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愛は消えてなくなりました  作者: もも


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9 デヴィット義兄の怒りを受ける

 十日過ぎて漸く家に帰って来たデヴィットは家の中が静かなことに気が付いた。出迎えた家令に

「リアはどこにいる?」


「若奥様でしたらこ゚実家に帰られました。早くお帰りくださいと使いをやりましたが、分かっておられなかったのですか?」


「子供に泣きつかれて葬儀の手伝いや役所仕事をしてやっていたんだ」


「失礼ですがそんなに時間がかかることですか?若奥様にも同じ言葉を言えますか?もう既に見捨てられてますよ」


「えっ?リアの実家に行ってくる」

真っ青になったデヴィットが出て行こうとしたその時

「奥様の机の上に置かれていました」と家令が差し出したのは署名の済んだ離婚届と手紙だった。


―――



デヴィット様


離縁してください

理由はご自分の胸に聞けば分かりますよね

頼られて嬉しかったですか?

やはり貴方は若い女性が良かった?

私のどこがいけなかったのでしょう?愛されていると思っていました

貴方の中で私はどう扱っても良い存在なのだと分かりました

二人で過ごした年月は一瞬で消えて無くなりました

アパートで抱きしめていたと報告を受けました。気持ち悪くて吐きそうです

今まで楽しかったです。幸せをありがとう。幸せは願いません。

くたばってしまえ!!  さようなら


                     ウィスタリア



「そんなつもりでは無かった。子供が縋り付いて泣くから放っておけなかっただけで。途中で女の顔になって気持ちが悪くて、どうにか振り払って帰って来たのに。間違えたのか?どこで?」


「従姉姪は他人ではありませんか。使用人に言いつければ良かったのですよ。同じアパートにいて抱きしめていたと報告が私の方にもあがって来ております。旦那様にも報告いたしました」


「子供だぞ」


「それでも若奥様は出て行かれました」


「リアの実家に行って誠心誠意謝ってやり直して貰う」


「おられると良いですね」

仮面のような顔で家令が言った。





デヴィットは急いでリアの実家のタウンハウスに行った。


出て来たのは義兄だった。

「漸く浮気相手の所から帰ったのか?貴様など屋敷に入れたくないが外で騒がれると困る。一度だけ入れてやる。小さい応接間に行くぞ」



一番手前の商人相手用の応接間に通された。



「浮気などしておりません。リアに会わせてください」


「リアと呼ぶな、塵め。俺と同じでお前の顔が浮かぶと吐きそうだと言っていた。合わせるはずがない。これまで平民のアパートにいたんだろう。

ずっといれば良かったじゃないか。報告は私も受けた。何が従姪だ。他人じゃないか。こんなに常識のない男だとは思わなかった。妹を泣かせてただで済むと思うな。慰謝料は出せるだけ貰うぞ。妹の今後の為だからな。ちょっと頭が良いと自惚れやがってウィスタリアの何処に不満があったんだ」


「子供に泣かれて振り切れませんでした。女性だなんて思ってもいません」


「泊まっていたんだろう?そこに。黒だ。生物学的に女だよな。

酷い顔色で十三歳でも許せないと言ってた。

仕事をしていた妹は楽しそうだった。その為に脇目も振らず遊びもせず必死で勉強してたよ。一生結婚しなくても良いと言ってた。お前の所から縁談が来るまではな。

妹を大事に出来なかったお前は消えろ。二度と顔を出すな。一生合わせない」



「手など出していません。泊まったのは職場です」


「なんで泊まってまで毎日通った?使用人がいるだろうし、役所に届ければ済む話だろう。

常識が無かったようだな。同じ部屋にいることが世間ではどう見られるか知らなかったとは言わせない。

お前に邪な気持ちがあったんだ。もう全て終わりだ。

離婚届にサインをして役所に出しておけ。慰謝料の話には屋敷に行く。伯爵がいる時にな。首を洗って待ってろ。

妹を弄んだ罪はきっちり償って貰う。お前なんかと結婚したせいで妹の人生は最悪だ。傷物になったんだ。もっと良い人生があったのに。

もう話は終わった、帰れ」


「リアに謝らせてください」


「自分が楽になる為に謝るのか?虫唾が走る。

リアも我が家もお前を許さない。永遠にな。さっさと帰れ。

この場で殺したいくらいだ。

もう一度言うが他人になったんだ。二度とリアと呼ぶな。お前たち連れ出してやれ。帰り道が分からないようだ」


デヴィットは護衛に両腕を掴まれて玄関に送り出された。




 追い出されたデヴィットはよろよろと馬車に辿り着き乗った。御者は無表情で扉を閉めると馬車を走らせた。


若奥様は使用人にも別け隔てなく感謝を伝えてくださる美しく優しい方だった。

その方を裏切るなんて情けない。

あの日クロウ家から、侍女に肩を抱かれた酷い顔色の若奥様を乗せたのが同じ御者だった。

何の苦労も知らない若造がと、腸が煮えくり返りそうだったのは一人だけでは無かった。




 デヴィットは自分のし出かしてしまったことを、漸く身に染みて自覚した。

自分でもどうしてさっと帰らなかったのか、そもそも何故何度も行ってしまったのか分からなくなってしまっていた。子供だから同じ部屋にいても問題は無いと思った。あの時はそうする事が良いと判断したのだ。


その為にウィスタリアという大切な妻を失った。その事実に自分を無性に傷つけたくなった。

大声で慟哭をした。




もう取り返しがつかない現実だった。



お読みいただきありがとうございます!

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