〜16〜お腹いっぱい
「「お前が泣くわけないだろバカが」」
マオとシロの声が揃ったところで、マオが何かを思いついたような顔をする。
「あ、そうだ。スイさんとシロさんも一緒にごはん食べない?もちろん、二人のお邪魔じゃ無ければだけど」
マオがそう言うと、二人は目を瞬かせ顔を見合わせる。そして目で何か会話した後、スイが話し始める。
「ん〜ごめんな。気持ちは嬉しいんやけど、二人で食べたいから」
ぱちっとウインクをしながらスイが言う。マオは悲しむ、と思いきやぱーっと顔を輝かせ大きく頷く。
「もちろんっ!二人でゆっくり食べな!?んふふ、いいねぇ、仲良くて」
マオの満面の笑みに思わず三人も笑顔になる。思い浮かんだ言葉は皆一緒だ。『かわいい』である。にこにこしながらスイが是と答えるも、いつもの通りシロはツン、と否定する。
「うん、仲良いよ〜」
「良くは、無いし」
マオも早々に見破ったが、ただの照れ隠しなのでその場にふわふわとした空気が流れる。
その空気に耐えきれなかったようでシロが行くよ、とスイを引っ張って食堂から出ていく。それをキラキラした目で見つめていたマオだが、ふと食事の存在を思い出す。皆すっかり忘れていたが、食事をしようとしていたところだった。スープはもう冷めてしまっているだろう。レンジがあれば温めなおせるがそんな物はこの世界には無い。魔法も無いので温める術はない。
「いただきます」
「いただきます。……うん、冷めてても美味しいね」
「うん。おいしい」
「ふふ、素直な返事」
「黙れ」
そんな会話をしながら食べ進め、お腹がいっぱいになるまで食べる。だが、自分の分の大半が残ってしまった。しかしコンに食べてと頼むのは癪だし、無愛想な態度をとっておきながら頼むのは図々しすぎる。頑張って食べ進めるが、手が止まってしまう。
「お腹いっぱい?」
「…ううん、咀嚼に疲れただけ」
コンが気付いたのか聞いてくるが、認めるのが悔しく、小癪な答えをしてしまう。するとコンは少し考えたような素振りを見せた後、おねがいをしてくる。
「ねえ、マオちゃん。俺ごはん足りないから、マオちゃんの分けてくれない?」
「仕方ないな。はい、好きなの持ってって」
「ふふっ、ありがと」
確実に気を遣ってくれたのだが、これ幸いとばかりに自分の分をコンに渡す。結局コンが殆ど持っていった為、マオは食事を残さずに済んだ。
感謝を伝えなければ、と思うが声が出ない。なぜだろう、コンに素直に接する事が出来ないのだ。いや、ある意味では素直なのだが。どうしても反抗心が湧き、こどものような駄々を捏ねてしまうのだ。
「マオちゃん」
「なに」
食器を片付けていると、ふとコンが声を掛けてくる。そしてこう言うのだ。
「お腹いっぱいになったよ。分けてくれてありがとね」
マオは目をゆっくりと見開く。そうだ、この男はそういう奴だった。怖くて信用できないが、とても、優しい男。最初に会った時も助けてくれた。自分は何をしているのだろうか、こんなんではいつまで経っても昔と同じだ。せっかく生まれ変わったのだ。なりたい自分になるチャンスではないか。自分で誇れる自分になりたい。今がその一歩を踏み出す時なのではないか。すると声が自然と出てきた。
「ううん、こっちこそありがとう。あと、いつも…ごめん」
瞳を開き、瞬かせたコンはやがて最初に会った時よりも、優しく、優しく、美しく微笑む。そしてマオの頭にふわりと手を置き、包み込むような優しさで、撫でる。やめろと言いたいのに、何故か言えなかった。
暖かい手が、心地良くて、なぜか涙が滲んだ。




