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〜9〜紅い月

「…よくやった、期待以上の見た目だ」


誰かが話す声が遠くに聞こえ、マオは目を覚ます。


(んん……どこ、ここ)


豪華な部屋だ。奥に二人の男が見える。と、そこで自分がベッドに縛り付けられている事に気付く。思わず声が出るが口を塞がれているようでくぐもった声しか出ない。が、男たちは声が聞こえたようでこちらに近づいてくる。


「やあ、目が覚めたようで何よりだよ。調子はどうだい?」


身なりからここの主人だとわかる男が話しかけてくる。調子はどうだい?だの言うが、口を塞いだのはそちらだろうに。


(にやにやにやにや気持ち悪い)


「ああ、喋れないんだったな。すまない。手荒な真似をして悪いな。君には私の可愛い可愛いドールになってみようと思ってな。どうだい?何もせずとも可愛がられる人形。嬉しいだろう?」


男はベラベラと気色の悪いことを宣う。


(何言ってんのこいつ…)


ドール?嬉しいはずがないだろう。ナンパ男といい、どうしてクズは思い込みが激しいのだろうか。こんな奴に可愛がられるなんて、そんなの耐えられる気がしない。吐き気が催してくる。


「おい、お前は出て行け」

「はい。失礼します」


男は部下を外へ出す。ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら近付いてくる男に寒気が止まらない。これから何をされるのか、予想が出来てしまう。


(やだ、来るな…)


んーんーっと声をあげるもなんの抵抗にもならない。


最悪の場合、死んでも尚鑑賞品として扱われる事になるだろう。そんなの、耐えられるわけがない。こんな事になるのなら不細工に生まれた方が良かったと今更なことを思う。


「近くで見ると益々美しい。やはり私のドールとしてふさわしい!だがまずはそうだな…身体に傷が無いか確かめなければ」


男は鋏を取り出し、服を切っていく。


恐怖に耐えながら震えていると、脚を撫でられた。途端ゾワゾワと鳥肌が立つ。


(いやだ…こんな奴に触られるなんて…)


マオにだって憧れはあった。素敵な人に出会い、恋をして愛し合う。そんな恋をしてみたかった。だが、男への恐怖心でじわじわとその憧れが黒く塗り潰されていく。もう、そんな期待は持てない。ここで終わりだ。


もう、自分はこの気色悪い男に、好き勝手に遊ばれるしかないのだ。


嫌悪感から涙が溢れていく。


「ああ、なんて美しい涙なんだ!歓喜で涙が出るなんて、健気で可愛らしいなあ!」


そんな馬鹿げたことを言いながら涙を舐められる。不快感が溢れていく。なんで自分がこんな目に遭わなければいけないのか。心が醜いことへの罰なのか。人助けでもしていれば良かったのか。今更悔やんでももう遅い。神が例えいるならば。何故マオを転生させたのか。何故こんな目に遭わせているのか。神なんていないんだろうな、と思いながらもいないはずの神を憎む。


(わたしはいつでも他責思考だな…こうなっても仕方ないか)


諦めが浮かんだ。その時。


バンッ


男が血を吹き出し倒れ伏す。撃たれた。誰かに。一体誰が、


「あー、やっぱりマオちゃんだ」


(こん?)


コンだ。前世の記憶を思い出したあの日、助けてくれた花のような、あの人。でも今はまるで、夜の月のようだ。綺麗なのに、どこか恐ろしい。


なんで、どうしてコンが撃った?混乱しているとコンは死体を蹴り飛ばし、マオの拘束と口枷を外す。そして掛けていた外套をマオにかけてくる。


「……なんで、コンが……っ」

声が震える。助けに来たはずなのに、息が詰まるほど怖い。


「俺はね、こういう悪い奴を消すお仕事をしてるの。女の子を攫った、って言う情報を得てもしかしたらと思ったんだけど、来てみたらやっぱりマオちゃんだったね」


悪い奴を消す。警察とは違う、何故かそう分かる。


(なにか…危ない組織?)


コイツには近付いてはいけない、そう本能が告げる。あの時感じた気持ちは、間違っていなかった。


「大丈夫?間に合ったみたいだけど、怖かったよね。遅くなってごめんね?」


そうこてんと首を傾げながら言うコンは相変わらず美しい。月明かりに髪が光り、まるで月そのものかのように見える。赤い、紅い、月。


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