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愛は消えてなくなりました  作者: もも


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18/18

18 デヴィット ウィステリアとロイを偶然見かける

 庭で子供たちが遊んでいる。マリアンヌが先頭で歩いていた。

お茶をしているお義姉様と私の所へ来て

「お母様と叔母ちゃまに幸せのキャンディをあげます」

と言って虹色の包装紙に包まれたキャンディをくれた。

「幸せのキャンディ?」


「食べる前に願い事を心の中で唱えてください。時間はかかるけど幸せになります」


「ありがとう、良く考えてから頂くことにするわね」


「セオドアには、まだ駄目よ。喉に詰まると危ないから」


「分かってるわ、お母様。セオドアにはビスケットにしてるの。ロイくんにもキャンディあげたのよ。ようく考えるそうです。叔母ちゃまと同じことを言うから親子だなって思いました。セオドアが食べる時は座らせてミルクをのませます」


「マリアンヌちゃんは良いお姉さまなのね、偉いわね」


「えへへ、弟が二人になったので嬉しいです」


キャンディは兄がお土産に買って来たようで、マリアンヌは使用人たちにも同じ事を言って配り皆を笑顔にしていた。

独り占めしないでみんなにあげられるマリアンヌは優しい子だとほっこりしてしまった。まさに幸せのキャンディだ。




後ろでロイが「弟ではなく従姉弟なんだけど」と呟いていたが可愛いので聞かなかったことにした。

ランドル家のタウンハウスでも三人の天使に癒やされたウィステリア達は、可愛さにきゅんきゅんしてしまった。





 懇親会が終わった次の日、ロイと出かけることになった。マリアンヌもついて行きたがったがピアノのレッスンの日だったので泣く泣く諦めることになった。




 久しぶりに出かけた王都は、隙間なく美しい煉瓦が敷き詰められた広い歩道が広がっていた。配置よく植えられた欅の緑が美しかった。夏は木陰を作って人々を日射しから守り、秋には黄色く色づき目を楽しませていた。

その外側に様々な店舗が並んでいた。 


大きな雑貨屋でマリアンヌ達にお土産のリボンを選び、セオドアには木でできたカラフルなパズルを買った。お義姉様と兄様にはハンカチを買った。


ウィステリアはロイと行きつけだった洋装店で新しく洋服を作った。

「お久しぶりでございます、ウィステリア様。お変わりになりませんね。お綺麗でいらっしゃいます。こちらがお坊ちゃまでございますね。お可愛らしいですわ。なんとお嬢様にそっくりではありませんか。

また洋服を作らせていただけるなんてありがたいです。これが今王都での流行でございます」


矢継ぎ早に語られる店主の言葉に圧倒されながら、ウィステリアはクリーム色のデイドレスとロイの為の同じ色のスーツとシャツをオーダーした。靴も新調して出来上がったらランドル家に届けて貰うことにした。



お昼は最近できたというカフェにした。スザンヌを連れて入り護衛には外で待っていてもらうことにした。

今日だけ特別にランチにパンケーキを食べていいと許可をもらったロイは、苺のたっぷり載ったふわふわのパンケーキをにこにこしながら綺麗に切り分けて食べていた。飲み物はオレンジジュースだ。

ウィステリアはローストビーフサラダとパンプキンスープにクロワッサンを、

スザンヌはサラダとステーキとコーンスープを注文した。


料理はとても美味しく満足出来るものだった。


「美味しかったですね、母様。ふわふわでとろとろで口の中で溶けて、上に乗った苺が甘くてみずみずしかったです。横にあったバターの塩味とたくさん掛かったシロップが合わさって美味しかった。はあ〜また食べたいです。

僕この後本屋さんに行きたいです。読んだことのない本が沢山あるかと思うとわくわくするの、楽しみです」


「ええ、美味しかったわね。また来ましょうね。じゃあお口を拭いて、これから本屋さんに行きましょうか」





本屋で沢山本を買い護衛に馬車まで運んでもらい、楽しそうに話しながらロイと手を繋いで歩いている姿をじっと見ている者がいた。



マリアナ国の大使のヨゼフにやむを得ない事情で通訳を頼まれたデヴィットだった。


予定していた通訳が急病で来られなくなりデヴィットが仕方がなく同行することになったのだ。

髪は金髪に染め黒縁眼鏡を掛けているので昔の知り合いに会ってもばれないだろうと思っていた。顔も頬がこけている。両親に見つかるのが一番困る。


来たくて来たわけではないが約束を破ったような気がして嫌だった。


暗い気持ちのまま母国を歩いていた時に偶然元妻と子供を見かけた。






「あれはウィステリア ウィステリアだ。隣にいる子供はもしかして私の子か?」


久しぶりに見た元妻は相変わらず美しく、妻そっくりの子供と楽しそうに歩いていた。


子供が出来ていたのか、本当ならあの中にいるのは自分だった。こみ上げてくる後悔にデヴィットは再度打ちのめされることになった。




あの子にしてやれることはないかと思った時、養育費を送ろうと思った。

両親に返す為に貯めていた貯金を、悪いがこれからはあの子の為に使いたい。

趣味で作った数字のパズルも、頭の体操として貴族達に受け入れられ本の形になって静かに売れていた。その収入もあの子に渡したい。

ウィステリアが認めてくれればの話だが。



デヴィットはウィステリアの身辺をこっそり調べ、子供が自分の子であると確信をした。住所も調べた。感情のごっそり抜け落ちた心が漸く動き出した様な気がした。


十年後に遺産だと言って受け取って貰おう。かなり貯まるはずだ。人生の新たな目標が出来て、デヴィットは生きている意味をやっと見い出せた。


それから十年後デヴィットは風邪を拗らせ亡くなった。

代理人を通し遺産は息子の為に使ってくれという伝言と共にウィステリアに贈られた。



デヴィットの訃報と遺産が届いた時ウィステリアは本当に繋がりが消えたのだと何とも言えない気持ちになった。


それと同時にロイから父親を永遠に奪ってしまったのだという胸の痛みが一瞬よぎったが、もう過去には戻れないのだとその責を受け止めることにしたのだった。

読んでいただきありがとうございます! 後1話で完結です。

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