10 デヴィット断罪される
両親が帰って来た。
部屋の窓から飛び降りようとした俺は護衛に見つかり死ねなかった。
もやしの様になりかけていた俺を父上が殴った。食べていなかった俺は簡単に浮きとんだ。
「何故葬儀に行った。あの女と我が家とは縁を切っていたはずだ。変に思い込みが激しかったからな。それなのにこっそりと連絡を取っていたのか?」
「昔一度出した葉書が残っていたようで、連絡が来ました。直ぐに帰るつもりでした」
「それでのこのこ行ってこのざまか。嵌められたんだ、子どもの顔をした悪魔にな。そいつは消す。貴族を謀ったんだ。
お前なんかよりウィステリアのほうが優秀だ。お前など叩き出して帰って来て貰いたいが無理だろうな。こちらから頼み込んで来て貰ったのだぞ。
何故そんなことをした?何故大事にしなかった?情けない。沙汰を出すまで部屋で謹慎していろ。無理をしてでも食べろ、罰が決まるまで自死は許さない。簡単に楽になろうと思うな。良いな」
見たこともないような冷たい視線だった。
「分かりました」よろよろとデヴィットは部屋に戻った。
母上がノックもせずに入って来た。
「馬鹿息子、今までの教育は何だったのかしら。簡単に騙されるような男に育てたつもりはなかったわ。女性の十八から二十一って花の盛りなの。それでもあの娘は待っていてくれたのに。それも分からないなんて本当にクズ。お前なんて当主には相応しくない。クロス家ももう終わりね。その頭は飾りだったのね、悔しくて堪らないわ」
それだけ言うと踵を返して出て行った。
頭の中で三人に言われた言葉がリフレインされた。どれもウィステリアを褒め、デヴィットの馬鹿さ加減を叱るものだった。
綺麗で美しく尊い存在を傷つけてしまった自分の愚かさが、身に染みて恥ずかしかった。父が言った子どもの顔をした悪魔という言葉が一番相応しいとストンと胸に落ちてきた。
的確な判断の出来ないものが当主など出来るわけも無かった。国外に追放されたら、巡礼の旅をしよう。それで何処かで野垂れ死ぬのだ。自分に相応しい最期じゃないか。
デヴィットは目をつむりウィステリアの笑った顔を思い浮かべた。
もう会えない彼女は寂しそうな顔をしていた。
☆☆☆
ウィステリアが別荘で安定期を迎えるまでに離婚は成立した。莫大な慰謝料が支払われることになり、ウィステリアの口座に振り込まれた。
これでこの子の教育費は安心だわ。お腹を撫でながら声をかけた。
「あなたにお父様はいないけど寂しい思いはさせないわ。二人分お母様が愛していくから」
「ウィステリア様体調はいかがですか?」
メアリーがおなじみになったハーブティーをワゴンに載せて入って来た。
「悪阻も治まったし、これからどうするか考えないといけないわ。いつまでもお世話になる訳にはいかないもの」
「私の実家のある街は如何でしょう?結構大きい地方都市です。あまり田舎ですと余所者がいたら目立ちますし、緑も多く子育てもしやすいと思います」
「そうね、良いかもしれないわ。住心地を見るために最初はホテルに滞在かしら」
「ウィステリア様にぴったりのホテルがございます」
「希望が持てるって良いわね」
「一時はお窶れになって心配しておりましたが、食欲も戻られて安心です」
「いつまでもうじうじしているとこの子に悪い影響が出ますよと先生に教えていただいたから。
こうしてこの子の着る洋服やスタイを作っていると何も考えないで済むから助かっているの」
「赤ちゃんの服は何枚あっても良いですものね。直ぐにサイズが合わなくなりますし食べ汚しもありますから」
「どちらが産まれても良いように白や黄色が多くなったわ。見て、小さな藤の花も刺繍してみたの」
「まあ可愛らしいですね。売れますよこれ。今度ここら辺でバザーがあるようなんです」
「又にするわ。褒めてくれてありがとう。お世話になったここのお二人に何か贈り物をしたいの。何が良いと思う?」
「ウィステリア様ケーキ作りがお得意だったじゃありませんか。久しぶりに焼いてみられませんか?」
「手伝ってくれる?」
「もちろんでございます。クッキーも焼きましょう。みんなで作れば楽しいですよ。もし匂いがきつく感じられたら私たちがおりますから」
「そうね、楽になったけどまだ自信はないわ」
「ハンカチに刺繍をして渡すのもいいですね」
「それなら簡単よ。以前勤めていたアンが先生だったから厳しく教えられたものよ。お嫁に行ったけど元気かしら」
「確かその方、これから行く街の男爵家の奥様になられたんですよね。お会い出来るかもしれませんよ」
「まあ楽しみ。楽しいことって案外あるものね」
ウィステリアはこれからの生活に思いを馳せた。
読んでくださりありがとうございます。暗い話が続いていましたので後半明るくしてみました。
夕方もう1話投します。よろしくお願いします。
誤字報告ありがとうございました!




