〜13〜綺麗
じーっと、誰かに見られているような気がする。そうマオは思った。自分は誰かに見られるような事をしているだろうか、そうだ、寝てたんだ。寝ている人間を眺めるような趣味の人間は知り合いにいただろうか。考えても答えが見つからず、ゆっくりと瞼を開く。するとそこには、到底この世のものとは思えない美しい顔があった。
「………?」
「あ、起きた?」
「……っ!?なっ、なんでそんな近付いてっ!?」
まあ、言わずもがなだがコンだ。確かに起こしにくるとは言っていた。言っていたが、至近距離に近づかれていた理由が分からない。
「綺麗だな〜と思って見てた!」
「なんで!?確かにわたしは綺麗だけど!!!」
見てた!にこっ!ではない。驚いて自画自賛の言葉が飛び出してしまったではないか。それによっぽどそちらの方が綺麗ではないか、とマオは内心ブチギレる。側から見れば二人の顔面偏差値は同じくらいだが自分の顔というものは綺麗とはあまり思えないものだ。マオの反応は別におかしくは無い。
「おはよ。もうすぐご飯だって〜食べ終わったらメイドさんと執事さんと顔合わせね」
どこまでも呑気なコンに怒りを通り越してかわいらしいという感想が出てくる。寝起きに凶器な顔を見たこちらの身にもなってほしいが、もはや小さい子への感情が湧いてくる。庇護欲と慈愛だ。
「……はあ〜〜〜〜、分かった、行く」
のそのそとベッドから降り、コンについていく。どうも最近ついていってばかりな気がするが、気のせいだろうか。
(あ〜〜、こいつスタイルも良いんだ〜天何物も与えすぎじゃない?)
そんなどうでもいい事を考えながら歩いていると、コンがふと振り返り微笑んでくる。なんだ、と思うが負けじと精一杯の笑みで微笑み返すと面白そうにくっくっと喉を鳴らした後また前を向いた。本当になんだったんだ。
食堂へ着くが、人気はない。テーブルは二人で座るには大きい。そのくせお洒落な料理が二人分、隣り合うように並べられている。
「あれ、二人で食べるの?」
「うん。二人は他のとこで食べるって」
疑問を口に出すと二人、という言葉が返ってくる。メイドさんと執事さんとやらは一人ずつなのか。言葉が足りないやつだな。
「二人なんだ」
「あれ、言ってなかったっけ?ごめんごめん」
「報連相はちゃんとして」
「はい、気をつけます」
言う権利があるだろう言葉を言うと真面目な顔して返してくるが、本当に気をつける気はあるのだろうか。気をつけてるとだけ言って何も気にしてないパターンは割とある為、コンがそういう人間でない事を祈るばかりだ。
テーブルにつくと、何から食べようかと吟味する。何から何まで豪華な屋敷だ、フレンチのような物が出てきたらどうしようかと思っていたが意外と庶民的だ。これならば安心して食べられる。
わくわくしながら肉のソテーを食べると、あまりの美味しさに驚く。
「なにこれうんま」
思わず呟くと、コンはあははっと笑う。何故か楽しそうだ。
「お気に召したなら良かった。作った奴も喜ぶよ。それにしても、毒とか疑われるかと思った」
その言葉を聞き、焦りが浮かんでくる。まさか、油断させたところで毒で殺す気では!?
「…あんたが私を殺す理由が思いつかないし?大丈夫だと思ったの!」
「ふふ、そっか。大丈夫だよ、毒入ってない」
苦し紛れに毒の可能性も考えた体で進める。コンにはバレてる気しかしないが。それに殺す以外の毒かもしれないという可能性も失念していた事に気づくが、もう遅い。なるようになれの精神でバクバクと食事を進めると、コンは爆笑する。
「ふっ、くくっ、ちょ、ちょっとまって、ぐっ、ふ、ふふっあははっ」
「うるさい、黙って食え」
コンは笑いを止めようと深呼吸をし、一旦止まったもののマオの顔を見た途端また笑い出し、しばらく笑い続けた。
「チッ」
思わず舌打ちをすると、不満を顔に出す。
コンはマオに微笑む。どこか無感情に。
食べ終わり、身の回りの事をしてくれるらしい二人の元へと歩いていく。ちなみに毒は入ってなかった。遅効性かもしれないが。




