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96話 実力差による当然の結果

 ジャックス隊が足止め隊と挟撃して東側を制圧。続いてやって来たワイル兵達(B隊)と対峙していた。B隊前列には全身鎧の兵達が10人並んでおり、痛手になるような部位を特殊銃で狙っても、銃弾全てが弾かれる。その強度から彼らの鎧も仁力で強化できる特殊武具である事が分かった。

 ブダシヤカ兵達が「どうするよ、あれ…」と立ち往生していると、ジャックスが木陰に隠れながら、敵側に呼びかける。


「こちらには先程捕まえたあなた方の仲間…人質がいる。これ以上の戦いは彼等の命を危険にさらすだけ。やめましょうよ、こんな無駄な事。戦っている兵達を連れて今すぐ退いてください。そうすれば後日、人質の方は必ず返します」


 これに対し、全身鎧のワイル兵が返答。


「そんな事、今更できるか。我々が退く時は、勝ってすべてを終わらせた時だけだ。…にしても、その上から目線が気に食わない。その言い方だと『余裕で勝てる』と言っている様なものではないか」

「そうですけど…?」


 そのすっとボケた返答を聞いて、思わず吹き出してしまう。


「強がりはよせ。見苦しいぞ」

「強がりじゃありませんって」

「どこかだ。現にこの鎧に全く歯が立っていないじゃないか!」


 それを聞いて静かになるジャックス。静かになった事で「図星だったか、すまんすまん」と煽る兵士と笑う他のワイル兵達。だが、彼らは聞こえていなかった。ジャックスは黙ったわけではなく、「本当なのになぁ」と呟いていた事に。


「もう一度お願いをします。退いてくれませんか?」

「くどい! 退くわけがなかろう」

「…分かりました」

(案外早く諦めたな。…さて、ここからは消耗戦だ)


 兵士がそう覚悟した時、「なら仕方ないですね」と微かに聞こえた気がした。

 瞬間、彼の右膝部分のプレートに衝撃が入る。見ると、弾が厚いプレートに突き刺さっていた。今まで全ての弾丸をはじいてきたので、その威力に驚くも所詮は貫くまでには値しない威力として安心する。

が、その安心は長くは持たなかった。それは、銃声が連続で聞こえたかと思えば、先程衝撃のあった所へ立て続けに衝撃が入ったから。兵士が『嘘だろ…? 同じ個所をピンポイントで当てるなんて不可能だ』と思っている内に、不可能を可能にした銃弾達が次々と刺さった弾丸に命中してそれを押していく。


「そんな馬鹿な…」


 そうして押され続けた弾丸はとうとう厚いプレートを突き破って兵士の右膝をも貫いた。体を支える事が出来なくなって右膝をつく。すると、今度は左膝に銃弾が刺さった。数分後彼の左膝もダメになって立てなくなるだろう。このままではまずいと考えたワイル兵達が、先頭の全身鎧兵士を盾替わりとして駆け出した。しかし、他のブダシヤカ兵の激しい銃撃に合う。ジャックスの銃弾の様に貫かれはしなかったものの、あまりの弾の勢いで前へ進めない。それでしばらく進めないでいると、一人の全身鎧が膝をつく。どうやら次に立てなくなるのは彼らしい。

 こうして、時間の経過と共に全身鎧兵は次々と地面に膝をつかされ、残るは木陰で身をひそめる残存兵だけとなった。ワイル兵は数では勝っていたものの、狙撃能力では大きく劣っていた為、距離を取られているこの状況では戦闘で優位に立てなかった。結果、彼等も時間の経過で次々と捕えられる。数時間後には制圧完了した。


そこへちょうどレトー隊がやって来る。来て早々周りの状況を見て驚いた。


「ひょっとして、もう制圧しちゃったんですか?」

「まぁね」

「早すぎますよ。全身鎧の兵も居る…まさか、あの分厚い鎧を撃ち抜いたんですか?」

「まぁね」


 威張っている感じや自慢するような素振りもなく、当然のような顔をして答えるジャックスに対し、『あっ、この人本物だ』と恐れながらも尊敬するのだった。


「ところで君らの所の隊長は?」

「便所です。後から来ると思います」それを聞いて微笑むジャックス。

「…そっか。なら、できるだけ彼を驚かせたいから、さっさと他の箇所の制圧に行こう」

「それ、いいですね」

 

 乗り気になった兵士達は意気揚々と次なる目的地である北側へ加勢に向かった。



◇◇◇



 場面はブダシヤカ陣営に戻る。


「おやおや? さっきまでの元気はどうしたのかな? 質問攻めにして、少しでも私達の足止めをするっていう魂胆じゃなかったの?」


 実力差を見せつけられ意気消沈する木陰のコラルドに向かって、ニヤニヤ顔のターロが遠くから煽る。その煽りに乗せられたのか、コラルドが重たくなった口を無理矢理開いた。


「…あなたは一体何者なんですか?」

「ただの悪人さ」

「そのただの悪人が、ブダシヤカを襲う理由はなんですか?」

「ちょっとしたお礼だよ」

「お礼…?」

「君の町にはスライム騒動で大分お世話になったからね。世話になったお礼はしっかり返すというのが、私なりの礼儀であり、趣味みたいなもの。だから、感謝はいらないよ」ニヤニヤ

(スライム騒動って、何年か前のあれか…? あれを仕掛けたのはワイル国。だけど、ワイル国には一切被害はなく、あったのはこちら側だけ。そうなると“世話になった”という表現が不自然だ。これを自然な表現にする為には――)


 コラルドが何かに気づき始めた表情になった所でシャロがターロに注意する。 


「その言い方だと勘づかれてしまいますよ?」

「別にいいだろ? 今からあいつは死ぬわけだから」

「…それもそうですね」


 シャロがそう言った瞬間、木陰に隠れて距離を取っていたにも関わらず、嫌な感覚がコラルドを襲って体がゾクッとする。それで危険を察したのか、慌てて道具を持ってターロを探す。が、見つからない。どうやら話している間にどこかへ隠れたようだ。


(しまった…!)


 急いで木から距離を取る。

 シャロの庇う対象が消えたという事は、シャロの対象がコラルドに集中するという事。その流れ通り、コラルドの隠れていた木が切られて倒れていく。


 逃げ纏うコラルドと追い詰めていくシャロを余所に、離れた場所で物思いにふけるターロ。


(陣営に一人残って指示を出していたとなれば、あいつが今回の指揮官であるのは間違いない。私の策についてくるだけでなく、先読みまでしてハメてくる嫌らしさを持っているくらいだからその手の経験豊富な年寄りかと思っていたが、実物は想像していたのよりずっと若かった。スライム騒動とやり方が類似しているからこいつがスライム野郎なのは確か。今でこのレベルならば、今後は更に経験を積んで厄介になる可能性が高い。

今回戦争に参加して良かった。今後の脅威を早めに詰めたのだから)


 ターロが満足している一方で、シャロの木を障害としない切り落とし猛攻を受けていたコラルドはだいぶ息が上がっていた。対するシャロは全く息が乱れていない。この圧倒的な実力差。コラルドの動きは時間の経過と共に鈍くなっていく。

 そして、とうとうコラルドの右足の腱に斬撃が当たり、パックリと割れてそこから血が流れ落ちる。転んで態勢が崩れた所で、シャロがすかさず間を詰めて、コラルドの両腕に刃を差して身動きが取れない状態にしてからマウントを取った。


「最後に何か言い残すことはありますか?」


 その言葉を聞いて目を丸くしてビックリした表情をするコラルド。そんな彼に対して付け加える。


「一思いに殺さないのが意外でしたか? 気にすることはないです。これは私のちょっとした戯れですから。これから死ぬ人間が最後に言う言葉を聞くのが楽しいのですよ。だって、これから死んで無になるのに、何か言葉を残そうとして必死に有を作ろうとする姿って見ていて滑稽じゃないですか」


 異質で邪悪な笑いを浮かべるシャロに恐怖を感じたのか、コラルドは黙ったままだった。その様子に興ざめしたシャロが「何もないならとっとと殺します」と宣言した後、パクパクと口が動いて言葉を発した。


「どうして…?」


その言葉を聞いてさらに興ざめする。


「 『どうして』は、こちらの台詞ですよ。それが最後の言葉なんて全く面白くない。こんな事なら、早く殺しておくべきでした」


 軽く反省したシャロがコラルドの右腕に刺さった刃を引き抜き、振り上げて降ろす。

 次の瞬間、辺りには血しぶきが飛び散った。

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