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98話 能無しの活用法

加勢に向かおうという所で、コラルドが右足を引きずりながら申し出る。


「さっきの攻撃で負傷したもので…先に行ってください」

「分かった――って、行けるわけないだろうが! 一人の所を狙われたらどうするんだよ?」

「敵がこの辺にいる確率はかなり低いと思うので大丈夫ですよ。それに俺がやられたとしても戦に支障はでませんから」

「いや、めちゃくちゃでるから。有能な奴を失うと士気が下がりまくって戦況が一気に悪くなるって、今時子供でも分かる事だぞ? 当たり前の事をいちいち言わせんな。やられても支障がでないのは、俺みたいな能無しだけだから。その辺ちゃんと分かってる?」

「つまりはトーさんでも支障がでると…」

「おまっ、全然分かってないじゃん!」


 この後、コラルドは自分がブダシヤカにとってどれほど重要な人材であるかを語られる。情報量が多いのはもちろんの事、偶に本人でも知らない様な長所をあげてくるので、『この人、観察し過ぎだろ…』と引きまくる結果に。そんなコラルド評価しまくり説教は10分続く。コラルドは情報過多によってノイローゼ気味に。対するレトーはスッキリした表情になっていた。

 コラルドは,、この地獄が続くよりかは認めてしまった方がマシと考え、渋々「十分わかりました。俺は有能です」と答える。それを聞き「分かればいいんだ、分かれば」と満足そうに頷くのであった。


 話が終わった後は、コラルドを支えながら歩いて目的地まで向かう事に。その道中でレトーがボソッと話す。


「結局、お前を襲っていたあいつらは、何者だったんだろう?」

「ワイル国の秘密兵器じゃないですか? 恐ろしく強かったですから…」

「そうだとしたら、おかしくないか?」

「と、いいますと?」

「いや…そんなに強いのならクーア国との戦争に参加していないとおかしいだろ。決定打のある奴らを使わない理由が分からん。戦争を長引かせても損をするだけだろうに」

「それもそうですね…」


 コラルドがその疑問をこねくり回している所に、ハッと何かに気づいた顔のレトーが話題を持ってくる。


「もう一つおかしい点に気づいた」

「何です?」

「あいつらって、お前の先読み合戦に余裕でついてきていたよな?」

「ええ」(俺は最後置いていかれたけど…)

「あれだけ先読みできた奴らが、このまま何もせずに退却すると思うか?」

「…態勢を整えて戻ってくると?」

「ああ、そのパターンもあるが、別パターンの――」



◇◇◇



 現在の戦況。ブダシヤカ側が東・北の制圧を完了し、西の隊と合流して戦闘中。

捕えられたワイル兵達は東の簡易休憩所に集められていた。両手両足を拘束されており、その周りを監視役のブダシヤカ兵が5人で見回るという形。

 ワイル兵達の中には兵長も居る。他の兵達は疲労困憊でグッタリしているというのに、彼だけまだ目が死んでいなかった。そんな彼が監視役に声を掛ける。


「あのー少し聞いてもよろしいですか?」

「何だ?」

「ここに指揮官または軍師の方はいらっしゃいますか?」


(コラルド君に用かな? わざわざ陣営から呼び出すのも悪いし。ここで要件をある程度聞いて、重要そうなら伝令してもらうようにしよう。それまでは私が指揮官代理だ)


「私がそうだが」

「…素晴らしい戦運びでした。手も足も出ませんでしたよ。余程経験を積んでいらっしゃるのでしょうね」

「ええ、まぁ…」(あれ…?)

「でしたら、町での評判も大層良ろしいのでは? こんな逸材を皆が放っておくはずがないですから」

「そ、そうですねぇ」(何か急に悲しくなってきたぞ?)

「あなたに出会えて良かった――」



――こちらは森の中を駆け、退却中のターロとシャロ。


 ターロがシャロに抱えられた情けない状態のまま、真面目に思考する。


(人には “美学”というくだらない固定概念を持っている者が結構いる。どうしてもそれを護らなければならない、そうでなくてはいけない、という思考の縛り。これが行き過ぎると、人はその美学に命を懸けるようになる。その時の感情で適当に考えた妄想物に命を懸けるのは、本当にくだらない。

 美学の加速装置として最もよく使われるのが名誉。名誉をより具体化した勲章や他者からの称賛は、自己承認欲求を満たし、快感を与えてくれる。この快感をもっと味わいたくて、求め続けると、いつの間にか美学の虜に。

 虜になる奴の特徴は自分に自信がなくて、自分で考える事が苦手な所。つまり、能無しだ。自分で考える事の出来る人間は勲章や他者からの称賛がただの物や言葉であって虚しい事を知っている。だから、それに踊らされることはないし、そんなものはなくてもいいと思える。それは、承認欲求が後付けの幻想である事に気づいているから。

 美学の虜になった能無しは他者依存する事でしか自分を保てないから、ほとんど他者の言いなりだ。多くの人が良いと思ったものを良いと思い、悪いと思ったものを悪いと思う。そうやって考える事を他者に委ねて放棄する。まるで操り人形。自己意思がないのであれば、死んでいるのと一緒だ。つまり、能無しに価値はない。

 …おっと、価値はないというのは言い過ぎた。この能無しのおかげで楽をさせてもらっているのだから、むしろ感謝しないと。…考える能力がないという事は、誘導の仕方次第で能無しを自分の思い通りに操れるという事だ。例えば、それが――)


 ターロの口角が上がっていく。


(――命懸けの命令でもな)

 

 場面は休憩所に戻る。


「あなたに出会えて良かった。…よろしければその顔を近くで拝見させていただきたい。お手数ですが、寄っていただいてもよろしいですか?」

「ああ、構わないよ」


 それを聞いて、兵長の顔が一気に明るくなる。


(この指揮官は今後、確実にワイルを脅かす。ここで殺しておくべきなんだ。今まで役立たずで、皆に散々迷惑をかけたけど、最後の最後で役に立てて良かった…。国を守る為に死ねる事がこんなにうれしい事だったなんて思わなかったなぁ…。そんな機会を与えてくれた軍師殿にはあの世でも感謝しないと)


 自分の顔の前に目的の人物の顔が近づいた瞬間、縛られた手で自分の腹を思い切り殴る。すると破裂音がして、兵長の顔だけでなく、辺りも一気に明るくなった。

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