13 ロイ 2
「かあしゃまお花あげる」
「まあ、綺麗なお花ね、ロイが摘んできてくれたの?」
「うん、ちゃんとサムおじちゃんに切ってもらったからね。はさみはつかってないよ」
ロイは二歳になり母が大好きな男の子になった。この間は花を手で折ろうとして千切れずくたっとなってしまい、庭師の小屋に置いてあった鋏を持ち出そうとして庭師のサムに見つかり叱られてしまったのだった。
側にいるはずのサナが手紙を受け取っている間の短い時間の出来事だった。
「坊ちゃま花が欲しかったらサムに言ってください。鋏は危ないんです。可愛い手が切れてしまいます。花を手で千切るのも危ないんです。葉っぱで手を切ることがあるんですよ」
「わかった、これからはサムおじちゃんにおねがいする。かあしゃまにお花あげたかったの。はさみもったって言いつける?」
「坊ちゃまがもうしないと言ってくださるのなら言いませんよ」
「ありがとう。サムおじちゃんだいすき」
二歳でこの聞き分けの良さに、心をぎゅっと鷲掴みされたサムは勿論奥様に報告し、安全管理に気を付けることを誓ったのだった。
この話を聞いたサナ達も「ロイ様尊い」と悶えていたらしい。
侍女達が「尊い」と言っているのを聞いてサムは尋ねてみた事がある。
「尊いって何だ?」と。
「あらおじさん、小さなロイ様の可愛さは文句なしでしょう?その上言われることが可愛いくて心を鷲掴みされるの。あ~って崩れ落ちそうになるのよ。それが尊いなのよ」
「そうなんだな。まあ坊ちゃまはお可愛らしいから皆に愛されるのは分かる。ずっと独り身だったから孫を持った気持ちにさせて貰ってありがたい」
サナは厳つい中年男が軍隊を引退して庭師になった事を聞いていた。奥様のお兄様の推薦だ。真面目な庭師はいい同僚だった。
「かあしゃま、またご本よんでね。どうぶつたちがみんなでおかいものにいくおはなしがすきなの」
森の動物達が馬車に乗り合わせて市場に買い物に行く話がこの頃のロイのお気に入りだった。
絵も可愛く色も綺麗で大人が読んでも楽しくなるような絵本だった。市場に並べられている果物や野菜や玩具が、買ってね!と言っているように描かれていて、買い物に行きたい、行ったら楽しそうだという絵本だ。
「良いわよ。また今度お買い物にも行きましょうね」
「うれしい、やくそくよ、かあしゃま。だいすき。たのしみにまってるね。いちばのジュースやパンおいしいんだ。うちのもおいしいけど、いちばでたべるとちがうの」
「外で食べるからかしら。今日のお昼はお庭にシートを敷いて食べましょうね。メアリーお願い出来る?」
「はい、ウィステリア様。直ぐに準備いたしますね」
メアリー達は可愛らしい会話を聞き、崩れ落ちそうになる膝を何とか我慢して、昼食の準備に向かった。
今日は青い空が澄み渡り雲一つない暖かな陽気だ。風もなく幼子とランチをするのに、この上もなく良い日だった。
早速敷物が広げられ小さく切られたサンドイッチやジュースやお茶が並べられた。日除けに大きな傘が用意された。
「わあ~、おいしそうね。サンドイッチのなかにお肉はいってる。たまごも。あっチーズとハムもある。くだものもあるね」
「美味しそうね。手は洗ったかしら?」
「はい、かあしゃま。サナといっしょにあらいました」
「それでは神様の恵みに感謝して、頂きます」
「かみしゃまにかんしゃしていただきましゅ」
小さな手がサンドイッチを持ちパクリと頬張った。もぐもぐと噛みしめごっくんと飲み込むと
「おいし~かあしゃまおそとでたべるのしゅきよ」と嬉しそうにロイが言った。
「そう、お天気の良い日にはたまには良いわね。またお外で食べましょうね」
「はい、やくそくね。たくさんやくそくできてロイうれしい」
「母様も嬉しいわ。愛してるわ可愛いロイ」
「ロイもかあしゃまあいしてる。だいすきなの」
昼食が終わったらロイはお昼寝タイムだ。スザンヌに抱っこされてキッズルームに連れて行かれた。
お昼寝前の読み聞かせもウィステリアがしていた。絵本を読んでいる内に瞼を閉じた我が子が愛しい。何才頃までさせてもらえるのかしら、と考えながら後をスザンヌに託し部屋を出た。
アンとその子供たちは離乳が終わったので、今は遊び相手として一週間に二回水曜と木曜日に来てもらっていた。同年代の友達と遊ぶのは楽しいらしく庭をキャッキャッと三人で走り回っていた。
ロイは二歳で文字が読めるようになっていた。薄い絵本なら直ぐに読み六歳児用の童話も自分で読める。計算も簡単なものなら頭の中で出来てしまう。まだ子供でいて欲しい、ゆっくり大人になって欲しかった。
父親の遺伝子かしらとウィステリアは家庭教師について考えを巡らせた。
読んでくださりありがとうございます!




