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〜7〜幸せ



「俺は、やらなきゃいけないんだ。─ごめんね」


コンは目を閉じ、瞳を開く。そしてゆっくりと歩き出した。





チュンチュン、ピヨピヨ、リンリン、ザワザワ、鳥や虫の声、風に木や草が揺れる音。そんな音と共にマオは目を覚ます。都会の喧騒に比べて、不快ではない。とてもすっきりとした目覚めなのだが、やはりこうも音がするとうるさい、と感じてしまう。


(なんだかなぁ)


不快ではないが、嬉しくもない目覚め。そんな微妙な朝は、少しの不安を感じさせた。どうもこちらの世界に来てからそのような曖昧な感覚を感じる事がよくある。その時は決まってネガティブな感情を抱く。


(第六感みたいなものが研ぎ澄まされてんのかな)


やはり自分はポジティブな少女漫画の主人公のようにはなれないと、何度目か分からない感想を抱く。マオは少女漫画が好きだ。様々なものを読み漁り、楽しませてもらってきた。読んでもキュンなどという感覚は味わった事がないが。


(起きよ)


朝の微睡の時間は余計な事を考えてしまう。一日の始まりくらい明るく起きたいものだ、とこぼす。


今日は街のはずれへ本を買いに行く予定だ。昔から定期的に新しい本を読まないと気が済まない時期が訪れる。本好きにはあるあるなのだろうか。勿論買った本は読み返すが、それでも足りないのだ。新しいものを読むと暫くは満足するので特に困ってはいない。


(ほっん〜あったらしいほん〜)


白と緑のふわふわしたセーターに青のロングスカートを履く。スリットが入っており、よく分からないけどおしゃれだなー、と見る度に思うものだ。


今日は三つ編みハーフアップにする。可愛い、と鏡を見て自画自賛をすれば、少しは気分も上がる。自分の機嫌は自分で取れ、だ。無理はあるけどね。


「行ってきまーす」


皆の見送る声を受けながら、歩いていく。この時、風が吹いて背中を押してくれたような気がした。こういう事があるとテンション上がる〜!とルンルンで歩く様は周りから見るととても可愛らしいが、マオは気にしない。気づいてもいない。


暫く歩いたところで、花に囲まれた道が現れる。本屋のご夫婦が整備しているそうで、本屋に行くたびの楽しみだ。


コツ、コツ、コツ。コツ、コツ、コツ。


この音が心を弾ませる。


(ふふ、楽しい)


わざと音を立てるように歩いていると、赤い屋根のまるで小人でも住んでいそうな建物が現れた。カランコロンと音を鳴らしながら扉を開ければ、そこは本の天国だ。奥に座っていたおばあちゃんがいらっしゃい、と声をかけてくる。店主のマーガレットさんだ。名前に相応しく、優しくふわりとした雰囲気を纏っている。


「マーガレットさん、久しぶり。新刊ある?」

「入ってるよ。そこの棚に置いてあるやつね」

「ありがと」


マーガレットさんとは何年か通っているうちに仲良くなり、友人となった。今ではこうして気軽に話せる仲だ。


新刊が置いてある棚を物色する。面白そうなのをいくつかピックアップし、マーガレットさんの意見も聞きながら一冊の本を選んだ。


(ありがちだけど、面白そう)


どうやら人間と魔物の禁断の恋の話らしい。二人は引き裂かれるが、魔物側に主人公が亡命する事で結ばれるのだとか。禁断の恋は大好物だ。


「ありがと!読むのが楽しみ!」

「こちらこそ有難う。ハンカチ、用意しとくのよ?」


悪戯っぽく笑うマーガレットさんにそんなに感動するのか、と覚悟しながら頷く。


カランコロンと音を鳴らしながら扉を開け、花の道を帰っていく。


コツ、コツ、コツ。コツ、コツ、コツ。


やはりこの音は心が弾む。買い物後の高揚感と本への期待。清やかな涼しい風。少し肌寒い秋の風。オレンジに色付いた木々がサワサワと音を立てる。マオは頬を赤く色付けながら帰路へとついた。


「ただいま〜」


おかえりと言う声が一斉に聞こえる。丁度お昼時のようだ。本を部屋に置き、手を洗い皆の手伝いをする。ザクザクのガーリックバターを塗ったフランスパン。熱々のコーンスープ。小さな贅沢だ。


「いただきます」


孤児院の面々はたった六人だ。しかし同じ場所に集まると中々の人数。その皆が同じテーブルにつき、いただきますと一斉に言う。なんて事ない日常だが奇跡のように思えてくる。朝の不安感が嘘のように幸福感に満たされている。


「ごちそうさまでした」


その一言で皆立ち上がり、食器を片付け各々の部屋へ戻っていく。一緒に庭へ出ていく子たちもいた。


(幸せだな…この幸せがずっと続けば良いのに)


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