14 ロイ 3
ロイは四歳になった。家庭教師は学院時代の同級生で成績争いをしていたオリバー卿に月に一度頼むことにした。現在大学で教鞭を執っていて比較的時間に余裕があると言う。街にロイを連れて行ってお茶を飲んでいたら、懐かしそうに声をかけて来たのが彼だった。
教室で会えば挨拶するくらいの間柄だったが、穏やかな人だった。
ウィステリアがガリ勉ならオリバーは天才だった。
「ウィステリア嬢久しぶりだね。息子さんかな、こんにちは、おじさんも一緒にお茶を飲んでいいかな?君のお母様とは学校の同級生でね成績争いをしていたんだよ。ルッツ・オリバーです。どうぞよろしくね」
「ロイ・ランドルです。お母様のお友達?」
ロイが手を繋いできた。初めて会う大人を警戒しているのだろう。
「私は大学で勉強を教えているんだけど、学院時代の友人を見かけて声をかけさせて貰ったんだ。怪しい者ではないよ。
君のお母様とは卒業して以来で懐かしくてね。よく試験で一位争いをしたものだ」
「お母様は何カ国語も読めますし話せます。優しくて綺麗で僕の自慢です」
「そうだね、君の自慢のお母様なのはよく分かるよ。四歳くらいかな。可愛いね」
ロイの顔が強張ってきた。話題を変えなくては。
「オリバー卿はどうしてこの街に?」
「学会の発表があってね、終わったのでゆっくり観光して帰るところだったんだ。
お茶を飲みに入ったら学院時代の同級生がいたので声をかけさせてもらった。お邪魔してごめんね」
「あなたそんなに話す人だったの?挨拶しかしたことがなかったから、知らなかったわ」
「勉強を教えているんだ、話すようにもなるよ。君のご子息はどうやらとても頭が良さそうだね。月に一度でいいから勉強を見させてくれないだろうか。私を辞書代わりにしたら良い」
「どうしてそんなことを言うの?あなたには何の得もないはずよ」
「君の馬車に行かないか?聞かれたくない」
「そこまでする必要はないわ」
「ロイくんを守る為だ、と言う理由ではどうかな?」
スザンヌとロイが怖い顔でウィスタリアを守るように側を離れなくなった。
「話を聞くだけよ」
「何もしないよ。私だって今の地位が惜しいからね。醜聞を起こしたら直ぐ首だよ。
ロイくんもう少しだけ付き合ってね。大人の話なんて面白くないのは分かってるから。なるべく手短に済ませるよ」
ロイが睨むようにして頷いた。
「会話を聞いて思ったんだが、ロイくんが四歳にしては優秀過ぎるから気になってね。
今に同世代の子どもとは付き合えなくなり孤独になると思うんだ。
私がそうだった。せっかくの才能を潰したくないんだ。
何に向いているのか方向性はゆっくり決めればいいと思うが、理解してやれる大人が側にいるというのは存外安心するものだ」
「あなた、学院で普通に授業を受けていたじゃないの」
「頭が良すぎると変人だとか気味が悪いとか言われるんだ。生きて行く為のカムフラージュだった」
「そう言われない人もいたわ」
ウィスタリアはデヴィットのことを思い浮かべながら言った。
「恵まれた立場にいればね。
私は言われたんだ。見ただけで理解すると気味悪がられた。バケモノだと。
妬まれたりもした。
君だけだった、気味悪がらないで普通にしてくれたのは。
だからロイくんの力になりたい。直ぐにではなくていい、助けがいるようになったら言って欲しい。普通の家庭教師では手に余ると思うから。
何かあったら大学に手紙をくれたら良い。ごめんねロイくん、お母様との大切な時間を取ってしまったね」
とう言うとオリバー卿は馬車を降りて去って行った。
「突然で驚いたわね。確かにロイは頭が良いから家庭教師は普通の人では勤まらないと思っていたけど。
急過ぎるわ。ゆっくり考えましょう」
「お母様僕って頭が良すぎるの?それはいけないことなの?ビルやアルクと話していると嚙み合わないことがある。ぽかんとしてる時もあったよ。でも読んでる本が違うだけだと思ってた」
「彼は真面目過ぎね、偶然出会って今話さないと思ったのでしょうけど、こんな所で急に話し出たらロイが驚くなんて考えなかったのね、混乱したわよね。
あのね、頭は良い方が色々な仕事の選択が出来ていいの。母様は必死で勉強しないとオリバー卿には勝てなかったわ。頭が良ければやりたいことが選べる。
翻訳だって勉強をしたから出来ているしね。それに母様はロイの味方よ。どんなロイだって愛しているわ。
馬鹿なことをしたら叱るけど。
屋敷の皆もお祖父様達も伯父様たちも皆がロイの味方なの。忘れないでね。さあ気分を変えて本屋さんにでも行く?」
「うん、欲しい本があるの。冒険物の新刊が出てると思うの。買ってね」
「良いわよ、母様はロイにはゆっくり大きくなって欲しいの。可愛いロイでいて欲しいの」
「ずっと母様のロイだよ」
ロイがあどけない顔で告げた。
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夕方もう1話投稿します。よろしくお願いします。




