4 婚約披露パーティーは幸せ
馬車の中でプレゼントを渡した。小さなダイヤとオニキスが連なったピアスと繊細な彫りの見事な出来栄の時計をプレゼント包装にして貰っていた。
「わあ、ありがとう、開けても良い?」
「勿論よ、どうぞ」
「ピアスは今着けるよ。時計も凄く気に入った。この繊細な彫り方綺麗だね。外国の物なの?」
「遠くの方に山に囲まれた空気の綺麗な国があるの。そこの国からこの前使節団が来て色々特産品を置いて帰られたの。サルビア宝飾店がこの時計を扱うようになったらしくて注文して漸く二日前に届いたの。間に合って良かったわ」
「ウィステリアから貰えば石だって嬉しいけど、特別な物なんだね、ありがとう。大切にするよ。あっ裏にWからDへって彫ってある。益々嬉しいな」
「喜んで貰えて良かったわ」
「貴女の存在そのものが宝物なのに、プレゼントを喜ばないはずがないよ」
そう言うとデヴィットはウィステリアの肩に手をやり額にキスを落とした。
披露宴会場は白い漆喰の壁に金で縁取りや飾り施されており、シャンデリアも金で、豪華で綺羅びやかなところだった。嫌味な感じはなく荘厳な雰囲気だ。
クロウ家のご先祖様は凄いわ。
皆様の前にクロウ伯爵家一同が並んだ。私たちが真ん中だ。
緊張してきたので、デヴィットの手を強く握ったら握り返してくれた。
近くにいるお母様を見たら落ち着いてきた。微笑んでくださっている。
ワインが全員に配られたのを見計らってお義父様が言われた。
「本日はクロウ伯爵家の嫡男デヴィットとウィスタリア・ランドル嬢の婚約披露パーティーにお越しいただき感謝をいたします。若い二人に皆様のお力添えを。では乾杯!」
「「「 乾杯!! 」」
それを合図に曲が流れダンスが始まった。勿論最初はデヴィットと私が踊った。得意なワルツを大好きな貴方と踊る。幸せだわ。
それが終わればお義父様たちと一緒に挨拶を受けた。貼り付けた笑顔で顔が強張りそうになった頃にお義父様に言われた。
「ここは任せて休憩に行っておいで」と。
エスコートをされて奥の控室に向かった。
部屋は豪華だがキラキラしてはおらず落ち着いた雰囲気だった。アンティークなテーブルにどっしりとしたソファー。座り心地は包みこまれるようで言うことがなかった。
テーブルの上には焼き菓子とケーキが綺麗に並べられていた。そこへ侍女が紅茶を淹れて部屋の端に下がった。まだ婚約者なので扉が少しだけ開いている。護衛が扉の前に立っているはずだ。
仲のいい貴族だけを呼んだとお義母様が言われていたので、騒ぎを起こす者はいないはずだけど、お酒が入るととんでもない行動に出る人がいるかもしれない。
家の娘の方が相応しいとか、私の方がお似合いなのですわとか。よくある恋愛小説みたいなことが起きるのがパーティーだから。
「疲れただろう、僕なんて肩がバキバキ言ってるよ」
「若いのに?主役は十六歳の誕生パーティーの時以来だから、顔が引き攣りそう」
「ウィステリアの十六歳の誕生日パーティーか、会いたかったな。可愛かっただろうな」
「デヴィットは十三歳ね、もっと可愛いかったでしょうね。会いたかったわ私も」
「子供扱いは無しだよ、もう成人したんだ。それに幾つの時だって貴女を守るよ。これから一生貴女を離さない。実は飛び級で学院は卒業したんだ。外国語の勉強をしたいから大学に行くつもりだよ。留学にも惹かれたけどウィステリアと離れたくないから止めた。いずれ外交官になったらしょっちゅう行かないといけなくなるだろうし。その時はウィステリア一緒に行ってくれるよね?」
「えっデヴィット学院を卒業したの?凄すぎない?私なんて一生懸命勉強してやっと上位だったのよ。勿論一緒に行くわ」
「ウィステリアに相応しい男になりたいという思いだけで頑張ったんだ。褒めて」
あざとい男めと思いながら私は腕を大きく広げて、ソファーで隣に座っている
いつまでも可愛い婚約者をふんわりと抱きしめた。
柑橘系のコロンの香りがふわっとした。今日はいつも下ろしている髪を上に上げている。凛々しくなった顔が良く分かった。
「ああ、それからこれは僕からのプレゼントだよ」
と言って箱の蓋を開けて出てきたのは見事なカットの大粒のダイヤモンドの指輪だった。
「綺麗、これは家宝ではないの?」
「先祖代々クロウ家の女主人に受け継がれる物だよ。母上から是非ウィステリアにって。僕からは普段使いに出来るこれだよ」
紫色の箱の蓋を開けると黒いダイヤモンドが光る指輪が見えた。小さい石なので仕事にも着けて行けそうだった。いや普段はチェーンに通してネックレスにして洋服の中に入れておこう。
「ありがとう。大切にするわ。こっちはデヴィットをがいつも傍にいてくれるようで嬉しいわ。それとこんな大切な物をもういただいてしまっても良いのかしら。お義母様は舞踏会に着けて行かれなくて良いの?」
「母上はもうクロウ伯爵家の嫁として認識されているから良いんだって。ウィステリアさんにこそ必要なのよって言ってたよ」
「なるほど、これで戦えってねということね。ありがたく大切に使わせていただくわね」
ウィステリアは義母からの応援をしっかりと受け取った。
読んでくださりありがとうございます! 夕方もう一話投稿します。良ければ読んでくださると嬉しいです。
誤字報告ありがとうございます!




