5 デヴィット視点
十五歳になり学院に入学したその日、父上の執務室に呼ばれた。
「デヴィットお前の婚約が決まった。相手はウィステリア・ランドル嬢だ。語学が堪能で美人だ。良いな」
「もう決まったのですか?ウィステリア様は僕で良いと言われたのですか?三歳も年下の男など眼中になかったのではありませんか?」
「一番の成績で学院を卒業し王宮の試験もトップで合格だ。勤務先は我が外交部に決っている。結婚相手としてこれ以上相応しい女性はいない。いずれお前を支えて外交官夫人として活躍が期待される女性を、他所に取られる訳にはいかないのだ。分かったら下がって良い。ああ、顔合わせは一月後だ」
「承知いたしました。では失礼します」
ウィステリア様と言えば卒業されても学院で伝説の才色兼備と言われている方だ。入学前の僕にまで噂は届いていた。儚げな美人なのに誰にも靡かなかったそうだ。 父上の勤務先の外交部に就職されるなんて、運命だろうか。
昔子供ばかりの茶会が侯爵家で開かれたことがあった。そこの兄妹の婚約者や友人を選ぶためだったようだが、上位貴族の子息と令嬢には年齢を問わず声がかかっていて、三歳と小さかった僕も参加していた。その時にお見かけして以来だ。
とても綺麗なお姉様だと思った。あの時に婚約者には決まらなかったんだ。
僕より四歳年上の公爵令嬢が決まったのだったか。
この幸運に感謝しなくては。
顔合わせの日になった。
大人になったウィスタリア様は儚げで消えてしまいそうな美しい人だった。
紫色のドレスが良く似合っていた。 今まで婚約者がいなかったなんて奇跡のようだ。僕が一生愛して尽くそうとその時決めた。
それなのに三歳年上なんてよろしいのですか?と言われた。年下だから弟のようにしか思えないのか。悔しいから大人ぶって紳士のように振る舞おう。これから恋に落ちるかもしれませんよなんて言われた。今恋に落ちたばかりですよ、貴女に。
決めた、僕なりに口説き落とす。
最初は月に一回の出会いだけだったけど、ニ週間に一回にしてもらった。そこは年下を利用してうるっとした目でお願いをした。本当はもっと会いたい。
毎日彼女を見たいし感じたい。
この前屋敷に来てもらって試験勉強を見てもらった。出る範囲を教えてもらった。実は教科書なんて全て暗記してるんだけど、会う口実にした。くっついていても自然だし。いい香りがするんだ。
もっと会いたいから学院なんて一年で飛び級して卒業しようかと思ってる。
語学はもっと勉強をしたいから大学に行がないと駄目だが早めに卒業しよう。
そうしたら結婚して夫婦で外国を回って色々な所を観光して、仕事をしよう。ずっと一緒にいられる。
もう直ぐ婚約披露パーティーを開くんだ。彼女にドレスを贈るのが楽しみだ。
髪と目の色が黒だから僕色のドレスは贈れないけど、宝石はブラックダイヤモンドにした。僕の婚約者だって宣言しよう。誰にも取られないようにしよう。
学院の女の子って媚びた目をして近づいてきて面倒なだけだ。無表情にしていたらそれが良いと言ってると友達のチャールズが教えてくれた。気持ち悪い。婚約者がいるんだ。迷惑なだけなのに。
今頃彼女は仕事中だよね、職場のトップは父上だから優秀さはよく聞かされている。僕のことをちらっとでも思い出してくれないかな。胸が焦げそうなくらい苦しい。同じくらい思ってくれたら良いのに。
年下だからと線を引かれているような気がする。いつか僕が心変わりをすると思っているみたい。そんなことあるわけないのに、ずっと貴方しか見ていないんだよウィスタリア。僕の可愛い人。
結婚までの時間を縮めて見せるよ。
婚約披露パーティーのウィスタリアは女神のように綺麗だった。目が離せなくて貴女に溺れた。
母上にお願いして家宝のダイヤモンドの指輪を譲ってもらった。それといつも着けてもらうように小さな石のついた普段用の指輪もプレゼントした。婚約はもう結婚と同じようなものだから貴女の周りの虫も牽制できるだろうか。
会場には嫌らしい目つきで彼女を見ている男が大勢いた。母上が親しい人しか招待していないと言っていたのに、この有り様だ。油断できない。
これからはパーティーのエスコートも出来る。なんて幸せなんだろう。
僕のいない隙に甘い言葉で囁こうとしても無駄だとわからせてやらないと。
迎えに行った時に指先にキスをするだけだったけど、少しずつ範囲を広げていこう。額にキスをしたら真っ赤になっていた。可愛い人だ。
ウィスタリア貴女は一生僕のものだよ。
読んでくださってありがとうございます。感謝しかありません。
ヤンデレになりそうな気がしないでもないデヴィットですが・・・




