双星の夜
星に選ばれた子は、願いを叶えて街を去る。
その夜、親友の無私の願いが、「一夜に一つ」という古い掟を
打ち破る。
愛と絆の力で運命を共有した二人の、切なく美しい旅立ちの物語です。
ここは、まだ名を持たない小さき命たちだけの町。
朝は澄んだ笑いで目を覚まし、昼は跳ねる心音で満ちる。
そして、日が沈み始めると、町じゅうの子が外へ出る。
誰の手に星が落ちてくるのか、息をひそめて待つためだ。
今日こそ自分かもしれないし、何年も先かもしれない。
石畳の広場は白い息で満たされ、空には数え切れない光が瞬いている。
そのうちの一粒が、必ず誰か一人の頭上にだけ、まっすぐ落ちてくる。
その星に触れた瞬間、心の奥に眠る願いが必ず叶う
――そして日の出とともに、選ばれた子は山をくり抜いた一本のトンネルをくぐり、町を去らなければならない。
理由も行き先も、誰も知らない。
「もし君の番が来たら、どんな願いをする?」
隣で笑うのは幼なじみの親友だ。
「まだ言わない」
ぼくは答えながら、夜空を仰いだ。
言わない理由はひとつ。願いを言葉にしたら、すぐにでも叶ってしまいそうで怖かったからだ。
親友は小石を蹴りながら笑った。
「じゃあ、ぼくも秘密にしておく」
静かな夜が何日も過ぎた。
そして、その時は突然やって来た。
ひときわ大きな光が、親友の頭上にまっすぐ落ちてきた。
その瞬間、広場にいた子どもたちは息を止める。
星は迷わず親友の掌へ吸い込まれ、淡い温もりだけを残した。
「……今、何を願ったの?」
胸の奥が凍えるのを感じながら、ぼくは訊いた。
「なにも」
親友は笑った。
その笑顔が、かえってすべてを物語っていた。
東の稜線が明るくなり始めた頃、親友の足は自然にトンネルへ向かっていた。
町外れの森を抜ける一本道。
その先に、深い闇を抱えた長いトンネルが口を開けている。
そこを通った子が、二度と戻ったことはない。
「行くんだね」
ぼくは声を震わせながら言った。
「うん。……でも怖くないよ」
親友は振り返り、少しだけうつむいた。
「本当の願いは、君が幸せであることだったから」
その言葉が落ちると同時に、ぼくの胸に強い衝動が走った。
夜空を見上げる。
――その時、あり得ないことが起きた
二つ目の星が、同じ夜に降りてきた。
光はゆっくりとぼくの頭上へ落ち、掌に吸い込まれる。
町の子どもたちが一斉にどよめいた。
一夜に一つという古い掟は、まるで存在しないかのように破られていた。
胸の奥でただ一つ、願いが結晶になる。
――親友とずっと一緒にいられますように
光が弾け、足が自然にトンネルへ向かう。
親友が驚いた顔で、やがて泣き笑いのように微笑んだ。
「……君の願い、聞いていい?」
「今、もうわかったでしょ」
ぼくたちは手をつないだ。
トンネルの奥から、まだ名もない薫りが、そっと頬をなでた。
二人の影はゆっくりと闇に溶けていった。
読んでくださり、ありがとうございました!
もしあなたがこの町の子どもだったら、どんな願いをしますか?
一言でも構いません、感想をいただけると飛び上がって喜びます。
この物語と出会ってくださり、本当にありがとうございます。
あなたにも素敵な星が降ってきますように。




