」強く、追求する。ここでついていかなければ今後雫と会うことは二度とないだろう。「・・・勝手についてこい。死にたきゃ死ね。生きたけりゃ・・・生きろ。」と追求が効き、了承を得た。

「長い旅になりそうだ。ちゃんと僕たちに似合う死に場所にしようぜ。」「まぁ、そうだな」

これが僕と君の、自由な、死に場所を探す長く、短い旅の始まりである。


旅の始まり、親友への想い Side由紀

なんやかんや言いながらも、僕がついていくことを止めはせず、あっさりと了承してくれた。なので早速準備に取り掛かった。

「死ぬんなら今までの思い出はいらないや」と思い、僕は通学用のバックに収まる程度の量の最低限の荷物しか持たなかった。

財布にパーカーをそれぞれ持ち、死ぬためのナイフとロープをそれぞれ一つ、本当はナイフ二本にしたかったけど、賃貸アパートの一人暮らしだったから一本しかなかった。

『____!!!』誰かの声が脳裏をよぎる。なんだろうか。


これからはずっと自由、雫とは死ぬまで一緒、いらないものは全て壊していける。まるで夢のような世界がこれから広がっているようにまで感じれた。

今まで飾っていた写真も、長い間、毎日書いてきた日記帳も死にゆく僕たちには必要ない。なんなら嫌いな過去が詰め込まれた過去なんて見たくないほどだ。

いろんなことから逃げ出した。やはり雫は雫であり、時間と共にして行く内に徐々にいつもの強気な調子に戻っていき、それが僕は嬉しかった。親友と一緒に何にも縛られることなく過ごす日々は今まで感じてきたことない程に楽しく、自由だった。今までいた世界がどれだけ狭く、息苦しい世界なのかを知ることができた。これが「夢の世界」だと実感できる。

今まで大事だと思っていた家族も、クラスの奴らも結局は要らなかったのかもしれない。僕は全部、全部捨てて死ににゆく旅は僕と雫だけがいればそれだけで満足だったのだろう。彼のいない世界に価値などない、雫と僕さえいればこの世界に満足できる。人殺しだからなんだ、雫を止めた時の僕のような「偽善者」(人殺し)がそこら中見渡す限り湧いて出てきているではないか。だから雫は何も悪くない、そこら中に湧いている奴らと同じで何も悪くない、罪に囚われることなどない。

「なぁ、由紀、罪ってどこまで追ってくるんだ」雫は小刻みに震えている。「生きてる内はどこまでも、だろ、だから死んで逃げるんだよ」僕は雫の隣に座り、背中をさすった。

短い旅になるであろうけど、安心させるためにも「何もかも全部捨てて、僕たちが知らない世界で二人一緒に死のうな」と短く簡単なように言った。

それに「そうだな」と、突然のことで少し驚きながらも言ってくれた。この言葉が、僕と親友の誓い。


エピローグ Side雫

人を、殺してしまった。いつもいつも、俺たちのことをいじめてくるあいつを、反発の勢いで全力でぶん殴って、殺してしまった。

俺は元から力が強かったが、これほどの力が出ることなど今まで無く、殴った後に腕が痛かった。けどそんなことを一瞬で忘れさせてくれる事実が目の前にあった。由紀の為の防衛といってもやり過ぎだ、確実に捕まる。捕まって、社会の恥にされて、由紀とも離れるなんてそんなことになるくらないなら無意味だとしても抗ってやる。俺はその死体を壁沿いに運び、落ち葉を上にかけた。

いじめが見つからなかった場所なのに、防犯カメラがあることに今気づいた。「今まで先生達は見ていながら見過ごしていたのか」過去に何度かここでいじめられていたことはある。それなのに気づいても何もしてくれなかった人がいると知ると余計に腹が立ってきた。

もう心の中の負の感情がいつ暴れ出すかわからない。さてここからどう抗ってやろうか。そんなことを考えたが、答えはすぐに出た。「・・・死ぬか」

いじめられていた時点で精神は相当削られていた。そして人を殺してしまったという危機的状態に直面し、ついに生きることを諦めることを選ぶ。

ただ、死ぬ前に、由紀にその話をして、ちゃんと理解してもらおう。そう思う前に既に俺の体は由紀の家へと歩みを進めていた。


「俺、人殺しなんだ。殺したのは同じクラスの達をいじめてくるあいつだ、やられっぱなしで我慢するのが嫌になって・・一発殴っちまったんだ。そしたら・・・あいつ、倒れたまま動かねぇんだよ、いつもいつもいつも、散々殴ってきたくせによぉ。・・・もうここに長く居座るのも悪いよな、誰にも見つからないとこで静かに死んでくるよ」この時俺はどんな顔をしているのだろう。笑ってるのか、泣いているのか、怒っているのか、分からない程にその時の俺は自分をコントロールできていなかった。

「待てよ、僕だっていじめられてきたんだよ・・・」そう言い、由紀は俺を止める。「だから?」という一言が頭を埋め尽くす。俺からしたらただの綺麗事、当事者の気持ちなんて一切わからないだろうに。「何で止めるんだ、いじめられていたからってなんだ」「っ・・・」「お前も嫌いだったよなぁ、あいつのこと」「・・・」あぁ、黙っちゃった。この時俺は救いの手なんか差し伸べられた所で、俺が行ける道は全てが塞がっている。それが近いか遠いかの話。

「『親友ヒーローが自分の嫌いだった奴を殺して罪を被っている』と聞いて喜べるやつはいないだろ。」漂っていた沈黙を晴らすように力強く、言葉を放っていた。その言葉に俺を生きているこの世界に戻すような、そんな気がした。

「ふっ・・・そう・・・か」何か言ってくるかと思ったが、その後はまた沈黙が漂う。だから最期に「由紀、俺はこのまま死に行く。最期に会えてよかったぜ。ありがとよ」そう、言葉を振り絞る。本当は生きたかったのかもしれない、けどもう遅い。

「おい、待てよ」そう、由紀に肩を掴まれるまで何も聞こえなかった。ただ呆然と部屋から出ようとしていた。

「僕がお前と一緒に死ぬ。僕は残される側にはなりたくないんだ。」どんな綺麗事が飛んでくるのかと思えば自分の感情論。

「何故、来るんだ親友とはいえお前は関係ないだろう?」「どうせ、『僕を守る為』に、僕のヒーローになるためにやってくれたんだろ?その重い枷をつけちまったのは僕だ。それに、僕と雫が逆の立場ならどうする?」

どうするべきか、素直についていくと言えば相手の思うツボだ。「ついていかない。だが俺は全力で止めるがな」嘘は言えない、「ついていかないとしたら、俺はそうする」という答えに「嘘吐き。」「今逡巡しただろ、迷っただろ。僕を連れていかせないために嘘をついただろ。」強く追求される。由紀に口説かれるいつもの日々を思い出す。

「・・・勝手についてこい。死にたきゃ死ね。生きたけりゃ・・・生きろ。」と、思い出が邪魔をして了承してしまった。

「長い旅になりそうだ。ちゃんと僕たちに似合う死に場所にしようぜ。」「まぁ、そうだな」俺も死ぬなら綺麗に死にたい。

由紀はずっと自分のこと。これこそが本当の由紀なのだろう。変に綺麗事を並べて正義へ走るのではなく。自分の意思を正義として、動ける。

そんな、どんな時でも頼られがいがある人だった。

「一人で行く道は全て塞がっていたとしても、二人でなら行ける道もあるか・・・」

これが俺と由紀の、死ぬまでの最期の自由。そして先が見えない俺の旅の始まりである。


旅の始まり、死への想い Side雫

俺は自分でも今、どんな表情ができているかわからない。目の前でテキパキと支度を行う由紀を俺は見ていることしかできなかった。

それにしても由紀が家を出る直前に紙にささっと何かを書いて、家に置いて行ったのはなんだったのだろう

俺はパーカーとナイフを持ち、由紀は財布とロープを鞄に詰め込んだ。勿論全て最初は「こんな荷物で行くのか?」と不安だったが、後々この事を振り返るとこれが最適解だと思う。下手なものを持ってかさばったり、昔のことを思い出すのならこれくらいが丁度いいだろう。

冷静な頭で、これから死にに行くと考えると緊張したが、由紀まで巻き込んでしまった今、引き返すことはできない。いや、由紀がいなかったとしたらこんなことは考えずにあのまま学校の屋上から飛び降り自殺でもしてただろう。

・・・けれど、死に場所を探す旅は今まで過ごしてきたどんな時間よりも充実していた。自分の最期に似合う静かな場所を探すため遠い場所へ行くことが、俺と親友でする旅はこれほどまでに楽しいとは思わからなかった。

確かに自由で、何にも縛られることのない生活ができるのも初めて経験することであった、中学から高校にかけて、四年間、二人でずっといじめられていたのだから。

けれどそれよりも、俺の人に一切関係ない由紀がこの旅についてきてくれて、支えてくれて、一緒に死んでくれることが嬉しくて仕方がなかった。

そう思いながら歩道を二人で歩く、けど、由紀には申し訳ないけど、俺はこの旅を何年も続けたい。罪なんて放り投げて、由紀と一緒にこの生活を続けたい。その時「死にたくねぇな」と心の中で俺はつぶやいた。

旅を始めて数日が経った頃、初めて警察官に追いかけられた。その時は走ってなんとか撒いたが、いつまでこんな生活ができるかわからない。そんな俺は不安に駆られ「なぁ、由紀、罪ってどこまで追ってくるんだ」声が少し震えているのがわかった。そんな意思を読み取ってか「生きてる内はどこまでも、だろ。だから死んで逃げるんだよ」少し笑いながらそんなことを言い、俺の隣に座って背中をさすった。

しばらく沈黙が続いた。されども気まずい訳ではない。その後「何もかも全部捨てて、僕たちの知らない世界で二人一緒に死のうな」と由紀は言ってきた。突然だったから思わず「そうだな」と答えてしまった。「本当に死んでもいいのだろうか」、「このまま死んで悔いが残らないだろうか」そんな言葉で頭を埋め尽くす。どうやら俺は死ぬ覚悟なんて一切できていなかったらしい。その言葉でそれを気付くことができた。

この旅は本当に終われるのだろうか


二人の旅

長い旅はまだ終わらない。

どれくらい移動しただろうか。少なくとも僕たちが来た事のない知らない場所なことは確かだ。そんな知らない駅で僕たちは電車を待っていた。

俺はただひたすらに故郷から離れたい。罪悪感が背中を掠め続ける場所から少しでも離れて、楽な気持ちでありたい。そんな気持ちに溢れて、電車を待っていた。

「なぁ、雫?次はどんな所を探すか?今まで山、海、樹海とか色々回ったけど、どれもなんか納得いかないんだよなー」「ならよ、次はこの街に行ってみないか。雪灯祭せっとうさいってものがやってるんだとよ、気分転換にどうだ?ここから電車で二本だし、近いぞ」そう言いながら雫は手に持っていた観光地図でその街を興奮気味に指差す。雫もすっかり元通りだ。

「元日になった瞬間に灯籠を空へ贈る祭りか。よし、行ってみるか。ここ二ヶ月くらいはずっと自殺スポットを巡っているような感じだったから綺麗なものを見るのもありだな。」とう言うことでその街に行くことになった。電車に乗り、バスも一本使ってようやくその街に着いた。街全体で行う大規模な祭りのようで祭りの前日の昼間だと言うのに殆ど装飾が作られていて、壮大な街が広がっていた。

「こんな人が多いところにいると、もしかしたら警察に見るかるんじゃね」祭りの壮大さをみた後に我に帰った時の感想はそれであった。けれど、雫が祭りを楽しみに待っていると思うと、水をさすようで悪かった。

「と言っても前日なんだよなどこの店も準備してるからろくに空いてないし、屋台も明日からだからな。ちぇっ、つまんねぇの。」そう心の底から思っていたかのように言葉がすらすらと雫の口から出てきた。

「今並んでなくて尚且つ空いている店は・・・あのアクセサリーショップか。」

「アクセサリーなんて俺たちに向いているのか?似合わなくないか?正直」「ペアルックとかもいいんじゃない?金は・・・なんとかなれ」徐々に金は減っていっているが、まだ七割以上残っている。きっと大丈夫だろう。


アクセサリー選びに集中すること一時間。「俺はいらないや、多分無くすし。」「僕は・・・このイヤリングにしようかな。イヤリングなら無くなさいでしょ。」と青い花の飾りのイヤリングを一つ買った。

「うっ・・・」「どうした?急に腹を抱えて。トイレ行くか?」「懐にダメージが・・・」と演技をする。「なら最初から買わなきゃいいのに。バーカ。」演技に正論で返されると、恥ずかしいんですけど。


「それにしても、明日までどうする?」「泊まるとこもねぇからなー公園とかはマジで補導されるだろうし、どこで休むかねぇ」

「なら向こうのほうに使われてなさそうなホテルがあったぞ。家具とか残ってたら久しぶりにしっかり休めるだろうしな」朧げな記憶を頼りに言う。

最近は家具を持ち去った後の空き家や、ど田舎の公園やそこら辺のベンチで寝ていたものだから久しぶりにベットで寝ることになれそうだ。「喜んでいるとこに水を差すのもなんだが、祭りのクライマックスは明日の深夜だぜ?新年になってからも少しは騒ぐだろうし、二日目は徹夜することになると思うんだが」「あっ・・・」僕のベットライフが消え去り、心のどこかで希望にヒビがはいったような気がした。とりあえずそのホテルまで行き、そこを3日間の拠点になるはずだった。


「で、なんでこんなに街の方が明るいんだ?」「さぁな、ただ、今は雪が降っていて、時計を見るに大晦日の夜十一半時のようだぜ。」僕たちはホテルについて、そこそこ綺麗な客室に入ると、ここ二ヶ月の疲れもあって数分で寝てしまった。誰も起こしてなんてくれないから、そこで二人とも丸一日起きることなく今を迎えてしまっている。

漢文の「春眠、暁を覚えず」、ならぬ「冬眠、明日を知らず」と言った物だろうか

ここから街までは一時間半ぐらいかかる。走ったとしても間に合わない。けれど灯籠を間近で見るには街まで行かなければならない。「ったく、どーしてこんなに計画性が無いんだよ」「お前もな」今にでも喧嘩が始まるような雰囲気だったが、喧嘩している場合ではない。

「由紀、喧嘩してる場合じゃねぇんだ、今すぐ何か手を打つべきだと思わねぇか」雫もそこはわかっているようだが、どうするべきなんて思いつかない。

僕が沈黙を貫いていると「ノーアイデアかよ、ならいいや、屋上行くぞ。」そう言い、ホテルの階段を登って行った。十何階分登るとそこで急に止まり、ドアノブを回す。「扉閉まってんのかよ。」と愚痴のようにいい。

当然のようにその扉を蹴破り、屋上へ出た。雫ってこんなに脚力高かったけ。

「ここなら見えるだろ、近くはないが文句言うんじゃねえぞ」「文句言える立場じゃ無いこと位わかってますよー」そんな適当な言葉を交わす。そこからはまた夜の沈黙が僕たちをつつんだ。

しばらくすると街の方から小さな灯りが大量に登っていった。雪と重なったその風景は幻想的で、今まで見たことのないような景色だった。隣では雫も黙ってその景色を見ている。

まるで、最期を迎える前のひと時の休息のような、僕達の旅を祝うような祭りである。

何にも縛られることなく、綺麗なもの、楽しいことを雫と一緒に体験する。

そうやって僕たちは二人で前に進んでいく。そう心に誓った。




・・・そんなことができるはずもないのに


夢 Side 由紀僕は僕であって「御影由紀」ではないのかもしれない。

「ヒーロー」と言う存在に僕は憧れていた。いや、世界の全男子はヒーローに憧れていた頃があっただろう。

僕は誰でも救って、サポートしてくれる。そんなヒーローになりたかった。

携帯ゲームの画面内に綺麗なニチニチソウが咲いている。「おい、由紀ー起きろ。授業中寝るんじゃない。」授業中雫に起こされた。「うーん、え?寝ちゃってたか。というか雫はいつも寝てるじゃん。」「まぁそれはそうだがな・・・」といつものノリで話す。「そこ!喋らない!そして御影さんは授業中に寝ない!」と僕は珍しく注意を受けてしまった。「ヤバ、ノート書いてない」と独り言をこぼすと雫から「授業後に写させてやる」という紙が送られてきた。何だか授業に集中できず、起きてからも殆どノートを書くことができなかった。授業が終わり、「よ、大丈夫か?起きてからも集中できてなかったし、寝足りないんじゃないか?」と雫がいつものように話しかけてくる「何だかもの凄い悪夢を見たような気がしてさ。何だったけ、何かに追われてたよ。雫と二人で。」「え〜本物の俺ならその追ってくる奴を薙ぎ倒してるだろうな。けどよく逃げれたな、由紀は足が遅いのに。」とニヤニヤしながら雫が僕の背中をバシバシ叩く。「いや、確か、逃げれてないよ。僕が捕まった。けど、雫が最後まで守ってくれたな〜カッコよ・・・いや、現実みたいだったよ。」「カッコよかった」と言いかけたところで一瞬雫の表情が曇って、雫はカッコいいと言われたくなかったのを思い出す。折角高身長で運動もできて僕を守ってくれるのに何でカッコいいっていうと怒るんだろう。

「ほほう、現実の俺は君をいつも守る救世主ってことか〜嬉しいな〜」僕も、雫もいじめられている。だから雫は僕の救世主だ、けど僕は雫の救世主になれているだろうか。「あ、『僕は雫の救世主になれてるだろうか』って考えたろ、大丈夫だよ、お前はいつも俺の救世主だ。」また、自信を失った僕を励ましてくれる。「あれ、そうだったけ。」とつい口が滑ってしまった。「おいおい、どうした?まだ眠気が取れてねぇのか?中学生の時に俺を庇って不良どもを蹴散らしたのはお前だろ?」いや、そんなことはない。それは雫がやったことだ。「おい、そうだよな?」と圧迫的に聞いてくる。その表情に恐怖を抱いた僕は首を横に振ることなどできず、「そ、そうだったな。」と言ってしまった。本当は僕が雫を守り切れたことなんてないのに。

何か守ってやれないかと考え続けていたら三限が終わった。いつものように廊下の端の方で雫と話に行くと、「ようパシリ共、今日は隣町のパン屋に行ってフランスパン買ってこい。」いつもの不良が僕たちをパシッてきた。些細でいつも通りのことなのに無性に腹が立った。丁度いい、今日こそは僕が守る番だと思い、「何だよ、いつもいつもパシリやがって。今日こそは!」と校内であるにも関わらず僕は勢い良く拳を振りかぶり力強く不良の喉元を狙って拳を叩きつけた。不良もまさか喉元を狙ってくるとは思わず避けられず、「あが、、だず、、げ」と醜く助けを求めていた。

そんな醜い抵抗も虚しく徐々に動きが鈍くなり、床に倒れ伏した。僕がやったのだろうか。清々するはずなのに心に重苦しい何かが確かに残る。

気づけば隣にいたはずの雫は消え、廊下だったはずの場所が体育館の裏側に僕はいた。

今の僕ですら「ヒーロー」は救ってサポートしてくれるだろうか、こんな僕でさえ、「ヒーロー」になれるだろうか


ゲーム機の充電が切れたかのようにそこで僕は目が覚める。

「よお、起きたか。だいぶうなされてたけどどうした?」隣にはさっき起きたであろう寝癖のついた雫がそこでニチニチソウの花冠を作っていた。「はい、あげるよ。何だか作りたくなったんだ。花冠なんて頭に載せる柄でもないのに。」「あぁ、ありがとう。というかここはこんなにニチニチソウが咲いているんだな。」そう言い僕はニチニチソウの花冠を頭につけようと頭の上に載せると、茎でつないでいる部分が崩れて、壊れてしまった。

折角大事にしようとしたのに。


夢 Side 雫

「悪夢」というものは熱を出していたり、体調が悪い時によく見ると言われている。

俺は悪夢を見ていた。

誰かの助けがずっと欲しかった。

あの日の記憶。あの、俺があいつを殺した日の記憶。あの感触がまだ拳に残っている。あの気味悪さと高揚感、あの絶望感がまだ頭に鮮明に思い出される。

この旅で忘れたかった。気を紛らわせるだけでいいから何かに縋りたかった。だから由紀の手を取った。けど、旅は由紀と俺のものじゃない。俺のものだ。

あの時の俺は今より強かった、失うものがなくて、何でも守れる気がして、どこへでも行くことができた気がした。独りだったらそうだっただろう。

けど由紀がついて来てくれた。失うものができてしまった。何も守れない予感がした。どこへ行っても何かを失う気がした。きっと昔は過保護な程に由紀が重要だったのだろう。何をするにも一緒にやったし、いじめられる時は身を呈す形で俺も参戦した。いつもいつも、俺の隣には「由紀」がいた。

そいつとの約束で全力の自分をいつしか見失っていた。


中学生時代、由紀が校舎の二階から突き落とされるのを呆然と眺めさせられ、次に俺一人でいじめられかけた時、感情が爆発し、暴れても問題がなかった俺はそいつらを一人一人意識を失うまで殴りつけ、結果的に全員、病院送りまでにさせた。

その時の俺は誰よりもいつよりも自由に動くことができて、体が高鳴った。自分が最強だと、誰にも負ける気がしなかった。約束のせいでいつしかその感覚を忘れていた。

もう一度あの感触を味わいたい、その本能とも言える程の原動力が俺を動かし、無意識にあいつを殴った。確かに高揚はする、がそれを上回る程の罪悪感とこれからの悪夢を想像すると生きることに絶望をした。

あの約束、「守るために力を使う」という約束。ちゃんと守れたよね?ちゃんと使えたよね?それが誰のヒーローになるためだろうが。


「俺」は一人が好きなのかもしれない。

「起きてすぐにこんなことが頭に浮かぶのか・・・よも末だな。」

旅が始まってからはくだらないことばかりだが、それを全力で楽しめている自分がいる。

だから、「時雨雫」は「御影由紀」と一緒にいることが好きなのだろう。

一人を楽しもうとしても何もすることがない。思考を巡らして妄想をした所で現実に引き戻された時に余計虚しくなる。

だから俺は何も考えず、生えているニチニチソウを折って花冠を作った。



あなたと逝く、先の見えない旅 Side由紀

旅を始めて何ヶ月経っただろう、旅を始めた頃はまだ彼岸花が咲いていたのに、今では桑の花ももう散りかけている。

持ってきた金はとっくに底をつき、十日前、僕たちは知らない駅で降りて、町を彷徨っている。家も遠いだろうから帰ることもできない。そのためもう七日はロクなものを食べてはいないし、二日は水にもありつけていない。

このままいけば僕達は何も残せず餓死、どちらが先にくたばるかもわからない状態になってしまう。今は僕も雫も痩せ我慢程度で強がれてはいるが、いつまで持つかはわからない。だから早いうちに金を手に入れるためにも、強盗をしようとしていた。

その提案をしようとした矢先、「金、どうする?この調子じゃ食べ物が無いまま餓死コースだぜ」雫も同じことを考えていた。そりゃそうだろう、今まで受けてきた嫌がらせと大差がなくなってきている。

生きるか、死ぬか、そのレベルまでことは発展してしまっている。だから「それに関してのことで僕にも案がある。単刀直入に話すぞ、この町のコンビニを強盗する」ここは僕たちが住んでいた田舎町よりもさらにど田舎、古びた商店街には銭湯、古本屋があり、気軽には入れない。唯一気軽に入れるコンビニは一軒しかないが、あの規模なら店員も一人だろうし、何より人通りはないに等しい。

これが本当にヒーローを夢見た人のやることなのだろうか。

「これ以上罪を重ねるのはこの旅の目的に沿っちゃいねぇだろ。死ぬことが目的なんだろ。なら、このままここで野垂れ死ぬのもありだろうがよ。」雫はそう強気に言っているが、フラフラしている状態で今すぐにでもぶっ倒れてしまいそうである。

いつも僕を守ってくれていたあの「雫」がそうなっているのだ。いくら生にしがみつく意思が強かろうと二人とももう限界なのはお互い理解できているだろう。

「餓死するとしたらどちらかが先にくたばることになる。例えば僕が先にくたばったとして、お前はどうする。一昨日だって警察から必死に逃げた、その時は今より体力もあったし、僕の策略が嵌ったのもある。けれど体力もあまり回復しない状態で策略がなければすぐにでも捕まるだろう。これはお前が先に倒れても体力のない僕じゃ耐えきれないから同じだ。そもそも、餓死するまで逃げられないかもしれない、だからここで金を奪い、すぐに他の場所へ逃げることが最善だと僕は考える」旅を続けるなら死に場所を探した。

そして死ぬのなら完全な自殺一択だ、こんな餓死をし、別れた後に捕まる旅を続ける意味なんてない。「チッ」と雫は舌をならしたが、賛同するように鞄を持った。「ありがとう、僕一人ではできないからね」「ちっとは鍛えろや、可愛い可愛い男の娘がよ」「僕が可愛いって言われたくないって知ってていってるだろ、てか男の娘って・・・おい、話聞いてんのかー」さっきまでの喧嘩の雰囲気が一瞬で壊された。

僕と雫が小学生からの約10年間仲良くやっていけたのはこう言うところがあるからだろう。

そして僕達は近くのコンビニを襲撃した。勿論最低限顔が割れにくいようにパーカーのフードを被り、雪灯祭で落ちていたお面を被って侵入した。予想通り店内に人は一人の店員しかおらず、そいつをナイフで脅すことで簡単に金を奪うことができた。店員が金を準備している間にに食品の商品棚から少し食べ物を盗り、鞄に入れた。食料調達は雫の役割だったが、多いことに越したことはない。金は合計で四万九千五百円であった。二人家まで電車を使って帰ることが出来る程の金額、けど帰るなんて思考は僕達には一切ない、なぜなら帰った先に待っているのは絶望だけなのだから。帰ったところでまたいじめられるかもしれない、いや、その前に警察に捕まるだろう、なぜなら僕と雫は「人殺し」で、「強盗犯」なのだから。


こんな僕達にすらヒーローは救いの手を差し伸べてくれるだろうか。

欲しいものを調達した僕たちは足早にアーケード街を後にする。

「これでまた数週間は生きていけるな」そう言おうとした時、「なぁ、もうこんな旅辞めねぇか?こんな、目的も定かでもない、目的を果たし切る覚悟もない旅なんか」と雫の口から耳を疑う言葉が聞こえた。

「何言ってんだ・・・それ、本気で言ってるのか。」「だから!もうこんな旅辞めちまおうぜって言ってんだよ」僕も雫も口論になるように感情が昂った。きっと空腹で腹が立っていたてこともあるんだろう、けど、それよりも僕は雫の口からそんな言葉が出てきたことを信じたくなかった。けど現実はそんなこと関係なく真実を突きつけてきた。

「お前だって、本当に死ぬ覚悟はできてるんだろうな。俺が死にに行こうとした時だけ「離れたくない、だから着いていく」みたいなこと言って、俺と一緒にいる最後の時間を楽しもうとしたのか。だとしたら残念だったな!俺はその時間のせいで死にたくねぇんだ。こんな生活やめてやる!!」声の出る限りの全力を出し尽くすような大声、その声が僕の心を貫く、「あぁ、なんで気づけなかったんだ。なんでわかってやれなかったんだ。僕が、僕だけが君の親友だと言うのに・・・」声にして伝えたい言葉が溢れ出てくる。けど喉のどこかで引っかかって出てこない。言葉が伝えられない。自分の体が自分の物ではないようだ。

出てきた言葉は「そうか・・・僕はこのまま旅を続ける。警察に捕まって元いた場所に戻るなんてごめんだ・・・金も食べ物も全部くれてやる、道具は好きに使え・・・二度と顔を見せるな・・・」心では思ってもいない、そんなことを言ってしまった。それに彼は「そうかいそうかい、ありがとな。そしてお前はこのまま旅を続けてろ、迷惑なんだよ、自分の意見で周りを動きにくくするのが。死にたいんなら一人で死んでくれ、周りに迷惑なんてかからねぇからな。言われなくても二度と顔合わせるもんか!」そう怒号を吐き捨てるようにしてこの場を去った。

立ち去る雫が揺れ出した視界に収まる。

本当にあの言葉が彼の本心なのだろうかとまだ疑っている自分がいる。ここまで言われて何も言い返せないのを周りから見たら惨めで情けないのだろう。「何が・・・何が自分に似合う死に方だ!何がヒーローだ!守られなきゃ生きていけない僕程度の人間には餓死がお似合いだよ!自殺なんて・・・高望みすんじゃねえよ!ああぁぁぁぁ!」そう泣き叫んでいた。

心が風前の塵のように崩れ去っていく。

悔しい、失いたくない。けれどその本心を誰も知っちゃくれない、誰の耳にも届かない、ただそこには蕾のマリーゴールドの花畑が広がっているだけ。


あなたと逝く、終わりの見えた旅 Side雫

旅が始まってから八ヶ月程経った。雪が降る季節は終わり、春になったと思えば桜が散り、気がついたら梅雨が始まろうとしていた。

持ってきた金は由紀の全財産と言ってもいい程の額であったが、六ヶ月を過ぎたあたりから目に見えて無くなってきた。学校に行ってれば高校二年生にもなったが、犯罪持ちの家出少年二人が金を稼ぐ手段をろくに持っている訳もなく、身分を明かすこともできないため、バイトにすら務められていない。

「金、どうする?この調子じゃ食べ物がないまま餓死コースだぜ」金を稼げないとわかっているが、それでも希望を探すため、自分への嘲笑しながら、真面目に話しかける。俺と由紀も長い付き合いだ、俺が真面目に話そうとすればちゃんと聞いてくれる。勿論状況と内容にもよるけどな。

少し考える素振りはあった、だが「それに関してのことで僕も案がある。単刀直入に話すぞ、この町のコンビニを強盗する。」そう言った。顔は本気だし、言葉はしっかり考えているようだった。俺はこう言う時に頭が回りにくい、確かに由紀の方が頭はいい。けど納得ができない。

由紀はふざけてる面も多いが、真面目にすべき時との区別ははっきりしている、そして今は真面目な話。現に由紀はそう捉えて真面目に回答したんだと思う。だけど、もし由紀の本心で答えていたとしても、「この答えは相応しくない」そんな意思がはっきりと頭にはあった。なぜかなんて俺にもわからない、けどきっと重要なことなのだろう。その心に浮かんだことを伝えるためにも「これ以上罪を重ねるのはこの旅の目的に沿っちゃいねぇだろ。俺と死ぬことが目的なんだろ。なら、このままここで野垂れ死ぬのもありだろうがよ。」俺の思っていたことをそのまま伝える。確かに餓死は美しくはないけど、罪を重ねるよりマシだ。罪の怖さは俺が一番知っている、それに由紀だって理解ができないわけではないだろう。

「餓死するとしたらどちらかが先にくたばることになる。例えば僕が先にくたばったとして、お前はどうする。一昨日だって警察から必死に逃げた、その時は今より体力もあったし、僕の策略が嵌ったのもある。けれど体力もあまり回復しない状態で策略がなければすぐにでも捕まるだろう。これはお前が先に倒れても体力のない僕じゃ逃げきれないから同じだ。そもそも、餓死するまで逃げられないかもしれない、だからここで金を奪い、すぐに他の場所へ逃げることが最善だと僕は考える」確かにその通りだろう、いつかはどっちかが先に体力切れでくたばるだろう。だけどその時の俺はまだ動けた。由紀にはそこまで負担をかけないためにも日常的なアシストはしていた。

けど俺も由紀も本当に余裕なのかはわからない。「由紀と旅をする」という信念だけでどこまで動けるだろうか、いや、どこまでも動いて見せる。唯一の親友と一緒なら。だけど俺は良くても由紀はダメかもしれない、俺は「死ぬ」ことが目的なのではなく、「相応しい死に場所を探して、そこで一緒に死ぬ」ことが目的なのである。

餓死は美しくもないし、時間も場所も選べない。それは双方が望んでいないことだ。だから俺は由紀の意見を嫌がりながらだが、「チッ」と言いながら受け入れた。

「ありがとう、僕一人ではできないからね」「ちっとは鍛えろや、可愛い可愛い男の娘がよ」全力で嫌味を言う。「僕が可愛いって言われたくないって知ってていってるだろ、てか男の娘って・・・おい、話聞いてんのかー」揶揄うためにも聞き流す。由紀は揶揄うと反応が面白いからむかついた時につい揶揄ってしまう。そうすると自然と場が和んで喧嘩も止まってしまう。これが俺たちが仲違いしない理由だろう。


俺たちは近くのコンビニを襲撃した。店内には店員が一人のみ、だから由紀が俺のナイフを使って店員を脅し、金を用意させた。その間俺は食料品、新聞、医療用品など旅を続けるためのものを盗んだ。得た金は四万円ちょっと。十分過ごすことができる。けど、「強盗をした」と言う罪悪感が今になって押し寄せてきた。今すぐ死んでしまいたい、けど死ぬことは苦しみから解放されることである。

俺は「人殺し」であり「強盗犯」でもある、罪として十分苦しむべき人物だ。本当なら俺は社会的に罰を受けるべき人間なのだろう。けど、けど、あんな生活には二度と戻りたくない、体をどれだけ鍛えようが、どれだけ人を守れようが、俺はまだ一人の子供だ。「辛いことから目を背けたい」と思うのは大人でもあること、それを子供が自分から辛いことへ向かえというのだろうか。だとしたらあまりにも残酷だ。

自分の本心に語りかける「お前は本当にこれからの現実を受け止め切れるか」と。

愚問だ、ちょっと考えればわかる。もう後戻りはしない。覚悟を決めろ、俺は御影由紀の親友ヒーロー、「時雨雫」だ。

だから、、、「なぁ、もうこんな旅辞めねぇか?こんな、目的も定かでもない、目的を果たし切る覚悟もない旅なんか」と覚悟を決めてそう言う。「何言ってんだ・・・それ、本気で言ってるのか。」「だから!もうこんな旅辞めちまおうぜって言ってんだよ」この終わりの見えた旅を終わらせるように。

「お前だって、本当に死ぬ覚悟はできてるんだろうな。俺が死にに行こうとした時だけ「離れたくない、だから着いていく」みたいなこと言って、俺と一緒にいる最後の時間を楽しもうとしたのか。だとしたら残念だったな!俺はその時間のせいで死にたくねぇんだ。こんな生活やめてやる!」旅に出る前の俺は、自分が傷つく覚悟も、死ぬ覚悟もなかった。

「そうか・・・僕はこのまま旅を続ける。警察に捕まって元いた場所に戻るなんてごめんだ・・・好きにするといい・・金も食べ物もくれてやる、道具は好きに使え・・・二度と顔を見せるな・・・」いつの間にか俺は酔いが覚めちまったらしい。

「そうかいそうかい、ありがとな。そしてお前はこのまま旅を続けてろ、迷惑なんだよ、自分の意見で周りを動きにくくするのが。死にたいんなら一人で死んでくれ、周りに迷惑なんてかからねぇからな。言われなくても二度と顔合わせるもんか!」願わくば俺はずっと酔っているままで居たかった。

畜生、覚悟を決めても、心火が揺れて仕方がねぇ。

俺だけ酔いが覚めちまったから、一緒に狂えなかったから、俺はこんな道を選ぶ羽目になったのだろう。少しの食料と金、ナイフにロープを持ってどこかへ走り出す。

長い時間水を飲んでいなかったからか視界が揺れ出し、道中足を踏み外すことが多かった。


数キロは走っただろうすぐに山の中に入ったからもう戻ろうとしても戻れない、「・・・ごめん。俺が不器用なあまりに。由紀、今までありがとう。俺はっ・・・お前と過ごせた十年間、大変で辛いことばっかりだったど・・・楽しかった・・・だから最期に許してくれ、先駆けて死ぬ俺を。」息が、呼吸が荒くなる。

不思議と涙は出てこない。ただ、残るのは強い喪失感。俺は自身が死ぬ覚悟はできた。けど、そこに由紀を巻き込む覚悟はできなかった。

例え由紀が了承してくれても、あいつだけには絶対に死んでほしくなかった。俺の、俺の唯一の親友。絶対に失いたくない大切な親友。この身で守り続けてきた親友。走っている途中でそのまま駅の前を通ったが、帰ろうなんて思考は一切なかった。だからといってこのままこの生活を続けることはできない、酔いが覚め、霧がかっていたあたりが晴れてしまったから、俺たちの行く末が見えてしまったから。だから、大切な親友にあんなことを言っいい訳がないが、馬鹿な俺はそれ以外の方法を思いつかなかった、一瞬の隙をついてナイフで心臓を刺すことでも死ねはするだろうが、由紀に好かれていて、近くで死のうものならすぐに後追いをするだろう。だから、全力で突き放し、嫌ってもらってから、本当に由紀が見えないところで死のうと思った。

けど、やはり「これが、親友との最期でいいのか?」と、自分の人生が終わることよりも親友との終わりがこれでいいのかを考えてしまった。

「その力は人を守るために使うんだ。」中学生の時にいじめられた由紀を見て、全力で激昂して相手に大きな怪我を負わしてしまった時に交わした由紀との約束。

いつまで守れてたっけな。

力も強く、いじめにも耐えてきた。だけど、親友を傷つけないと守れないなんて「あぁ、結局俺は弱いんだな・・・」

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